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コロナ対策、制限のない年末年始どう過ごす? 「弱い人に思いやりを」

クリスマス、帰省と人が集まる機会が増えるこの季節。久しぶりに制限のない年末年始、どう過ごしてほしいと専門家は考えるのでしょう。岡部信彦さんはいつも「思いやり」という言葉を使って伝えています。

徐々に感染者が増えている新型コロナ第8波。

重症化リスクの高い高齢者や持病がある人を守りながら、生活を守るために私たちは何ができるのでしょうか?

新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは12月15日に行い、その時点の情報に基づいている。

忘年会、帰省先での宴会...全開して安全な時ではない

——新型コロナは流行初期のように恐れる必要はなくなりましたが、それでも感染者数が増えたら、特に高齢者には命取りになり得る病気だと指摘されています。致死率も安心していいレベルにはなっていませんね。

致死率はかなり低くなりましたが、高齢者の致死率は決して低くはありません。弱い人ほど、この感染症には弱いわけです。

日本の社会は今の時代、「弱い人は放っておけ」とは言わないはずです。弱い人を守るために手を繋ぐのが理想です。

一方で、弱い人だけを見すぎて、強い人もずっと生活に制限を続けるわけにもいかない。社会として難しいバランスをとらなければならない時期だと思います。

——先生は「気遣い」や「思いやり」という言葉を使って、感染をなるべく広げない配慮が必要だとおっしゃっています。久しぶりに行動制限がない12月ということで、大きな忘年会を開く企業も増えていますが、どう思いますか?

そういう風になってきているのですね...。うちの研究所でも感染する人が出てきています。でも普段から彼らは感染対策に気をつけているのだから「感染することはは仕方ない、やむを得ない」と伝えています。

でも、コロナかどうかわからなくても、具合が悪かったら早く報告して休んでもらっています。もちろん早く検査を受けるように言っています。

忘年会、というより食事会も小さいグループでやるなら、いいだろうと言っています。もちろん「気を付けてね」とも言いますが。大人数でやることはやめてもらっています。

——今までのような感染対策をとまでは言わないけれども、全開するには早いということですね。

国も経済を大切に考えているため、そのような政策を打っていますね。会社がその影響を受けるのは仕方ないところがありますが、火に油を注ぐようなことはまだやめてほしいなあと思っています。

航空会社や旅行会社が「どんどん旅行にいきましょう」というキャンペーンを打って、Go Toイートのキャンペーンもある。でも、「みんなで行こう」とか「大勢で人の集まる機会を作りましょう」とまでは言っていないはずです。

旅行も家族旅行ならいいでしょうし、帰省も、お見舞いも必要でしょう。

でもそこで大宴会をやってもいいとまでは行きません。最低限の感染対策をおざなりにして、ぐーんと経済を伸ばしていい時期ではまだないと思います。

ワクチンと感染と どう社会に免疫をつけていくか

——先生は社会を開く動きについて、「小動物が穴からちょろちょろ顔を出して徐々に外に出始めるように」という比喩をずっと使ってきました。ぴょんぴょん穴から出る動きが活発になり、それを見た周りも「もういいのか」とぴょんぴょん出始めている印象です。

今はぴょんと出始めているけれど、そのまま走り出す、というところまではいってはいけない段階だと思うんです。

——ワクチンによる免疫と、自然感染による免疫の両方をつけている人が徐々に増え始めています。これがある程度の割合になったら、走り出すこともできそうですか?

そうですね。そうあってほしいと思います。

国立感染症研究所が、日本人の中で感染による免疫を持っている人がどれぐらいいるか調べた調査結果を出しましたね

——平均で26.5%でしたね。

地域によってだいぶ違いますし、また年齢による違いなどもあります。若い人の方がもちろん高い。ただし献血者の血液で調べたという方法を考慮する必要はありますが、貴重な調査結果だと思います。

感染症法上、「新型インフルエンザ等感染症」(新型コロナウイルス感染症もこの中に分類されている)とは、国民が免疫を持っていないことから急速にまん延する可能性があって命や生活に重大な影響を与えるもの、という定義です。

新型コロナウイルス感染症(新たに人から人に伝染する能力を有すること となったコロナウイルスを病原体とする感染症であって、一般に国民が当該感染症に対する免疫を獲得していないことから、当該感染症の全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。)(感染症法第六条7より )

