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12〜13歳で接種した学年は87%子宮頸がんのリスクを減少 イギリスからもHPVワクチンのがん予防効果を報告

子宮頸がんの原因となるウイルスへの感染を防ぐHPVワクチン。 昨年のスウェーデンからの報告に続き、イギリスからも12〜13歳で接種した学年で87%も浸潤子宮頸がんの発症リスクを減らす効果が示されました。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

公費によるHPVワクチン接種プログラムを2008年9月から導入しているイギリスで、12〜13歳でワクチン(2価ワクチン)を接種した学年は、子宮頸がんを87%減少することができたという調査結果が報告された。

権威ある医学誌「ランセット」に論文として掲載された。

HPVに感染してから前がん病変を経て子宮頸がんになるには10年前後かかり、このワクチンの本来の目的である子宮頸がんを防ぐ効果を観察するには時間がかかる。

2020年に出されたスウェーデンの報告に続き、HPVワクチンが浸潤子宮頸がんを防ぐ効果が示された。

スウェーデンの報告は4種類のウイルスへの感染を防ぐ4価ワクチンの効果だったが、今回の研究は、2価ワクチンによる子宮頸がん予防効果を示す初めての直接的な証拠となるとしている。

研究グループは、「HPVワクチンの予防接種プログラム導入後、若い女性の子宮頸がんとCIN3(※)の発生率が激減したことが観察された。特に12~13歳の時に接種した人で顕著だ。この予防接種プログラムは、1995年9月1日以降に生まれた女性の子宮頸がんをほぼ撲滅することに成功した」と解釈を示している。

※浸潤子宮頸がんになる手前の、前がん病変である高度異形成や上皮内がん。

12〜13歳で接種すると子宮頸がんのリスクが87%減

研究結果は、「The effects of the national HPV vaccination programme in England, UK, on cervical cancer and grade 3 cervical intraepithelial neoplasia incidence: a register-based observational study(英国・イングランドにおける国のHPVワクチン接種プログラムが子宮頸がんとCIN3(高度異形成、上皮内がん)の発生率に及ぼす影響:登録ベースの観察研究)」と題する論文にまとめられた。

イングランドでは、2008年9月1日に12〜13歳の女子を対象にHPVワクチン(2価ワクチン)の公費接種プログラムが導入された。また、08〜10年にかけてその上の学年で接種していない14〜18歳の女性に対する公費接種(キャッチアップ接種)のプログラムも始まった。

この研究では、全国のがん登録データを用い、HPVワクチンを接種した年齢による3つの学年の集団と、予防接種プログラムが導入される前の接種していない学年で、がんやCIN3の発症率を比較した。

  1. HPVワクチンを全く接種していない学年(1990年8月生まれより以前)

  2. HPVワクチンを16-18歳で接種した学年(接種率38.9-48.1%)

  3. HPVワクチンを14-16歳で接種した学年(接種率70.8-75.7%)

  4. HPVワクチンを12-13歳で接種した学年(接種率80.9-88.0%)

その結果、12〜13歳でワクチンを定期接種した学年では、子宮頸がんの発症リスクは87%減少した。14 〜16歳でキャッチアップ接種した学年では62%の減少、16〜18歳にキャッチアップ接種した学年では34%の減少だった。

また、前がん病変であるCIN3は、12〜13歳で接種した学年は97%、14〜16歳でキャッチアップ接種した学年では75%、16〜18歳でキャッチアップ接種した学年では39%、リスクが減少した。

このリスク低減効果により、子宮頸がんにかかる人を448人減らし、CIN3も1万7235人減らすことができたと推定されている。

「理想的には若い時に接種を」

ヒトパピローマウイルスは性的な接触で粘膜に感染し、長期間、感染し続けることで細胞に異常をもたらす。感染した人の一部が前がん病変である異形成(軽度・CIN1→中等度・CIN2→高度・CIN3)となり、そのうちのごく一部が浸潤がんまで進行する。

性的な接触を始めてウイルスに感染する前の若い年齢に接種することがワクチンの効果を高めるとされている。今回の研究でも定期接種対象の若い年齢でうつほど接種率も上がり、リスクの低減効果が高くなることが示された。

研究グループは、「HPVワクチンの対象となる少女や女性はいくつになってもワクチンを受けられるように勧められるべきだが、この大成功を収めたワクチン接種プログラムが今後も若い世代に恩恵をもたらすことができるように、定期接種の年齢になってすぐに勧められるのが理想的だ」と締めくくっている。

2020年12月にスウェーデンから出された報告でも、17歳未満で接種した場合は浸潤子宮頸がんを88%も減らす効果があり、接種年齢が上がると効果は薄れることが示されている。

接種率が激減している日本

日本では毎年約1万人が新たに子宮頸がんにかかり、約3000人が亡くなっている。

日本でも2013年4月からHPVワクチンは公費でうてる定期接種となっているが、接種後に体調不良を訴える声がセンセーショナルに報道され、厚生労働省は同年6月、自治体に積極的に勧めないよう求める通知を出した。

対象者に自治体からお知らせが届かなくなり、接種率は最近まで1%未満に激減。ワクチンを接種していない人にも同様の症状が見られることが国内の研究でも明らかになり、積極的勧奨を再開する声が高まった。厚労省の副反応検討部会は10月1日、再開の方向性を明らかにしたばかりだ。

ハンリー氏「日本でも接種率を戻す努力が必要」

今回のイギリスからの報告について、がんの疫学者で北海道大学環境健康科学研究教育センター特任講師のシャロン・ハンリー氏は「スウェーデンでの研究に続き、イギリスでもHPVワクチンが有効であることが確認されました!これはとてもエキサイティングなニュースです」と高く評価する。

