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HPVワクチン、9価ワクチンの定期接種化を待たないで 「今うてるものを早めにうつのがベスト」

4月から積極的勧奨が本格的に再開するHPVワクチン。 より性能のいい9価ワクチンの定期接種化が了承されたと報道され、今あるワクチンの接種控えが起きるのではないかという懸念が広がっています。対象者はどうしたらいいのでしょうか。

子宮頸がんなどの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐHPVワクチン。

4月から積極的勧奨が本格的に再開されるが、より性能のいい9価ワクチンの定期接種(※)化が了承されたというニュースが流れ、今あるワクチンの接種控えが起きるのではないかという懸念が広がっている。

接種の希望者はどうしたらいいのだろうか?

結論から言うと、定期接種となる時期は定まっておらず、今あるワクチンをできるだけ早めにうつのがベストな選択肢だ。

BuzzFeed Japan Medicalは、厚労省や製薬会社、HPVワクチンの供給に詳しい専門家を取材した。

※病気にかかることを予防したり、人に感染させてしまうことで社会に病気がまん延するのを防いだりするため、国が特に接種を勧め、公費でうてるワクチン。重い副反応があった場合、国が補償する。HPVワクチンは対象者の誰もが受けるべきワクチン( A類疾病)に分類されている。

定期接種化の方向性は確認したが...まだ議論中

まずこのニュースは3月4日に開かれた「第18回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会」での議論を報じたものだ。

「4日の厚労省の専門家部会では、子宮けいがんワクチンについて議論され、『9価ワクチン』を定期接種化する方針が了承されました」と報じている。

これを受けて、研究者らから「9価の定期接種化を待って、今あるHPVワクチンの接種をためらわせてしまう」などの声がSNSなどで上がっていた。

これについて、厚労省予防接種室室長補佐の専門官は、「まだ定期接種化が了承されたわけではない。議論は続いている」と釘を刺す。

「今回の議論では国立感染症研究所に作ってもらったファクトシート(※)を議論し、有効性、安全性もしっかりしているし、費用対効果も良さそうなので、定期接種化は前提としていいだろうということになりました」

※ワクチンの有効性、安全性、定期接種化した場合の費用対効果について専門家が評価した報告書

「ただ、1年前の前回の会議から積極的勧奨の再開や(うち逃した人に再チャンスを与える)キャッチアップ接種(※)が決まるなどの動きがあったので、対象年齢をどうするか、2回接種にするのかなどの新たな論点も出てきました。その論点を確認したところで議論は終わっています」

定期接種化への手続き 小委員会→基本方針部会→予防接種・ワクチン分科会

また、今、小委員会での議論が行われているが、この小委員会での議論が報告書としてまとまると、次はその上の基本方針部会にかけられ、その後さらにその上の予防接種・ワクチン分科会で議論する。

一般市民の意見を聞くパブリックコメントも集められ、その検討の上で厚労省が定期接種化するかを分科会に諮問。それが了承された時点で、定期接種を決定し、政令改正の手続きが行われるという流れだ。

ただし、世界中で既に使われ、安全性や有効性が確認されている9価ワクチンの定期接種化の方向性自体が上部の審議会でひっくり返されることは考えにくい。その具体的な方法や時期などを詰めていく作業となりそうだ。その意味では「定期接種化する方針を了承」という報道は必ずしも間違いではない。

それでも、厚労省の専門官は「定期接種化が決まったわけではなく、最終的にまとまるのがいつになるかもわかりません」と強調する。

さらに専門官によると、9価ワクチン「シルガード9」を販売するMSD株式会社は、前回の会議(2021年4月20日)も今回(MSD発言部分は非公開)も参考人として出席し、「安定的な9価ワクチンの供給は2023年頃」と発言した。

日本も今、順次生産の体制、供給の体制に入るように準備しているところですので、現実的には2023年頃に十分な量が安定供給できるのではないかと考えております。(MSDの発言 第17回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会ワクチン評価に関する小委員会議事録より)


「今回の発言でも『2023年頃』と時期は変わっていません。今すぐ定期接種化されたとしても、ものがなければ接種できないし、供給が2023年になるかどうかも国としてはわかりません。手続きは粛々と進めますが、需要の高まりによって世界中でHPVワクチンの供給は逼迫しているので、2023年に定期接種となっているかどうかもわかりません」と専門官は言う。

