• covid19jp badge
  • medicaljp badge

「流行は終わった」という認識切り替えて 西浦博さんが訴えるオミクロンの脅威と3回目接種の重要性

感染を広げるスピードが速く、ワクチンの感染・発症予防効果もそれほど期待できない新型コロナの新しい変異株「オミクロン」。私たちはどんな手を打つことができるのでしょう。西浦博さんに聞きました。

いよいよ日本でも市中感染が始まった新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」。

これまでにないスピードで感染を広げていくことがわかっているが、私たちにはどんな対策が打てるのだろうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんに、聞いた。

※インタビューは12月23日午後に行い、その後もやり取りしながら書いている。

ブースター接種 発症予防効果は低いが、重症化、死亡は防いでくれる

ーーオミクロンに対し予防接種は発症予防効果は低いとされていますが、一方で重症化や死亡を予防する効果はあるとも言われています。デルタ株に比べて重症化もしないと言われています。実際どうなのでしょうか?

オミクロン株が現れた時に、みなさん「これまでよりも軽症になっているのではないか」と話していました。慎重論もある一方で、「進化の過程で弱毒化していることを期待したいし、もしそうなら、それほど恐れるものではなくなったのではないか」など、様々な推測がされているところです。

欧州の感染スピードを見ていると、人為的に流行自体を止めること(これまでのように抑制をすること)はなかなか難しいところまで来ています。

そうなると、欧州のみなさんの関心は「予防接種がどれぐらい効いていて、どれぐらい重症化や死亡を防げているのか」、または「オミクロンに感染してしまった時にどれぐらいの被害があるのか」に移っています。

死亡リスクはもう少し死亡する人のデータを待たなければはっきりしないところがありますが、入院に関してのリスクはこの数日でわかってきています。

これは西オーストラリアのカーティン大学のゴルディング先生が行った研究です。

左側の2つのグラフをご覧ください。

一方は、新型コロナに対して様々なワクチンを利用して免疫を獲得したときに、その免疫を表す中和反応がどれくらい強くて、新型コロナの感染をどれぐらい防いでいるのかを評価した図です。中和反応が強いと、新型コロナをかなり防ぐ効果があることが分かります。

もう1つは、既存のワクチンで免疫を得た場合、それがどれくらいアルファ株など新型コロナの変異株に効くのか調べたデータです。中和反応が強いと変異株相手でも効いていることが期待されます。

要するに、抗体反応の強さをみると、予防接種の有効性が予測できるということですね。その方法論をもとにオミクロン株に対する既存のワクチンの効果を予測したのが右側の5つの図です。

死亡を防ぐ効果が左上、真ん中の上が重症化(入院)を防ぐ効果、右上が発症予防効果です。横軸が2回接種後の日数を指していて、縦軸は何%有効か示しています。

オレンジがアストラゼネカ社のワクチン、薄紫がmRNAワクチンの2回接種です。これを見ると、いずれのワクチンでもオミクロン株の発症予防効果が極めて低いのが分かります。接種してから半年も経つと30%を切っているのが見て取れます。

一方で、mRNAワクチンの2回接種者の間では、死亡や入院の予防効果は十分でないものの、発症阻止効果ほど低くはなっていないことは希望をもたらします。

もっと大事なのはブースター接種を示す濃い紫です。現行のワクチンだと発症の予防は難しくても、死亡や入院からはかなりの割合で守ってくれるのです。

厳し目のワクチンの効果予測でも、ブースター接種による重症化、死亡予防効果は高い

ただ、この英国の研究では、オーストラリアよりも厳し目の結果が出ています。

そして、中和抗体に頼るオーストラリアの研究よりも少しだけ精巧です。この研究ではワクチンが作る中和抗体の反応に、臨床研究の結果も加えてワクチン効果を推定しているのです。

このグラフ(上部の6パネル)をみると、予防接種の効果は、接種しては落ちて、接種しては落ちて、を繰り返しています。そのような中で、その根拠になる中和抗体反応のデータから有効性を推定しているのが下の3パネルになります。

オミクロン株に対するワクチン効果の推定結果が下の表です。AZがアストラゼネカで、PFがファイザーのワクチンです。

日本の人はPF-PFで1回目も2回目もファイザーを接種した人に相当するでしょう。ここではモデルナのデータはありませんので、仮にファイザーのデータが参考になると考えて差し支えないとしましょう。

