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そもそも「都民ファースト」とは何なのか。党幹部が語るその意味

小池百合子都知事が代表に就任し、自民党都連との対立姿勢を強めている。

東京都の権力を自民党から奪うのか。

小池百合子知事が率い、初めての都議選に挑む「都民ファーストの会」。小池人気に引っ張られる候補者たちを、自民の下村博文・都連会長は「烏合の衆」とこき下ろす。その実力は。そして、何を目指すのか。

BuzzFeed Newsは都民ファーストの音喜多駿・都議団幹事長に取材した。音喜多氏は、できたての党をこう表現した。

「小池新党というのが一番わかりやすいですね」

都民ファースト設立の経緯

そもそも都民ファーストは、小池知事が塾長を務める「希望の塾」の主催団体として、2016年9月に設立された。

都議選を見据えて本格的な活動が始まったのは2017年1月。解党した「みんなの党」の流れを組む音喜多氏らが参加し、現在、定数127の都議会で5議席をもつ。

現有議席は都議会自民党の56よりもはるかに少ないのに、台風の目になっているのはなぜか。それは、ひとえに小池人気の賜物だ。

民進から大量の鞍替え候補、衆院議員の妻までも

これまでの公認候補は48人。無所属の現職都議や「希望の塾」の塾生のほか、小池人気にあやかろうと、自民党や民進党からの移籍者も相次いだ。

民進からは16人が離党。6月6日には民進党役員室長の柿沢未途衆院議員の妻・柿沢幸絵都議も民進を離れて都民ファーストに支援を求めた。

いずれも都民ファーストから公認か推薦を受ける。選挙の前から民進はガタガタになり、都民ファーストの勢いが増している。

また、自民から移籍し、公認候補となる都議や区市議らも11人いる

小池人気に集う候補者たち。支持勢力である「友党」は公明と生活者ネットだ。それぞれの候補に推薦を出す。

この状況を自民側は「烏合の衆」と批判する。もともと、所属がバラバラだった人たちが何をなそうと言うのか。

都議会自民党を徹底批判 「既得権をリセットする」

音喜多氏は言う。

「私たちは、小池知事のやっている情報公開や、無駄遣いを改めるという『東京大改革』を議会から推し進めていく勢力です」

「いままでの都議会自民党がやってきた政治は、予算を一部の方々に差配するもの。税金の使い道が都民のほうを向いていなかった」

「私たちはそこを改め、いわゆる既得権をリセットして、本当に都民が必要としていることにお金をあてる政治をします」

今回の選挙に名前をつけるとすれば?

「小池選挙でいいと思います。小池夏の陣ですよ」

2015年、都知事選で自民候補を破った選挙の再来というわけだ。

「長きにわたり議会を牛耳ってきて、村社会のような因習をつくったのは、都議会自民党です。その体制を切り崩し、友党を含めた知事支持派で多数を取るのが私たちの目標。小池or Notの選挙になると思います」

注目集めた「都議会のドン」問題

都民ファーストは「対自民」の構図を強調する。焦点はただ一つ、自民党都連の政治の是非にあるという二元論だ。

小池知事は自民党のことを「忖度政治、これこそ自民党都連そのものだと断言しておきます」と安倍政権を批判するキーワードを絡めて対決姿勢を強める。

では、具体的に都議会自民党の何が問題で、何を変えようとしているのか。

民間企業を経て、都議1期目の音喜多氏はこう語る。

「不透明な中で忖度政治が行われていたんですよ。都議会のドンと言われる一部の人たちの顔色を見て、議員や行政が動いていた」

「都議会自民党のドン」と呼ばれたのは、千代田区選出の内田茂都議(7期)だ。

2016年の都知事選では、自民党の公認候補以外を応援した所属議員は「本人と親族が除名処分の対象になる」などという文書を出し、注目を浴びた。

「基本的に、都議会自民党が村社会だったんです。ほとんどが理事会という秘密会ばかりで、都民のわからないところで意思決定がされていた。オープンな議論は見たことがない」

だから、都民ファーストは「都議会の情報公開」を優先課題としているという。

実際、早稲田大学マニフェスト研究所が東京都議会の現状を分析した資料(6月8日)を見ると、他議会と比べて閉鎖性が高いことが顕著に表れている。

「理事会は極力減らしていきます。また、議会のネット中継を始めるだけではなく、記者クラブ以外のメディアが入れるようにし、議論の透明化を図りたい」

都議会の情報公開の不十分さはBuzzFeed Japanも身を以て味わった。

2016年6月に記者が「ネットメディアは報道ではない」との理由で議会取材を断られている。閉鎖性への批判はかねてからあがっていた。

自民は「決められない知事」と批判

深まる「都民ファースト対自民党」の構図。自民党側は「決められない知事」(菅義偉官房長官)などと小池知事を批判する。

そんな知事をどう評価するのか。音喜多幹事長は言う。

「小池都政で一番成果があがってるのは、情報公開です。市場にせよ、五輪の予算の問題にせよ、そもそも知事がいろいろな情報を出してきたからこそ、大きな議論になっているんです」

