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「妊娠中の働く女性をコロナから守って」3万人の声を女性医師が届けた。政府に休業補償などを要請

1人の女性医師が、医療従事者を含む妊娠中の働く女性を新型コロナウイルスから守る措置を徹底し、休業補償などを整備するよう政府に求めました。

「医療従事者を含む、すべての妊娠中の労働者を守ってください」

1人の妊娠中の女性医師が厚生労働省で5月15日、自見はなこ・厚生労働大臣政務官に、オンライン上で集まった署名と要望書を手渡した。

署名は、妊娠中でありながらも新型コロナウイルスの治療などに携わる医療者を守る措置を取るよう、政府に求めたもので、15日までに集まった3万8千筆が提出された。

要望書では、5月7日に設けられた働く妊娠中の女性を守る措置の周知徹底や休業補償を求めた。

署名や要望書を受け取った自見厚生労働大臣政務官は報道陣に対し、「新型コロナウイルスは多くの人に不安を与えています。厚労省もそれをしっかりと受け止めて対応していきたいと思います」と語った。

妊娠中でもコロナ治療にあたる医療者が多くいる現状

東京都内の病院で救急医療に携わる高橋美由紀さん(仮名)は4月、オンライン署名サイトで、妊娠中の医療従事者への方針策定を国に求める呼びかけを始めた。

救急科に勤務する高橋さんは、妊娠4カ月でありながら、救急車で運ばれてきた患者の蘇生行為などの治療にあたっていた。

個人防護具(PPE)が不足する中、全ての診療でPPEを装着することは難しく、搬送されてきた患者がコロナ陽性である可能性もあるため、ウイルスにさらされるリスクはかなり高い状況だった。

高橋さんは、BuzzFeed Newsの取材に対し「妊婦への新型コロナウイルスの影響が不確定だからこそ守る、という姿勢が日本には欠けていると思います」と語っている。

このような状況で働いているのは高橋さんだけではない。現在でも、多くの妊娠中の医師や看護師が、コロナ陽性患者を収容する病棟で勤務をしたり、PCR検査の検体採取といった感染リスクが高い業務を続けている。

そのような状況に対し、政府に方針策定を国に求めるため、署名を始めたのだ。

実際、署名のコメント欄には、コロナ治療や検査にあたる医療従事者から「休ませてもらえず、お腹の子を守るためには退職しかないが、子育てにはお金も必要。産後は現場に戻る意欲もある。退職以外の選択肢を」などというが寄せられた。

加藤厚生労働大臣と自見厚生労働大臣政務官宛ての要望書も、高橋さんの呼びかけに賛同する医師や看護師ら医療従事者有志38人の連名で提出された。

声をあげ、設けられた措置。しかし課題は山積み

高橋さんが呼びかけを始め、署名やSNSを通じて賛同の声が集まる中、厚生労働省は5月7日、働く妊婦の感染への不安が健康に与える影響を重くみて、緊急措置を設けた。

新型コロナに感染するおそれに関する心理的なストレスについて、医師や助産師の指導を受けて雇用主に申請した場合、作業内容の制限や出勤の制限などを受けることを可能とするものだ。

元々、男女雇用機会均等法では、妊娠中の女性労働者は母子保健法に基づく健診や保健指導で医師か助産師から健康上の指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主はその指導を遵守することが義務付けられている。

今回の改正では、それを「新型コロナウイルス感染への心理的ストレス」についても、広げるものだ。

医師や助産師は、その指導内容を「母性健康管理指導事項連絡カード」に記入し、それを妊産婦が事業主に申し出た場合、事業主は妊婦への作業制限、出勤制限など必要な措置を講じて対応しなければならない。

新たに措置が設けられた一方、現在も新型コロナの治療や検査の現場では妊娠中の医療者が働いている。周知徹底や休業補償などを求めるために、今回、厚労省に要望書を提出した。

高橋さんは報道陣に対し、現行の措置の課題をこう説明する。

「新しい措置では、心理的ストレスを理由にしていますが、妊婦が感染した場合、CT撮影や薬が使えなかったり、陽性の妊婦を受け入れる病院も限れられているなど高いリスクがあります。また、補償がないと休みたくても休めない人がたくさんいます」

