又吉イエスさん死去 「唯一神」が13年前に語ったこと

    「唯一神」であることに目覚めたのはいつごろですか? 又吉さんは、質問にこう答えた。


    「唯一神」を自称し、衆参院選などいくつもの選挙に立候補し続けた又吉イエスさんが7月20日、左腎がんで逝去した

    「〇〇は腹を切って死ぬべきである」「唯一神又吉イエスは彼を地獄の火の中に投げ込むものである」――。

    過激な選挙ポスターで注目を集めた又吉さんだったが、温かで「人間味」あふれる一面もあった。

    高田馬場に「降臨」

    筆者(神庭)はまだ学生だった2005年2月に、ミニコミ誌の取材で又吉さんの勉強会にお邪魔したことがある。

    灰色スーツと青のネクタイ、ロマンスグレーの髪にきりりとした太い眉。

    東京・高田馬場の世界経済共同体本部に「降臨」した又吉さんは、選挙ポスターそのままのいでたちだった。

    その日の講演テーマは「共産主義否定」。パソコンを習い始めたばかりの又吉さんが、悪戦苦闘しながらつくったというレジュメが配られる。会場には、若者ばかり16人ほどが集まっていた。

    「共産主義には理由・根拠がない!何度でもいいますが、これが間違いなんですよ!」

    「マルクス・エンゲルスは強がって詭弁を弄しているだけである!」

    勉強会というよりはさながら演説会の趣きで、壇上の又吉さんが身振り手振りを交えて大声を張り上げる。

    参加者一人びとりをしっかりと見据え、同じ論旨を何度も繰り返しながら、噛み砕いて諭すように話す姿が印象的だった。

    「唯一神」宣言に奥さんも絶句

    質疑応答では、出席者からの矢継ぎ早の質問攻勢にも丁寧に答えていた。いくつかやりとりを抜粋しよう。

    ――自らが「唯一神」であることに目覚めたのはいつごろですか。

    これは「いつ悟った」ということではないんですね。子どものころ、生まれた時、生まれる前、「永遠の始め」から、ずっと私は神なのです。

    人類を守るために、神が人間の形をとって生まれてきた霊なる者、それが又吉イエスである、と考えていただいて良いと思います。

    ――それでは、又吉さんが神であることを周囲に公言するようになったのはいつごろですか?

    公言したのは1997年の5月です。「時至って」ということですね。

    先ほど言いました通り、神であるという自覚自体はずっと持ち続けてきましたが、幼稚園、小学校、結婚時にも、周囲には一切言ってきませんでした。

    ところが97年、環境問題が悪化してこのままでは人類が滅亡する、という危機感と、53歳になり、年齢的にも熟したということもあり、周囲に公言しました。

    ――奥さんは驚かれたのではないですか?

    (同席した奥さんが回答)突然のことなので絶句しましたね。

    夫はとにかく純粋な人で、それまでの生活のなかでも、ああこの人は何か違うものを持っている、と薄々気づいてはいましたが、そう伝えられた時はさすがに驚きました。

    「腹を切って死ぬべき」の意味

    創価学会や北朝鮮についてなど、きわどい質問がいくつも飛び出したが、又吉さんは嫌な顔ひとつせず、熱っぽい口調で語り続ける。

    「選挙ポスターなどでも『腹を切って死ぬべきだ』とおっしゃっていますが、いま一番死ぬべきだと思うのは誰ですか?」という、明らかに面白半分の問いかけにも、微笑みながらこう返した。

    「私が腹を切って死ぬべきであるというのは、日本だから言えることなんですね。日本では責任追及の形として昔から(切腹の)習わしがありましたから」

    「そこまで言わないと、皆さん責任を感じないというところが現実にあるので、申し上げています。具体的に誰かというと、やはり首相の小泉純一郎ですね」

    尻に敷かれるのも「必要性」

    最後は車座になって、又吉さんを囲んでの懇親会となった。

    演説時の鬼気迫る形相とは打って変わって、穏やかに目を細め、孫ほども年の離れた参加者たちを見守る又吉さん。

    ・健康の秘訣はジョギングで、前年にはフルマラソンを完走した

    ・野球が好きで休日には公園で一人キャッチボール(?)している

    ・プロ野球で特段ひいきのチームはなく、「巨人が勝っても面白くないし、負けても面白くない」

    ・家ではかなり奥さんの尻に敷かれているが、「これも一つの必要性」

    などなど、お菓子をつまみながら、秘密のベールに包まれた「唯一神」のプライベートも明かしてくれた。

    引退発表に胸騒ぎ

    訃報に先立ち、又吉さんは先月末に政治活動・選挙活動からの引退を発表。

    世界経済共同体のサイトで「代表の唯一神又吉イエスの健康がすぐれず、回復して政治活動・選挙活動をするのは無理とのことであります」と明らかにしていた。

    すぐに電話とメールでコンタクトを試みたが、応答がない。嫌な胸騒ぎがした。最悪の形で予感が的中してしまったことが、残念でならない。

    「泡沫」候補として何度も出馬し、落選を繰り返す様は、多くの人にはドン・キホーテのように無謀に映ったかもしれない。

    確かに主張は極端だし、キャラクターも奇抜だ。けれど、総理大臣になったら真っ先に失業問題に取り組みたいと語るなど、政治に対する思いは真剣そのものだった。

    「腹を切って死ぬべきである」という激しい物言いの反面、どこか憎めない愛嬌も漂わせていた。

    だからこそ、多くのネット民に愛されたのだろう。2ちゃんねらーたちが選挙支援を買って出たこともあった。2ちゃんねるを開設した西村博之さんも、毎回、又吉さんに投票していたという。

    さようなら、又吉さん

    又吉さんにお目にかかってから十余年、私は「毎日、野糞し続ける人」や「毎日、首を吊り続ける人」、「自力でビルを建て続ける人」などを取材するようになった。

    愛すべき「奇人」たちにお話を伺うことは、いまやライフワークのひとつだ。いまにして思えば、その扉を開いてくれた最初の一人が、又吉さんだったのかもしれない。

    ありがとう、そしてさようなら、又吉イエスさん。

    最後に、13年前のミニコミ誌に書き連ねた拙稿を引用し、追悼の言葉としたい。

    《真剣な演説の合間に時折見せる笑顔も、とってもチャーミングだ。途中、自分の発言に噴き出してしまう場面さえ見られたが、こうした「人間味あふれる」仕草からは氏の温かい人柄が伺える》

    《逆説的だが、「神がかり」的なカリスマと、「人間的」な温かみ、この双方が矛盾なく共存しているところに、唯一神又吉光雄・イエス・キリストのたぐい稀な魅力の源泉があると言えるだろう》

    BuzzFeed JapanNews