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HPVワクチン、対象者にお知らせを送る自治体は76. 6%に 三原厚労副大臣が訴える予防接種の重要性

国が積極的勧奨を差し控えて8年以上経つHPVワクチン。無料接種の対象者であることも知らずにチャンスを逃すのを避けるため、国は自治体に個別にお知らせを送るよう通知しました。その結果、今年度中に76.6%の自治体が送る予定です。

子宮頸がんや肛門がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン

小学校6年生から高校1年の女子は公費でうてる定期接種となっているが、接種後の体調不良をメディアがセンセーショナルに報じたことから、厚生労働省が積極的勧奨を差し控えるよう自治体に通知して8年以上が経つ。

この間、接種率は70%から1%未満に激減し、自分が対象者であることも知らずに無料でうてるチャンスを逃すことが問題になった。

これを重くみた厚労省は昨年10月と今年1月、対象者に個別にお知らせを送るよう自治体に2回通知を出したが、この結果、自治体はどれほどお知らせを送ったのだろうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、自ら子宮頸がんの闘病経験があり、HPVワクチンの普及に思い入れの強い三原じゅん子・厚労副大臣に聞いた。

2020年度は61.6%が実施、2021年度は76.6%が実施予定

ーー厚労省は昨年10月と今年1月、対象者に個別にHPVワクチンのお知らせを送るよう自治体に通知しました。今年1月の追加の通知は三原副大臣が自ら指示しましたね。その結果、どれぐらいの自治体が送付したのですか?

今年3月に全国の1737市町村(区も含む)にアンケートを送り、1714市町村(回答率99%)から回答を得ました。

7月28日に暫定的に結果をまとめたところ、2020年度は61.6%にあたる1056市町村が個別送付による情報提供を行いました。

また、今年度には、76.6%にあたる1313市町村が情報提供を行う予定です。

両年度送っている自治体もあるし、2020年度送らなかったから21年度に送る自治体もあります。

ちなみに2020年度に送った対象は、

  • 高校1年生相当:817市町村
  • 中学3年生:523市町村
  • 中学2年生・467市町村
  • 中学1年生:566市町村
  • 小学6年生:352市町村
  • その他:44市町村


2021年度に送る対象は、

  • 高校1年生相当:752市町村
  • 中学3年生:540市町村
  • 中学2年生・492市町村
  • 中学1年生:789市町村
  • 小学6年生:573市町村
  • その他:47市町村


という感じです。

ーーやはり、無料接種がラストチャンスになる高校1年生や、通常HPVワクチンをうち始める中学1年生を優先している印象ですね。

確かにそのあたりが多いですね。

ーー今年度の予定が76.6%、多いと言えば多いですが、本来は100%に提供されなければいけない情報ですね。

本当にそうです。こういうところで格差を生んではいけないですね。

ーーやっていないところに厚労省は指導するのでしょうか?

とりあえずアンケートをまとめるので忙しく、まだそこまでは考えていませんでしたが、やってもらわないと困りますよね。

積極的勧奨の再開が必要だが、コロナ禍で手をつけられない

ただ、やっていない自治体の中には、「国が積極的勧奨を再開していないので、混乱を招くためやりません」というところもあるわけです。そのため厚労省としても強く言えないわけです。

だから、積極的勧奨を再開しなければいけないのだろうと思います。厚労省がきちんと再開したら、やらない自治体があれば大変な問題になります。

ーー厚労省は積極的勧奨の再開についてはいつまでにやると検討はしていないですか?

いつまでという日程に関しては、今はまだこのコロナ禍の最中ですから手をつけられていません。

命に優先順位はありませんが、医療従事者もコロナワクチンに手を取られていますし、自治体の方たちもコロナワクチンの接種券送付で大変な思いをされています。

ここに今、HPVワクチンの作業を追加するのは難しいかもしれません。再開となると、コロナと同じく対象者に必ず通知を送らなければなりませんから、タイミングは考えなければいけないのは仕方ないのかなと思います。

ただし、命や病に格差があるようなことはいかがなものかと思うので、1日も早く再開はすべきだと思います。

ーーこの個別送付で接種率(2018年度で1回接種は1.3%、2回接種は1.1%、3回接種は0.8%)は上がりましたか?

