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「死と向かい合わせになってほしくない」。がんを経て娘にHPVワクチンを接種させた母が伝えたいこと。

「相手と相手の両親に対して後ろめたくもなる。手放しで喜んでもらえないことも出てくるんじゃないかな。がん友の1人がまさにそう考えて、パートナーと別れていた。そういう姿を見るとね、子どもの健康を願わないわけがないのよ」

娘の命を守るために、母ができること。

Show999 / Getty Images

(イメージ写真)

毎年約1万人の女性がかかり、約3000人が亡くなっている病気に子宮頸がんがある。

原因は性的な接触でうつるヒトパピローマウイルス。性交渉の経験があれば20代という若さでさえも感染する。がん発症のピークは30代後半だ。

原因となるウイルスへの感染を防ぐのがHPVワクチン。2013年4月以降、小学校6年生から高校1年の女子を対象に公費でうつことができる「定期接種」になったにもかかわらず、接種後に体調不良を訴える声があがった。

国が対象年齢の子どもたちにお知らせを送る積極的勧奨をストップするよう通知し、それから7年以上が経過。接種率は70%以上から1%未満に落ち込んだ。

日本は先進国で唯一、若い女性を子宮頸がんから守れない国として、国内外からの批判を浴びている。

そんな中、筆者の母は副反応への不安と私の将来の健康を天秤にかけた。そして、私は、中学校1年生から2年生の間に3度の接種を完了させた。

以下は「できるだけ死と向かい合わせになってほしくない」と語る母との対話だ。2人で当時を振り返り、命の大切さに改めて向き合った。

母が自分のがんを知った日。

Reona Hisamatsu/BuzzFeed

母がワクチン接種に前向きだったのには理由がある。

10年前に女性特有のがんにかかったことだ。入退院を繰り返し、体の一部を切除。術後25回の放射線治療を経て、現在も毎日欠かさずホルモン剤を服用し、いまも生きている。

病の足音に気が付いたときのことを振り返り、このように語る。

「もしかして、と思ってすぐ病院に行ったんだけどね、診断はステージ2だった。それまで健康だけが取り柄だったから、がんなんて無縁だと思ってた」

発見が遅れたのは、忙しい日々を送り、その年の検診に行けなかったからだ。「死ぬかもしれない」と不安を覚え、覆水盆に返らずとはこのことだと、人生で一番感じた日だった。

「娘10歳、息子4歳で、私はもう死んじゃうんだ、と。もう遠足のためにお弁当を作ることも、運動会を見ることも、誕生日を一緒に祝うこともないのかもって。どん底だったよ、夜に子どもたちを寝かしつけたあと、毎晩泣いて泣いて、落ちるところまで落ちたね」

「病気がわかったときは同居していた義理の母が3ヶ月前に亡くなったばかりだった。こんなにも子育ても義父の介護も仕事も頑張ってるのに、神様は天国に連れていくのかなと」

あちら側でおばあちゃんが呼んでいるなら、仕方がないと思い、生きることを1度諦めた。その後2度の転院を繰り返していくうちにだんだんと死への恐怖は希望に変わっていった。

入院を通じて女性特有の病気を抱える仲間と関わり、自分よりも遥かに重い症状で生きのびている人や、病と正面から向き合う人を知った。

生の限界に挑戦しようと思った。

「診断されたときはこの病気に殺されるって思っていたけど、まだまだ子どもたちの成長を一緒に楽しみたい、できるところまでやってみようってポジティブな気持ちに変わっていったよ」

HPVワクチンの接種を嫌がっても受けさせた理由。

Reona Hisamatsu/BuzzFeed

「なにがなんでも3回うとう」「なんて国は親切なんだ」

行政からの知らせを受け取ったときに母は咄嗟に思ったという。

どうして娘にうとうと思ったのか。大学病院の婦人科病棟に入院した経験が契機となった。

「相部屋だったり、患者会で知り合ったりして、今も仲のいいがん友がいるの。その中に、子宮頸がんの人が4人いてね。旦那さんや不倫相手、前の旦那さんからうつったと言ってた」

母の友人たちの話によると、子宮頸がんで入院をすると手術や放射線、抗がん剤治療をしなくてはいけない。

他にも尿を出す訓練があるほか、リンパ節の切除による副作用でむくみやすくもなる。形成外科で再度、手術が必要になる場合もある。

「若いときに婦人科系の病気になると、どうしても妊娠に影響が出るよね。子どもを持てないことが原因で、どんなに好きな人との結婚だって諦めてしまうかもしれないでしょう」

「相手と相手の両親に対して後ろめたくもなる。手放しで喜んでもらえないことも出てくるんじゃないかな。がん友の1人がまさにそう考えて、パートナーと別れていた。そういう姿を見るとね、子どもの健康を願わないわけがないのよ」