「さらに重要なことは、使用するワクチンの種類ではなく(この研究では2価ワクチンの効果を評価しています)、高い接種率がワクチン接種プログラムの成功に最も重要な要素であると示していることです」

「学校でワクチンが提供されず、16〜17歳で後から接種したキャッチアップグループの接種率は約45%で、子宮頸がんの発症は34%減少したのに対し、接種率が約85%だった12〜13歳のグループでは87%減少しました」

「スウェーデンやイギリスと同様、日本でもこのような状況になっていた可能性があります。日本では、イギリスからわずか2年後の2010年に公費助成が始まり、2013年4月からはHPVワクチンの無料接種プログラムが開始され、イギリスと同様の高い接種率となりました」

「しかし、似ているのはここまでです。厚生労働省はワクチンの安全性に関する科学的根拠のない主張を受けて、2013年6月にHPVワクチンの積極的な勧奨を中止し、その結果、接種率は1%未満まで落ち込んでしまいました」

「厚労省は来年度からHPVワクチンの積極的勧奨を再開するようで、これは正しい方向への一歩となりますが、積極的勧奨を再開するだけでは十分ではありません。日本政府(厚労省)は、ワクチンの安全性と有効性について積極的に国民に啓発し、接種率を以前のレベル(80%以上)に戻さなければなりません」

「これができなければ、日本における子宮頸がんの罹患率と死亡率を低下させるための真の機会が失われることになるでしょう」

みんパピ!木下氏「接種率の回復とキャッチアップ接種を」

また、HPVワクチンの啓発活動を行っている「みんパピ!」の副代表で医師の木下喬弘さんも、BuzzFeed Japan Medicalに以下のコメントを寄せた。


本研究において最も注目すべき点は「HPVワクチンの集団免疫効果(※)」がかなり確からしいことがわかったことです。

※その集団の中に一定以上の割合で免疫を持つ人が増えると、免疫を持っていない人も感染から守られる効果

イングランドでは、子宮頸がん全体の中で、2価HPVワクチンが対象としているHPVの16型と18型が原因となるがんの占める割合は80%程度と考えられています。

このことから、仮にHPVワクチンが対象とする型に100%の予防効果を持っていたとしても、12〜13歳で接種した学年の接種率が80.9〜88.0%であれば、浸潤子宮頸がんのリスクは(接種率に0.8をかけて)約68〜71%しか低下しないはずです。しかし、実際には87%という予想よりもかなり高い数値が得られました。この点について、考えられる理由は主に3つあります。

  1. HPVワクチンには集団免疫効果がある

  2. 若年で罹患する子宮頸がんの中では、16型と18型の占める割合が80%よりも大きい

  3. 2価HPVワクチンは他の型(31, 33, 45など)にも若干の予防効果を有する(交差防御と言います)


上記3つはおそらくいずれも正しいのですが、これまでに行われた他の研究の結果から、「集団の中でHPVワクチンの接種率が上がると非接種者の異形成も減少する」ことがわかっているため、浸潤子宮頸がん予防についても集団免疫効果があることが確からしいと言ってよいでしょう。

つまり、同年代の女性の多くがHPVワクチンを接種することによって、その世代の中でHPVをうつし合う頻度が減り、非接種者も含めて子宮頸がんの撲滅が目指せるということです。これはとても大きなニュースです。

逆に、14歳以上でHPVワクチンを接種した学年に関しては、浸潤子宮頸がんの予防効果は限定的でした。これは、集団免疫効果がそれほど大きくないことに加え、既に初交を終えている人が一定数存在することが関与していると考えられます。

この研究結果を踏まえて、日本の現状をどう考えるべきでしょうか。

まず大前提として、定期接種の対象年齢の女子の接種率を速やかに回復することが急務です。これはもう本当に待ったなしの状況です。たとえ1%でも接種率が上がれば、集団免疫効果により、それ以上の子宮頸がん予防効果が見込めます。

次に、キャッチアップ接種世代(定期接種の期間にうてなかった人)への補償も急務です。現在高校1年生である2005年生まれ以前の世代は、ほとんどの女子がHPVワクチンを接種していません。この年代は初交が始まる人がどんどん増えていくため、それまでに接種の機会を与えてあげる必要があります。

本研究の結果から、キャッチアップ接種にも一定の効果があることがわかりましたが、最大の効果は初交が始まる前であることに疑いの余地はありません。理想的には、12〜13歳の時点で接種を済ませておくと安心といえるぐらいです。

最後に、いよいよ他国で浸潤子宮頸がんの予防効果が確認されているにも関わらず、日本だけ取り残されている現状について、改めて多くの人が知る機会を与えられるべきだと思います。

10代前半でHPVワクチンを接種するわけですから、20代半ばから増加する浸潤子宮頸がんの減少効果を確認できるようになるには、少なくとも10年程度は必要です。この効果に気づいてから動き出しても、実際にがんを減らせるのは10年後です。

日本はこの8年間で、大きな遅れを取ってしまうことになりました。そして、残念ながら効果の高い時期に接種を逃してしまった女性にとって、この遅れを取り戻す方法は限定的です(検診の重要性がとても高い)。

これ以上若い世代が防げるはずのがんで苦しまなくて済むよう、まずは積極的接種勧奨の再開、そしてキャッチアップ接種の公的補助を今すぐにでも始める必要があるのではないでしょうか。繰り返しますが、日本の状況は「待ったなし」であることを多くの人に知ってほしいと思います。

UPDATE

各学年の接種率を追加しました