「自民党はそこで『決められない』とか『知事が混乱を招いた』と言いますが、問題はまだ『ing系』で、議論の途上です。そもそも、自分たちで問題を作っておいて、それを処理している人に対応が遅いと批判するのはおかしい」

「問題を作った」とはどういう意味か。

小池知事は、豊洲市場から環境基準以上の汚染物質が検出されたために移転を延期した。この判断は、豊洲市場を「無害化した安全な状態」にすると、2010年に都議会が付帯決議で決めたことに由来する。

この決議に賛成をしたのは、自民党と公明党、民主党(当時)などだ。

小池知事はこの「無害化」をめぐり、6月1日の都議会の所信表明演説で「いまだ約束を守れていないことを都民の皆様におわびする」と謝罪している。

また、予算案を決めるプロセスを透明化したり、524の事業見直しにより財源720億円を捻出したりしたことも、小池知事の成果だと強調した。

「小池知事は、今までとは違う大胆な予算の組み替えを実現した。政党復活予算という因習を廃止し、議員の既得権に切り込んだ。編成プロセスもすべてオープンにし、業界団体のヒアリングなども実施しました」

「生み出した財源を、子育て支援や防災など将来世代への投資にちゃんと割り当てるようにした。この予算案は全会一致で通っています。実績として、しっかり強調していきたい」

豊洲移転に関する小池知事の責任は

小池都政の改革の成果を強調し、豊洲移転で自民が果たした役割を「問題を作った」と批判する音喜多幹事長。では、小池知事にはこの問題について、全く問題がなかったのだろうか。

小池知事は、豊洲から環境基準以上の汚染物質が検出されたために移転の決定を延期した。しかし、その後、築地からも汚染物質は検出されている。

もともと、築地は建物が老朽化し、汚染物質の存在も本格的な調査の前から指摘されていた。築地がもう持たないので、移転しようという議論がなされていた。

この点について、小池知事は築地は長年運営されてきた実績があるから「安全・安心が確保されている」と主張してきた。

だが、豊洲市場にしても汚染物質が検出されたのは使用されない地下水からで、「施設のある地上は安全」と土壌汚染対策の専門家会議が見解を示している。

「延期は不当」として、知事に損害賠償を求め、東京地裁に提訴した仲卸業者もいれば、逆に移転に強く移転に反対する業者もいる。

混乱は長引き、維持費ばかりがかかる状態だ。自民党都連からは「時間が浪費され、無駄な税金がかかったことは、判断できなかったことのミスだ」判断ミス。決めるにしても遅すぎる」(下村博文会長)との批判もあがっている。

移転問題について、各党は立場を明確にしている。自民・公明は移転に賛成、民進は条件付きで賛成、共産党は反対だ。一方、都民ファーストの会は明らかにしていない。

基本政策の13個目で「都民の食の安全と安心を守ります」と市場問題に触れたが、移転についての立場は、あくまでこうだ。

「持続可能な市場の確立を総合的に判断し、知事の立場を尊重します」

音喜多幹事長は言う。

「決めたほうが絶対、楽に戦えるんですよ。早く決めないのかという批判が多いわけだから」

「それでもあえて決めないのは、選挙と切り離して意思決定をしていかないと、どう言われようともそれが都民のためにならないと考えているから。これは、知事と私たちでしっかり共通している」

ただ、音喜多幹事長は都議会の委員会で、豊洲移転を見据えた発言もしている。最終的には豊洲という見通しが強いのではないか。そう問うと、こうも語った。

「ロードマップには、最後に豊洲の移転が整うと書いてある。築地の再整備などのアイデアもあり、いま見えてない何かが出てくるかもしれないのですが、工程表はそのまま受け止めるべきでしょう」

