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「誰が警告しても止まらないのなら…」第7波で“地獄“を見た病院が模索する現実的なコロナ対策

新型コロナ第8波は地域によって、流行状況に差があるのも特徴です。第7波で“地獄“を見た地域では、それを教訓にどんな診療体制を築いているのでしょうか?現実的、合理的な対策を模索する藤田医科大学病院の岩田充永さんに聞きました。

新型コロナウイルス第8波は、地域によって流行状況に差があるのも特徴だ。

第7波で“地獄“を見たことを教訓に、第8波で現実的な対策を打ち始めた都市の基幹病院はどんな景色を見ているのだろうか?

そして、そこから編み出される一般の人へのアドバイスとは?

BuzzFeed Japan Medicalは、名古屋市に隣接する愛知県の基幹病院の一つ、藤田医科大病院(1376床)の副院長で、救急総合内科教授の岩田充永さんに聞いた。

※インタビューは12月26日に行い、その時点の情報に基づいている。

感染しても、入院中の病院や施設で診る体制に

——厚労省のアドバイザリーボードの資料を見ると、愛知県でも救急搬送困難事例が増えていますね。現状を教えてください。

今、コロナは住んでいる地域によって見えている景色が違い過ぎます。沖縄、東京、愛知などの医療者は7波で地獄を見ましたが、岩手や広島などの地方都市の医療者は8波でそのような地獄を味わっているのではないかと思います。

愛知県は、7波で救急搬送困難事案(※)が多発しました。

※救急車が現場到着後、医療機関への照会を4回以上行なっても、救急搬送先が30分以上見つからない事例

でも、今は療養型の病院や高齢者施設に入院中の患者さんがコロナに感染したら、なるべくそこで診続ける形になっています。

むしろ今、大学病院ではコロナ重症者は一部で、脳梗塞や骨折などで受け入れたらコロナにも感染していた、という人たちが急増しています。

現在、コロナ陽性ということでの入院患者は56人。職員89人が陽性か感染した家族の濃厚接触者として、出勤できない状況です。

——89人とは大変な数ですが、職員全体だと何%ぐらいでしょうか?

7波のピークの8月頭に職員の1割程度、190人ぐらい出勤できなかった時が最多でした。今はその半分ぐらいです。

もちろん89人が離脱すると大変なのですが、7波までの経験で病院としての闘い方も見えてきているので、動じなくなったところはあります。

重症化する人はどういう人?

——相変わらず大変でも、医療が崩壊しないような対処法がわかってきているということですね。

前に取材してもらったのは、2年前の冬でしたね。集中治療室がコロナ特有の重症肺炎患者ばかりで、人工呼吸器とECMO(体外式膜型人工肺)で埋め尽くされてしまうのではないかという不安がありました。それでも毎日毎日、呼吸不全の患者さんが来る。

しかし今は、入院する患者の大半は、別の病気で治療が必要な人がコロナにも感染していた、というパターン。一部は免疫がなくて重症化が防げない人が感染して重症化してしまったというパターンです。

たとえば大動脈瘤破裂の手術が必要で緊急入院した人がコロナにも感染していた、というパターンが多いのです。

そして、今最も大切な課題は、何回ワクチンをうっても重症化予防の免疫がつかない患者さんたちをどうするかです。

典型的な例は、悪性リンパ腫で分子標的薬のリツキサンを使って抗体を作るのが難しい人や、臓器移植後で免疫抑制剤を何種類も飲んでいる人が感染すると、ワクチンを何回うっていても重症化してしまうというパターンです。

さらにワクチンを一度もうっていなくて重症化した人が愛知県全域から運ばれてくる状況です。「重症の肺炎を久しぶりに見たね」という人はこのパターンです。

——やはりノーワクチンだと重症化しやすいですか?

