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母が、ゲイの息子の「お見合い」を応援する理由

LGBTの割合は人口の約1割と言われ、左利きや血液型のAB型の割合と大差ない。同性のパートナーをさがす息子に対する、母の思いとは。

「違和感を感じはじめたのは幼稚園くらいからでした。好きになるのは男の人で、周りとちょっと違うなと思っていたんです」

少し緊張した声で話し始めたのは、税理士法人で働く洋一さん(仮、31)。現在、同性のパートナーを求めて、ゲイ男性向けのお見合いサービスに登録している。話し方は穏やかで、とても真面目そうだ。

同性パートナーに特化したお見合いサービスを提供する株式会社リザライは、渋谷区に事務所を構える。今年5月、登録のために事務所を訪れた際には、母親の靖子さん(仮、51)も同席した。

BuzzFeed Japanは二人に話を聞いた。


母と一緒に乗り越えた、セクシュアリティの呪い

洋一さんが靖子さんにカミングアウトをしたのは、大学2年生の時。親戚などに彼女や結婚について聞かれるのが辛いと、胸の内を打ち明けたのだった。

しかし当時はまだ、洋一さんも自分の中の違和感をうまく説明できなかった。

「あの時は自分のセクシュアリティをちゃんと理解できていなかったんです」

「自分がゲイなのかトランスジェンダーなのかよくわからなくて、テレビで・はるな愛さんなんかを見て、自分も彼女のように女装をしなきゃいけないという考えに囚われていました」

男性が好きな自分は女性にならなければいけないのかと悩む洋一さんを心配し、靖子さんは彼を病院に連れて行った。

「お医者さんによると、息子は『トランスジェンダー』ではなくて『ゲイ』だということ。そして、『お母さんはそれを受け入れてくださいね』というお話がありました」

「最初は面食らいましたが、この子の父親にも説明しなきゃいけないので、色々と知るために調べ始めました」

洋一さんは、当時の靖子さんの努力に今も感謝しているという。

「母もはじめは少し混乱していて、すぐには理解してくれませんでした。確かめるように『こういう女の子は好きじゃないの』と聞かれても、そういうんじゃないって説明するしかないんですよね。でもそれから母は、自分でiPadで一生懸命調べて勉強してくれて、少しずつ変わってきました」

「母にカミングアウトすると、今度は母も親戚からのプレッシャーを受けるわけです。うちの母は結構強いので、恋人や結婚については聞かないようにはっきり言ってくれるので、今では聞かれることもなくなりました。母には感謝しています」

今では洋一さんの兄や妹を含めた家族全員が、彼のセクシュアリティについて理解している。

学校や職場では今でもはっきりとカミングアウトすることはないが、洋一さんの気持ちは楽になった。

出会いを求めて詐欺被害に。直面したむずかしさ

洋一さんがパートナーを探し始めてから、まず使ったのはゲイ向けの無料のデートアプリと、メッセージに課金するタイプの出会いサービスだった。デートアプリでは、実際に3人の人に会った。

「特に最初に会った人はとても良い人で、仲良くなりました。僕は彼のことが好きで真剣に交際したいと考えていたんですが、彼は友達でいたかったようです」

彼については靖子さんもよく知っていた。オープンな関係性を楽しんでいた様子が印象に残っている。

「二人は一緒に旅行などにも行っていましが、彼は同時に他の人達ともデートをしていると聞いていました」

洋一さんと靖子さんは、一緒に相手のプロフィールを見ることもあった。メッセージに課金する出会い系サービスでドタキャンが相次いだ時は、プロフィールを見てサクラだと思った靖子さんが、退会を薦めた。

「アプリを使っている息子を少し心配しながら見ていました。積極的に応援していたわけではないんですが、(ゲイの男性は)そういう方法しかないのかなと思っていたんです」

靖子さんが言うように「そういう方法しかない」と、消極的な動機でオンラインの出会いを求める人は少なくない。

洋一さんが利用していたのは、自分の近くにいるユーザーのプロフィールを見て、連絡をとれるアプリだ。人気などに応じてレベルが上がっていくゲーム要素もあり、利用者は40万人を超える(公式発表)。

近年、同様のゲイ向けのアプリがいくつも登場しており、ゲイ男性の出会いの機会を大きく広げている。

裏を返せば、こうしたオンラインのサービス以外に出会いの可能性はほぼ無いと、洋一さんは感じていた。靖子さんも、その難しさをよく理解している。

「会社などオフラインの場でも、こういう人が理想というのはあるようなんですが、ストレートの方が多く、自然に交際が始まることはありません。現実的にどう出会えばいいのか、悩んでいるようでした」

