佐川氏、証言拒否は約50回。それでもはっきり答えたことは…?

    真相は何も、わからなかった。

    学校法人「森友学園」の国有地売却をめぐる、財務省による14件の決裁文書の改ざん問題。

    3月27日、参議院予算員会で証人喚問に臨んだ佐川宣寿・前国税庁長官は、改ざんについての詳しい経緯に関して、刑事訴追を理由に証言拒否する姿勢を貫いた。

    BuzzFeed Newsがカウントしたところ、拒否は少なくとも午前中の参議院で25回、午後の衆議院で24回の計49回だった。

    そもそも今回の証人喚問の焦点は「いつ、誰が、なぜ、どのようにして」財務省理財局が決裁文書を改ざんしたのか、というところにあった。

    麻生太郎財務大臣は、佐川氏の答弁に合わせて「一部の職員」が行ったとして、責任は佐川氏にあるとの見解を示し、太田充理財局長も、「佐川局長の関与の度合いは大きかった」と答弁している。

    だからこそ、当時の理財局トップである佐川氏が証人喚問されたのだ。

    しかし佐川氏はこの日、自身の関与や、知りうる経緯、虚偽の答弁をしたかどうかなどについては一切答えなかった。「刑事訴追」を理由にした答弁の拒否だ。

    これは、「何人も自己に不利益な供述を強要されない」という憲法38条の規定にある、自己負罪拒否特権という権利に基づいている。

    証言拒否で始まった証人喚問

    午前中、参院での証人喚問は、まず金子原二郎委員長の「書き換えを知っていたか。仮に知っていたならば、誰がどのような動機で行ったのか」という総括尋問で始まった。しかし佐川氏は、これを拒否した。

    「私は現在告発を受けているため、本件決済文書の書き換え問題につきましても、捜査を受けている身でございます」

    「したがいまして、いまの委員長のご質問であるいつどのように認識したかという点については、捜査の対象であり、刑事訴追を受けるおそれがあるため、答弁を差し控えさせていただきたい」

    続く自民党の丸川珠代議員には、同様の理由で6回の証言拒否。経緯や、自身への関与を問われた質問に対するものだ。その後の共産党の小池晃議員にも、やはり6回の証言拒否している。

    佐川氏は2017年2月以降から答弁に立っている。一方で、いまの太田充理財局長は、昭恵夫人や政治家らの名前が書かれた「特例承認の決裁文書」の改ざんが2017年4月4日にあったと明言した。

    この期間のギャップについて、小池議員は「2〜3月の答弁は何を根拠にしていたか」という質問をしたが、佐川氏は補佐人の助言を挟みながら、やはり証言を拒否した。

    見たか、見ていないかも…

    午後に開かれた衆議院での証人喚問でも、「証言拒否」は続いた。

    河村建夫委員長の総括尋問で2回、自民党の石田真敏議員で6回、公明党の竹内譲議員で12回……。午後だけで、計24回にのぼった。

    改ざんについてはそうした態度を貫いた佐川氏は、一方で貸付、売買のプロセスについては「適正に行われている」と強調した。こうも述べている。

    「国有財産をちゃんと売っていくなかで、大変難しい案件だった。工夫をしなければならないところに、便宜を計ったのではという指摘があったのではないか」

    これに対し、立憲民主党・逢坂誠二議員は「事案が適切に行われていた認識があるのに、改ざんや丁寧さに欠く答弁をした理由は何だったのか。それが問題の核心」と指摘した。

    佐川氏は答弁について、「例年にない状況」による部署の混乱や多忙、自らの落ち度が理由だったと言及。ただ、改ざんについてはやはり証言を拒否した。

    決裁文書そのものを見たのか見ていないのか、昭恵夫人の名前の記載を見たのか、どうかについてすらもだ。

    上からの指示は否定したが…

    佐川氏は証人喚問の間、「当時の担当理財局長として大変重い責任がある」「責任はひとえに私にございます」などと、お詫びを繰り返した。

    経緯などの証言は拒否する一方で、安倍晋三首相や官邸、昭恵夫人、麻生大臣らの改ざんへの指示、関与、さらには影響について、はっきりと否定している。

    このコントラストは印象的だ。実際、「ダブルスタンダード」(希望の党・今井正人議員)「断言答弁」(無所属・江田憲司議員)という批判も相次いだ。

    ただ、佐川氏は「個別案件の話を官房や官邸に報告することはない」「指示があったとすれば局長だった私に必ず報告が上がってくると思う」と一般論を持ち出して反論している。

    産経新聞によると、6回の証言拒否を受けた立憲民主党の福山哲郎議員は、佐川氏の証言拒否についてこう苦言を呈したという。

    「経緯については証言を拒否しながら政治の関与だけは明確に否定する。都合に合わせて答弁拒否を使ったということは姑息さを感じた」

    部下に責任を押し付けている?

    また、当時の答弁に関する質問では、答弁作成の実務は部下が担っていたことを強調する場面が多かった。

    「私自身は、各原課がつくった答弁書を読んでいる」「個別の案件について知識もないのに、指示はできない」などという発言には野党から批判も上がった。

    自由党の森ゆうこ議員は午前の証人喚問で、こうも問い詰めている。

    「あなたの答弁は、上の方の指示はなかったと断定しながら、いつなぜは答えない。下の人たちに責任を押し付けている自覚はありますか」

    これに対し、佐川氏はこう淡々と述べるだけだった。

    「刑事訴追を受けるおそれがあるため、答弁を差し控えさせていただきたい」

    結局のところ、改ざんの真相は何ひとつとして、明らかにならなかった。日本維新の会・丸山穂高議員の「国民は納得していると思うか、解明できていると思うか」という質問に、佐川氏自らもこう答えているほどだ。

    「どういう経緯で、誰が具体的に指示していたをお答えできておりませんので、その点については明らかになっていない。各委員にそういうお叱りを受けているとおり、ご満足できていないんだろうと思います」

    そして佐川氏の証人喚問は、「国民のみなさま」への謝罪で終わった。