間違いないです。今の中国の状況がまさにこれを証明していますね。

あとはこれまでインフルエンザの流行時に経験していたように、コロナでは軽症なのに、持病があったり、ADL(日常生活動作)が落ちていたりして誰かのお世話がないと生活できない人たちの問題があります。

痰が自分で出せないので誤嚥して、コロナそのものの肺炎ではなく、コロナ感染をきっかけにした肺炎を起こして悪化する人がいます。高齢者です。

その多くはワクチンをうっているのでコロナとしては軽症で済むのですが、肺炎になったり、食事が取れなくなって脱水になったりします。

こういう方たちが入院患者の中では一番多い。第7波では施設や療養型病床から、我々のような急性期の病院に転院してきていましたが、第8波では自分たちの施設で施設長の先生たちが頑張って診てくださっている。そんな医療機関が増えてきています。

情報で支援 療養型病院や高齢者施設が自分たちで診るように

——なぜ高齢者施設などでコロナ陽性者を診られるようになったのでしょう?

例えば、重症化リスクの高い高齢者らは、発症直後に抗ウイルス薬「レムデシビル」を3日間点滴することで重症化予防できるわけですが、この薬剤の溶解の仕方にはコツがあります。僕らはそれを動画にして公開しています。

YouTubeでこの動画を見る

藤田医科大学病院 / Via youtube.com

そういう施設から、コロナ患者の診療の相談があった時には、「これを見て頑張ってみてください」と伝えています。

高齢者が感染しても、引き続き診られるような努力をかなりの数の施設がしてくれています。愛知県や名古屋市がなるべくその施設で診るように、という通知を何度も出していることも影響しているのでしょう。

一度施設内の集団感染を自分たちで乗り切ると、「次はなんとかしよう」という意識が醸成されます。そうやってかなり頑張ってくださっている施設が増えているのです。

——一部の病院でコロナを診る、というのではなく、みんなで診る体制ができているのですね。

コロナだからうちは診ない、という病院は愛知県内では減ってきているのではないか...と信じたいです。

そうは言っても、感染者が増えれば急性期病院への入院が必要になってくる患者も増えます。それでも、コロナは軽症でも全身状態が悪い人に関しては元いた施設で診続けようという機運ができています。

重症化リスクの高い人は重症化予防の薬を出してもらうルートを準備して

コロナ以外の救急で入院が必要な人に後からコロナ感染が見つかるのは、感染者が増えている状況ではある程度仕方ないことです。最も頭が痛いのはワクチンをうっても免疫がつかない人が重症化してしまうことです。

——こういうリスクの高い人は流行中どうしたらいいのでしょう?

岡部信彦先生はそういう人たちを思いやる優しさを持とうと呼びかけていましたね

でも、今、自宅にこもっていても感染が防げる段階ではなくなってきています。暴風雨が来るのに一滴も水に濡れるな、というのは無理です。

だから特に重症化リスクの高い人は、今の流行時期、鼻水、喉の痛みなど風邪かも、という症状を感じた瞬間に抗原検査キットで検査してほしい。

そして陽性だったらすぐ、重症化を防ぐ飲み薬の抗ウイルス薬「パキロビッド」を処方してもらえるルートを作っておくことです。

もし自分が飲んでいる薬との飲み合わせで「パキロビッド」が内服できない場合は、すぐにレムデシビル3日の点滴につながるように、かかりつけ医と準備してほしいです。

——自分で準備しておくのは難しい人もいるかもしれませんね。

せっかくこれまで治療を頑張って病気を乗り越えてきたわけですから、風邪だと思ったら自分ですぐ検査をできるように準備しておいてほしいです。

元気なうちから、かかりつけ医の先生に「もし私が陽性になったらどうしたらいいですか?」と話し合っておいてください。

——高齢者で持病がある人は、かかりつけ医の先生にそんな相談ができるでしょうか?