アプリを使っていろいろな人と連絡をとった洋一さんだが、出会いは難航した。

「話し始めても途中で返事が来なくなってしまったりとか、待ち合わせの場所でずっと待っていたのに結局すっぽかされたりしたこともありました。その辺は、冷めている人もいるんだなという印象でした」

洋一さんには焦りもあった。「30歳限界説」に直面していたからだ。

「29歳の時は、彼氏が欲しくて焦っていました。アプリでは年齢のフィルターがあるので、30代になると表示されにくくなると思ったんです」

そんな折、アプリで出会った人に詐欺被害に遭った。旅行に行こうと誘われ実際に会ってみると、写真とは容姿の違う男性がいた。

すでに予約・支払いを済ませたという高額のホテル代を請求され、洋一さんは支払ってしまう。旅行会社に確認すると、該当する予約はなかった。

相手の男性に返金を求めることも考えたが、カミングアウトをしていない洋一さんの身の安全を考える家族は反対し、結局泣き寝入りに終わった。

この件をきっかけに、洋一さんはアプリを消した。

希望を託した「お見合い」という選択肢

「それまでアプリを使っていたのは、誰かとお付き合いをしたいという気持ちがあったからです。実際、Twitterなんかを見てると、真剣に付き合っているゲイカップルも結構いるんですよね」

「でも、いざアプリを開くとただ『ヤりたい』と書いている人がいて、真剣に付き合いたい人は少ないようにも思えます。ではあのカップルは、どうやって出会っているんだろうと疑問でした」

結局洋一さんは、二丁目でもアプリでもない手段を選んだ。先述のゲイ向けのお見合いサービスだ。同サービスでは、コンシェルジュが条件に合う登録者同士をマッチして紹介する。

洋一さんはリザライについて、アプリで出会った人から聞いて知ったという。

「もう31歳になって焦りは一旦なくなりましたし、まだなんとも言えませんが、自分で動かないとやっぱり出会いは無いのかなと思いました」と、真剣な出会いに対する覚悟と期待を抱いている。

自身もお見合い結婚を経験した靖子さんは「コンシェルジュの方からサービスの話を聞くと、相手が同性という事以外は、男女のお見合いと同じという印象でした」と話す。

「かつての私も子どもたちも、結婚に対する考え方は様々です。でも良い相手に出会ってくれれば、祝福したいと考えています」

取材時にすでに会っていた一人目の見合い相手についても、洋一さんはすぐに母に報告していた。

「帰ってきて、お見合いはどうだったのって聞くと、こんな感じだったよっていう風に」

そう話す靖子さんは嬉しそうだ。洋一さんの母への信頼は大きい。

「母にはこれまでにも、この人はどうだろうって、プロフィールややり取りについて意見をもらうことがよくありました。背中を押してくれることが多いですね」

心強い母のサポートと共に、洋一さんの婚活は始まったばかりだ。

息子の「彼氏」も受け入れられる家庭に

「あの子は良い方向に変わりましたが、今は少し焦っているようにも見えます」靖子さんはインタビュー中、洋一さんが席を外している間にそう話した。

それでも、これまで洋一さんの苦悩を見てきたからこそ、今は希望を持てると言う。

「大学までは誰にも相談できなくて色々悩んだらしくて、死にたいと言っていたこともあったんです。勉強が嫌なのかってきいたら、そうじゃないと言う。誰かが好きだということを知られたらいじめられるみたいな雰囲気があって、それでもう『僕は死んでもいいかな』って言っていました。それに比べたら、今は先の事を考えられるようになったようです」 

LGBT当事者の割合については様々な調査があるが、一般的に人口の約1割程度といわれている。これは、血液型のAB型や左利きの割合と大きく変わらない。

自分のこどもがセクシュアルマイノリティである可能性は、決して小さくないのだ。

靖子さんは、こどもが幸せに生きるためにも、保護者が果たす役割は大きいと考えている。

「すぐに否定するんじゃなくて、まずは話をよく聞いて、受け入れてあげてほしいと思います。好きな相手が同性だろうが異性だろうが、同じなので」

はっきりとした口調で靖子さんは続ける「カミングアウトができなくてこどもが自殺しちゃうとか、そういう状況じゃ困るんです」

「これからお付き合いする相手がもし、辛いことがあっても家族に話せない環境だったらかわいそうだと思います。こちらの家族だけでも、なんでも話せる雰囲気を作れると良いかなと考えているんです」

取材協力:株式会社リザライ

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