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新型コロナ第7波、子どもの対策どうする? ワクチン、マスク、小児科医として伝えたいこと

オミクロンの亜系統「BA.5」への置き換わりで急増する新型コロナウイルスの感染者。気になるのは子供への影響です。ワクチン、マスク、どう考えたらいいのか、小児科医でもある岡部信彦さんに聞きました。

オミクロンの亜系統「BA.5」への置き換わりで、急増する新型コロナウイルスの感染者。

これからどんな対策を取るかは、重症者や医療の逼迫具合も見ながら決めていかなければいけませんが、気になるのは感染が広がっている子供たちへの影響です。

感染しても重症化しにくい年代であることからワクチン接種も広がらず、無防備な状態に置かれている子供たちですが、このままで大丈夫なのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、新型コロナウイルス感染症対策分科会構成員で、小児科医でもある川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんに聞きました。

※インタビューは7月7日午後に行ったが、その後もやりとりを重ねている。

子供のワクチン、どうする?

——先日、急激に感染者や死者が増えた台湾の状況を取材したのですが、子供の死者が増えたことに危機感を抱いていました。絶対数は多くはないのですが、17人亡くなり、社会に大きなインパクトを与えていました。

日本ではインフルエンザが流行すると、子供の急性脳症の発生が問題になりますが、インフルエンザの存在がわかり始めた当初、300人くらいが発症し、3分の1くらいが亡くなりました。

台湾と日本の人口と比較すると17人のお子さんの死亡というのは、この時のインパクトよりは少ないようにも思います。

しかし、その程度の数だから大丈夫というのでは到底なく、子供のコロナへの警戒はもちろんしなければなりません。できるだけ流行は低く抑えたほうが良いことになります。

でも17人の死をもって、「直ちに多くの子供に危険が迫っている」とまでは言えないと思います。

——5〜11歳は特にワクチンの接種率も20%に達していません。第7波の流行では無防備になっているという声も聞かれます。

「子供にワクチンを」と求める声がもし大きくなっているならば、それに抗する必要はなく、できるだけ接種が可能な環境は整えるべきだと思います。そのために、この年齢層は公的接種の対象に入るようになりました。費用に関する個人負担がなく、万が一の接種事故の場合の救済の対象にもなっています。

ただ、子どもたちへの接種に不安や効果への疑問を持っている方もまだ多くいる中で、「義務を課してまで一斉に接種を」とまでしなくてもいいのではないか、というのが今の状況だと思います。

また重症化リスクを比較すると、高齢者や基礎疾患のある人などに比べると子供ははるかに低く、「早く、できるだけ多くの人に」接種すべき対象は高齢者などになります。

小児への接種は、集団接種や大規模接種会場などではなく、できるだけ落ち着いた環境で、かかりつけの先生などのところで、というのが基本的な考え方です。

接種を希望する方への接種が妨げられるような状況になってはいけないと思います。みんながあまり受けたくないと思っている時に、一斉に接種をするのは労力的にも、その人たちの不安を煽る観点からも無理やりやるべきではない、というのがこれまでの考えです。

——接種が始まった頃の段階では、子供の症状は軽いから必ずしもうたなくてもいいという声と、うった方がいいという声が拮抗していました。岡部先生のように、他の世代が優先されるから、子供は急いでうたなくてもいいという人もいました。しかし、子供の感染者が増えている今、子供の患者を診ている小児科医の先生は「うった方がいい」という声が強くなっている気がします。

やはり目の前の患者・感染者が増えてくれば、そうなってくるのかもしれませんね。

基本的には子供の症状は軽いのです。でも感染者の全体数が多くなれば、割合が少なくても一定数の重症者は出てきます。接種できるようにしてあるのですから、「心配な人はどうぞ受けてください」と言いたいです。

——現状でも「どの子供も受けなければならない」位置付けではないわけですね。

インフルエンザでも脳症が問題になりますが、インフルエンザワクチンも高齢者を除いては任意の接種です。「受けたい人はどうぞ。でも嫌だという人は受けなくていいですよ」という位置付けです。

子供に対するコロナワクチンも、現状ではそのレベルの考え方で良いのではないかと思います。

でもそれは流行状況をよく見る必要があります。場合によっては今後、変更があるかもしれません。その判断は、重症度や先行する欧米の状況を見なければいけません。

効果も高く、副反応も大人より少ない

——ただ、子供のワクチンの効果や安全性は、以前よりわかってきていますね。

効果は大人並みにあるし、急性の副反応は大人よりも少ないようです。安心して使えて、効果も高そうだということもわかってきています。

もし僕の前に「接種したい」という親御さんが来たら、「どうぞ。ではワクチンやりましょう」と言うでしょうね。

もし「うちの子のワクチンどうしましょう?」という相談だったら「できたらやったほうがいいですね」と言うでしょう。

しかし、「やらない方がいいと思うんですが」という親御さんが来たら「そうですね。すこし様子を見てみたらいかがですか。感染対策を忘れずにね」と言うでしょう。

——もう少し強めに勧めてもいいかなと思うのですが、どうでしょう?

