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「子宮頸がんは働き方の問題でもある」 32歳、ある女性の選択

なぜ、彼女は手術を受けることを決めたのか。

「ハードワーク」「結婚」、そして「手術」

「私の世代って、働き盛りだし、子どもを産みたいタイミングでもあるじゃないですか。だから、子宮頸(けい)がんって、働き方の問題でもあるんだなって」

現在32歳。長時間労働と不規則なスケジュールが常態化した業界で働く、いわゆる「ハードワーカー」の女性であるAさんは、BuzzFeed Japan Medicalの取材に、そう話します。

Aさんは2017年の冬に、子宮頸部(子宮の下部で膣とつながっている部分)の手術を受けました。

手術をしたのは、「中等度異形成」と呼ばれる異常な状態が、子宮の頸部に起きていたから。簡単に言うと、Aさんは「子宮頸がんになる手前」だったのです。

Nozomi Shiya / BuzzFeed

Aさんは異常のあるところを取り除くための手術を受けました。しかし、上の図でCIN2(中等度異形成)までであれば、異常が自然になくなることもあり、経過観察をすることも多いのです。

また、Aさんが受けた手術は「円錐切除手術」と呼ばれ、下の図で説明されているように、子宮頸部を切り取ります。そのため、この手術では流産や早産のリスクが高まることも知られています。Aさんは秋に結婚をしたばかりでした。

Nozomi Shiya / BuzzFeed

なぜ、この時期に手術をしたのでしょうか。Aさんは「今ならいろいろなことがコントローラブルだから」と説明します。この年代の女性が直面しやすい子宮頸がんと働き方について、詳しく話を聞きました。

痛くも辛くもない病気より、目の前のこと

子宮頸がんは20代後半から増え、40代前半でピークを迎える病気です。一生のうちに子宮頸がんと診断されるのは、74人に1人。年間約10,000人が子宮頸がんにかかり、約2,700人が命を落とします。

Aさんが自分の体の異常に気づいたのは2011年、26歳の頃。「念のため受けておこう」と思って受けた人間ドックの中に子宮頸部検診があり、そこで中等度異形成が見つかったのがきっかけです。

それまでに勤務していた会社を通じて受けた検診では、異常が出たことはなかったそうです。

初めて異常が見つかったときは「いずれ子宮頸がんになるかもしれないとは言われたけれど、あまりよくわかっていなかった」とAさん。それ以来、Aさんは定期的に検診を受けることで、長い経過観察の期間に入りました。

しかし、この検診は、決して楽なものではありませんでした。異常を発見したときの検診は「細胞診」。膣の中に入れた綿棒で子宮の入り口付近をこすって細胞を取り、異常がないか調べる方法です。

一方、異常が見つかってからの検診は「コルポスコープ診」と「組織診」。組織診では子宮頸部の一部を削り取るため、痛みも強かったのです。

「そもそも、私はあの診察台(*)に上がるのが苦手で……。できればやりたくないと思っていました」

*婦人科の内診台では、仰向けに寝転んだ状態で、医療者に対して大きく足を開く。

朝から晩まで仕事をしながら、余暇にもやりたいことがたくさんある毎日。Aさんにとって、定期的な検診はやがて「面倒くさいもの」になっていきました。

「体の中に異常があると言われても、痛いわけでも辛いわけでもないし、差し迫った問題だと思うことはできませんでした」

「それよりも、目の前の仕事のチャンスを逃したくない、プライベートな時間を確保したい、という欲求の方が、私にとっては優先順位が高かったんです」

「このままずっと定期検診に通える?」

「半年に1回」と言われていた経過観察の検診は、1年に1回になることもありました。それでも、完全に行かなくなることがなかったのは、検診の日程が近づくと、病院から通知の手紙が来るのが理由だったといいます。

「担当のB先生には“あなたのように忙しく働くタイプは、定期検診を逃して、本当に差し迫った状態になってから手術をすることが多い。そうすると、最悪の場合は子宮全摘とか、取り返しがつかないから”って言われて、行かなきゃなって」

