5月30日、土曜の夜に多くの街で火が放たれ、警察と市民との間に激しい衝突が起こった。アメリカ各地で多くの人が、人種差別と警察の暴力行為に抗議するため、路上に出た。
きっかけは、5月25日にミネアポリスで起きた事件だ。アフリカ系アメリカ人のジョージ・フロイドさんが、警察官に首を押さえつけられ死亡した。フロイドさんが「I can't breathe(息ができない)」と訴える動画がSNSで拡散し、デモへとつながった。
フロイドさんを押さえつけた警察官は29日に逮捕され、殺人容疑で訴追されている。
3月13日には、ケンタッキー州ルイビルで当時26歳のブリアンナ・テイラーさんも警察官によって自宅で射殺された。
亡くなった2人とも、武器は所持していなかった。
5月31日の夕方までに、この抗議活動は明確に2つの方向に分かれていった。
1つは抗議デモで、平和的なものもあれば、警察とデモ隊との間で激しい衝突が起こる場合も見られた。
そしてもう一方は略奪行為だ。略奪行為は、抗議活動の一環と見なすことはできない。時に、抗議デモと略奪行為が、同じ都市の違う区域で同時に行われることもあった。
ふたたび30日の夜のような事態になるのを避けるため、各地の市長らは外出禁止令を発令した。
州によっては、州兵も派遣された。31日朝の時点で、15の州で5,000人の州兵が派遣され、さらに2,000人が追加で投入される準備ができていたそうだ。
また、5月25日以降、アメリカ全土で少なくとも4100人が逮捕されている(5月31日時点)。
ワシントン、フィラデルフィア、サンタモニカ、ニューヨーク、アトランティックシティは非常に緊迫した状態となったが、30日のような混乱した状況には至らなかった。
大規模な抗議活動が起きた5月31日。その1日に何が起きたか。各地の様子を以下にまとめた。
ミネアポリス
5月31日、抗議活動のため、街には何千人もの人が集まることとなった。夕方前、タンカートラックが高速道路をふさぐ群衆に突っ込もうとし、人々は蜂の子を散らすように逃げた。
トラックが群衆の中に突っ込む前、運転手は「ずっとクラクションを鳴らし続けていた」と目撃者の1人が話している。
群衆の1人だったミネアポリス在住のサディー・アーティスさん(24)は、BuzzFeed Newsの取材に答えた。
「大勢の人がいたため、みんな潰されそうになりました」
「群衆が見えても、トラックはスピードを落とそうとしませんでした」
後にミネソタ州公安省はTwitter で、トラックに轢かれた人は確認できなかったが、命には別条のないケガで1人が病院に運ばれたと発表した。
また、このトラック運転手の行為を「極めて気がかり」だとし、運転手を逮捕したとも発表した。
デモ参加者たちを押し返した後、すべての警官と軍の車両はその場を離れた。残りのデモ参加者たちは、その後も行進を続けた。
ケンタッキー州ルイビル
ブリアンナ・テイラーさんが自宅で警官に射殺されたルイビルは、一連の抗議活動のもう一つの中心地だ。丸一日にわたって、再び大規模な抗議活動が行われた。
30日には街が大混乱する事態となったため、ルイビル当局は午後9時~日曜日の午前6時30分までの外出禁止令を再び発令した。
しかしデモ参加者たちは、「癒しの儀式」と名を打って平和に集まることで、昨夜の抗議活動を認めさせようとした。
1人の歌手が歌を披露したが、群衆はたまに歓声を上げるくらいで、それ以外のほとんどは沈黙していた。
さまざまな曲が演奏される中、何百人ものデモ参加者たちは静かにスポーツアリーナの外に集まっていたと地元の記者は話している。
しかし再び30日のような事態になることを避けるため、ルイビル当局は夜が近づくにつれ、州兵を繁華街に配備した。
カリフォルニア州サンタモニカ