難しいですよね。施設の職員や病院の職員は、そういう方達と接する人は感染しないように注意していますね。「ゼロコロナでなければいけない」というプレッシャーがかなり医療者や介護従事者の心を蝕んでいます。

でも、この3年間、飲食業や観光業の人はものすごく苦しんできたわけですから、一部の人のために全ての人が飲み会や旅行をするなとは言えなくなってきているのも認識しています。

だから社会が開いている今は、ある程度リスクの高い人は自分たちで自分の身を守るしかなくなっていると感じるのです。

「コロナはインフルエンザ並み」「感染力がインフルエンザの数倍」の間で

——「弱い人は感染して重症化しても仕方ないのだ」ということを前提に社会が動いていますね。

理論疫学者の西浦博先生は、「負の側面について合意を取らないまま社会を開いていいのか?」というご主張ですね。

でも現場の一臨床医としては、もう社会が開く方向に動き出して誰が警告を発しても止まらないのであれば、リスクの高い人はなんとか自分で自分の身を守ってほしいと言うしかない心境です。

——ワクチン接種も進んできた今、ウイルスは弱い人を狙い撃ちするような形になっています。

「コロナはインフルエンザ並み」と主張する人たちがいますが、確かに第7波以降の死亡率は、インフルエンザと比べてもそんなに高いわけではありません。

ただし、その数がコロナは爆発的に多いから医療現場はみんな困っているのだと思います。少なくとも、私が見えている光景からはそう見えます。

反対に、「感染力が強いのだからインフルエンザ並みにするべきではない」という意見は当然ありますし、死亡率で見れば「インフルエンザ並みの扱いでいいのではないか」という意見もある。この対立の中でどうするか、私たちは選択を迫られています。

だから、血液がんや臓器移植などで治療を頑張ってきた人は、重症化予防が確立している薬があるのだから、そこに早くつながる道筋をつけておいてほしい。

ウイルス疾患の流行による要介護高齢者の体調悪化で救急搬送が急増することについては、冷たいように聞こえますが、我々救急医は初めての経験ではありません。毎年の季節性インフルエンザでも経験してきたことです。

新型コロナウイルスの流行に対してレムデシビルなどを投与して重症化しないようにしながらケアを続ける施設が増えています。季節性インフルエンザの流行の際にも自施設で治療を継続しようと尽力していた光景と重なります。

繰り返しになりますが、暴風雨の中で水に濡れずにいることは不可能ですから、感染した時に自分はどうするかを事前に考えておく必要があります。

その時、「給食の黙食をやめよう」「W杯ではみんなマスクしていなかった。日本はいつまでマスクをしているのか」と、コロナ前の生活に急速に戻そうとする人が出てきます。

その中で、心配してマスクをしている人や、感染したらリスクの高い家族がいるので黙食を続けたい人、給食は食べない判断をするお子さんがいるかもしれません。リスクの高い家族がいるので飲み会に参加しない人もいるかもしれません。

リスクが高い家族がいるので、出社を求められてもリモートワークを続けたいという人たちもいるかもしれません。

そういう人たちが生きづらくなるのは良くないなと思います。

年末年始の行動は?

——年末年始に帰省する人も多いでしょうし、3年ぶりに親戚で新年会をしようという家族もあるかもしれません。それはどうでしょうか?

大半の方はもしそこで感染が広がっても、ワクチン接種をしていれば数日、喉が痛くなって済むでしょう。その人たちにとってはそれでいいのかもしれません。

でもそこから派生して、感染したら重症化を防ぎきれない人が周りにいる場合、もう一度、自分の行動をどうすべきか考えてほしい。

あるいは帰省してすぐには会わないとか、抗原検査キットを持って症状が出たら早めに検査をするとか、リスクを下げるために工夫することが必要です。

(続く)

【岩田充永(いわた・みつなが)】藤田医科大学病院副院長、救急総合内科教授

1998年、名古屋市立大医学部卒業。同大学病院、名古屋大学病院、協立総合病院で内科・老年科・麻酔科を研修後に名古屋掖済会病院救命救急センターで勤務、名古屋大学大学院老年科学にて博士号取得。2008年より名古屋掖済会病院救命救急センター副救命救急センター長、12年10月藤田保健衛生大学救急総合内科准教授、14年4月同教授。2016年から2021年まで救命救急センター長併任。2020年8月より、副院長。日本救急医学会救急科専門医、指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医。