この「免疫を獲得していない」という定義が、新型コロナでは崩れつつあるわけです。

ただ、26.5%を多数と見るかどうか。また、沖縄では5割近くが感染による免疫を持っています。

免疫は人工的につけてもいいわけですから、ワクチンによる免疫を持っている人は多くなっており、ワクチンの恩恵はそういうところにも出てきます。

——感染で重症化するリスクの高い高齢者や持病のある人は、ワクチンをしっかりうたなければならないわけですよね。

病気にかかるよりは、かからないほうがいい。かからないために一人ひとりがあらかじめどうすればいいかを考えると、免疫を持つしかない。それにはワクチンしかありません。ワクチンは感染予防として重要な道具であることは変わりがありません。

——ただ、健康な人でワクチンも既に接種した人が軽く感染して、社会全体に強いハイブリッド免疫を持つ人を増やしていくことは良いわけですよね。

そうです。例えに出しては申し訳ないけれど、十分注意をしているはずの尾身さんクラスの人も感染する病気なのだ、とみんなが受け入れるならそれはそれでいいと思います。でも、尾身さんが感染しただけで大ニュースになるようではまだだめでしょうね。

ワクチンと基本的な感染対策の両輪は今後も必要

——2022から23年にかけての年末年始は、やはり3密は避けつつ、ワクチンもうてる人はうって、手洗い、マスクなどの感染対策は続けることが必要なのですね。

ワクチンと基本的な感染対策の両輪はこれからも持ち続けていかなければならないと思います。「ワクチンを受けたたから、3密は気にしなくていいですよ」とはなりません。

今まで4回、5回とワクチンを接種してきたわけですが、今後は免疫の状況を見ながら、接種の間隔や回数などを考えなければならないでしょう。

米国などではワクチンは年に1回でいいのではないかと言い始めています。それも「ウィズコロナ」の新たな戦略となっていくのでしょう。

——今後は重症化リスクの高い限られた人だけ接種する形になる可能性はありますか?

重症化リスクの高い限られた人だけでよいかどうかは、いまのところは結論は出せません。しかし、その限られた人は、今後もワクチンは必要であることは間違いないです。

——公費による接種は続けるべきでしょうか。

20〜30代であっても、たとえ接種率が低いとしても、公費で接種ができる制度を取っておくのか。「ワクチン接種は自己責任です」として自己負担で接種をしてもらうことにしたら、それは大きな政策転換です。

でも、個人を守り、社会を守るという観点では、主要なワクチンは公費、つまりは税金を使うべきではないかと僕は思います。

第8波、子どもへのワクチンは?

——日本では子どもの接種率は相変わらず低いですが、これについて改めてどう考えますか?

もっと接種してもらいたいですが、僕自身の基本的な考えは変わりません。

迷っているお母さんには、「できるなら接種してほしい」と説明をします。でもどうしても不安で子どもにうつのが心配ならば様子見るのも方法ですね」と言います。

はしかのワクチンであれば「歯を食いしばってでも接種しなさい。はしかにかかって死んだらどうしますか」と説得しますが、こどものコロナワクチンではそこまでは言えません。

その場合でも、「両親はできるだけ接種しておいてくださいね。そうすれば自分たちが防げるだけでなく、接種をしていない子供さんも間接的に防ぐことができます。お子さんのワクチンが心配で、かかるのも心配なら、お父さんお母さんがまず受けたらどうですか」と説明します。

歴史的には感染症が最初に流行して犠牲になるのは、こどもではなく大人です。動きの活発な人で、かつては男の方が多かった。大人たちがかかり免疫を持ち始めると、しだいに免疫を持っていない子どもたちに感染が広がってきます。

新型コロナの場合、子供の症状が軽いのは今もその通りですが、感染者数が増えれば少ない割合でも重症化する子どもは出てきます。

ワクチンで重症化を防ぐ効果はあるのですから、学校を休みたくないとか、受験を感染で諦めたくないなどの目先のメリットも考え合わせて、接種を受け入れるかどうかです。

その受容がないまま、不安な気持ちのまま無理にワクチン接種を受けると、ワクチン成分が原因ではない、しかしワクチン接種すること自体による”副反応”が起きることがあります。

——自治医大の調査で、感染してからしばらく経った後に出てくる重症の子どもの後遺症「MIS−C=小児多系統炎症性症候群」が全国で64人に上ったという結果が公表されています。この数字をどう見たらいいでしょう?