親として副反応は怖かった。その一方で、どうやって感染するのか私は知らなかった。

Reona Hisamatsu/BuzzFeed

2回目の接種が終わりしばらく経ったころ、テレビで「副反応」の話題が取り上げられるようになった。

メディアがセンセーショナルに「少女たちの被害」を強調したこともあり、厚生労働省は2013年6月から積極的推奨を差し控えた。そして、対象者にはお知らせが届かなくなり、このワクチンの存在さえ知らずにうつ機会を逃す人が増えた。

「1回目の接種のときは、ワクチンで体が不自由になるってまだ騒がれていなかった。だから、あなたをがんから守るって使命感で絶対に3回うつって思ってた。国が考えて定めてくれたワクチンだからうったほうが将来のために良いってね」

はじめは心配していなかった。信頼できる医療機関の医師だったし、当時は同級生のママ友の間でこれといって副反応の話題が出ることがなかったからだ。

そんな中、だんだんと副反応が報道されるようになった。ワクチンで娘に障害が出てしまったらーー。そんな話題がママ友の間でもあがるようになった。副反応の恐怖から接種を1度で中止したママ友もいるという。

「親として怖かったよ。痺れるとか歩きにくいとかニュースで聞くようになった。1回目が大丈夫でも2回目や3回目にはなにかの発作がでるかもしれない。なぜ国が推奨しているのに、そんな副反応が出るのか、ワクチンでそんなことがあるのかと」

しかし、私の前ではおくびにも出さず、浮かない顔の私を病院に再び連れていった。

私としては筋肉注射をすることで後に残る、インフルエンザとは違ったじんじんと残る痛みやぐったりとする感覚に、毎回苦痛を感じていた。

このワクチン接種は、子宮頸がんの予防のためとは知っていた。しかし、どうしてうたないといけないのか詳しくはわからなかった。数年前になにかのきっかけで自発的に調べるまで、子宮頸がんに何が原因でかかるのか理解していなかった。

この話をすると、母は言った。

「実は入院して子宮頸がんの人と話すまで、どうして子宮頸がんになるのか知らなかったんだ。人よりもませているあなたは知っていると思っていた。私は口下手で性に対して恥ずかしがり屋だし。学校でも教えているかな、とも思っていた。今思えば、人生で後悔が1万個あったとしたらその1つだろうな」

自分のことは自分で守るしかない。男性も接種する選択肢を。

提供写真

一方で、女性に限らず、HPVワクチンを接種している男性もいる。

25歳の男性はもともとHPVワクチンのことは知っていたと話すものの、男性もうてるということは知らなかった。

あるYouTubeの動画がきっかけとなり、予防医療普及協会で調べ、うつことを決めたという。BuzzFeed Newsの取材にこう話す。

「男性、女性の両者がHPVワクチンを接種することで、子宮頸がんを減らすことができます。海外を見習って日本でも男性がHPVワクチンを接種する選択肢が普及するようになって欲しいです」

男性は、HPVワクチンの定期接種の対象ではないため、自己負担額はとても大きい。1回の接種で少なくとも2万円近くかかる。3回うつとなると多額の出費がかさむ。

それでも接種したのは、自分が知らないうちに女性に感染させ、女性を傷つけることになってしまうかもしれない、と考えからだったという。

「自分が他人を傷つけないためには、自腹でもやらないといけないなと感じました」

「メディアが危険と取りあげたから接種せず、その後子宮頸がんになってもメディア側が責任をとってくれるわけではないのです。自分の命を守れるのは自分だけです。自分で考えて、調べて行動して欲しいと考えています」

男性は、これまでパートナーがいた経験がないという。

ヒトパピローマウイルスは、男性がかかる可能性のあるがんの原因にもなる。例えば、中咽頭がんや喉頭がん、外陰部がん、陰茎がん、肛門がんだ。自身のがんも予防できることから、パートナー経験がなくとも接種したほうがいいとの考えを示した。

子どもの体を一番に考えて。

母は男性でもHPVワクチンをうてることを知ってから、できるなら弟にもうたせたいと考えている。

「公費じゃなくても3回うちたせたいと思っているよ。何のがんの予防ができるのか、男性がうったあとにはどんなリスクがあるのかを本人と勉強したい。将来的には本人の意思を尊重したいけど、私としてはうってほしい」

「これからどんな人と付き合っていくのか、親の立場だとわからないこともあるから」

最後に未接種の子を育てる親御さんへ、こんなメッセージを送りたいという。

「今は国の方針でやらないほうがいいと思う親御さんもいると思うけど、どんな原因で子宮頸がんになってしまうのか、うたないことにどんなリスクがあるのかということを伝えて、子どものからだを大切にしてほしい。男性から感染することや、若い女性がかかりやすいこと、そういうことを親子で理解して話し合ってほしいな」

「ワクチンをうたないという選択をする場合は、検診を毎年欠かさず受けるなど、子ども側が自分で自分のからだを守るために、十分に気をつけないといけないよね」

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誰にとっても他人事ではないけれど、どこか話しづらい「性」。BuzzFeed Japanは、10月29日(木)から11月4日(水)までの1週間を「性教育ウィーク」として、性にまつわる様々な記事を集中的に配信します。

Contact Reona Hisamatsu at reona.hisamatsu@buzzfeed.com.

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