新型コロナウイルスでただでさえ大変な思いをしている医療現場。
しかし、大変なのは今に始まったわけではありません。日本の医療は、コロナが登場する前からギリギリの状態をはるかに超えた疲労困憊ぶりでした。
この状況を、医療のかかり方を国民みんなで見直して、将来も質の良い医療にかかれるようにしようと進められているのが厚生労働省の「上手な医療のかかり方」プロジェクトです。
同プロジェクトは昨年度に引き続き、今年度も市民に上手な医療のかかり方を広めるために力を尽くしている企業や団体、自治体などを表彰する「上手な医療のかかり方アワード」を開催します。
詳しい募集要項はこちら。応募締め切りは11月30日。
日本の医療は瀕死状態
なぜ日本の医療はそこまで疲弊してしまっているのでしょうか?
まず、プロジェクトが「上手な医療のかかり方大使」に就任したデーモン閣下にお願いして作った以下のCM動画をご覧ください。
日本の医師は働き過ぎであることが問題となっています。
「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012)によれば、医療事故につながりかねないヒヤリハットを経験した医師は76.9%いました。
日本医師会の勤務医1万人アンケートによれば、「抑うつ中等度以上」の医師が6.5%、「自殺や死を毎週または毎日考える」医師が3.6%もいる異常な状況です。
国は「医師の働き方改革」を打ち出し、残業上限などを決めました。5年間の準備期間を経た上で、2024年4月からは、残業の上限を年間960時間としています。それでもこれは一般の労働者の過労死ラインです。
しかも、医師が不足している地方では、この過労死ラインの残業上限を守ることも難しいとされています。
そのため、地域の医療を守るために必要な病院では、特例の残業水準「年間1860時間」を設けました。一般の過労死ラインの2倍です。
しかし、新型コロナが起きてこれまで以上に忙しくなっている医師もいることと思われます。医師の働き方改革は本当にできるのか?という声も現場から聞こえてきます。
上手に医療にかかれば私たちも医療者も楽になる
なぜ日本の医師はこれほど忙しいのでしょう?
その原因の一つが、私たちが上手な医療のかかり方を知らないことにあります。
「夜間や休日に具合が悪くなった時に、受診した方がいいのか、どこにかかればいいのかわからない」
そんなことで不安を覚えたことのある人は多いのではないでしょうか?
特に小さなお子さんが夜中に高熱を出したりすれば判断に迷い、「念のために」と救急外来に連れて行ったり、救急車を呼んだりすることがあるでしょう。
そんな時、受診した方がいいか医療者に相談できる「#8000(子ども医療電話相談事業)」の存在を、9割の人が知りません。
一般向けの相談電話「#7119(救急安心センター事業)」が整備されているのは10県に満たない上、整備されている場合もなかなか電話がつながらないといいます。
さらに、平日の日中に受診したくても休みづらく、体調が悪くても休めない労働環境があります。
自宅で療養していれば治るのに、会社に要求されて診断書や治癒証明書をもらうための無意味な受診もあるようです。今なら、「新型コロナの陰性証明を」と無駄な検査を勧める企業もありそうです。
適切な受診に役立つ情報が市民に伝わっておらず、社会環境も整っていないので、自身にも医療機関にも負担がかかるかかり方が減りません。その結果、待ち時間が長くなったり、「3分診療」になったりすることで私たちの不満も溜まっています。
「上手な医療のかかり方」広めよう
こうした状況を解決するため、2018に厚労省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」が開かれ、「『いのちをまもり、医療をまもる』国民プロジェクト宣言」をまとめました。
詳しくはこちらの記事に概要をまとめていますのでご覧ください。
市民、行政、医師・医療提供者、民間企業それぞれができることを打ち出し、みんなでかかり方を変えていくアクションを起こしていこうという呼びかけです。
このプロジェクトを広めるためのウェブサイト「上手な医療のかかり方.jp」も作られています。
そして、先進的に取り組みを進める好事例を紹介して、広めようと「上手な医療のかかり方アワード」が昨年度に作られました。
第1回の厚生労働大臣賞(最優秀賞)には、「病気の治療と仕事の両立」「不妊治療と仕事の両立」などの社内ガイドラインを作り、職場で急病やけがが発生した時の対応マニュアルを職場に掲示するなど、社員が平日の日中も医療にかかりやすい様々な仕組みを作っている「ブラザー工業株式会社」が選出されました。
10月22日の午後1時からは、審査委員長の認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事 秋山正子さんと、第1回アワードの受賞団体6組が登壇するオンラインイベントも開かれます。申し込み要項はこちら。
第2回の今年度はコロナ禍でますます重要性が高まる「上手な医療のかかり方」を進める様々な取り組みを募集しています。
保険者、 医療関係者、企業、民間団体、自治体、チラシ部門特別賞と6部門に分かれて11月30日まで募集していますので、ぜひ応募してください。
筆者の岩永直子は、上手な医療のかかり方を広めるための懇談会に参加した構成員で、昨年度に引き続き、今年度も上手な医療のかかり方アワードの審査員を務めます。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に取り組みを報じていきます。