そうなんです。この60人余という数字をどう見るかです。先ほどの麻疹は、麻疹にから回復した後、何年も経ってから起きる重症の合併症「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」は10万人に一人の確率です。

麻疹の患者が100万人出ても10人程度の病気、とすれば大したことはないように見えます。でも、だから放っておいていい、かというとそうではないほど重大な病気です。第一誰がそうなるかわからず、病気はワクチンで防ぐことができるとなればやはりワクチンを勧めます。

コロナの場合、身の回りの人の多くは軽症ですから、それで大丈夫だと思っていても、健康な人であっても重大な影響が及ぶこともあります。だからみんなで防がなければいけないと思うのです。

僕は子どものワクチンはできればやったほうがいいと思います。でも不安で仕方ないなら、今無理にやらなければならないほど子どもはリスクが高くない。様子を見てもいい。でも感染に対する注意はより強くしてくださいと伝えています。

感染症に関しては「小心者であることはいいこと」

——これからクリスマス、年末年始を迎えますが、今年のこの状況でどういう風に皆さんに過ごしてほしいですか?

楽しむことは人にとって必要なことです。大切なことです。でも、残念ながら、大騒ぎをすることは今は抑えなくてはいけない。どうしても感染リスクを増大してしまいますから。

忘年会も含めて、大人数で大騒ぎするのではなく、少人数で静かに楽しんでほしいですね。

——振り子が極端に振れすぎるのですよね。

韓国のハロウィンの時の圧死事故も気の毒でしたね。大勢が集まるところに行くこと、通行規制をしなかったこと、不法な建物の並びなど、要因はいろいろあったと思いますが、皆同じところに一斉に集まる...でなくてもよいと思います。残念です。

感染対策としても、今年の年末年始も大勢が集まるような場所にはなるべく行かないようにしてほしいですね。

——でも飲み会は全部なしで、帰省も一切しないで、という状況ではなくなっているわけですね。

それは、皆さんがこの病気をある程度許容し始めているからです。決して、飲食や帰省のリスクがなくなったわけではない。コロナに限らず感染症はみんな同じです。気をつけるべきことはこれからも気をつけなければなりません。

ただそれを法律の力で制限をかけるか、重症者以外もひっくるめてそういう扱いにし続けるかは議論が必要なところです。

最初の頃のように、帰省自体をやめてと呼びかけるわけではありません。新幹線や飛行機は混むかもしれませんが、乗り物そのものの注意は行き届いてきている。その中でマスクをして、騒いだりしなければリスクは十分低くなっているでしょう。

そういう慎重さを日本人は既に十分身につけていると思います。感染症に関しては小心者であることはいいことです。あえて大胆になる必要はありません。

——この年末年始もまだ気をつけなければならない病気であることは変わらないですね?

そうですね。でも新型コロナは、恐れ慄いて布団をかぶって閉じこもっていなければならないような病気ではなくなってきています。

多くの人は軽症で済む。でも症状の変化には気をつけなければなりません。そういう人がいつでも受け入れられる医療体制は守らないといけない。そのためには一定の余裕が必要なので、医療には余裕を持たせるようにさせてほしいです。

互いに思いやりを持って感染を広げないように

——最後に読者の皆さんに、この冬、どう過ごしてほしいかメッセージをお願いします。

流行初期の頃に言った「お花見」の話と一緒です。楽しむことはぜひ楽しんでいただきたいし、懐かしい人やしばらくぶりに会うおじいちゃんおばあちゃんにもにも会ってほしい。けれども、感染の注意はしてください。

少ない人と集まるのはいいと思うのですが、不特定多数の人と集まって大騒ぎすれば、もしそこで感染があるとみんなが大変なことになります。

この病気は決して恐れ慄く病気ではなくなっています。でも多くの人がかかると、中には具合が悪くなる人が出てきます。互いに思いやりを持って注意しましょうよと呼びかけたいですね。

(終わり)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会GACVS)委員を歴任し、 西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長、世界ポリオ根絶認定委員会委員などを務める。日本ワクチン学会・日本小児感染症学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長(現在理事)など。