間が空きつつも、続いていた検診。2017年に入って、これまで中等度異形成だったものが、「高度異形成(CIN3)」と診断されました。CIN3まで進むと、少なくとも15%程度は子宮頚がんになることがわかっています。

Aさんは念のため、複数の医療機関に意見を求めましたが、診断は「引き続き中等度異形成」と「高度異形成」に分かれました。どうすればいいのか悩んだAさんの背中を押したのは、B医師の一言でした。

「B先生に“このままずっと定期検診に通える?”と言われて。たしかに、いつ子宮頸がんになるかもしれない不安を抱えたまま、好きではない検診に通い続けるのは、正直しんどいなと思いました」

「たしかに仕事も順調だし、結婚したばかりだけど、例えば仕事でもっと偉くなったらますます休めないし、子どもができたらそこから10カ月は手術ができなくなる。今なら自分の意思で決められる。だから手術をすることにしました」

Seiichiro Kuchiki / BuzzFeed

手術を受けると決めても「考えなければいけないことはたくさんあった」とAさん。一番の問題は、流産や早産のリスクでした。

「手術をすることになった大学病院では、“流産のリスクが9〜20%上がる”と説明されたので、もちろん心配で。子どもは欲しいですから。どうしたらいいか、夫とも何度も話し合いました」

「でも、“手術をしても、しなくても、流産することはあるし、しないこともある”とC先生(大学病院での担当医師)に言われて。たしかにそうだな、だったらもう、気にしてもしょうがない。気にしないってことに、決めたんです」

もう一つ、想定外だったのが、手術自体のこと。AさんはC医師らから「全部で3〜4日の入院で済む」「退院したら普通に仕事をしていい」と言われていたそうです。そのため、「手術をナメていた」とAさん。

「働きながら入院して、手術を受けて、っていうのはすごい大変」「家族にも負担をかけてしまった」と振り返ります。

「“いつもどおりしていいですよ”って言われて、翌週、自分としては控えめに、ただまあ、他の人からすればきっと、そこそこ働いていたんです」

「そうしたら、その週末に大量に出血してしまって。救急に行って、(子宮頸部を)縫ってもらいました。やっぱり、手術を受けること自体が大変なことで、いつもどおりとはいかないですね」

話が「こじれてしまった」ワクチン

手術を受けるにあたり、子宮頸がんについて「いろいろ調べた」というAさん。その中でも、「HPVワクチン」を巡る議論が気になったといいます。

Aさんが受けた子宮頸がん検診は、中等度異形成のような前がん病変(がんになる前の状態)の段階で異常を発見・診断し、がんになる前に治療をするためのもの。

このHPVへの感染を防ぐことができれば、前がん病変を防ぐことができる。つまり、子宮頸がんの発生を防ぐことができる。そこで、HPVワクチンが開発されたのです。

HPVにはたくさんの種類がありますが、ワクチンによって特にリスクの高い2つの型のHPVの感染を予防することで、子宮頸がんの6~7割を減少させる効果があると考えられています。

国は2013年4月から、小学校6年生〜高校1年生の女子については、公費でワクチンを打つ「定期接種」にしました。しかし、接種後に体調不良を訴える声が続き、同年6月に積極的勧奨を中断し、現在もそのまま、という経緯があります。

この間、世界保健機関(WHO)は添付文書に記載のある副反応以外について「HPVワクチンと様々な症状との因果関係を示す根拠は今のところない」とした上で、「HPVワクチンは極めて安全である」と結論づけました。

国内でも安全性を示すさまざまな研究結果が出ている一方で、「接種後の体調不良」に対する正確な理解や適切な支援がなされていないことを指摘する当事者専門家もいます。

厚労省は2018年1月18日、このワクチンに関するリーフレットを改訂し、新しく3種類を公式サイトに掲載しました。

このリーフレットでは、冒頭で“ワクチンの「意義・効果」と
「接種後に起こりえる症状」について確認し、検討してください”“ワクチンを受けた後は、体調に変化がないか充分に注意してください”などと強調されています。