「ゴールは豊洲と書いてある。その過程に我々はいる。越えないといけないハードルがいくつかあって、そのために議論をしている。個人的にそう思っています」

音喜多幹事長は「選挙と切り離して」と言うが、小池知事が都議選前に移転を決断するとの情報もある。複数のメディアが報じている。

日経新聞(6月13日)は、小池知事が「移転を前提に調整するよう都庁幹部に指示した」と伝えた。

外部有識者による議論がまとまったのを受け、小池知事は週内にも庁内検討組織「市場のあり方戦略本部」を開いて、大詰めの調整を進める。

先述の専門家会議のとりまとめが発表されたこと、さらに市場問題プロジェクトチームの報告書が出されることを受けた判断だという。

「決められない知事」のイメージを払拭し、都民ファーストの立ち位置を定めるためにも、小池知事が都議選を前に立場を明らかにする可能性はある。

各社の都内有権者を対象とした世論調査で豊洲移転派が優勢なことも、その判断に影響を与えるだろう。

争点化しようとした「受動喫煙防止条例」

こうして豊洲問題に注目が集める一方で、都民ファーストが都議選で争点化しようとしたのが「受動喫煙防止条例」だった。

自民党都連はこれまで、屋内禁煙に反対し続けてきた。2014年の舛添要一知事時代には、要望書を出して条例制定の動きを止めたこともある。

国政レベルでは、2017年5月、厚生労働省の打ち出した飲食店内を原則禁煙とする受動喫煙防止法案に対し、一定規模以下の店舗を規制しないよう自民党が反対し、対立が続いていた。

そんな中で、小池知事が打ち出したのが「受動喫煙防止条例」だ。

争点化を図ったものの、5月12日の発表翌日、自民党都連も同様の条例制定を公約に盛り込むと表明した。音喜多幹事長はその動きを「争点隠し」と批判しつつ、言う。

「自民党は受動喫煙防止条例もやりたくないでしょうけれど、選挙だから掲げざるを得ないのでしょう」

「自民党都連の公約には『原則』という文言が入っている。例外規定を設けるだろうし、面積が狭い店舗は除くというような話になるのでは」

実際、都民ファーストがその後発表した受動喫煙防止条例は、「子どもを受動喫煙から守る条例」という趣旨のものだ。

内容も自民党都連が掲げる「原則屋内禁煙」よりも「一歩踏み込んだ条例」(音喜多幹事長)という。

通学路や児童遊園、小児科の周りでは原則禁煙とするほか、子どもがいる自宅や自家用車内での喫煙にも努力義務規定を設けるか検討するという。

家の中や車の中など、個人の領域に政治が踏み込み過ぎではないか、との批判もある。その点について、どう考えているのか。音喜多幹事長の反論はこうだ。

「先進国からしたらそれほどでもない。ただ、それをやる分には外の喫煙所を整備することも考えないといけない。(禁煙へ)医師会からも強い要望はありましたし、WHOのエビデンスでもそうした内容が望ましいとなっていますから」

「受動喫煙防止条例の制定はこれまで、喫煙者やタバコ産業のしがらみがあってできなかった。都民ファーストならここまで踏み込めますよ、という象徴的な条例だと思います」

小池知事はこのほかにも、「議会棟での禁煙実施」にも言及。議長が喫煙者である自民党を「部屋はモクモクですよ」と名指しし、牽制している。

課題は知名度

そもそも論として、政党名にある「都民」とは誰のことを指すのだろう。都民の中には自民支持者も、共産支持者もいる。音喜多幹事長はこう説明する。

既得権益層とその他の一般市民を分ける。後者の「ふつうの一般市民を向いて政治をしていくんです」と言う。

既得権益層も「市民」ではないか。そう聞くと、このように説明してくれた。

「一般市民はベン図でいうと広い。ベン図の狭いところに政治をしていたのが、いままでの都議会です。私たちは都民を幅ひろく捉えています」

「もちろん全体が一番大事ですが、特に将来世代。そこにとって『ファースト』なんだと言うことです。その次に団体や組合、企業が『セカンド』としてある」

都民ファーストの課題は何か。音喜多幹事長が指摘するのが「知名度」だ。

「街に立っていてもまだ浸透していないという実感と危機感があります」

辻立ちをしているときに「どこ党なの」と聞かれて党名を答えても、伝わらないことが多いという。

「小池新党と言えば、ああ、なるほどとなるんです。いずれにしても、候補者選びが遅く、全区的に活動が追いついている状況ではない。だから都民ファーストの会の名前も浸透していない」

では、都民ファーストの候補者たちは、党として初めての選挙を各々どう戦えば良いのだろうか。音喜多議員は、笑いながらこう言った。

「選挙に奇策はありませんから。王道を行くしかない。これから1ヶ月は巻き返せる余地というか、伸び代があると考えています」

(インタビューは5月26日)


BuzzFeed Newsでは都議選(6月23日告示、7月2日投開票)に向け、けっきょく「都民ファーストの会」って何なの?「小池新党」がわかる9つの事実】という記事も掲載しています。

また、自民党の下村都連会長への単独インタビューも、今後詳報します。