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「本当はもっとやってあげられるのに」 限界を超えてコロナ診療に当たるスタッフのストレスとは?

愛知県の重症患者の4分の1を診ている藤田医科大学。最前線で指揮をとる救急医が、「自分たちが100%と納得できる医療が提供できなくなっている」とスタッフの苦悩を明かしました。

新型コロナウイルス流行地の一つである愛知県。

年末年始を控え、重症患者を診る病院では今後の新規感染者増加の動向に戦々恐々としている。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

取材中も引っ切りなしに連絡の電話が入る岩田充永さん(電話中は音声はミュートにしています)

今、大学病院と関連病院で愛知県の重症患者の4分の1を診ている藤田医科大学(愛知県豊明市)の救急総合内科教授の岩田充永さんに、疲れ果てるスタッフの働きぶりと市民にお願いしたいことを伺った。

※インタビューは12月28日昼、Zoomで行い、その時点での情報を元にしている。

重症者を引き受ける病院

ーー今はどのぐらい新型コロナの患者を診てらっしゃるのですか?

今日は人工呼吸器をつけているのは8人、ECMO(体外式膜型人工肺)は3人です。愛知県の重症者の2割強を藤田医科大学病院で診ています。全部で20〜30人の間で推移しています。

藤田学園

重症患者にECMOを装着する医療者

第2波までは、軽症で隔離目的の患者も入った総数だったのですが、今は愛知県も軽症者の療養用のホテルを整備していますので、藤田に来る人は酸素投与が必要な中等症以上ばかりです。

愛知県内の他の病院もかなり頑張っているので、「酸素投与だけなら受けよう」と受けてくれています。そうすると、藤田に来る方は透析をされながらなど条件がある中等症の方など重めの方になりますね。

ーー今は救急の病棟を使っているのですか?

11月の半ばにICU(集中治療室)の外傷重症者用のユニット8床をコロナの重症の方向けのケアユニットに振り替えたのですが、それだけではだんだん重症患者が収まり切らなくなっています。

これ以上増えると、コロナ以外の救急センターの重症患者の治療に影響が出るので、バランスを思案しているところです。

重症者以外は丸ごと1棟の病棟をコロナ患者用に確保しています。第1波の時に作ったここは、疑いの人と陽性の人を合わせて46床あります。

ーー勝負の3週間後は少しは楽になりましたか?

その時の陽性だった人が一部、重症化してきているのでしょう。負担は軽くなったとは言えず、逆にここが踏ん張りどころという状況になっています。

夜中や休日に重症で搬送先が決まらないという県からの相談は明らかに増えています。藤田では、愛知県庁の感染症対策局から僕に24時間いつでも電話をしてもらい、受け入れを決めるというシステムにしました。

ーー藤田の医療圏ではないところからも患者が来る感じですか?

オール愛知県から来ています。渥美半島や岐阜県の境からも来ています。普段そういうところから救急依頼があったら、よっぽどのことなのだろうなと思いますが、今はそういうところから来ることの方が多いです。

重症の方で行き先が困っている人の依頼が来ており、救急外来を受診していきなり重症という人が増えている影響だと思います。

スタッフの疲労やストレスが蓄積

ーー流行が長引いて、重症者ばかりだと、スタッフもかなり疲れているのでは?

緊張感を感じる2つの要素があって、1つは重症者の数が多いということです。

需要と供給のバランスがギリギリ取れているのが普段の病院です。スタッフ個々人が自分なりに百点満点と納得できる医療や看護が提供できる患者の数だけ入院ベッドがあって、スタッフがいる。

そこにコロナの患者さんが上乗せされて来ているので、「本当はもっとできるのに」と思いながら、患者の数が多過ぎてスタッフ自身が納得できる対応ができない場面も出てきました。

藤田学園

新型コロナ患者の治療をする救急スタッフ

ーー「本当はもっとこんなことができるのに」というのは、どういうことができなくなっているのでしょう。

看護師さんはとても献身的なので、ベッドサイドでリハビリをしたり、人工呼吸器をつけられた患者さんのケアももっと手厚くしたりできるのにと思っているんですね。いっぺんに何人も人工呼吸器をつけた方が増えているのですが、看護師の人手が急に増えるわけではありません。

だから、医学的には必要なことができていたとしても、自分ではもっとしてあげたいと思うことができない。こういうのは医療者にとって相当堪えるんです。そういう精神的な疲労は強いです。

