誰しもに訪れる「性の目覚め」だからこその性教育

できるだけ早い段階から視覚的に教えることで理解が深まる

学べないことで起きる弊害
知的障害があることで、施設職員や家族から性的虐待を受けていても、本人が気付けないこともあります。そうした被害を防ぐためにも、性教育が必要だといいます。
「被害にあっていても、性教育を通して、自分のからだは自分だけの大切なものという実感が育まれていないと、被害とすら感じられないこともあります。また、性を学ぶことで、はじめて自分のされてきたことに気づくということもあります。障害児に性教育をしたら弊害をもたらすという人もいますが、性教育をきちんとしていないことが弊害をもたらすのです」
いわゆる「問題行動」に関して、障害のある当事者たちは知る機会がないことで、恥ずかしいことだという意識がなかったり、わかっているけどやめられなかったりということがあるのです。
「そもそも『問題行動』とはどういうことなのかという、捉え方の問題があると思っています。性的な行動をすること自体が『問題』なわけではありませんよね」
「例えば、マスターベーションでも、自分一人の場で安全な方法で行っている限りは何も『問題』はありません。だとすれば、『自分一人の場って、具体的にはどこなのか』『安全な方法とはどういうことか』をきちんと伝えてあげればよいのです。この点がきちんと教育されていないことによって不適切なマスターベーションをしているとしたら、この『問題』は、性教育を行うべき教師・支援者側の『問題』と言えます」
知らない人と仲良くなりたくて声をかけようと試みて、誤解されてしまうというケースはよくあるといいます。
「声をかけられた人が大騒ぎして、騒動になってしまうこともあります。どういう意図で声をかけたのかは様々だと思いますが、共感的に意図を酌んで、どういう方法がよかったのかを一緒に考えてあげられる支援者は、欠かせないですね。そういった支援関係を構築するのも、性教育の役割だと思っています」
家庭では話題をタブー視せずに保護者目線のメッセージを

性教育に力をいれる原点
伊藤さんが特別支援学校向けの性教育に力を入れるのは、20年近く前の、1校目の勤務先での出来事がきっかけだったと話します。
「同じ学年を担当していた先生が、『性教育やめましょう』と提案しました。その発言に対してきちんと反論できなかった忸怩たる思いが、私の原点です」
日々障害を持つ人と関わっているはずなのに、必要ないと言ったわけを「自分がわからないことは教えたくないから」ではないかと推測します。
その後2校目に転勤し、学校側が性教育に力をいれていたことが転機となり、性教育にのめり込んでいったと振り返ります。
「私は男子校出身で、全ての男子校がそういうわけではないと思いますが、いわゆる男尊女卑のジェンダーバイアスゴリゴリの価値観の中で育ってきたのです。自分が性を学んだことでそんな中で育まれた自分自身のセクシュアリティの貧しさに気づけたということは、大きいですかね」
自分が学べなかった性について、次の世代へも、その次の世代へも伝えないということがあっては、いけないという思いも根底にあるといいます。
研究者として性教育について探求していくと様々な要素があり「ものすごく深いテーマ」なのだと話します。
「学びってこういうものなんだと思うんですけど、やっぱりいくらやっても、いくらでもまだまだ追求ができるんだろうなと思います」
【伊藤修毅】

ーーー
誰にとっても他人事ではないけれど、どこか話しづらい「性」。BuzzFeed Japanは、10月29日(木)から11月4日(水)までの1週間を「性教育ウィーク」として、性にまつわる様々な記事を集中的に配信します。