また、今回の会議でMSDは「4価ワクチンの需要を見ないと9価の供給は決められない」という趣旨の発言をしたという。

MSDは昨年12月23日、「HPVワクチンの供給体制に関するMSD株式会社のステートメント」を出し、4価ワクチンであるガーダシルについては、2022 年度に400 万本以上確保している旨を公表している。

専門官は「推測ですが、MSDとしては4価を日本用に400万本以上確保したのに、9価の導入が先に進み、4価の接種控えが起きることは懸念するだろう」という。

もし9価ワクチンの定期接種化を待って、4価ワクチンの接種を見送る数が増え、世界中で争奪戦が起きている4価ワクチンを大量に廃棄するようなことがあれば、9価の供給量が抑えられることも心配される。

今年度、どれぐらい接種するかは不明

4月に積極的勧奨が本格的に再開され、接種の数は増えると考えられるが、どれぐらいの需要があるかは走り出してみないとわからない。

定期接種の対象者は小学校6年生から高校1年まで4学年の女子。キャッチアップ接種の対象者は平成9年生まれから平成17年生まれの9学年の女子だ。ちなみに9〜11年生まれは国がHPVワクチンの緊急促進事業を行って公費でうてた時期で8割ぐらいの接種率となる。

厚労省は自治体への通知で、標準的な接種学年である中学1年生(今年度13歳になる女子)と定期接種の最後のチャンスである高校1年生(同16歳)を優先してお知らせを送るよう促している。

「例えば1学年約100万人いて、女子はその半分の50万人。少なく見積もって半分が接種すると考えると25万人だとします。標準的な接種年齢以外の学年がどう動くかはわからないし、キャッチアップ接種はさらによくわかりません」

「製薬会社は余ると困るし、国は足りなくなると困る。ただMSDは4価ワクチンを400万本以上供給すると表明しつつ、『需要を見ながら柔軟に対応する』とは言っています」と専門官は言う。

さらに世界的な需要の高まりで日本への出荷調整(初回接種には用いない)を行っていた2価ワクチンのサーバリックス(グラクソ・スミスクライン、GSK)も、2022年には制限を解除し、25万本の供給が見込まれると厚労省に報告している(GSKによると、1月28日から医療機関からの通常発注を再開)。

こうしたことを総合して考え合わせると、少なくとも現在、定期接種となっている2価、4価ワクチンが足りなくなることはないのではないかと、厚労省は期待する。

専門官は定期接種の対象者に対し「このワクチンは早くうてば早いほど有効性が保てます。さらに2価4価の強みは、子宮頸がんを防ぐエビデンスがしっかりあることです。いつ定期接種となるかわからない9価を待たず、目の前でうてる2価、4価を早めにうって子宮頸がんを予防してほしい」と呼びかける。

製薬会社「今あるワクチンを速やかにうって」 9価供給量も今年の接種状況によって決まる

一方、供給する側の製薬会社はどうか。MSD広報に取材した。

4価ワクチンのガーダシル、9価ワクチンのシルガード9を販売するMSDは、日本に対するHPVワクチンの供給量は、 9価のみならず、4価ワクチンも確定していないことを明かす。

「HPVワクチン需要の世界的な高まりを受けて、各国での供給状況にいち早く対応できるよう、2018年より工場建設をはじめ順次生産体制の強化を進めています。この取り組みは順調に進んでおり、世界規模で見れば徐々に供給量は増しています」

「しかしながら、各国の需要にいち早く対応できるまでには今なお時間を要している状況であり、現時点で日本向けの4価および9価ワクチンの2023年以降の供給予定量は決定しておりません」

そして、日本向けの9価ワクチンの供給量は、2022年の接種状況を見て決めると改めて強調する。つまり、今年度、接種控えが起きれば、今後の日本への9価ワクチンの供給量も減る可能性がある。

「9価ワクチンの2023年における各国の供給量は社内で調整中ですが、日本向けの供給量については、2022年の接種状況などを踏まえ決定されることになります」

「従って、いつ頃になれば、日本において定期接種のために十分な9価ワクチンの供給量を安定的に確保できるかどうかについては、現時点では分かりません。引き続き十分な量の4価および9価ワクチンを安定的に供給できるよう今後も最大限の努力をしていきます」

もし「9価待ち」をして、今あるワクチンの接種控えが起きた場合、日本のために今年度用意した4価ワクチンが余る可能性がある。世界中で必要性が高まっているワクチンを無駄にする国に、9価のみならず、4価ワクチンも十分供給されるのかが心配だ。