「今回の新型コロナで、これまでの労働現場での、妊娠している女性の過重労働などの問題が浮き彫りになりました。署名では、医療従事者への措置を求めていましたが、これは全ての職場にある問題ですので、要望書では『全ての働く妊婦』に対しての休業補償などを求めています」

要望書は以下の6点を問題点として挙げ、改善を求めている。

1・新型コロナウイルス流行により妊婦が被る健康上のリスクが認識されていない。

2・「感染する恐れによる心理的なストレス」を理由にした新しい母子健康管理指導事項連絡カードの使用が、産科医に周知徹底されていない。

3・感染リスクの高い職場での就業を避けるためには、まずはじめに妊婦側から就業制限や休業を求めるアクションを起こさなければならない。

4・企業や病院における雇用主側の安全配慮義務が周知徹底されていない。

5・母子健康管理指導事項連絡カード提出後の措置については、労使間での話し合いに任されている。

6・休業した場合の経済的な補償がない。

高橋さんと共に署名と要望書を提出し、この問題に関して働きかけをしてきた矢田わか子参議院議員(国民民主党)は、報道陣に対し、働く妊婦を支える政府による措置やその徹底の必要性を語った。

「妊娠中の働く女性にも『働かないと食べていけない』という人がたくさんいます。安心して出産してもらえるように、中長期で(制度などを)整えていく必要があります。しかし今回の新型コロナウイルスに対する措置は急を要するものです。大きなお腹を抱えて『休めない』という状況があるのです」

「妊娠中の働く女性が休めるような仕組みを作っても、使えるようにしていかないといけません。周知を徹底していく必要があります」

妊娠中の医療者の6割が出勤継続

オンライン署名と並行して実施された、医療従事者を含む妊娠中の働く女性を対象としたアンケート調査では、多くの人々が感染予防のために休みたくても休めず、休めても補償などがない状況が明らかになっている。

妊婦や新生児に関するリサーチセンター「ニンプスラボ」が2020年5月11〜13日に全国の働く妊婦(産前産後・休職中を含む)約1200人にインターネット調査を実施したところ、現時点で仕事を持つ39%、医療従事者では62%が出勤を続けていると回答している。

新型コロナウイルスへの感染への不安などを理由に「出勤しないこと」を望む妊婦のうち、約60%は勤務先に対して何らかの相談をしていたが、相談により満足のいく結果になった人は44%にとどまった。

勤務先に相談できなかった人のうち、71%が「言い出しにくい」を理由に選んでいる。

また、コロナが主な原因で休職している妊婦262人のうち、46%が現在「無給」となっており、政府による休業補償の必要性も明らかになった。

なお、勤務先に対し、休職や在宅勤務を相談した人のうち「母性健康管理指導事項連絡カード」を利用したのは13%にとどまり、利用しなかった理由としては9%が「医師が書いてくれなかった」、7%が「母健カードのために病院に行きたくない・行けない」としていた。

「新たな助成金制度で補償を」日本労働弁護団

妊娠中の労働者への措置をめぐっては、日本労働弁護団も5月15日、緊急声明を発表した。

声明で日本労働弁護団は、5月7日から設けられた新しい措置に対しては「評価できる」とした上で「現状の対応はまだ不十分」とし、このように指摘した。

「多くの妊娠中の労働者が、事後の不利益取り扱い、休業により人員配置などの面で職場へ負担をかけること、社会的要請の強い職業上の責任感などから、現在も上記の申し出がしにくい状況が続いている」

「厚生労働省は、労働者から事業主への申し出がなくとも、事業主側から積極的に、妊娠した労働者に対して上記措置を講じるよう、要請を出すべき」

また、「休業したくても収入が途絶えるという経済面での不安から休業できない人もいる」「事業主において休業中の賃金等の補償をしたくとも経営状況からこれが難しい場合もある」と指摘し、「政府は新たに助成金制度を創設し、迅速かつ適切な補償をおこなうべき」とした。


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