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東京都議会の取材に行ったら「ネットメディアは報道ではない」と断られた話

えっと、今、21世紀ですよね?

6月1日に開幕した東京都議会。公私混同や政治資金など数々の疑惑が報じられている舛添要一・東京都知事が所信表明演説をした。それはさておき、都議会には、取材や傍聴をめぐる石器時代のようなルールがあることがわかった。びっくりした。

「ネットメディアは報道として扱いません」

いったん話を戻そう。

この日の午前11時ごろ、BuzzFeedは舛添知事の本会議場での所信表明演説を取材するため、東京都議会にやってきた。

朝9時すぎに電話で問い合わせたところ、「報道受付は始まっています」とのことだった。そこで都議会広報課へ向かい、報道担当の職員にあいさつをした。

この職員の言葉に、腰が抜けた。

「インターネットメディアは報道として扱いません。一般傍聴に並んでください」

えっと、今、21世紀ですよね?

理由を聞いても「責任者は報道対応で忙しい」「私では取材対応ができない」。

この日は大勢のマスコミが詰めかけていた。対応で忙しいのはわかる。聞くと、一般傍聴でも写真撮影や録画・録音ができるという。そこで、総務課に行って許可を申請することにした。

申請書のトラップ

総務課に行くと、「写真撮影許可申請書」と「録音・録画許可申請書」が置いてある。

写真撮影の申請書には、こう書いてあった。

「なお、撮影した写真・写真データ等については、直接・間接を問わず、これを撮影した者以外の者に観賞させ、或いは、提供しません」

つまり、「撮ってもいいけど、自分以外の人に見せたらダメ」ということだ。個人の思い出にはなる。だが文字通りに受け止めれば、写真を家族・友人にも見せられないことになる。もちろん記事には使えない。

録音・録画も同じルールだった。


総務課での説明は……

「これは、実質的な取材拒否ではないですか」

総務課の職員に尋ねた。すると、次のような答えが返ってきた。

「取材なら、広報課に行ってください。一般傍聴の場合、このルールを守ってもらっています。悪用の防止もあります」

悪用?

「議員の手元にあるメモが望遠で撮影され、出回ったことがあるのです」

このことを定めた明文のルールはない。だが、議員からの要望でこうした運用をしているのだという。

納得できたわけではないが、開会時間が迫ってきた。このままだと一般傍聴すらできなくなるおそれがあったため、ひとまず列に並んだ。

そのころロビーでは

11時30分ごろ。2Fロビー。傍聴券を求めて、およそ150人が列をなしていた。ざっと見渡すと年輩の方が多い。その行列をマスコミのカメラクルーが撮影している。

職員が「12時から傍聴券を配布します」と、アナウンスを始めた。およそ30分後だ。

すると、行列に並んでいた男性が、突然大声で怒鳴り始めた。

「いつまで待たせるんだ!」「さっさと傍聴券を配れ!」「役人仕事しやがって!」

男性の怒りは収まらず、その矛先は報道陣に向かう。「撮影するな!」「なんだコラ!」。大声をあげながらマスコミの集団にずんずんと分け入っていき、見えなくなる。その後、警備員が小走りに到着し、怒鳴り声は次第に遠ざかった。

え、どっちなの?

傍聴券を手に入れ、総務課で録音・録画許可を申請。開会まで時間があったので、もう一度だけ広報課に立ち寄ってみる。

先ほどとは別の広報課職員が対応している。BuzzFeedだと名乗ると、いま担当が全員出払っているが、報道として受け付けると言われる。書類に記入すると、報道の目印として黄色いリボンを渡される。撮影もOKという。キツネにつままれたような感覚になる。

ところが、本会議場に行くと、報道担当の職員が再び出てきて、「ネットメディアは報道としては扱わない」「一般傍聴席に座ってください」。ややこしい。

「取材許可は議会が決めること」

話をすると、今度は上司の報道係長が対応してくれた。

話の要点はこうだ。

  • 広報課には、写真撮影や取材を許可する権限がない。
  • 取材を許可するかしないかは、議会が決めること。
  • どの席を記者席にするか、どこの位置から撮影をさせるかなども議会が決めている。
  • 議会はインターネットメディアを、報道として認識していない。

それは、明文で決まっているルールなのだろうか?

カギを握るのは「議長」

東京都議会傍聴規則というルールがあると教えられた。

中身をみると、第2条に「傍聴席は、これを一般席、報道関係者席及び特別席に分ける」と書いてあった。ただ、これだと「誰が報道関係者なのか」はわからない。

もうひとつ、第13条で、「傍聴人は、傍聴席において写真、映画等を撮影し、ラジオ・テレビ等の録音若しくは録画又は中継をしようとするときは、あらかじめ議長の承認を受けなければならない」とあった。

明文として書かれているのはこの程度。ざっくりいうと、報道機関として扱うかどうか、撮影を許可するかどうかは、議長次第のようだ。

記者席との違いは?

時間切れになった。本会議が始まる。報道用の席には、知人の記者たちが並んでいた。彼らの動きを見ていると、一般傍聴席との違いがあることがわかる。

報道でなく一般傍聴者として入ると…

  1. テーブルがない
  2. パソコンが使えない
  3. 写真や動画を記事に使うことができない

席に着くと、まもなく知事が登場した。カメラのシャッター音がいくつも重なる。記事に載せられないが、せっかく許可を申請したので、議場の雰囲気を撮影しておいた。

知事が所信表明演説を始めた。

知事は、公私混同疑惑に言及し、「海外出張でファーストクラスやスイートルームを使わない」「公用車の運用は厳格にする」などと表明した。

政治資金疑惑については、調査の結果を「本議会での審議に間に合うように公表し、ご説明申し上げたい」と述べた。

基本的にうつむいて、淡々と文章を読み上げていく知事。ときおり顔を上げると、一斉にシャッターが切られる。

疑惑についての謝罪・説明は、わずか2〜3分で終わった。

オリンピックなど、他の話題に移ると、知事は次第に早口になっていった。所信表明演説の締めくくり、知事は次のように述べ、頭を下げた。

「都民のみなさま、都議会のみなさまの信頼を損なうことになり、誠に慚愧の念に堪えません。真摯に反省し、問題に対応してまいります」

「多大なるご迷惑をおかけしましたことを心からお詫び申し上げます。このたびは誠に申し訳ございませんでした」

野党側から少しヤジが飛ぶ。与党側は静まりかえっている。議長が「静粛にしてください」と注意すると、場内がスッと収まった。

知事の発言が終わる。演説は全部で20分程度だった。

ネットニュースが「報道」とみなされるためには?

終了後、再び広報課で話を聞いた。

いまのところ議会が「報道」として扱っているメディアは、新聞協会、雑誌協会、テレビ・ニュース映画協会、日本専門新聞協会、地方新聞協会に所属する各社のほか、都政・都議会を継続的に報道している社だけだという。

ネットのニュースサイトでも、議長の許可があれば「報道」として扱われる可能性はある。

だが、そのためには、議会運営委員会でOKをもらう必要があり、そのためには都議会議員に議題を出してもらう必要がある、ということだった。

BuzzFeedはアメリカ大統領に単独インタビューしたり、BuzzFeed JapanとしてもG7サミット取材の記者団に加わったりしているけれど、東京都議会取材への道は遠い。