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HPVワクチン接種逃した女子に独自の助成を創設 立役者は元々このワクチンに抵抗感があった市議

HPVワクチンの無料接種の対象であることを知らずにチャンスを逃した人に、再チャンスを与える独自の制度を、全国に先駆けて青森県平川市が導入しました。そこには元々このワクチンに抵抗感を抱いていた市議の熱心な働きかけがありました。

子宮頸がんや肛門がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

小学校6年生から高校1年生の女子は国が費用を負担する定期接種となっているが、マスコミが接種後の体調不良をセンセーショナルに報じたことで、国が積極的勧奨を差し控える通知を出して8年以上が経った。

その結果、接種率が激減し、無料接種の対象であることさえ知らなかった女子が接種のチャンスを逃して、ワクチンで子宮頸がんを防げない状態になっている。定期接種の期間を過ぎたら、3回で5万円前後かかる費用の大きさも負担だ。

これを救済しようと、青森県平川市が全国に先駆け、市独自に接種の機会を逃した女子に再チャンスを与える「キャッチアップ制度」を創設したことがわかった。

そこには、元々このワクチンに抵抗感を抱いていた市議の学び直しと、熱心な働きかけがあった。

17歳から19歳の再チャンスを助成

青森県平川市が独自に導入したキャッチアップ接種制度はこうだ。

平川市に住所がある17歳から19歳の女性(2002年4月2日〜2005年4月1日生まれ)に対し、2021年1月1日から2022年3月31日までHPVワクチンを接種した場合、平川市が1回につき上限1万6753円 (税込み)を助成する。

接種した人は医療機関でいったん支払いを済ませた後、領収書を添付して市役所に申請すれば費用を支払ってもらえる。

市によると、この制度の対象となる人は350人前後おり、7月上旬には全対象者に個別にキャッチアップ接種のお知らせが送られる。

市は2割程度が接種すると見込んで、70人分、約350万の費用を6月補正予算に計上した。

「若い人たちに子宮頸がんが多くなっており、チャンスを逃しているのは問題」

これまで平川市ではHPVワクチン対象者の接種率は近年0.5%程度で推移していた。

国が2013年6月に自治体に対し積極的勧奨を差し控える通知を出したことで、対象者に個別にお知らせを送ることを中止してきた影響も大きい。

昨年10月、国が自治体に個別にお知らせを送るよう通知したことを受け、同市でも同年12月から小学校6年生から高校1年の対象者全員に個別にお知らせを送ったが、1〜3月で12人になったが

毎年、ワクチンによって子宮頸がんを防ぐチャンスを失う若い女性が積み重なっていく状態だった。

これを問題視した市議会で、接種の対象であることも知らずに既にチャンスを逃した女性に再チャンスを与えられないか熱心な質問があり、キャッチアップ接種が実現した。

定期接種の期間を過ぎた人が後でワクチンの重要性に気付いて接種したいと思っても、自費では3回で5万円前後かかる費用が接種の壁となっている。この費用の壁を市独自の公費助成制度で取り払おうという考えだった。

平川市の子育て健康課母子保健係の小山功係長はこう話す。

「若い人たちに子宮頸がんが多くなっていることもあり、定期接種であることを知らずにチャンスを逃していることは問題だと考えた。単年度の施策ではあるが市独自の助成をすることは意義があると考えている」

翌年度以降も継続するかについては、今後の接種の動向をみて、市民の声を聞きながら上層部と相談の上検討したいとしている。

実現に結びつけたのは、元々このワクチンに抵抗感を抱いていた市議

全国に先駆けて、独自の助成制度創設をもたらしたのは、一市議の熱心な働きかけだった。BuzzFeed Japan Medicalは今回の制度創設の立役者、無所属の工藤貴弘議員に取材した。

実は、工藤議員がHPVワクチンを知ったのは、8年前のセンセーショナルな「副反応疑い」報道からだった。

「テレビで10代の少女が激しいけいれんを起こしたり、車いすに乗った少女が痛切に被害を訴えたりする姿をみて、当時はとんでもないワクチンだと思っていました。自分も幼い娘がいますが、このワクチンは絶対に娘たちにうってはいけないと思っていました」

