• medicaljp badge

お医者さんが健康でないと私たちの健康は守れない 「医師の働き方改革」まとまる

「医師の働き方改革に関する検討会」は最終報告書をまとめました。私たち、医療を受ける側にも大きく影響するこの改革。何がポイントなのでしょうか?

日本のお医者さんは働き過ぎです。

Sarinyapinngam / Getty Images

「自殺や死を毎週または毎日考える」医師が3.6%もいるのが日本の現状だ

日本は、基本的にどんな大病院でも自由にかかることができ、お金がない人でも最高水準の医療を受けられる仕組みが整っています。

そんな私たちの医療は、お医者さんの自己犠牲的な長時間労働で支えられています。

これを放置していたら、日本の医療はもうもちません。

そんな危機感から、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」(座長=岩村正彦・東京大学大学院法学政治学研究科教授)で1年8ヶ月も議論が重ねられ、3月28日、最終報告書がまとまりました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

最終報告書をまとめた医師の働き方に関する検討会

医療にかかる私たちにも大きく影響するこの改革。今年4月から5年の準備期間を経て、2024年4月から本格的に始まりますが、どういう内容なのでしょうか?

原則、病院に勤務するお医者さんの残業上限は「960時間」に

お医者さんだって労働者。でも、お医者さんの場合は、インフルエンザの流行などで患者さんがとても増えてしまったり、緊急の手術が重なったりした時に、「帰宅時間ですから」と言って診療を断ることができません。

患者さんの命を守るために予測できない仕事をせざるを得ないことがあります。

でも、現在の働く時間は青天井でした。どこかで制限をかけなければいけません。

そこで5年間の準備期間を経た上で、2024年4月からは、残業の上限を年間960時間とすることにしました。これは一般の労働者の過労死ラインなんです。

単月の上限は100時間で、複数月の平均上限時間は80時間としています。

地方の医療を守るための特例の残業上限は「1860時間」

さらに、地方で医師が不足している場合は、この過労死ラインの残業時間でもとても足りないと言われています。

そこで、地域の医療を守るためにどうしても医師一人あたりもっと働いてもらうことが必要な病院は、特例の水準を作ることにしました。

それが、激論の末に決まった「年間1860時間」という残業上限です。一般労働者の過労死ラインの2倍であることから、「これでも多過ぎる」という批判の声がずっと上がってきました。

しかし、今の時点で、これよりも長い時間残業している医師がいる病院がたくさんあります。大学病院の88%、救命救急センターがある病院では84%が既にこの上限よりも働く医師がいるのです。

「1860時間」を超えて働く医師がいる病院の割合

医師の働き方改革に関する検討会

一般労働者の2倍の残業上限が適用されるからといって、過労死などの労災認定のハードルが高くなるということではありません。労災認定の取り扱いは、「適用される時間外労働の上限時間の違いによって変わるものではない」という言葉が明記されました。

健康を守るための追加対策は?

でも、この基準を設けてお医者さんが過労死してしまってはいけません。

そこで、勤務と勤務の間に9時間の休み(インターバル)を取るようにさせます。当直明けの日の連続勤務は28時間までとし、次の勤務までに18時間のインターバルを取る。

それでもどうしても急患が重なるなどして、例外的にこの休みが取れなかった場合、時間単位で短い休みを取る「代償休息」というものも考えられています。

さらに、残業上限に届きそうな医師には、産業医などが面接して、休みを取るよう指導することも義務付けられます。ドクターストップがかかることもあり得ます。

Metamorworks / Getty Images

残業上限に近くなった医師は医師による面談と指導を受けなければならない。ドクターストップがかかることも

岩村座長はこれまでの検討会で、「面接指導を拒否する医師を漫然と働かせて過労死した場合、その病院が損害賠償の責任を負うことになるだろう」と述べています。

この特例が適用されそうな病院は全国で1500施設程度になると見積もられています。特例は2035年度末までで終了します。

集中して医療技術を身につける研修医も「1860時間」

さらに、医師国家試験に受かり、基礎的な技能を身につけるために、または専門医の資格を取るために、一定期間、集中的に数多くの診療を行う必要がある初期、後期研修医も、残業上限は1860時間としています。勤務間のインターバルも9時間です。

さらに、若い医師は勤務の裁量権がそれほど与えられていないことから、健康を守るための追加の対策もさらに手厚くし、連続勤務間を15時間までとしました。臨床研修でどうしても必要がある場合は、24時間の連続勤務も認めますが、その勤務後のインターバルは24時間とします。

チーム医療の推進、病院の集約化、ICTによる効率化

労働時間を短くするためには、医師の仕事を減らしたり、効率を上げたりしなければいけません。

その具体策としては、

  • 看護師、薬剤師、管理栄養士など医師以外の医療職に医師の業務や患者対応を受け持ってもらったり、分かち合ったりするタスクシフティング、タスクシェアリング、チーム医療の推進
  • ICT等の技術を利用した仕事の効率化
  • 同じような機能の病院や診療科を地域で集約化
  • 上手な医療のかかり方を広めること


などが掲げられています。

上手な医療のかかり方については、BuzzFeed Japan Medicalでも度々取り上げてきましたが、「『いのちを守り、医療をまもる』国民プロジェクト宣言!」の5つの方策やリンクが報告書に盛り込まれました。

「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクト宣言!の出した5つの方策

上手な医療のかかり方を広めるための懇談会

私たちに何ができるか? 

医療機関や行政は、この改革のために4月から本格的に準備に取りかかることになります。

しかし、これは医療を受ける私たちも協力しなければ達成することはできません。夜間や休日に体調が悪くなったらまず電話相談を利用したり、医師だけに全て頼らず薬剤師や看護師などに聞いたりなどして、上記の「いのちをまもり、医療をまもる」国民プロジェクトに参加しましょう。

報告書の最後は、社会全体に向けての呼びかけの言葉となっています。

医師と国民が受ける医療の双方を社会全体で守っていくという強い決意が、一人でも多くの国民・医療関係者に共有されることを願って、本検討会を閉じる。

岩村座長は最後に、一般国民、そして若い医師にこう呼びかけました。

「住民、患者の皆さまの理解がなければ、こうした医療機関の諸団体、経営者の方々の努力も必ずしも身を結ばないことになってしまいますので、ぜひ住民と患者の皆さまもこの改革の意味を十分にご理解いただいてご協力をいただければと思っています」

「とりわけ、これから医師の世界に入ろうとする若い人たち、あるいはすでに医療機関の中で救急部門など熱心に活動してくださっているみなさんが、これから先、労務管理が適正化され、きちんとした労働時間の中で安心して、かつ熱意をもって働けるようになることが今後の医療にとって非常に重要であることをぜひ各方面にご理解いただければと思います。それを私も強く願っております」

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here