左から2番目の列はデルタかオミクロンのどちらに対する免疫かを示しています。その次の2列は、2回接種して90日経過、180日経過でどれぐらい防げているかの予測値です。

6ヶ月経った人はどれぐらい防がれているのかを見てみると、オミクロンの発症予防効果は7.9%しかありません。重症化予防効果も35.2%です。死亡抑制効果だと50.4%です。

ーー厳しい結果ですね。2回接種しても半年経てば、オミクロンはこれぐらいしか防げないわけですね。

相当厳しい結果です。例えば、高齢者の施設で集団感染が起こると、これまでの倍の人数が感染すれば、死亡者数はワクチンをうっていない状態と同じことになりますから。

表の中で、もう1つ右の30pdはブースター接種(3回目接種)をして30日経った時の予測です。軽症の発症を防ぐ効果は48.4%で発症阻止効果はやはり弱い。一方で、重症化予防は85.5%、死亡抑制効果は91.7%と、相当防ぐことができます。

ーーすぐさま3回接種したくなるデータですね。

ええ、研究から得られるメッセージはすごく分かりやすいのです。今のワクチン接種(2回接種)の状態のまま、オミクロンに丸腰で対峙しなくてはならなのは危険です。3回目接種をとにかく重症化リスクの高い人にうっていくことが必要になることを示すデータです。

ブースター接種の前倒し、間に合わない? 重症化予防薬は?

ーーワクチン接種から半年以上経った高齢者は前倒しで早くブースター接種した方がいいですね。

12月22日のアドバイザリーボードでは、厚労省がそれを踏まえてどれだけ前倒しできるか、接種の計画表を出して報告しています。

今までだと、前倒ししても高齢者は2月にうてるぐらいでした。今回は、さらに2ヶ月前倒ししていて、12月にうてる人も生じるようにしたいという気持ちが前面に出ている内容です。

それでも結局多くの高齢者は2月にうつことになっています。しかし、現実的に、このペースだとオミクロンの流行にはおそらく間に合わない。

デンマークや英国では感染者が見つかってから2週間で一気に置き換わっています。日本で言えば1月の状況を心配するのが自然なのではないでしょうか。高齢者の多くは3回目接種が間に合わないまま、オミクロン流行を迎える可能性が高いということですね。

ーーとなると、1月までにブースター接種が間に合わなかった高齢者は、感染対策をかなり厳しくしておいた方がいいということでしょうか?

予防接種ができなかったらどうするか、色々な手立てを必死に考えて組み合わせていくしかありません。

その中で、最も残念なニュースは抗体薬での治療です。いま、日本には重症化を防ぐ抗体カクテル療法「ロナプリーブ」があり、備蓄も一定数あります。

しかし、残念なことにオミクロンにあまり効かない可能性が高いことがわかっています。先ほど説明しました中和抗体反応がオミクロン株相手だと極端に下がることからも理解できる話です。

そんなこともあって、米国FDAはファイザー社の飲み薬「パクスロビド」とメルク社の飲み薬「モルヌピラビル 」の緊急使用を承認しました。日本は24日に「モルヌピラビル」の製造販売を特例承認し、「パクスロビド」についても200万回分の供給を受けることで基本合意を取り付けています。

承認された場合に使用したいということかと思います。それでも経口薬は最後の砦になることが保証されたものではないので、頼りすぎるのはよくないでしょう。

長期的にはパンデミックの問題を大きく減らす重要な役割を担いますが、今回、登場いただくには時間的に厳しいでしょうね。

とにかく、ブースター接種のチャンスがきたら、すぐうつことをお勧めしたいと思います。3回目接種で重症化と死亡を防ぐ、という選択肢に対策は絞られている状況です。

若干、重症化リスクは低いかもしれないが、数が増えれば吹っ飛ぶ

ーーオミクロンの重症度については、デルタより軽いのではないかというデータも出てきていますが、現時点で先生はどう評価していますか?