31日の午後までに、人気のショッピングスポットであるサードストリート・プロムナードは、略奪を行う人々に襲撃された。当局が午後4時に外出禁止令を発令した後、何十人もの警官がこの地域に出動した。
略奪行為を行っている人が繁華街に来た時も、デモ参加者たちはまだタオルを持ってビーチから歩いてきていた。観光客に人気のサンタモニカ・サードストリート・プロムナード周辺エリアでは、ほとんどの店の商品が略奪され、建物が破壊された。
街で暴力的な行為が行われる中、多くの人は普通に生活していた。
略奪者たちがスクーターを使って近くの店に押し入り、服や靴のたくさん入ったバッグを持って走り回る中、ジョギングをしている人や家族連れは、略奪者を避けて普通に街の中を走ったり歩いたりしていた。
略奪者たちが隣のリサイクルショップを襲撃している時、シャッターが閉まったメキシコ料理レストランのテラス席のテーブルの上には、半分飲まれたマルガリータが残されていた。
デモ参加者の多くは警察が介入した時に解散したが、少数は抗議活動を続けようとした。そして警察に取り囲まれ、1人ずつ連れ去られた。
拘束された人たちの中には、BuzzFeed Newsの記者ブリアンナ・サックスがいた。彼女は後に釈放された。
一時、警察が銃のような物を発砲する事態にもなった。デモ参加者たちが合板バリケードの後ろに隠れ、「hands up, don’t shoot(手を上げてるから撃たないで)」と叫ぶ様子がカメラに捉えられている。
「1000%平和的な抗議活動だったのに、警察が発砲する理由が全く分からない」と、上の動画を撮影したジャスパー・リシェンさんはBuzzFeed Newsに話した。
フィラデルフィア
30日の夜は、街に火が放たれ、激しい衝突が起きた。これを受けフィラデルフィア当局は、31日に午後6時以降の外出禁止令を出した。
デモ参加者の少人数のグループと警察が衝突する数分前、少なくとも6人が歩道で逮捕されたと地元テレビ局が報じている。街中にあるスーパーので略奪行為あったという報告もある。
フィラデルフィア警察本部の外で行われた抗議活動は、外出禁止時間が近づいたため、衝突に至る事なく解散した。
フィラデルフィアの公共交通機関網SEPTAも午後6時に運行をストップし、家にいるよう市民に求めた。
またデモの参加者たちは、フィラデルフィア市庁舎近くで「片膝をつくポーズ」で抗議した(ジョージ・フロイドさんが、警官に膝で首を押さえ込まれて死亡したため)。
この場所には人種差別的な政策を行ったとされている、元フィラデルフィア市長であり元警察本部長のフランク・リッツォ氏の像がある。
ニュージャージー州アトランティックシティ
アトランティックシティの通りでの小さな抗議活動は、どんどんエスカレートした。しかし、夕方前には規模が縮小し穏やかになった。
フィラデルフィア・インクワイアラーの記者であるエイミー・ローゼンバーグ氏によると、デモ参加者たちは通りや遊歩道で話をし、スローガンを唱え、フロイドさんのために正義を求めたということだ。
抗議デモの参加者たちは警察の建物の上に登り、「人種差別をする警察はいらない」と唱えた。また、デモの参加者と一緒に「片膝をつくポーズ」で抗議する警官らの姿も見られた。
アトランティックシティの抗議活動で最も象徴的な瞬間は、デモ参加者たちがかつてトランプ大統領が経営していたカジノ「トランプ・プラザ」の前を通りかかった時だった。現在トランプ・プラザは閉鎖されている。
デモの参加者たちは、死亡したジョージ・フロイドさんが言っていた「I can’t breathe(息ができない)」という言葉を繰り返し叫んだ。
しかし夜遅くには、多くの人が複数の店舗の窓を割り、店の中の商品を略奪する事態となった。デモの参加者たちは、市庁舎の外で武装した警察と衝突した。