これは自己評価としては「自分は目の前の患者に何も提供できなかった」「自分なんか医療者として存在する価値がない」というネガティブ思考につながる危険があります。これは、本当に深刻で、これが解決できないと燃え尽きて、退職につながることを心配します。

もう1つは院内感染をしないよう注意を強いられる緊張感です。

コロナ以外の医療をしている人も決してコロナと無縁ではありません。むしろこちらの方に僕はストレスを感じているのですが、たとえば骨折で入院した患者さんが実は陽性で院内に感染を広めてしまわないかなどの心配が常にあります。

新型コロナウイルスは全くの無症状から、命に関わる重症までバリエーションが広いので、今の市中感染のペースだったら医療者が感染していてもおかしくないのです。

でも全くの無症状の場合もあるので、感染の認識なく医療を守るために出勤しますよね。その人が万が一陽性で、そこから院内感染が広がってしまったら、病院の機能が停止してしまいます。

そうならないために、食事は絶対に一人で、スタッフ同士で会話しない、スタッフと接する時は、マスク対マスクの関係で、患者さんと接する時もマスク対マスクの関係で。そんなことを徹底してもらっています。

夜中に寝ている時など、患者さんがマスクをしていない時に体位交換や処置をする時はマスクに加えてアイシールドもする。

つまり、相手がもし陽性であっても自分が濃厚接触にならないように、そして自分が万が一感染していても相手に感染させないように気を配りながら仕事をすると、かなり神経を使います。

陽性のところに人が割かれるということは普段のユニットも人が減る。そういう疲労感もあります。

医学的にレベルを落としているわけではないし、周りから見れば十分合格点でも、自分の中で「もっとできるのに」という思いが毎日毎日積み重なっていくとかなりストレスになるというのは、スタッフと話していて思います。

「やるしかないよね」 弱音や愚痴も言い合えない職場で

ーーどういう言葉で先生に辛いと漏らしていますか?

辛いというか、みんなこういう時は「弱音を吐いてはいけない」と思うのですね。東日本大震災の時の避難所の方たちと一緒です。あまりに辛いと無言になる。「やるしかないですよね」という言葉が多くなります。

スタッフは今、気力だけでやっています。「やるしかないですよね」と自分に言い聞かせて、働いています。

藤田学園

また救急車がやってくる

ーー先生はどう言葉をかけるんですか?

もう.......本当に言葉が出ないですよね。僕たちが患者をできるだけ受け入れて、自分たちが今できることを頑張ってやっていることが、この国難に貢献していると信じようというだけです。

ーー開院前にダイヤモンド・プリンセス号の陽性者を受け入れていた藤田医科大学岡崎医療センターも受け入れているのですか?

今は患者を15人ぐらい受けてくれています。そのうち重症者は4人ぐらいです。藤田医科大の本院と岡崎医療センターで、愛知県の重症患者の4分の1を受けている計算です。

ーー名古屋大学などでは受けていないのですか?

名古屋大学も今、仲間たちが頑張っています。大学病院はどこも愛知県の医療を支えるために必死です。

大学病院ではない救命救急センターも普段の救急と両立するという意味では、よほど腹を決めないと重症患者は1人、2人を受け入れるのが限界だと思うのですが、限界を超えて頑張っています。

僕たちも決して楽ではないですけれども、病床数がたくさんあったことでなんとか踏ん張っていますが......。

治療法は確立してきている ワクチンにも期待

ーー治療法はある程度確立してきているのですよね。

デキサメタゾンというステロイドを使い、腹臥位(腹ばい)と気管挿管による人工呼吸を考慮する。これで良くなる人はすごく良くなる印象があります。

それで良くならない人は、ECMOまでつけても厳しいかもしれないという印象です。しかしこれは我々の限られた経験だけの印象ですので確信的なことは言えません。

藤田学園

ECMO装着後の体位の交換を4人がかりで行う。重症患者は人手がかかる

ただ、先月開催された日本救急医学会でCOVID-19治療法のシンポジウムの座長をさせて頂いたのですが、やはり多くの救急医たちが同じ印象を持っています。治ってくる人の中には腹臥位にするだけですごく良くなる方がいます。

気管挿管して人工呼吸管理で良くならない人は直ちにECMOで戦っていたのが第1波だとするなら、第2波ぐらいからステロイドの有効性が言われ始め、さらに腹臥位療法を組み合わせるようになってきた。

ECMOを使わずに救命できる重症例が増えてきている印象があります。もちろん、ECMOを導入し集中治療チームの献身的な治療によって救命されている例もあるので、それを否定するわけではありません。

ただ、ステロイドも腹臥位療法も効く人にはすごく効くけれど、効かない人には全く効かない。感染した瞬間から良くなる人と良くならない人の運命は決まっているのではないかという印象を持ってしまいます。

ーー良くなる、良くならないの分かれ目は、重症化リスクがあるかどうかですか?

