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「上手な医療のかかり方」まとめ案、練り直しへ 「もっと国民目線で」「危機感を共有しよう」

厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」もいよいよ佳境。懇談会からの提案たたき台と国民に向けた5つのメッセージ案が出されましたが、激しい議論となり、改めて練り直すことになりました。

記者も参加している厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(座長=渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授)は12月6日、4回目が開かれ、いよいよ佳境を迎えています。

この日は、最終回に発表するまとめのたたき台や、国民のみなさんへの5つのメッセージ案について議論しましたが、激論が交わされ、再び練り直すことに。

17日の次回はとうとう最終回です。「予定調和」や「忖度」が一切ない肝の据わった委員が揃っているこの懇談会、本当にまとまるのでしょうか?

「提案(案)」と市民向けの「5つのポイント案」

この日、議論したのは、最終回に議論の成果として出す「懇談会からの提案(案)」と国民に向けたメッセージ「上手に医療にかかるための5つのポイント案」についてです(資料はこちら)。

「提案(案)」は、なぜ今、医療のかかり方を議論するのかを示した上で、医療にあまり関心のない人に課題を伝え、関係者それぞれが何をすべきか提案した内容です。

これまでにもお伝えしてきたように、体調が悪くなったら夜間でも休日でもすぐに救急に駆け込み、大病院にかかってしまうのでは質の高い医療は受けられませんし、医療現場も疲弊しています。そこで、案では上手な医療のかかり方として、こう伝えます。

「困ったらすぐ医療機関に駆け込み、医師の言うことに従い、任せっきり」という医療のかかり方から、自分の心身の状況に応じて適切な時期と医療機関を自ら選び取り、医師とパートナーとして、一緒に改善を目指す」という医療のかかり方へと変革することが必要。

その上で、「市民」「民間」「医療提供者」「行政」がそれぞれ何をすべきかを並べました。

さらに、このうちの「市民がやること」をもっとわかりやすく伝えようと提案されたのが、「上手に医療にかかるための5つのポイント(案)」です。次の5項目でした。

  1. 病気やけがはまず#8000(子ども)や#7119(救急)へ電話を。
  2. 医師と話すときは、自分の聞きたいことを紙に書きだして整理し、ためらわないで聞きましょう。
  3. 薬のことで質問があればまず薬剤師に相談しましょう。
  4. 抗生物質は風邪には効きません。
  5. 慢性の症状(数週間以上前からの同じ程度の症状)であれば日中にかかりつけ医を受診しましょう。


「医療が危機に瀕していることをまず伝えては?」

デーモン閣下は、「非常に文章が固い。一般の人には難しすぎる言葉遣いが多い。もう少し単純化し、キャッチーな誰もが興味を持ってもらえるようなものを作らないと結局誰も読まないぞということになる」とした上で、夜間休日でも軽症で受診する救急現場のお話を聞いたことを踏まえ、こう要望しました。

「日本の医療がすごい危機に瀕しているんだということを感じたんです。国民全員の今後の未来についても大いに関係あることなので、あなた方このままだと、何年か後には大変なことになるんですよということを導入にして徐々に具体的な説明に導いていったらどうかと思います」

株式会社ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは、「今ある危機的な状況を表すイラストが必要ではないか。危機感を共有していない人に対策をしようと言っても全然広がらない。現状を引き起こしている私たちの医療行動が端的にわかる患者のイラストやデータがあるとパンチが効いてくるのでは?」と視覚的にも訴えることを勧めました。

また、行政がすべきことについては、「KPI(目標をどれだけ達成したかを評価する指標)」を設け、継続的にどれほど進んだかチェックすることが必要ではないか、と提案しました。

さらに、サラリーマンが平日の日中でも受診できるように、フレックスタイムや休暇が取得できる柔軟な働き方への指標を民間企業に求めていることについて、「行政が指標にしない限り、民間の経営者が動くとは考えられない。行政もセットで指標を入れるべきだ」と訴えました。

そもそもその相談先は使えるものなのか?

私(岩永)は、「市民に対して、体調管理は看護師に、薬のことは薬剤師に聞くように提案しても、いざとなった時どの薬剤師に聞けばいいのか、どの看護師に聞けばいいかがわからない状態では無責任な提案になる。#8000や#7119も自治体によっては整備がバラバラと聞きます。本当にできる道筋まで考えた上で、提案しなければ」と受け皿を整備する必要性を指摘しました。

「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」代表の阿真京子さんは、「#8000も#7119も電話3本に2本が取れていない状況。特に夜の一番、困って聞きたい時は電話が殺到してさらに取れていないと聞きます。全部取りきれている自治体はまずないというのが現状です」と、国民に勧めるには対応が不十分であることを伝えました。

また、阿真さんが、「#7119」に到っては、整備している自治体が10県に満たないことを紹介し、「まだ(勧めるには)早い」と告げると、委員はどよめきました。

日本医師会常任理事の城守国斗さんも「#7119は東京近辺はあるが、地方はほとんどない。国民に勧めるのは時期尚早」と語り、デーモン閣下からは、「電話相談事業を全国一律にして、全国どこからでもかけられる形にできないのか」と問いかけがありました。

「伝えることをなめている」発言で、5つのポイントは幻に

そして、国民に向けた5つのメッセージについて、患者と医療をつなぐ活動を続けるNPO法人架け橋理事長の豊田郁子さんは、「あなたにとって良い受診の仕方というアドバイスなのか、それとも国民、市民全体を救うために協力してくださいという目的なのかで伝えかたは違ってくるのに、それが混ざっている。分けて、解説を入れた方がいい」と伝えました。

情報を伝えることを専門とするコミュニケーションディレクターの佐藤尚之さんが「みなさん、伝えることをなめていると思います。伝わるわけがない」と、衝撃の発言がありました。

その上で「医療のかかり方」をこうして拙速にまとめるのは問題があるとして、「この案を事前にママさんに見せてみたら、5項目が全くわからないと言うのです。”抗生物質、風邪に効くに決まってんじゃん”など言われて全く議論になりませんでした。伝えるというのは難しくて、簡単にまとめることは逆にしないほうがいいのでは」とバッサリ斬りました。

私(岩永)は、一般市民だけに向けて5つのメッセージを出すのではなく、「提案(案)」にまとめられた、市民、民間、医療提供者、行政がやることという4つの項目をもっとシンプルにして、一枚紙にしてまとめるのはどうかと提案し、「その方が総力戦ということが伝わる気がするんです」と話しました。

阿真さんも「4つをまとめた方が、医療機関はこういうことを頑張るんだ、行政はこういうことを頑張るんだ、じゃあ私たちこういうことを頑張るんだということになり、厚労省はこれ絶対やるよと打ち出すことは新しい。厚労省はいつも市民にこうしてください、こうしましょうと提案していますが、私たちはこれやるから市民はこれやってね、というのは見たことがない」と賛同してくれました。

元厚労省事務次官の村木厚子さんも賛成し、「1枚目にはなぜ(上手な医療のかかり方を)やらなければならないかというのが明確にあって、次に何をやるかを示す。『同時進行』というのはとても大事なキーワードだと思います。同時進行でみんなでやるというのがわかる紙が一枚あるととてもいいのではないか」と話しました。

12月17日が最終回です。懇談会メンバーはメールやFacebookのメッセンジャーでやりとりを続け、これからも私たちが質の高い医療を受け続けられるような提案をまとめたいと思います。



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筆者の岩永直子は、この懇談会に参加する構成員です。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に議論の内容を報じていきます。