ニューヨーク
30日の夜に暴動が起こったニューヨークでは、31日も何千人もの人々がマンハッタンとブルックリンで抗議活動に参加した。
デモの行進は平和的に始まったが、バークレイズ・センターアリーナとマンハッタンの近くで、警察とデモ参加者の間で小競り合いがあり、黒人のデモ参加者が何人か逮捕された。
フラットブッシュ・アベニューで、デモ参加者は「ジョージ・フロイド」と書かれた大きな横断幕を広げた。
マンハッタンでは、デモ参加者たちが「ニューヨーク市警は片膝をつけ」と叫んだ。実際に、何人かのニューヨーク市警の警官は、デモ参加者たちと一緒に片膝をついて抗議した。
しかし夕方になると、デモ参加者と警察の間で激しい衝突が起こった。ゴミ箱に火が放たれ、略奪行為が行われた。
ニューヨーク・デイリーニューズの記者は、ブルックリンで多くの人が逮捕されており、逮捕時に警棒で叩かれた人もいたと伝えた。
マンハッタンでは、暴徒鎮圧用に武装した警官が、デモ参加者たちを散らそうとした。その付近ではゴミ箱に火が放たれ、店が破壊された。
ビル・デブラシオ市長の娘、キアラ・デブラシオさんもデモに参加していた。警察の指示に従ってその場を離れなかったため、彼女を逮捕したとニューヨーク市警は発表した。
シカゴ
シカゴのロリ・ライトフット市長は、数日続いている抗議活動を収束させるため、再び厳格な規制を敷いた。シカゴ川の橋は、31日も完全に遮断された。
ライトフット市長は、州兵の「小規模な派遣」を要請したことを発表した。31日は、午後9時から午前6時までの外出禁止令も強化した。「昨夜のような事態を繰り返さないため」とライトフット市長はツイートしている。
シカゴの公共交通機関は、午後6時30分からすべてのバスと鉄道の運行を一時停止した。公共交通機関の停止アナウンスは、予定時刻の15分前に、緊急のテキストアラートで市民に送信された。
このあまりに突然のアナウンスに、シカゴ市民は急いで最後のバスや電車に飛び乗った。市民はこの対応に苛立っていたようだ。中には身動きが取れなくなってしまう人もいた。
平和的なデモがシカゴの至る所で行われたが、郊外では略奪行為も報告されている。
ワシントンD.C.
ワシントンD.C.では、デモ参加者と警察が激しく衝突した後、大規模なグループがほぼ1日中立ったまま「黒人を殺すな」と叫んでいた。その後、多くの人がホワイトハウスに向かった。
しかし、「夜が近づくにつれて緊張感が高まった」とBuzzFeed Newsのアディ・ベアードが伝えている。ベアードによると、デモ参加者たちがいる方向から爆発音が聞こえ、警察が催涙スプレーを撒いていた。
デモ参加者たちがシールドを突破した後、「警察が何かを撒いてデモ参加者たちが咳をしていた」と現場にいたBuzzFeed Newsのカディア・ゴバはツイートしている。
そしてデモ参加者たちはエスカレートし、「正義がなければ、平和もない。人種差別的な警察はいらない」と叫び始めたという。
警察は催涙スプレーと催涙ガスを撒き続けた。デモ参加者は爆竹、瓶、そして三角コーンをひっきりなしに投げていた。
またゴバは、警官に暴力を振るったとみられる女性が拘束されている様子を撮影している。
街の緊張感が高まる中、穏やかな瞬間もあった。サックスを持った男性が、ビル・ウィザースの「Lean On Me」を演奏した。短い間ではあったが、多くの人がサックスに合わせて歌を歌った。
その後、デモ参加者が近くの退役軍人省の建物の窓に、落ちた信号を投げつけた。倒れた木の枝にも火を放ち、事態はさらに混乱した。
テキサス州オースティン
オースティン警察は、幹線道路に集まったデモ隊に、スモークと催涙ガスを撒いた。