そこは全国ならした数字が出ていないですね。上がっているとは思います。しかし1%未満だったのが1割になったとしてもたかが知れています。まだ全然足りません。

ーー新しく作り直したリーフレットと一緒に入っているお知らせに、「国は積極的勧奨を再開していません」と太字で書かれていたりして、保護者が接種した方がいいのか悪いのか混乱しているという声が聞かれます。国が積極的勧奨を再開していないことは自治体にも混乱を招いていますか?

招いていると思います。積極的勧奨再開と個別のお知らせはセットで行われるべきだと思います。

機会を逃した人へ再チャンスを与える「キャッチアップ接種は?」

ーー今回、対象者に個別にお知らせが届き始めると、「妹は接種できるけど、姉は無料の期間を逃した」というような問題がまた認識され始めています。青森県平川市のように、接種対象期間を逃した人に再チャンスを与える「キャッチアップ接種制度」を独自に設けている自治体もありますが、国が設けるべきではないでしょうか?

BuzzFeedの記事も読みまして、一人の地方議員の動きからこれだけ広がったというのはまさにモデルとなる形だと思います。このようなキャッチアップ制度を始めてくださっている自治体もちらほらあると聞いています。

自治体がこのように独自にやっていただいていることは素晴らしいと思いつつも、本来は国としてきちんと方針を出していかなければいけないでしょう。

私はまず何を差し置いても、積極的勧奨再開を最優先しない限りは、何をしても混乱を招くと思っています。自治体間で格差を生むことにつながります。

このワクチンが2013年4月に定期接種になる前と全く同じ様相を見せています。私はその自治体間の格差が嫌だから定期接種にすべきだとずっと言い続けて、定期接種化を実現してきました。

そのような経緯がある中で、自治体ごとに方針が違い、経済的な理由で命に格差があることは絶対にあってはならないことです。それを思えば、積極的勧奨を再開することが何よりも最優先であると考えています。

ーーただ、国としてもキャッチアップ接種は考えるべきですよね?

当然考えるべきだとは思います。しかし、そう簡単な話でもないので、再開を目指しながら並行して議論しているということです。

新型コロナウイルスの流行でワクチンの重要性は理解されたか?

ーー新型コロナウイルスの流行で、これほどワクチンの重要性が感じられた時もないと思いますが、コロナ流行でワクチンに対する国民の認識は変わったでしょうか?

私は非常に変わったと思います。日本はワクチンに関していろんな負の歴史がありましたが、それが、コロナでは今、「ワクチンが届くのが遅い」と批判されています。

でもそれは遅かったのではなくて、ワクチンの導入に慎重であるがゆえに、安全性の確認を重んじて、国内での治験も行ったためにかかった時間です。

ワクチン供給の交渉を国や製薬会社と行ってきたわけですが、日本が今までワクチンとどう向き合ってきたかということが、これにも影響しているのではないかなと感じています。

HPVワクチンに関してもこの8年間、当然国としてある程度のワクチンは確保してきたはずです。その確保したワクチンの取り扱いを日本はどうしていたのかを考えると、反省しなければならないことがたくさんあります。

ーー世界中の人が接種したがる貴重なワクチンを十分活用してこなかったという意味ですね。

HPVワクチンも世界中が9価ワクチンの争奪戦を繰り広げている中で、日本はそこにも参加できていない状況であることは、国民の皆さんはご存じないことだと思います。そういう状況に日本を貶めてはいけないと私は思うのです。

コロナワクチンも、なぜ日本はファイザーやモデルナのワクチンを潤沢に早急に供給されなかったのか。

ワクチンに対する国民の理解が変わってくれば、HPVワクチンに対する考え方も変わってくるでしょう。当然、どれだけのエビデンスがあるかをHPVワクチンでもコロナワクチンでもきちんと発信することが大切だと思います。

ーーHPVワクチンは、接種後に体調不良を起こした人への診療体制は整っていますか?

