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田村大臣、HPVワクチンの供給状況をご存じですか?「新たなワクチンを確保する」と強気に出たけれど...

世界的にHPVワクチンが不足する中、積極的勧奨再開の議論を先送りする態度を表明した田村厚労相が、新しいHPVワクチンを確保できるかのような発言をしていました。世界のワクチン供給状況を理解していない疑いがあります。

子宮頸がんを防ぐ高い効果がありながら、日本では2013年6月に国が積極的勧奨を差し控えて以来、接種率が激減しているHPVワクチン。

年間1万人が新たに子宮頸がんになり、3000人が死亡する状況をどうにかしようと、積極的勧奨の再開が強く求められているが、田村憲久厚生労働相は再開の議論をいつから始めるのか明言していない。

製薬会社のMSDからは、このまま積極的勧奨が再開されずに日本向けに確保したワクチンを廃棄することになれば、国際的な批判を浴び、今後のワクチン確保が難しくなる可能性も既に文書で警告され、異例の遺憾の意も表明されたばかりだ。

この警告について、BuzzFeed Japan Medicalは8月31日に開かれた閣議後記者会見で見解を質した。田村厚労相からは強気な返答があったが、HPVワクチンの国際的な供給状況を理解しているのだろうか。

「新たなワクチンを確保する」とは?

31日の閣議後記者会見で交わされた、BuzzFeed Japan Medicalの質問と田村厚労相の答弁は以下の通りだ。


(BuzzFeed)製薬会社からこのまま積極的勧奨差し控えが長引いてワクチンを廃棄することがあれば国際的な批判を免れず、ワクチンの確保も難しくなるという文書が大臣にも提出されているはずだ。コロナ流行でワクチン確保の重要性は痛感していると思うが、この要望についてどう受け止めているのか。ワクチン確保が今後できなくなったら、HPVワクチンの接種に悪影響を及ぼすと思う。この責任をどう考えるのか。

(田村厚労相)製薬メーカーの話は、新たなワクチンも出てきておりまして、今言われている4価に関してはそういうご意見もありますが、製薬メーカーのご意見でございますので、我々契約しているわけでもなんでもありませんから、それは製薬メーカーのご意見として承らせていただきたいと思います。

いずれにいたしましても新たなワクチンが増えて、しっかりと確保していかなければならないと思います。


(BuzzFeed Japan Medical)不足する可能性については重くは受け止めていらっしゃらないということか?

(田村厚労相)新たなワクチンは新たなワクチンで確保していきたいと思います。4価のワクチンは4価のワクチンで色々なご意見はあると思います。


警告文書を渡したMSDに対し、「我々契約しているわけでもなんでもありません」と突き放し、「新たなワクチンは新たなワクチンで確保する」と強気に出ている。

では、この「新たなワクチン」とは何なのだろうか?

日本で承認されているHPVワクチンは3種類 新たなワクチンとは?

HPVワクチンは子宮頸がんなどの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぎ、現在日本で承認されているHPVワクチンは以下の3つだ。

  • 2価ワクチン「サーバリックス 」(グラクソ・スミス・クライン)
  • 4価ワクチン「ガーダシル」(MSD)
  • 9価ワクチン「シルガード9」(MSD)

「2価」「4価」などの数字はそのワクチンで何種類のウイルスの感染を防ぐのかを示しており、現在、小学校6年生から高校1年生までの女子が無料でうてる定期接種となっているのは2価、4価の2種類。

9割近い子宮頸がんを防ぐ効果がある9価ワクチンは昨年7月に承認され、今年2月から販売されているが、定期接種のワクチンとはなっていない。

厚労省の複数の関連部署に確認したところ、現在のところ、新たに承認申請されているHPVワクチンはない。それでは、大臣が確保するという「新たなワクチン」とは何なのだろうか?

厚労省予防接種室の担当者は「大臣のあの発言は、役所で想定問答を用意したものではない。大臣の発言」とし、「新しいワクチンとは9価ワクチンのことを指しているのではないか」と推測する。

しかし、もし大臣が「4価がダメなら、9価ワクチンを確保する」という意味で表明していたとしても、製薬会社は同じMSDだ。

しかもMSDは大臣へ渡した警告文書の中で、積極的勧奨の再開が今年10月より遅れた場合は、日本用に確保していたワクチンを2022年4月から廃棄する可能性があると触れた上で、こう述べている。

「万が一、不幸にして大量の4価HPVワクチンを廃棄せざるを得なくなった場合には、ワクチンは重要かつ必須の公共財であるという認識を日本政府がお持ちであることを世界の関係者に納得して頂くことが難しくなります」

「そのような事態となれば、4価HPVワクチンのみならず、同様に将来的に世界的に需要が高まっている9価HPVワクチンの供給を日本向けに確保する上でも悪影響を及ぼしうることを懸念いたします」

つまり、積極的勧奨再開をこれ以上遅らせてワクチンを廃棄する事態になれば、日本のために4価ワクチンだけでなく、9価ワクチンも供給することができなくなると警告しているのだ。

一方、GSK社の2価ワクチン「サーバリックス」も世界の需要の高まりで日本への確保が厳しくなり、現在、出荷調整が続いている。1回目をうった人以外は、新たにサーバリックスをうつことはできない。

日本は承認されている3種類のワクチン全てを確保することが難しくなる瀬戸際まで追い詰められているのだ。そんなタイミングで、田村厚労相はこの発言をしたことになる。

世界中でHPVワクチンの争奪戦が行われている時に......

WHO(世界保健機関)は2018年5月に、「子宮頸がん根絶のための呼びかけ」を公表し、2019年1月には、2030年までに子宮頸がんを根絶するために世界的な戦略を展開することを宣言している。

その戦略の一つが、2030年までに15歳以下の女子の90パーセントのHPVワクチン接種を終えることだ。

また、HPVというウイルスは、男性もかかる中咽頭がんや肛門がん、陰茎がんの原因にもなる。世界では、男子も含めて世界的にHPVワクチンの接種プログラムが強力に推進されている。

このため、世界的なHPVワクチン不足が起きており、コロナ流行以前は、日本でうつ人がいなくて余っているHPVワクチンを海外から接種しにくる医療ツーリズムも盛んに行われていたほどだ。

そんな状況を知ってか知らずかの厚労相の発言は、医療者たちからも強く批判されている。