当初、オースティン警察は催涙ガスの使用を否定していたが、その後のツイートで認めている。
「高速道路に集まるのは危険であり、ドライバーや他の歩行者を危険にさらす可能性があった」とオースティン警察はTwitter に投稿した。
地元テレビ局によると、デモ隊は州議会議事堂の近くを行進した後、ダウンタウン近くの高速道路にいたとのことだ。主催の団体が、31日のデモをキャンセルしていたにもかかわらず、数千人もの人々が集まった。
主催団体Austin Justice Coalitionのリーダーであるチャス・ムーア氏は、地元テレビ局にこのように話している。
「オースティンで昨日(30日)起こったことを見ると、主に白人の参加者がやりたい放題やっているだけで、良心や善悪の判断を持って行動しているようには思えません。そのため、今日このイベントを開催することは不可能です。黒人の参加者の安全を確保できないからです」
この集会は、地元で起こったマイク・ラモスさん(42)の事件を風化させない目的もある。地元紙によると、オースティン在住のラモスさんは4月24日、現場から車で逃走を図った際に、警官によって射殺された。
ラモスさんの母親であるブレンダさんは30日、抗議デモの参加者に暴力行為を行わないよう訴えた。
「オースティンの人たちにお願いです。息子マイクの名前を使って、暴力的な行為はしないでください」とブレンダさんは地元紙に話している。
「日曜(31日)のデモには、子供から年配の人まで、あらゆる年齢層の人が参加します。暴力への恐れから、集会に参加するのが怖くなったり、声を上げることをためらったりする人が出てはいけません。この日曜の平和的な集会を中止させる口実を、オースティン警察に与えないでください」
ロサンゼルス
30日の夜に起きた暴動と破壊行為を受け、31日は午後6時以降の外出禁止令が出された。ロサンゼルス市庁舎は、州兵部隊に取り囲まれた。
また警察は、サンタモニカへの国道を封鎖し、ロサンゼルスのダウンタウンには近づかないよう住民に伝えた。
略奪の被害にあったダウンタウンの店は、まだ混乱の後片付けをしていた。
アトランタ
30日の夜、ダウンタウンで抗議活動を行っていた2人の大学生に、警官2人がテーザーガンを撃った。警官たちは後に解雇された。
ケイシャ・ランス・ボトムズ市長は、「過剰な力」を振るったため警官を解雇したと話した。
地元テレビ局が撮影した映像では、大学生のメサイア・ヤングさん(22)とテニヤ・ピルグリムさん(20)の2人が乗っている車の窓ガラスを警官が割り、2人を車から引きずり出す様子が映っている。
ピルグリムさんは起訴されず、ヤングさんは一度起訴されたものの後に取り下げられたと地元テレビ局は伝えている。
アトランタでは30日の夜に外出禁止令が出され、31日も午後9時以降は外出が禁止された。アトランタ警察は、今回の抗議運動に関連して157人を30日に逮捕した。
31日の午後、アトランタのダウンタウンにHBCU(歴史的黒人大学)の卒業生たちと学生たちが集まり、「#HBCU4BlackLives」という抗議集会を行った。街の中を歩きながら、100周年オリンピック公園まで行進した。
幼い子どもとデモに参加したジョニカ・ウィリアムズさんは地元紙にこう語る。
「私は黒人のシングルマザーです。今日のこの運動が、私たちの子どもたちの未来をより良くすると信じています」
<各地のレポート担当>
ミネアポリス:アドルフォ・フローレス
ロサンゼルス:ブリアンナ・サックス、ステファニー・マクニール、ロザリンド・アダムス
ニューヨーク:アンバー・ジェイミソン
シカゴ:タニア・チェン
ワシントンD.C.:アディ・ベアード、カディア・ゴバ
この記事は英語から翻訳・編集しました。