優先度の問題で、やはり今も強く勧めるべき、優先すべきは高年齢、基礎疾患を持っている人、そして次は中年です。重症化しやすいからです。

——ただ、一定の年齢まで生きた人が亡くなるのと、子供が亡くなるのとではインパクトが違います。

それは、新型インフルエンザが来たらワクチンをどうする、というときに既に議論されてきたことです。

目の前で具合が悪くなる人の接種を優先するのか、将来ある子供たちを優先するのか。

なかなか結論まで至らず、世の中としてもそのような選択の議論は平常時には避ける傾向があります。

——驚いたのは、子供の死亡が話題になった台湾では親がワクチンを求める声が高まって、わずか20日間で5〜11歳のワクチン接種率が74.6%まで達成したことです。日本はそうなっていないですね。

アジア諸国は、感染症の流行に対してかなり極端な反応をすることがありますね。手足口病での急性脳炎がマレーシアから主に熱帯アジアで広がった時も、反応は強かったです。台湾も、感染症には時々手痛い思いをしています。

——日本ではまだ「うちたいお子さんはうってください」ぐらいですね。

僕は、先ほど申し上げたように、接種を受けたい方、迷っている人には「どうぞどうぞ。接種をお願いします」と言いますけれどもね。

——お子さんでも感染すれば後遺症が残る可能性も指摘されています。

子供における、いわゆる後遺症といわれるものについては不明です。中高生ぐらいになると大人の傾向に近づいてくるのではと思います。

一般的に言えば、そういうリスクを防ぐためにもワクチンをうちましょうということですね。かからない、重症化しない、後遺症を残さない、に越したことはないのですから。

僕はインフルエンザワクチンと同じ説明をしています。

かかるよりはかからない方がいいし、重症化するよりは重症化しない方がいい。そうなりたくないならどうぞ、という説明です。

できる人はできるようにして、お金もかからないようにしているので、どうぞ利用してください、とお伝えするのがいいと思います。

子どものマスク対応 どうする?

——子供のマスク対応についてはアドバイザリーボードでも見直すべき場面について細かく提言していましたね。

特に目新しいこととして出したわけではなく、従来説明していたことを改めて述べ、厚労省なども状況の変化を見て強調してくれた、ということになります。

できるだけ感染を予防することだけを考えれば、どこでも誰でもがっちりしたマスクを24時間つけて......ということになりますが、その必要性が低いところでは無理してつける必要はありません。

むしろそれによって他のマイナス面が出てくるのであれば着けない方がいい場面もある、ということです。場を考えて着けてくださいということですね。

全ての場面でつけなくてはいけない、あるいは外すべきである、ということではありません。特に子供の場合はそうです。

——熱中症予防もありますし、顔の表情を読み取るなど大事なことができなくなるからということですね。

そういう教育的なことも含めてです。

でも子供の方がむしろマスクは習慣になっているようですね。僕の孫も、「周りに誰かいないなら着けなくていいんじゃない?」と言っても、「面倒くさいもん」と言って着けたままでいます。

——今年は6月から暑い日が続きましたが、それでも外でも着けています。だんだん感染者も増えて「マスクを外すべき場面では外した方がいい」と言いづらくなっているかもしれませんが。

今までと同じです。着けている方がかえって危ないことが目の前にあることもあるのですから、そんな場面では外した方がいい。炎天下で水遊びをしている時に着けている必要はないでしょう。それは感染者が増えようが増えまいが変わりません。

マスクについての考え方はちっとも目新しいことを言っていません。今までと同じです。

逆に感染者が減ったら、さらに緩和できるかもしれません。でも今の状態はあまり変わっていないですね。

——マスクを外せる時は外してもいいのではないかと問いかける記事を出したら、批判の声がたくさん届きました。

うーん。それはもしかしたら日本人のいいところなのかもしれないですね。一人で歩いている時はいらないし、自転車に乗っている時もいらない。でもつけてしまうのですね。感染症のことだけを考えたら、良い習慣なのかもしれません。

心配な人に対してはわざわざ外せという必要もないですね。「心配ならどうぞ」でいい。でも炎天下で一人で着けているとなると、その方がむしろ健康リスクは高いですよと説明してあげなければいけません。

——それに加えて子どもは自ら外す判断ができないですよね。

そこは大人が見てあげなければいけないと思います。

海外では会議でも、飛行機でも......

先日、WHOの会議でジュネーブに行った時、ドーハ経由だったのですが、ジュネーブからドーハの飛行機内はほとんどの人がマスクを着けていませんでした。

しかし、ドーハから東京となると、日本人が多くなってくるので、着けている人が多くなります。

空港の中でもアジア系とアフリカ、アラブはマスクを着けている人が多い。ジュネーブの街中でもほとんど着けていません。でも着けている人を奇異な目では見ません。

——WHOの会議中はどうでしたか?

着ける着けないは全く自由でした。屋内でもです。

——会議に参加しているのは、感染症の専門家ですよね?

コロナの専門家ではないですが、ポリオを専門としているのですから、ほとんどが感染症の専門家です。それでも外している人は外しています。「念のために」と着けているのはアジア、アフリカ系でした。着けている方が少数派です。

着けていること自体が悪い習慣ではないと思います。ただ、日本ではマスク文化のようなものがありますが、「ここはいらない」というところでは人の目を気にして着けるのではなく、外すことを考えてもいいのではないかと思いますね。

人の表情を読み取れるようになることも大切なことなので、それも幼い頃に身に着けていかなければいけません。一概に右、左と言うのではなく、バランスを取ることが大事です。

(終わり)

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。