環境NGO「WWF」が援助する密猟監視レンジャーら、アジアやアフリカで住民に暴力

    世界的な知名度のあるWWFが支援する自然保護レンジャーらが、密猟取り締まりの裏で地元住民への暴力や人権侵害を行っていたことが分かった。

    環境保全活動で世界的に知られるNGO「世界自然保護基金」(WWF)が支援する密猟監視のための自然保護レンジャーらが、アジアやアフリカで、密猟などの疑いをかけた地元の住民に暴行を加え、死に至らしめたケースが複数あることが、BuzzFeed Newsの調査で明らかになった。

    BuzzFeed News米国版が報じた2本の記事をまとめて抄訳し、紹介する。

    WWF(世界自然保護基金)は各国のレンジャーを、自然保護と密猟の取り締まりのため支援してきた。だが、その大義名分のもと、レンジャーらによる地域住民への暴力を見過ごしてきた可能性が浮上している。

    密猟そのものは深刻な問題だ。密猟の市場は10億ドル規模で、一部の種の生存さえも脅かしている。多くの密猟者は武装しており、それを取り締まるのは容易ではない。2018年の推計によると、2017年に密猟者によって世界中でおよそ50人のレンジャーが殺害された。

    レンジャーも武装化が進んでいる。そして他の紛争と同様に、密猟に対するWWFの戦争は、民間人の犠牲者を出している。

    WWFが支援するレンジャーらによる暴力被害が

    BuzzFeed Newsは約1年、6カ国にわたり、100人以上へのインタビューと、数千ページに及ぶ機密文書、予算報告書、メールなどを調査した。その結果、WWFが一般市民への暴行を繰り返すレンジャーに、資金や物資を提供していることが明らかになった

    2006年、WWFが保護活動のため資金援助しているネパールのチトワン国立公園で、ある地元男性が密猟されたサイの角を裏庭に隠していると疑った公園のレンジャーが、男性を拷問した。結局庭から角は発見されなかったものの、男性はそのまま拘留され、9日後に死亡した。

    拘置施設では男性への水責めや、殴る蹴るといった暴行が目撃されている。だが公園当局の発表では、男性は「ベンチから落ちた」とされた。

    その後、別の男性も拘留中に死亡した。遺族はレンジャーによる暴行を訴えたが、公園側は、この男性が「自殺した」と発表した。

    レンジャーらはネパールの公務員だ。WWFの現地事務所はレンジャー側を擁護するコメントを出し、その後も資金援助を続けている。

    こういった事例はネパールだけではない。

    2014年には、WWFが支援するインド・カジランガ国立公園の最高責任者が極めて強硬な密猟対策を政府に提示し、ネパールと同じように密猟者を逮捕し拘禁する包括的な権限を求めた。

    これまで必要とされてきた手続きを踏まずして侵入者を攻撃できる内容だが、WWFはこれを承認した。WWFはインドでも長年にわたりレンジャーに数百本の警棒と暴動鎮圧用ヘルメット、警備用の暗視スコープを提供している、と財務資料が示している。

    親の前で暴力を振るわれる少年

    2017年、WWFの支援を受けるアフリカ・カメルーンのロベケ国立公園で、レンジャーが11歳の男の子を両親の目の前で暴行した。両親は現地のWWFに抗議したが返答は無かった。

    同区域では他にも、レンジャーによるなたや銃を用いた暴行、住居やキャンプの破壊行為による被害も出ている。

    現地事務所のスタッフは、これら残虐行為の申し立てをスイスの本部に報告することになっているが、WWFの現地スタッフはレンジャーの仕事と深く関わっていることが多く、彼らの悪行には目をつぶっているという。

    ロベケ国立公園の予算報告書からもWWFと政府軍がいかに密接であるかが伺える。WWFは政府軍メンバーのための訓練や彼らの住宅、テレビや船にまで資金を提供しているのだ。

    カメルーン政府は「問題は存在しない」

    カメルーンでは、権威主義的な大統領ポール・ビヤのもとで、WWFが保護する公園の周辺住民、特に先住民族に対して、レンジャーが暴行や拷問をしているとして、以前から非難の声が上がってきた。

    だがカメルーン政府のキンビ報道官は「人権侵害は存在しない」「密猟を防ぐための措置ならば、いかなる場合も重大な人権侵害にはならない」と語った。

    中央アフリカでは、メールや機密文書の調査から、WWFスタッフが、軍からの攻撃用ライフルの購入に関与した可能性が浮上している。

    WWFが調査の意向を表明

    今回のBuzzFeed Newsの報道を受け、WWFは声明を出した。「人権の尊重は私たちのミッションの中核にある」としたうえで、調査を行う考えを示した。

    声明では「たとえ保護の名の下であっても、人権侵害は決して許されるものではない」とし、早急な真相解明の「責任と重要性を認識している」と述べた。

    「我々の活動には地元住民の支援、関与、協力が欠かせない。地域社会と住民の権利を守るため、厳格な方針を定めており、いかなる違反も容認することはできない。調査によって違反が明らかになった場合、迅速な対応に尽力する」

    WWFはまた、第三者機関による調査を行う方針を明らかにした。

    以前にも内部調査で指摘が

    だが、WWFがレンジャーと人権侵害の問題を調査するのは、これが初めてではない。2015年にも外部の専門家による内部調査を行いながら、その内容はかえりみられていないままになっている。

    報告書は先住民の人権問題に詳しい活動家がとりまとめ、同年4月に本部に提出された。数々の暴行事件についてWWFにも「責任がある」とし「早急に対応すべき」と警告した。

    一方、WWFインターナショナル事務局長のマルコ・ランベルティーニ氏は、カメルーンで起きた人権侵害は「カメルーン政府の問題」だとした。

    報告書をまとめた人権活動家ディエル・ムウェンゲ氏はBuzzFeed Newsnの取材に「報告書がWWFの責任を明記したから無視された」と語った。

    内部資料によると、WWFはロベケ国立公園のレンジャーに支援を続けている。

    2018年、ドイツの政府系開発銀行が研究チームをロベケ国立公園に派遣した。同年11月にベルリンで行われた会議で研究者らが発表した内容は、内部調査の報告書に記載された内容を裏付けるものだった。

    研究者らによると地元住民とレンジャーの間には「恐怖と疑念」が蔓延しており、彼らが訪れた「ほぼ全てのコミュニティでレンジャー達による暴力」が報告されたという。