そうですね。たばこをいっぱい吸って元々肺が悪い人、肥満の人、糖尿病のコントロールが悪い人は嫌な予感がしますね。

ーーワクチンへの期待はどうですか?

効いてほしい。ただ何かに期待して裏切られる時のショックは大きくなっているので、願うだけです。効いてほしい(笑)。

年末年始、これ以上増えたら?

ーーしかし年末年始、これ以上増えてしまったら、崩壊しそうな感じですか?

いよいよ僕たちが救命センターとして担うべき救急医療と、コロナの重症者の両方を頑張り続けることがかなり難しくなるでしょうね。両方頑張りたいですけれども、優先順位をつけなくてはならなくなるかもしれません。

藤田学園

X線でECMOの管を挿入する場所を確認する

厳しい決断ですが、これは大学側だけが決めるわけにはいかない。県から「あなたたちは陽性の重症者を重点的に診なさい」などと言われたら腹を決めることができます。その場合は普段の救急医療は近隣の救命救急センターに応援を依頼するなど調整が必要になります。

またはコロナの重症者が増えても、藤田が受ける重症者は今の8人ぐらいに留めて、普段の救急医療との両立を頑張りなさいと言われれば、当然そうします。

今はそういう役割分担を話し合わなければならないレベルに増えていると思います。

ーーもうコップの水があふれそうなところまできているのですね。

これ以上、普段の救急医療と両立しながらコロナの重症者を引き受けろと言われたら、今までの救急医療には支障が出るかもしれないという段階です。

コロナ患者だけ診るのなら、まだまだ行けます。

他の診療科も忙しい

ーー以前は救急と呼吸器内科でコロナは診ているということでしたが、他の診療科から手伝いを得ているのですか?

他の診療科も去年と同じ手術件数や入院件数ですので、決してコロナ禍だから暇なわけではないのです。むしろ手術件数も、化学療法の件数も例年以上に患者は増えています。

普段の医療もかなりいっぱいいっぱいです。他の診療科から人をとってきたら、それは普段の医療を崩壊させることなのでできません。

ーー例年以上に増えているというのは、他の病院の分も引き受けていらっしゃるのですか?

ちょっと理由はわからないのですが、コロナ禍で患者数が減ったと言われる病院がある中で、手術や入院治療が必要な患者さんが集まっていることは病院としては感謝すべきことかもしれません。しかし、理由はどうあれ余裕はありません。

例えば、首都圏のある大学病院では、病棟の稼働率を60%ぐらいに減らして、PCR検査の陰性を確認しないと入れないという体制で受け入れているそうです。

藤田学園

PCR検査をするスタッフ

僕たちも入院前のPCR検査をしているのですが、どうしても結果がわかる前に治療を始めなければならない方がいます。

安心のために稼働率を減らしている病院もありますが、それだと我々の地域では平時の医療に重大な支障をきたすということで、うちはできるだけ必要な人に医療を提供する方針をとっています。

ーー入院前にPCR検査をしたとして、結果が陰性でも感染予防策を取らなくてはいけないのはかわりはないですよね?

その通りです。陰性で安心して感染対策が緩んでしまうのは悪手です。安心を求めて安全が崩壊するのことはもっとも避けなければなりません。入院前の検査で陰性であろうが感染対策は変わらず徹底しています。

ーースタッフを増やすことはできないですか?

どこから増やすんですか.......。

ーーそうですね。どこも人手が足りないですものね。そうしたらみなさん勤務を増やすなどしているわけですか?

夜勤を増やすなどはしていますが、岡崎医療センターで1人濃厚接触者になってしまって人手が厳しいとか、本院で熱が出て自宅待機になっている人がいるという場合はお互い人手を融通しながらやっています。

院内で陽性者が発覚すると徹夜続きになる 

ーー院内感染は起きたことはありますか?

