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子宮頸がんワクチン、国内でも予防効果を示す研究報告が続々

日本産科婦人科学会が国に「積極的勧奨の再開」を求める声明を発表した。

子宮頸がんを予防するとして、世界中で導入されている子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)。日本では国による積極的勧奨の中断から4年以上が経過した。

そもそも、子宮頸がんワクチンは予防接種法に基づき、市町村が接種対象者やその保護者に対して、接種を受けるよう「勧奨」しなければならない。

しかし現在、後述する理由で接種は事実上ストップしている。この間、国内の複数の研究で、がんの予防効果が明らかになってきた。

一方、積極的勧奨の中断により、2000年度生まれ以降は、子宮頸がんにかかるリスクがワクチン導入前のレベルまで戻ったとも推計されている。

日本では20〜30代の女性で子宮頸がんが増加。年間1万人以上が新たに診断を受け、過去10年間で死亡率は9.6%増加している。

日本産科婦人科学会は26日の定例記者会見で、国に対して積極的勧奨を再開するように強く求める声明を発表した。その一部は以下の通りだ。

「将来、先進国の中で我が国に於いてのみ多くの女性が子宮頸がんで子宮を失ったり、命を落としたりするという不利益が、これ以上拡大しないよう、国が一刻も早くHPVワクチン接種の積極的勧奨を再開することを強く求めます」

性交で感染するウイルスが原因

子宮頸がんの原因は、主に性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)。性交経験のある8割が感染する、ありふれたウイルスだ。

この一部が持続的に感染することで「前がん病変」になり、さらにその一部が「がん」へと進行する。HPVワクチンは、約100種類あるHPVの中でも、特にがんに進みやすい16・18型への感染を防ぐ。

国は2013年4月から、12〜16歳の女子について、公費でワクチンを接種する「定期接種」とした。しかし、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、同年6月に積極的勧奨を中断した。

現在も、対象年齢の女子は公費の負担を得てワクチン接種を受けられる。しかし、積極的勧奨が中断されたことで、対象者に対して個別にハガキを送るなどして接種を促す機会がなくなり、責任問題になることを恐れてHPVワクチンを置かないクリニックも多い。

被害を訴える人たちが昨年7月、国やワクチンメーカーを相手に集団訴訟を起こした影響もあり、2002年度生まれ以降の女子の接種率は1%未満にまで減っている。

有効性を示す研究 国内でも続々と報告

この間、HPVワクチンの有効性を明らかにする研究が、国内からも続々と報告され始めている。

その一つが、2015年度から厚生労働省科学研究として始まった「HPVワクチンの有効性と安全性の評価のための大規模疫学研究」(研究代表者=榎本隆之・新潟大産婦人科教授)だ。

新潟県の女性2196人が登録している追跡調査(NIGATA STUDY)の中間解析で、ハイリスクとされるHPV16・18型に20〜22歳で感染している率は、ワクチン接種者で0.2%、未接種者で1.8%と、接種者の方が有意に(統計学的に意味のあるレベルで)低かった。

接種者にも感染者がいることについて、榎本さんは「初性交前に打った人を見ると、ほぼ感染ゼロということが伺える」としている。

大阪府で行われている追跡調査(OCEAN STUDY)の中間解析でも、ワクチンを接種していない人では20歳時点でのハイリスク型HPV感染率が4.9%だったのに対し、接種者では0%と有意に低い結果が出ている。

宮城県で2014年度に子宮頸がん検診を受けた20〜24歳の女性3272人のデータを解析したところ、細胞診で何らかの異常が指摘された率は、HPVワクチンを接種していない人で5.03%だったのに対し、接種した人で2.41%と有意に低かった。

秋田県でも、2014年1月〜16年10月に検診を受けた2425人を解析した結果、やはり細胞診で異常が確認された率は未接種者で2.04%だったのに対し、接種者で0.242%。ワクチン接種が、異常が見つかる率を88.1%下げた。

さらに、国内の21施設で前がん病変か子宮頸がんと診断された女性のハイリスクHPV感染率を調べる大規模研究(MINT Study)も実施されている。

このMINT Studyの中間解析でも、ワクチンを接種する機会がほぼなかった1986〜93年生まれの感染率が54.6%だったのに比べ、定期接種で受ける機会があった1994〜95年生まれの感染率は23.8%と有意に低かった。

リスクはどうなのか? WHOも改めて安全性を強調

一方、接種後の体調不良については、厚生労働省研究班(祖父江班)が全国疫学調査で、HPVワクチンを接種していない人でも、接種した人が訴えている症状と似た多様な症状が見られることを報告した。

さらに、接種後の体調不良について「認知行動療法」を利用した治療の効果を研究している研究もある。

認知行動療法とは、自身の置かれた状況やものごとの捉え方を正しく見つめ直すことで、気持ちを楽にするあり方を身につけていく精神療法(心理療法)の一種。

厚生労働省研究班(牛田班)は、症状の経過を追跡できた156人の患者のうち、約74%に当たる115人で痛みが消えるか軽快するかし、約21%は変わらず、約6%が悪化したと報告している。

この研究では、ワクチン接種と無関係と考えられる同様の症状でも、同じ割合で効果の有無が見られている。

このような日本での動きを、世界はどう見ているのか。WHO(世界保健機関)は、今年7月に公表した最新のワクチン安全性評価で、日本も含めた世界各国の研究を検証した。

WHOは「HPVワクチンと様々な症状との因果関係を示す根拠は今のところない」とした上で、「HPVワクチンは極めて安全である」と結論づけている。

早期再開を強く求める声明を公表

こうした研究の蓄積を受け、日本産科婦人科学会は26日、2015年8月と17年1月に続き、今回3回目となる積極的勧奨を求める声明を公表した。

同学会常務理事で、ワクチンの安全性と有効性を評価する研究代表者でもある新潟大学産婦人科教授の榎本隆之さんは、会見で次のように述べた。

「HPVワクチンについて、一般の方にも、科学的根拠に基づいた正しい理解が広がるような取り組みをしていきたい」