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「医療のかかり方検定は?」「乳児健診や両親学級を活用して」 上手な医療のかかり方をどう伝えるか

上手な医療のかかり方を広めるための懇談会は3回目を迎え、これまでの意見をまとめる段階に入ってきました。

医師を初めとする医療スタッフが疲れきって、診療中に注意力が落ちてしまったり、丁寧に患者さんの話が聞けなくなってしまったら、一番困るのは私たち患者です。また医療スタッフが手薄な夜間や休日は十分な医療が受けられないことも多いのです。

これからも安心して医療にかかれるように、私たちも一緒に医療のかかり方を見直すという目的で開かれている厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(座長=渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授)。

3回目が11月12日に開かれ、いよいよこれまでの議論をまとめる段階に入ってきました。

私たちがいきなり大病院に行ってしまったり、スタッフが手薄な時間にかかってしまったりするのは、「悪化したら怖い」という不安があるからですね。

どんな情報を伝えていくべきか、どんな方法で伝えていくべきか、より具体的な方策を話し合いました。

冒頭、今回は欠席した委員の1人、デーモン閣下が、現在始まっているコンサートツアーで来場者に対し、子どもの急な病気の時に相談できる「#8000(子ども医療電話相談事業)」を紹介するチラシを配っていることが紹介されました。

「賢い選択」はあなたの医療の質を上げる選択

まずは、3人の有識者から「医療の上手なかかり方」を考えるための情報が紹介されました。

最初に登場したのは、根拠がないのに行われている無意味な検査や治療をやめ、医療の質を高めようと啓発する運動「Choosing Wisely(チュージング・ワイズリー、賢い選択)」日本版を運営する沖縄の総合診療医、徳田安春さんです。

発祥の地アメリカでは70を超える学会が自発的に、科学的根拠に基づいておすすめしない医療のリストを出していることを報告しました。

それを医師だけではなく、パンフレットやビデオ、ポスターなどで患者にも伝え、メディアや保険者、企業にも協力を呼びかけています。

この運動のファンだという渋谷座長は「科学的にも正しく、臨床的にも妥当な選択を賢く選ぶことで、患者さんにもっとも価値ある選択は何なのかを提供者が書いていくという運動です」と評価しました。

一方、委員の1人、鈴木美穂さんは「これを参考に国民が知っておくべき5つのこと、というものをまとめられないか」と提案。

「例えば、検診のし過ぎにはデメリットもあるということを知っておきましょう、またかかりつけ薬局、かかりつけ医を持ちましょう、救急の時にはすぐに救急車を呼ばず、まず#8000(小児救急電話相談)をやりましょう、など5個にまとめたら、メディアも伝えやすいし、国民もわかりやすい」と提案しました。

医療の質はトップレベルなのに、患者の満足度はD評価の日本

続いて登場したのは、日本医師会副会長の今村聡さんです。

今村さんが強調したのは、国民全ての医療が公的保険でカバーされ、誰でも低コストで高品質の治療が受けられる国民皆保険は世界に誇る「日本の宝」だということです。

そしてこの公的な医療保険は、3つの特徴に支えられていると説明しました。

つまり、日本の医療は公平性も患者本人の自由度も高い、という主張です。確かに、日本の医療保険制度では、毎月の医療費が一定の額を超えると支給される「高額療養費制度」や、生活が困窮している場合は窓口での自己負担分を減免する制度もあります。

ところが、医療の質は世界トップレベルなのに、国民の健康状態の自己評価は最低ラインのD評価が続いていることを紹介し、「日本の医療の良さを知った上で今後も持続させるためにどうしなければいけないか皆さんも考えてください」と呼びかけました。

これに対して、委員の村木厚子さんは、「介護保険はとにかく最初にケアマネのところに行って相談すればいいのねと、介護が迫った中高年はなんとなく知識がありますよね。かかりつけ医の役割になると思いますが、医療もここに相談すればいいのね、この人に相談すればいいのねというのが大事になると思います。そこは医師会の力がかなり大きいと思うのでお願いしたい」と話しました。

今村さんは「いきなり風邪をひいて大病院にかかるのは本人にとっても病院にとってもよくない。かかりつけ医の機能強化を図っていきたい」と答えました。

さらに病院経営コンサルタント会社社長の裵英洙(はい・えいしゅ)さんは、人生の色々な節目の時に、伝えることを提案しました。

「教育や、免許証を取る、結婚するなど、人間の成長の中で通るゲート(入り口)がある。いろんなゲートの時を周知の機会にすると、誰もが目に触れる接点をもつ。それも成長の段階に合わせてその人たちに刺さるような文脈で(情報を)出していく。省庁も総力戦で行かないと、厚労省だけでは限界がある」