本文では、ワクチンを打つと、10万人あたり595〜859人が子宮頸がんになることを回避でき、10万人あたり144〜209人が子宮頸がんにより死亡することを回避できる、と期待されていることを説明。

また、HPVワクチンは他のワクチン同様、接種後に一定の割合で副反応が発生することも、あわせて説明されています。

厚生労働省 / Via mhlw.go.jp

ワクチンの添付文書に記載された副反応。

一方で、この2017年8月末までに報告された副反応疑い(*)の数についても、同じリーフレットで説明。

*ワクチンを打ったことにより起きたことが疑われる、HPV感染予防以外のすべての反応のこと。因果関係があるかどうかに関わらず報告される。

その数は、10 万人あたり92.1人で、重い症状と判断された報告数は10万人あたり52.5人です。ただし、この中にはワクチンを打った後、短期間で回復した失神なども含まれています。

ワクチンについての、プラスとマイナス、両方の情報を記載したリーフレット。しかし、このような数字だけを示して「検討してください」と言われて、子どもや保護者は選べるのでしょうか。

Nozomi Shiya / BuzzFeed

こじれてしまった話を、どう解きほぐすのか。

Aさん自身は、HPVワクチンが定期接種化される前の世代です。だからこそ、「今、自分が受けるか、あるいは、自分の子どもに受けさせるかどうかを判断する立場になくて、ホッとしている」とも胸中を明かします。

ワクチンを打たずに、検診で前がん病変が発見される可能性や、その前がん病変ががんになる可能性。ワクチンを打って、体調不良になる可能性。ワクチンを打っても、子宮頸がんを防げない可能性……。

これらのリスクを判断できるかと問われれば、「少なくとも今は、できない」とAさんは答えます。

「今は、話がこじれてしまった。みんな、他の病気の予防接種は受けるわけですよね。それって、話がこじれてないからじゃないですか。話がこじれてしまってから“受けなさい”って言われても、ものすごく難しいと思う」

「体感として、みんな受けているんだな、受けさせているんだな、ということがわかれば、受ける/受けさせると判断できそうですが、今はニュースでしかこのワクチンの話を聞かないので、怖さがあるというか……」

Aさんは自分の病気について調べているときにこれらの議論を見かけ「複雑な気分になった」と話します。

「検診も手術も、実際に体験してみると、やっぱり大変ですから。今回体験したもろもろがワクチンで防げることならば、それに越したことはないんじゃないかって、今は思います」

「でも、いくら安全だと言われたって、自分の身に起きたことがすべてだから。万が一、ワクチンを打って悪いことが起きたらどうする、って言われたら、わからないです」

ハードワーカーの「反省」

手術を終えた今、Aさんはどんな感想を持っているのでしょうか。そう質問すると、Aさんは「やっと、1フェーズ(段階)終わったな、という感じ」と答えます。

「この5〜6年間、ずっと頭の中にあったことが、やっと終わったな、って。妊娠とか、この先またいろいろ考えるんだろうけど、とりあえず一旦は」

「夫が、ものすごく病気のことを勉強してくれたんです。ヘタしたら私より。ありがたいなって思いました。私、一人で生きてるわけじゃないんだなって」

そして、あらためて考えるのは、自分の働き方。「病気にならないと考えなかったのも、どうかと思うんですけど」と、Aさんは口を開く。

「ハードワーカーだし、忙しいのは仕方がないと思っていたけれど、それだと検診に通うのも、手術を受けるのも、すごく大変で。でも、それがなかったら、がんになっていたかもしれない」

「なんていうか、もう、放っといても健康でいられるわけじゃないんだなって、わかったんです。病気をすることも、普通にある。そういう年代になったんだなって」

手術以来、Aさんはなるべく無理のない働き方を心がけているそうです。「仕事も、家庭も、自分が健康じゃないとちゃんと回らないですから」と笑いながら、話します。

「あらためて、健康、大事だなって思いますよ。ハードワークから、持続可能な働き方に、変えていきたいですね」

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