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きっかけは元同僚が言った「性教育やめませんか?」。障害のある子どもと性のこと。

セクシュアリティの主人公になるために、性を知る必要があるのです。

誰しもに訪れる「性の目覚め」だからこその性教育

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(画像はイメージです)

成長につれて誰しも経験する「性の目覚め」。

さまざまな理由で特別支援学校に通う子どもたちが性の目覚めを迎えた時、教員や保護者は、何をどう伝えれば良いのでしょうか。

「私たちはみんな性の権利をもっています。性を学んで、性の権利を知らなければ、その権利を活かすこともできないじゃないですか」

「性を知るということは、ものすごく大切です。自分のセクシュアリティを自覚できるからです。性に対して主体的に向き合うようになり、自分自身も性的な存在なんだ、とのびのびと生きていけると思います」

そう話すのは、これまで2校の特別支援学校で教鞭をとり、現在は日本福祉大学で主に特別支援教育の研究をしている伊藤修毅(いとうなおき)准教授です。

知的障害、肢体不自由など、さまざま障害を持つ子どもたちがいる特別支援学校の教室で、性をどう教えるのか。その工夫のあり方を聞きました。

できるだけ早い段階から視覚的に教えることで理解が深まる

Sujata Jana / Getty Images

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障害のある子どもたちの中には、愛着形成の弱さを抱えていたり自己肯定感の低い子も少なくなく、また、物事を理解するのに多くの時間を必要とする子もいます。そのため、それぞれに合わせた「より丁寧な性教育」をすべきだ、と伊藤さんは考えます。

「丁寧に、というのは、少し早い段階から、視覚的な教材を工夫し、繰り返し伝えていくということです。発達障害の子どもたちには視覚的な支援が重要ということはよく言われますが、イラストだけではなく、立体的な教材があるといいですね」

わかりやすい授業を展開すると、子どもたちからの質問も増えるので、それにまた答えていくことで、理解が深まるといいます。

特別支援学校には障害の内容と程度が異なる様々な子どもがいるので、性教育は難しいーー。

そういった話を聞くこともありますが、「障害の実態に差がある集団の中で、いざ教えてみると子どもたち同士の教え合い・学び合いなども発生して、比較的障害の重い子どもたちも、その子なりの理解を示すことが多い」と語ります。

「やっぱり集団だから伝わる部分や、お互いでトークしながら進めていく中で、子どもたちから生まれてきた発言を、別の子がうまく吸収していくということもあると思います」

学べないことで起きる弊害

知的障害があることで、施設職員や家族から性的虐待を受けていても、本人が気付けないこともあります。そうした被害を防ぐためにも、性教育が必要だといいます。

「被害にあっていても、性教育を通して、自分のからだは自分だけの大切なものという実感が育まれていないと、被害とすら感じられないこともあります。また、性を学ぶことで、はじめて自分のされてきたことに気づくということもあります。障害児に性教育をしたら弊害をもたらすという人もいますが、性教育をきちんとしていないことが弊害をもたらすのです」

いわゆる「問題行動」に関して、障害のある当事者たちは知る機会がないことで、恥ずかしいことだという意識がなかったり、わかっているけどやめられなかったりということがあるのです。

「そもそも『問題行動』とはどういうことなのかという、捉え方の問題があると思っています。性的な行動をすること自体が『問題』なわけではありませんよね」

「例えば、マスターベーションでも、自分一人の場で安全な方法で行っている限りは何も『問題』はありません。だとすれば、『自分一人の場って、具体的にはどこなのか』『安全な方法とはどういうことか』をきちんと伝えてあげればよいのです。この点がきちんと教育されていないことによって不適切なマスターベーションをしているとしたら、この『問題』は、性教育を行うべき教師・支援者側の『問題』と言えます」

知らない人と仲良くなりたくて声をかけようと試みて、誤解されてしまうというケースはよくあるといいます。

「声をかけられた人が大騒ぎして、騒動になってしまうこともあります。どういう意図で声をかけたのかは様々だと思いますが、共感的に意図を酌んで、どういう方法がよかったのかを一緒に考えてあげられる支援者は、欠かせないですね。そういった支援関係を構築するのも、性教育の役割だと思っています」

家庭では話題をタブー視せずに保護者目線のメッセージを

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学校では体系的に教える一方で、家庭では子どもの疑問に慌てずに答えてあげるということが大切だと考えを示します。

「発達年齢的に4、5歳ぐらいの時に、それこそ『赤ちゃんってどこから来たの?』とかいう疑問を、突然親にぶつけたりするわけじゃないですか」

「そのときにたじろいで、『コウノトリが運んでくる』など訳のわからないこと言わずに、『そっか、そういうことが気になるようになったのね』と受け止めてあげて、その子がわかる範囲で答えていってあげるということです」

そういった性について話せる関係があれば、本人が困ったとき、保護者に質問したり相談したりできるのではないかと話します。

「質問したときに『そういう話はするもんじゃない』みたいな態度を取られてしまうと、もう子どもは相談したり質問したりすることができなくなってしまいます。それがやっぱりリスクを生んでくるんだろうなと思うのです」

性教育に力をいれる原点

伊藤さんが特別支援学校向けの性教育に力を入れるのは、20年近く前の、1校目の勤務先での出来事がきっかけだったと話します。

「同じ学年を担当していた先生が、『性教育やめましょう』と提案しました。その発言に対してきちんと反論できなかった忸怩たる思いが、私の原点です」

日々障害を持つ人と関わっているはずなのに、必要ないと言ったわけを「自分がわからないことは教えたくないから」ではないかと推測します。

その後2校目に転勤し、学校側が性教育に力をいれていたことが転機となり、性教育にのめり込んでいったと振り返ります。

「私は男子校出身で、全ての男子校がそういうわけではないと思いますが、いわゆる男尊女卑のジェンダーバイアスゴリゴリの価値観の中で育ってきたのです。自分が性を学んだことでそんな中で育まれた自分自身のセクシュアリティの貧しさに気づけたということは、大きいですかね」

自分が学べなかった性について、次の世代へも、その次の世代へも伝えないということがあっては、いけないという思いも根底にあるといいます。

研究者として性教育について探求していくと様々な要素があり「ものすごく深いテーマ」なのだと話します。

「学びってこういうものなんだと思うんですけど、やっぱりいくらやっても、いくらでもまだまだ追求ができるんだろうなと思います」

【伊藤修毅】

伊藤先生提供写真

日本福祉大学教育・心理学部。専門は障害児・者のセクシュアリティ教育、青年期教育。“人間と性”教育研究協議会障害児・者サークル代表。

著書に『ゼロから学ぶ障害のある子ども・若者のセクシュアリティ』(全障研出版部)、共著に『イラスト版 発達に遅れのある子どもと学ぶ性のはなし』(合同出版)、『くらしの手帳』(全障研出版部)、監修に『障害のある青年たちとつくる「学びの場」』(かもがわ出版)などがある。

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誰にとっても他人事ではないけれど、どこか話しづらい「性」。BuzzFeed Japanは、10月29日(木)から11月4日(水)までの1週間を「性教育ウィーク」として、性にまつわる様々な記事を集中的に配信します。

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