重症度の評価はすごく難しいのです。早く広がるから感染者が増えているのですが、重症になるには10日ぐらいかかりますし、死亡するまではさらに1週間以上かかります。

加えて、もしかすると南アフリカでは水面下で症状が現れない「不顕性感染」が相当に出ている可能性があり、それによって重症化リスクの推定値が大幅に変わり得る状況です。

いずれにしても、「この株は感染のストーリーを変えるかもしれない」とアドバイザリーボードで僕が指摘したのは11月の半ばです。そこから今までまだ1ヶ月しか経っていないので、死亡者数のデータは十分に蓄積されていません。

ただ人口全体で免疫を持っている人が多いので、まったく予防接種をしていない頃と比べると、同じ感染規模で考えれば、これまでよりも軽症者が増える、というのは客観的な事実です。

一方、デルタとオミクロンでどれぐらい未接種者の重症化リスクは違うか、また、接種しているとオミクロン株の重症化リスクがどれくらい下がるのか、昨晩、ロンドン大学から速報が出ました。

その結果では、未接種者の間でデルタ株とオミクロン株を比較すると、オミクロンの外来受診はデルタの0.75〜0.80倍くらいに下がり、1晩以上の入院はオミクロンだとデルタの0.55〜0.60倍くらいになるとされています。確かにオミクロンの方がデルタよりも軽症であることが分かります。

しかし、これは実は良いニュースと喜べるほどではありません。もちろん、デルタとオミクロンの純粋な重症化リスクを比べると、オミクロンは若干マイルドではありそう、とは分かりました。

しかし、それはこの大学の教授の表現を使うと、「moderately mild、少しだけマイルドだけどね」ぐらいなものなのです。現時点の登録された患者データからすると、あくまで「少しだけ」の違いであるという評価なのです。

もっと10分の1とか100分の1くらいマイルドなら筋書きは変わってくるのですが、推定された差では抜本的な姿が大きく変わらない。

重症化リスクの減少がせいぜい6がけ、8がけぐらいの差であると、感染者が増えれば、そんな差は吹っ飛んでしまいます。感染者数が爆発的に増えるのを許してしまうと、やはり入院はキャパシティの限界を超えて死亡者が一定数出てしまう可能性が十分にある、ということです。

ーー入院が55%なら半分じゃないかと安心しそうですが、感染者数が倍になれば結局入院数は変わらないという意味ですね。

はい。人口レベルでみると、せっかくの「少しだけ」の差はなかったことと同じになります。決して喜べるほどの軽症さではないということが科学的にも示されたということです。

まずは危機感を共有したい

ーーここまでオミクロンのリスクについて、今あるデータから語っていただきましたが、それを知った上で、今私たちはどんな手を打つべきだと思いますか?

専門家は、相当な危機感を持って今の状況を見ています。

先ほど紹介したオーストラリアのゴルディング教授の推定値を利用すると、ワクチンの効果が減弱しはじめていることを加味した上で、日本の現時点でのオミクロンの発症予防効果を持つ方の割合は14.8%です。

死亡を抑制する効果は、人口全体の割合で言えば37.5%が持っていることになります。

決して楽観できない数字だとわかっていただけると思います。

ところが僕たちが鬼気迫る感じでオミクロン株のことを専門家内で議論をしている一方、国民が見ている景色、政治・行政の人が見ている景色はたぶんだいぶ違う。危機意識が十分に共有できるほど、科学的見解が広まっていなかったのではないかと感じます。

まず目の前に迫る危機をみんなで見つめたい。その一歩がまずないと、今後どうしていくか相談もできません。

ブースター接種、感染対策、医療体制の準備

ーー危機感を共有した上で、まず具体的にやるべきことは何でしょう?

重症化リスクの高い後期高齢者や基礎疾患を持つ方などから、3回目を可能な限り早く接種したほうがいいです。一度も接種していない人も接種した方がいいですが、供給が間に合わない。今、国内で1000万回分あるものの、追加分は今後輸入され次第に配分されていく、という供給状況です。

私たちは、社会で冷静さを保ちつつ、死亡するリスクの高い人に、なんとかして早いうちに3回目を接種する方法を考えなければなりません。流行は数週間で一気に拡大する可能性が高い状況です。ワクチンで命を守るためには今回は急げるところでは急がなくてはいけないのです。

残念ながら今から年末年始で、大規模接種会場や接種会場に関わる人材を新しく押さえるにも自治体が機動力をもって対応しにくい状況です。年末年始返上で頑張ろうと思っても、場所もなければ人も休みでいません。

そんな時期にできることがあるとすれば、接種券を早く配ることです。それさえあれば、受け取った方はみんなすぐ接種を決断できます。

その中で、政治主導により、市中感染が見つかった場所に大規模接種会場を特別に設置し、後期高齢者にブースター接種できないものでしょうか。そのように、できることから考えていくことが必要です。