その後、2015年に初当選して市議になり、数年前に子どもに対するインフルエンザワクチン助成の拡充が議論になった。その時、ワクチン全般について調べてみると、HPVワクチンは危険ではなく安全で有効なものだという情報に触れた。

「すごく驚いたのですが、センセーショナルな報道が頭に残っていて、すぐには信じ難かった。頭には残っていたものの、しばらくその問題からは離れていました」

再びHPVワクチンの問題に触れたのは、昨年から新型コロナウイルスの流行で、ワクチンの重要性を再認識してからだ。副反応の問題が話題になる中、HPVワクチンの教訓が語られることがあり、今度は本腰を入れて調べ始めた。

小児科医や産婦人科医の団体へ聞き取りをし、医師による啓発団体「みんパピ!」やBuzzFeed Japan Medicalの情報発信を見ながら調べ直した。さらに、自民党の議連の動きも見て「HPVワクチン復興の機運が高まっている」と感じた。

「それでも8年前の報道の印象を拭いきれなかったのですが、昨年秋にHPVワクチンが子宮頸がんを防ぐ効果を明らかにしたスウェーデンの研究が出たことで有効性は明らかになりました。また昨年10月に厚労省から対象者への個別通知を再開する通知が出たことを見て、間違いないワクチンだと確信しました」

厚労省が通知を出したことは、一市議として動く時に決め手となった。

「国が通知を出す意味はとても大きいです。HPVワクチンは適切な時期に打てば有効性が高く、安全性も他のワクチンと比べ問題はない。これをうつことで、女性たちの健康と子宮を守ることができる。これを推し進めない理由はないと決意できました」

最初は、個別通知を2021年4月以降に行うと言っていた市に対し、昨年12月の議会で直ちに送付するように議会で迫った。その結果、市は12月25日に前倒しし、これまで年間1〜2人だった接種が今年1〜3月の3ヶ月間だけで12人に増えた。

立ちはだかる費用の壁 キャッチアップ接種も働きかけ

個別通知が始まると、対象者だけでなく、既に定期接種の期間を過ぎた保護者からも「自分の娘に受けさせた方がいいのでしょうか?」と相談が届くようになった。

「副反応報道によって接種を諦めざるを得なかった大学生の団体のことをBuzzFeedの記事で知ってはいました。この子たちには何の過失もないのに、大人たちの誤った判断の犠牲になっているのは理不尽だと思っていました」

「海外では20代であっても効果があるという研究が出ているし、キャッチアップ接種の制度もできている。自費で接種するにはあまりにも高額です。本来国が責任を持って対処すべきですが、私は地方議員ですから、まずは自分の足もとで実現できないかと思いました」

今年の3月議会で一般質問のテーマとして取り上げた。平川市は余裕のある財政状況ではなく、コロナ禍で基金の取り崩しもしている。だが、子育て支援に手厚い政策を打ち出してきた市長から「検討する」と前向きな答弁を得て、制度の実現にこぎつけた。

「対象は19歳までに限られ、単年度の事業ではありますが、おそらく全国初となる制度です。しかも道義的には本来、国が主体的に行うべき事業に乗り出したことは非常に大きい意味を持つと思っています」

そして、自身がこの問題に取り組んできたのは、多くの人の努力の積み重ねがあったと思っている。

「大逆風があったにもかかわらず、科学的根拠に基づいて丁寧に正確な情報を長年発信してきた専門家の人たち、キャッチアップ接種を求めて立ち上がった当事者の女性たち、議連を立ち上げた政治の動きがあり、こうした情報をつぶさに発信してくれたBuzzFeedの報道もあった。それぞれできる形で行動してきたことが噛み合ってできたのが、今回の平川市の独自事業だと思っています」

だが、平川市の女性だけが恩恵を受けるだけでは不十分だと感じている。国にはやはり注文がある。

「この問題は自治体レベルではなく、本来、国が責任を持って解決する問題です。キャッチアップ接種だけでなく、積極的勧奨の再開、児童・生徒の認知の向上、男子の定期接種化、 9価ワクチンの早期の定期接種化、因果関係はなくても接種後に体調不良に苦しむ人を適切な医療につなげることが、国が解決すべき重要な課題だと思っています」