健康保険組合は「かかりつけ医」「時間内受診」などを推進

続いて健康保険組合連合会の常務理事、河本滋史さんは、過去10年間で、健保組合の財政悪化が著しく、被保険者の年収は下がっているのに、保険料は平均約10万円上がり、解散した組合が124あることを報告。

超高齢化で高齢者医療への負担の割合が増え、このままでは医療保険が維持できない状況になっている危機感を伝えました。

その上で、ポスターや広報誌などで被保険者に上手な医療のかかり方を啓発しているものの、なかなか伝わらないことを明かしました。

これに対し、株式会社ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは、「例えば女性活躍推進法は厚生労働省の管轄ですが、女性の管理職の比率を示すことになってから、経営者も推進しろと言い出すようになっています。(医療のかかり方も)経営者にモチベーションを高める仕組みが作れないか」と問いかけました。

「女性活躍推進の指標に入れたらいいと思います。育児をする女性にとって、子供の急な体調不良で休みやすいかは重要な指標なので、子供の体調不良や自身の体調不良で平日に休みを取りやすいかというアンケート結果を表示しなさいとするだけで、企業は推進しようと考える」と提案しました。

医療のかかり方検定は? 口コミでも伝える工夫

これまでの議論をまとめていくに当たって、コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さんが、情報の伝え方について、たたき台を示してくれました。

佐藤さんは、情報が溢れている時代、テレビやネットに出していくだけでは伝わらないとまず釘を刺しました。その上で、「伝えたい相手」を絞り、その対象に伝わるメディアを考える必要があることを説明しました。

そして、子供の病気に対処する割合が多くなる母親にターゲットを絞り、「医療のかかり方検定」や「医療情報士」のような資格を作ることを提案。

さらに、おしゃれな家庭用のポスターを作ったり、ママタレントなどをアンバサダー(大使)として起用して、ママたちのネットワークで情報を伝えていくアイディアなどを考えてくれました。

「医療のかかり方検定」というアイディアについて、小室さんは「私たちの生活にフィットしている」と賛同しました。

「何か勉強したいとママが思う時は育休の時が多い。仕事をしていた自分が今は何もしていないとなると、何か勉強したいと思います。Eラーニングコンテンツを作れば、休んでいる間に能力が落ちてしまうという危機感を持っている時にこういう資格をとったと言えるようになるし、会社が資格の取得を推奨するのもいいと思います」

私(岩永)は、「ママタレントなどに伝えてもらうことも重要だと思いますが、健康に意識の高い人ほど危ない情報をつかみがちということも感じてきました。こういう検定のようなかっちりとした知識を公的な機関が保証することを前提にしないと、逆に危険なことになると思います」と指摘しました。

まず健診や両親学級で 交通安全の取り組みを見習えないか

親たちに子どもの病気や医療について伝える活動をしている阿真京子さんは、時間外に医療にかかる層は児童が多い傾向にあるという分析を見た上で、消防のデータではむしろ救急車を使っているのは成人や高齢者が多いことを指摘します。

「つまり、(子どもの場合は)救急車を呼ぶほどではないけれども、歩いて救急外来に行く人が多いということがわかる。大人は熱では救急に行きませんが、子どもは発熱で心配になる。せっかく日本で乳児健診や母子保健の両親学級という、集って、教えられる場があるのですから活用できないか」と要望しました。

「熱や泣き止まないだけならば家で待てる。それだけでもかなりの数になります。すぐにできることだと思いますので、自治体にはぜひ取り組んでほしい」と呼びかけました。

さらに、患者と医療をつなぐ活動を続けるNPO法人架け橋理事長の豊田郁子さんは、「交通安全の取り組みはすごくうまくいっているのを感じている。私の幼い頃は緑のおばさんが通学路に毎日立っていたし、交通安全週間の時期になったら徹底的に声をかける。医療もここまでみんなが心配しているところにきたのですから、交通安全の方法を見習えないか」と提案しました。

【1回目】まずは信頼できる医療情報を集めたサイトを これからも安心して医療にかかり続けるために

【2回目】「#上手な医療のかかり方」で国民的な議論を 「チーム医療の推進」「時間外受診の回避」実現できるか?


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筆者の岩永直子は、この懇談会に参加する構成員です。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に議論の内容を報じていきます。

追記

一部表現を追記しました。