ーー基本的な感染対策も大事ですね。居酒屋も忘年会の集団であふれています。

対策は各人の合意や協力がないと困難です。ここまでの間、国は「ワクチン・検査パッケージ」を行ってきました。その中で、飲酒・飲食や旅行に伴うリスクと向き合いながら感染対策を行ってきました。

しかし、WHO本部は流行に備えて、イベントや移動の見直しを呼びかけています。

日本ではアドバイザリーボードの会見での呼びかけも、年末のイベントについては人数を制限するよう呼びかけることにとどまっています。尾身茂先生は帰省などを考え直すことも1つであることを12月23日に述べられました

まずは皆さんにリスクを認識していただいて、感染を減らすにはどうしたらいいのか、一緒に考えていただきたい。そのリスクを受け止めた上で、リスクが極めて高いことに関しては、見直していただく勇気も必要なのかもしれません。

政治や国民の合意形成次第だと思っています。

ーー医療体制はどうですか?病床は簡単には増やせず、どこの自治体も準備はしていますが、それ以上の流行規模になる可能性もあるわけですね。

南アフリカは既にピークを超えたかもしれないと言われるぐらい、素早く、規模の大きい流行です。病床があふれる可能性があるなら、事前にやれることはやった方がいい。

厚労省は22日のアドバイザリーボードで、年末も近いこともあるからか、流行に備えて、レベルを3ぐらいに上げて対応してくださいという通知を自治体に出しました。

機動力をもって対応したことには敬意を表しますが、大規模な流行が不可避となった場合のことを考えておく必要があります。

今は自宅で治療できるかと言えば、抗体カクテル療法の効果が心許ないことがわかっていますので、できることは対症療法になります。

数が多くなると訪問診療は対応できなくなりますし、入院調整が回りにくくなる未来は見えていますよね。場合によっては自宅療養ベースで軽症者を診る、という従来の計画を大きく見直すのも一案かもしれません。

例えば、保健所の入院調整と自宅療養者の連絡対応で管理しきれない数になるならば、従来の診療・検査医療機関の枠さえ超えて、広く外来でかかりつけの先生が診ることも考えた方がいいのかもしれません。

そして、開業医では手がかかりすぎる移送を行政や委託先企業が支援する体制も必要かもしれません。

第4波、第5波では強く影響を受けた都市部の自治体で感染者があふれ、関係者が困ることになりました。これからある程度の流行が起きることを想定すれば、不測の事態が起こりにくいよう対策を考えられないか。

嵐の前ですが、まだ間に合うと思いますので具体策を考えた方が良いです。

「もう流行は終わった」という認識の切り替えを

ーー最後に一般の人へのメッセージをお願いします。

今回、お伝えしたかったのは、先にオミクロンが流行している海外で何が起こっていて、私たち専門家がオミクロンのリスクをどう見ているかということです。

過度に恐れる必要はありませんが、年末年始のリスクについて皆さんに考えていただきたい。

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は、「ちょうどノーマルな生活に戻ろうとしていた頃に、パンデミックの中で最悪のフェーズに入ろうとしている」と述べています。それぐらい衝撃のある状況です。

ゲイツ氏の知人はオミクロン株に感染し、それを横目に見てゲイツ氏自身も年末休暇のほとんどの計画をキャンセルしました。

もし、ハイリスクの行動を年末年始に取ろうと考えているならば、場合によっては考え直すことも選択肢の1つになろうとしていることをお伝えしたい。

それをお伝えしたくて現時点でのリスク評価を共有しました。特に、屋内で大人数が揃うようなイベントは、南アフリカもイギリスもデンマークも共通して集団感染が起きています。

少なくとも「もう流行は終わった」という認識はいったん切り替えてもらう必要があると思っています。

(終わり)

【西浦博(にしうら・ひろし)】京都大学大学院医学研究科教授

2002年、宮崎医科大学医学部卒業。ロンドン大学、チュービンゲン大学、ユトレヒト大学博士研究員、香港大学助理教授、東京大学准教授、北海道大学教授などを経て、2020年8月から現職。

専門は、理論疫学。厚生労働省新型コロナウイルスクラスター対策班で流行データ分析に取り組み、現在も新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードなどでデータ分析をしている。

趣味はジョギング。主な関心事はダイエット。