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「女の子だからピンク」「男の子だから泣かない」…子どもが言ったら、どう返す?

女らしさ・男らしさを意識した発言を子どもがした場合、大人はどう返すべきか。LGBTQに関する講演会を行う中島潤さんは、「スルーしない大人」でいたいと語る。

「私、女の子だからピンクにする!」「僕、男の子だから転んでも泣かなかったよ!」

子どもにそう言われたとき、あなたならどう返しますか?


10月4日から11月22日まで、埼玉県川越市にある最明寺を拠点に、LGBTQの啓発イベント「SAITAMA RAINBOWフェスティバル」が開催された。最終日、企業に勤めながら性的マイノリティに関する講演を行う、中島潤さんが登壇した。

「『生と性』自分らしさを生きる」と題した講演会で中島さんは、「〇〇らしさ」とは何か、そしてその言葉が秘めている圧力について問いかけた。

「皆さんは、『らしさ』とどんな距離感で生活していますか?」

「自分らしさ」について思いを巡らせることは多いかもしれない。しかし「らしさ」という言葉は、他にも様々な単語に結びつく。

女の子・男の子らしさ、母親・父親らしさ、学生らしさ、社会人らしさ、日本人らしさ…。

「この『らしさ』を大事にしたいと思うのは、どんな時ですか?反対に、『らしさ』が暴力になっているのではと思う時はありますか?」

そう問いかけ、中島さんは新生児2人が並ぶ写真をスライドに写した。

写真の2人の性別を聞かれた時、多くの人は「男の子・女の子らしさ」を探す。例えば、水色の服を着ているのか、ピンクの服を着ているのか。そういった外的要因がなければ、見た目だけでは新生児の性別は区別しにくい。

仮に服の色が分かれていても、中島さんいわく「もっと正確に言うと、2人が将来大きくなってから『ちなみに、嫌じゃなかったら教えてほしいんだけど、今自分の性別ってなんだと思う?』と聞いてみるまで、私たちは答えを知り得ない」。

私たちは、常に自らの意思で自由に「〇〇らしさ」を定義できているわけではない。周りから望まれる形として「らしさ」が押し付けられているケースは、日常に多く潜んでいるという。

「らしさ」が窮屈になる時

男だから、リーダーシップを取らないといけない。一家の大黒柱として、稼がないといけない。

女だから、細かく気を配らないといけない。家庭をサポートする母親・妻でいなければならない。

最近はこういった考えが見直される機会も増えたものの、「らしさ」の圧力は根深く残っている。参加者からは実際に「らしさ」を窮屈に感じた場面が挙げられた。

・希望していないのに「女性らしく」を押し付けられると困る。

・「結婚したほうがいい」と言われるのがつらい。

・求められる「らしさ」に従って行動したあと、自分が情けなくなる。

このような「らしさ」の圧力や無意識の前提が、子どもに影響を与えている場面がある。

前提や「らしさ」を押し付けない表現

例えば学校で、「日頃の感謝を込めて、お父さんとお母さんに手紙を書こう」という企画がある時。

中島さんによると、この提案にはいくつかの前提が含まれているという。

手紙を渡せる距離に両親がいるという前提。そして、子どもたちは両親と呼ばれる存在に感謝の念を抱いているに違いないという前提。

「(上記の前提から外れる)子どもたちのことは、この発話には想定されていません。『両親と一緒に暮らしているのが普通』『親には感謝するべき』という メッセージを伝えてしまいます」

実際、現場に居合わせた中島さんは、「普段のありがとうを伝えたい人に、感謝を伝えよう」という企画に変更したという。

「家で飼っている犬や、給食センターの人に書いた子もいました。ありがとうの気持ちを伝える上では、全く問題ありませんよね」

ジェンダー規範の押し付けにつながるような「男のくせに」「女の子なのに」などの表現を避けようと心がける人は増えたと、と中島さんは感じるそうだ。

「でも、『さすが男の子』『将来いいお嫁さんになれるよ!』と、子どもに声がけしている場面を見かけます。『あちゃー』とは思うのですが、それしか褒め言葉を知らないだけかもしれません」

「あなたがこうしてくれて、私はこんなふうに助かった・嬉しかった」と具体的に言う、また名指しで褒めるなど、「褒め言葉の引き出しを増やすトレーニングをすると、押し付けないことにつながるのでは」と中島さんは提案している。

「男の子・女の子の要素を含まなくても褒められると気づけば、途端に褒め言葉のレパートリーが広がると思います」

では、子どものほうから「らしさ」が前提となった発話がなされたとき、大人はどう対応するのが良いのだろう。

「私、女の子だからピンクにする!」

女らしさや男らしさを意識している言葉が子どもの口から出た時、何と返すか。

中島さんはこの場面に「スルーしない大人」でいたいと語る。

「僕だったら、『ピンクいいね、でも他の色も全部見た?他の色も素敵だよ。今いちばん好きな色はどれなの?」ともう一回聞いてみます。その結果ピンクと言われたら、もうどうぞどうぞ」

中島さんの中で引っかかるのは、「好きだからピンク」なのではなく「女の子だからピンク」としている点だ。

「その子の背景には、『ピンクは女の子らしい色である』『ピンクを選ぶのは女の子である』という前提があるかもしれません。もしその前提があったとしたら、隣で男の子とされる子がピンクを選んだ時に、『ピンクは女の子の色なんだよ』と言ってしまうかも」

大人として「誰がどの色を選んでもいい」と伝えるのが重要だという。

「『女の子だからピンク』はあまり困らないかもしれませんが、『女の子だから、医学部じゃなくて看護学部にしておこう』となったら、その子の人生や選択を、随分と左右します」

「その前に『あなたが女の子だからという理由で選択しないといけないことは何もない』と伝えたいです」

「僕、男の子だから転んでも泣かなかったよ!」

今度はこう言われた場合。泣かないように頑張ったことを褒めつつ、「痛いときは泣いてもいい」と添える。

「痛い時は、どれだけ頑張っても涙が出るよね?そんな時は泣いていいんだよ。泣き止もうと思った時に、涙が勝手に止まるのを待っていいよ」

転んでも泣かなかったこと自体は、あまり大事に見えないかもしれない。しかし、ここから「男だから強くないといけない」という考えが凝り固まった場合…。

「(辛いことや大変なことがあり)最終的に、もう他に進むべき道がないと感じて、命を断ってしまう恐れだってある。こんなことになるなら、もっと前の段階で『あなたは泣いていいし、弱音を吐いていいし、人に頼ってもいい』と大人が伝えられたらいいなと思っています」

「自分らしさ」もひとつではない

中島さんのもとには、「自分らしさ」に悩む声が届くそうだ。この相談に対し中島さんは、「いろいろな自分があっていい」と提案している。

「自分らしさって、ひとつでしょうか?自分が思っている自分らしさ。周りの人の期待による自分らしさ。社会が想定している自分らしさ」

「自分の中にも、多様性はあると思います。自分らしく生きなきゃいけないとか、一本筋の通った生き方をするべきとか、そういうイメージが世の中では見かけやすいけれど」

「自分の中の多様性も含め、矛盾も全部丸ごと自分だなって思った時、今の自分が大事にしたいことを大事にできたら、嬉しいですよね」


LGBTQや性のあり方に関する中島さんへのインタビュー記事はこちら