この懸念にMSDは直接は答えず、対象者、特に定期接種の期間に打ち逃したキャッチアップ世代は、今あるワクチンを速やかにうつことが医学的に望ましいことを説明する。

「HPVへの感染を予防するという医学的な観点からは、HPVワクチンはできるだけ早く接種を完了することが望ましいと考えられます。特にキャッチアップ接種の対象となる世代は、専門家の先生方や厚生労働省の関係審議会での議論等においても医学的に緊急性が高いことが指摘されています」

「子宮頸がんの予防のためには、現在定期接種となっているHPVワクチンを速やかに接種することが大切であることを、接種対象者にご理解頂くことが重要と考えています」

「このような公衆衛生上の緊急性を鑑み、現在、定期接種になっている4価ワクチンを安定的に十分供給できるよう体制を整えています」

製薬会社としては自社製品が定期接種になることは歓迎のはずだが、日本の状況は特殊だ。8年以上、個別の勧奨が差し控えられて接種率が激減し、やっと積極的勧奨が本格的に再開されるタイミングで、今あるワクチンの差し控えにつながりかねないこの動きをどう受け止めるのだろうか?

「9価HPVワクチンについては、定期接種化の方向で議論が始まったところであり、今後、開始時期などは供給も含め、様々な観点から総合的に判断されることと考えております」

「子宮頸がんの予防のためには、現在定期接種となっているHPVワクチンを速やかに接種することが大切であることを、接種対象者の皆さん、特に医学的に緊急性の高いキャッチアップ接種の対象者の方に十分にご理解頂くことが重要と考えています」

一方、2価ワクチンを供給するGSKは「今後の具体的な供給量についてはお答えできません」とするものの、「4月以降の積極的勧奨再開やキャッチアップ接種開始の中で、HPVワクチンの安定供給に微力ながら取り組んで参ります」とする。

9価ワクチンの定期接種化を見込んで、2価、4価の接種控えが起きる懸念については、「弊社からはお答えできません」と回答しなかった。

専門家「早期にうつ方が効果が高い。9価を待つべきではない」

このような状況をHPVワクチンの意義を研究してきた研究者はどう見ているのだろうか?

がんの疫学者で、世界のHPVワクチンの供給量や接種状況についても詳しい北海道大学環境健康科学研究教育センター特任講師のシャロン・ハンリーさんは以下のコメントをBuzzFeedに寄せた。


HPVワクチンは、お子さんが性的な接触を始め、HPVに感染する前に接種するのが最も効果的です。多くの場合、女の子の初体験のタイミングは、彼女自身の選択というよりも相手から強く迫られることで決まります。

いつ初体験をして、いつHPVに感染するかはご両親や本人さえもわからないので、できるだけ早く接種することを勧めます。

HPVの16型と18型は最も検出されるタイプで、最もがんになりやすい攻撃的なタイプです。2価ワクチンと4価ワクチンでこれらの型への感染を防ぐことができ、スウェーデンやイギリスのデータでは、これらのワクチンを早めに接種した女子の子宮頸がんが、接種しなかった女子に比べてほぼ90%減少していることが示されています。

将来、男子が9価ワクチンを接種すれば、パートナーの女性を他の型から守ることができますので、親御さんは娘のために今使えるワクチンを使うことをお勧めします。9価を待つべきではありません。

日本は承認も定期接種化も遅れ

日本ではこれまで、子宮頸がんになりやすいハイリスクな16型、18型への感染を防ぐ2価ワクチン(サーバリックス)とその二つの型に加え、良性のイボのような尖圭コンジローマの原因となる6型、11型も防ぐ4価ワクチン(ガーダシル)しか定期接種とされてこなかった。

現在、定期接種化の方向性で議論されている9価ワクチンは4価ワクチンがカバーする4つの型に加え、やはりがんになりやすい31、33、45、52、58の5つの型も含めた9つの型への感染を防ぐ。

子宮頸がんの90%以上を防ぐとして先進国では主流となっていたが、接種率が激減していた日本は承認が遅れ、2020年7月21日に承認され、21年2月24日から販売が始まった

9価ワクチンについて、日本産科婦人科学会は国に繰り返し定期接種化を求め、自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」も早期の定期接種化を求めてきた

UPDATE

GSKの回答を追記しました

4月から積極的勧奨が本格的に再開するHPVワクチン。 より性能のいい9価ワクチンの定期接種化が了承されたと報道され、今あるワクチンの接種控えが起きるのではないかという懸念が広がっています。対象者はどうしたらいいのでしょうか。