今も接種している人はいるわけですから、何かあれば手厚く、様々な「痛みセンター」などの医療機関と連携して、各地域ですぐ治療していただける体制は十分整えています。コロナワクチンの副反応と同じですね。

ーー今回のコロナワクチンで、接種後に起きるあらゆる好ましくない反応である「有害事象」と、ワクチンが原因で起きたと考えられる「副反応」との違いの理解が進んだと思います。ただ一部まだ混同しているメディアもありますし、有害事象を副反応だと受け止めてしまう人もいます。

そうですね。「有害事象」とはなかなか言わずに、全てを「副反応」と言っている人もいます。それは心配しています。

一方で、アナフィラキシー(強いアレルギー反応)が一時的な症状であり、「治療を受けて良くなったよ」というコメントが、Twitterなどの SNSでも多くつぶやかれています。

ーーアナフィラキシーに限らず、熱が出たとか、だるいという副反応を冷静に観察して発信する人も目立ちますね。そういう意味で理解は進んでいるのかなと思います。

そうですね。みなさん、接種してから15分、30分経って大丈夫だった、ということまでわかるようになってきています。

HPVワクチンは積極的に勧めず、コロナワクチンは積極的に勧める矛盾

また、「国はHPVワクチンに対して積極的勧奨を再開しないでいるのに、コロナワクチンだけうてというのか」と反発する若者がたくさんいると医師たちから聞いています。

コロナワクチンをうつことの重要性を若者に理解してもらうなら、HPVワクチンの有効性、安全性も理解してもらうべきだし、積極的勧奨を再開して、接種して頂ける環境を作ることも同時並行で必要なことだと医師たちから言われています。

私も確かにそうだなと思います。若い人が、「HPVワクチンは安全で有効であると説明するのに積極的勧奨を再開していない。なんでコロナワクチンだけうてというのか」という不信感を抱く意味は理解できます。

そういうことも考えると、政府はワクチン行政に関して矛盾したことをしてはいけないし、コロナを収束させるためにも若者に対してワクチン全般の有効性、安全性を伝えないといけない。

そして、ワクチン接種は自分だけのことではなく、世界の一員としての権利であることを理解していただく。そのためにも、HPVワクチンの積極的勧奨再開は大事だと思います。コロナワクチンのことを考えながら感じていることです。

ーー9価ワクチンの定期接種化や、男子の定期接種化の議論も、コロナの流行で霞んでいますが、どうなっているでしょう?

9価ワクチンは、(世界中の需要の高まりで)とにかく現物が手に入るかどうかです。現実的な日程は決まりつつあるのかもしれませんが、いつ供給できるようになるかもにらみながら、定期接種化を考えています。

男子の定期接種については、まず承認されているのが4価ワクチンだけということがありますね。本当は9価ワクチンを男女ともに定期接種にすることがベストでしょうけれども、一足飛びにそうはならないのが我が国です。

副反応で不安な若い女性、どうするか?

ーー国際医療福祉大学の和田耕治さんの調査で、コロナワクチンに対して、若い人ほど、そして女性ほど副反応に不安が強く、接種しないとか、しばらく様子を見るという回答が多いです。HPVワクチンも副反応への不安からためらう人が多いですが、どうしたらいいと思いますか?

若者がSNSなどでのデマを信じて、影響されてしまうということもありますが、やはり私は保護者の影響が大きいのかなと思います。

ーー確かに若い女性は特に家族の意見を予防接種の時に参考にするというデータも出ていました。HPVワクチンと同じですね。

HPVワクチンの時のことを覚えている保護者の方が、コロナワクチンについても「もう少し様子みたら?」とおっしゃっているのかもしれませんね。

なので、HPVワクチンがどれだけ安全で有効なのかをまず保護者の方が理解しないと、コロナワクチンの若者の接種も上がってこないのかなと思うのです。政府としては同時進行で進めてほしい。

8年前はマスコミもワクチンのせいなのかわからないのに、接種後の症状と因果関係があるかのように報道してしまいました。それが社会的な大問題になりましたが、今はコロナのおかげでマスコミも国民のみなさんも、ワクチンとはどういうものなのかを理解してもらえたのではないかとも思います。

今こそ、コロナワクチンもHPVワクチンも安全性、有効性を知り、メリットだけでなくデメリットももちろん理解してほしい。100%安全なんていうことはワクチンにはないことも理解してほしいのです。

一方で、かかったら、コロナも重症化したり亡くなったり大変になりますし、子宮頸がんも毎日日本では8人の女性が亡くなっている計算になります。3時間に1人が亡くなっている。それがずっと続いているだけでなく、若年化もしているわけです。

がんの闘病は苦しいし、長くつらい治療を受けながら亡くなっていく若いお母さもいます。そのことを考えたら、ワクチンのメリット・デメリットも冷静に考えられると思います。