いつ起きてもおかしくないし、疑われる事例が11月に1人ありました。患者さんが退院したその日に陽性が判明して、100人以上の職員や患者にPCR検査をかけたことがありました。そこで職員に2人陽性が判明しました。感染が患者からか職員からかはわかりません。全容を把握して直ちにプレスリリースしました。

藤田学園

コロナ患者用に外部の人は入れないようにした完全封鎖の移動用通路

僕はCOVID-19対策本部の仕事をしていますが、1人入院患者さんで陽性が判明すると、3日ぐらい徹夜になります。濃厚接触者全員にPCR検査をし、そこで陽性が判明したら、またその人の濃厚接触者を全員PCR検査する。

1人わかった時点から48時間ぐらいで全体像をつかまないと、いったん入院停止、いったん診療停止など病院機能崩壊の危機に瀕します。

ーー休みは取れていますか?

休みでもいつでも電話はかかりますが、救急医では当たり前のことです。職員にも休みを取ってもらう努力はしているつもりです。

でも肉体的な休みがあるから解消されるかというと、この緊張感はずっと続いているので、ずっと災害時のような気持ちです。この2月からの状況はすごく災害医療と似ています。とても疲れます。酒の量は増えましたね。

ーー職員のケアはどうされていますか? 一人で食事を取ることを徹底とかいうと、同僚同士で愚痴をこぼし合うこともできなくなりますね。

普通に生活する中で感染するのは仕方ないのですが、素晴らしいのはそこから濃厚接触と認定される人がほとんどいないことです。だから自宅待機の人がたくさん出ないで、医療が維持できています。

濃厚接触は、1m以上離れて、15分以上話さず、マスク対マスクでの会話なら成り立ちません。でもこれはすごく孤独な生活をしろと言っているようなものなのですね。ストレスが溜まらないはずがない。

濃厚接触者を出さない対策は第2波からお願いしていますが、これができているということは職員に孤独を課していることになります。難しいです。

市民にお願いしたいこと

ーーここまでのお話を総合すると、呼びかけたいのは「どうか感染しないで」ということでしょうね。

そうですね。「じゃあ経済はどうするんだ」と言いたい気持ちはよくわかりますし、僕だって行きつけの居酒屋がコロナの影響で4月に閉店してしまってとても寂しいです。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

取材を終え、またマスクをつけて診療に戻る岩田さん

東日本大震災で南三陸に応援に入る時はお店で募金を集めてくださって、「先生が出会った人に役立つ使い方をしてください」と募金を託してくださったお店だったのです。本当に苦しいです。

でも、今は医療者を増やすことは急にはできません。医療者を増やすか感染者を減らすかなら、即効性があるのは感染者を減らすしかない。

「日本は元々病床が多いのだから医療崩壊するなんておかしい」などと言われると、反論する気力もなくなります。

毎日県内で何百人という新規陽性者の発表があると、「このうち数%は1週間後には人工呼吸器管理になる。ということは僕たちのこの働き方はまだまだ続くんだな」と思いながら働いています。

一方、救命センターで働いていると、コロナの重症の方もきますが、確かに自殺の方が増えたという印象です。「コロナと関係あるのだろうか」と考えます。

とんでもない交通事故は減った気がします。飲酒運転がなくなったからかなと思っています。酔っ払って担ぎ込まれる人も減っています。理由はわかりません。

ーー改めて年末年始、呼びかけたいことは?

もうとにかく感染しないでほしい。僕たちも医療を頑張りますから感染しないでくださいと言いたいです。

家族以外との食事が一番の感染リスクという感触を現場でも持っています。食事は注意してほしいです。

ーーそういう時に政治家が忘年会や大人数の飲食をしていると腹立たしいでしょうね。

もう見ないようにしています。不快な情報はシャットアウトするのが今のストレス対処法ですね。

【岩田充永(いわた・みつなが)】藤田医科大学救急総合内科教授

1998年、名古屋市立大医学部卒業。同大学病院、名古屋大学病院、協立総合病院で内科・老年科・麻酔科を研修後に名古屋掖済会病院救命救急センターで勤務、名古屋大学大学院老年科学にて博士号取得。2008年より名古屋掖済会病院救命救急センター副救命救急センター長、12年10月藤田保健衛生大学救急総合内科准教授、14年4月同教授。2016年から救命救急センター長併任。日本救急医学会救急科専門医、指導医、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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