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「#上手な医療のかかり方」で国民的な議論を 「チーム医療の推進」「時間外受診の回避」実現できるか?

厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」2回目が開かれました。

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わたくしも委員の一人として参加している、厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」(座長=渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授)2回目が10月22日開かれました。

議論の記録映像をインターネット上で公表し、ハッシュタグ「#上手な医療のかかり方」を使って、懇談会で話し合われた内容について国民のみなさんが意見を出し合えるようにすることが決まりました。

活発な議論が交わされた懇談会
厚生労働省提供

活発な議論が交わされた懇談会

社会の様々な変化で医療ニーズは増える一方、医師や病院の数には限りがあります。軽症の患者が基幹病院に押し寄せれば、高度な医療を必要とする患者にしわ寄せが及びかねませんし、医師の過労も問題となります。

私たちの側も、考えて受診することが求められています。

つまり、私たちがこの議論の当事者ということです。ツイッターを使われている方はぜひこのハッシュタグをあなたの意見を投げかけてみてください。この記事の最後に、意見を求めるアンケートも設けております。ぜひご参加ください。

医師二人からは「チーム医療の推進」や救急現場の過酷な労働環境についての切実な報告も行われ、私たち患者側に協力が呼びかけられました。

「チーム医療の推進」はできるのか?

この日は前回の議論を振り返った後に、懇談会のメンバーで病院経営コンサルタント会社社長の裵英洙(はい・えいしゅ)さんが、まず報告をしました。

外科医や病理医でもある裵さんは、勤務医時代に自身が苦しんできた過酷な労働状況を変えたいと思い、病院経営に携わるようになりました。

裵さんが今回、患者にしわ寄せがいく医師の労働環境を変えるために打ち出したのは、ずばり「チーム医療の推進」です。

病院では医師だけでなく様々な医療職が協力して、患者の治療に当たる「チーム医療」が行われている。

国立がん研究センターHPより

病院では医師以外にも看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師など様々な医療職の人が働いています。それぞれが専門性を発揮することで、患者さんに質の高い治療を提供できます。

また、異なる視点から一人の患者さんの治療に携わることで医療ミスの防止にも役立ちます。

ところが、薬の処方や高度な医療処置などは医師だけに限られているため、患者さんが目の前で苦しんでいても医師が駆けつけるのを待たなければなりません。患者はタイムリーに必要な医療を受けられず、医師にも過重な負担がかかります。

さらに、病気や複雑化、高度化すると多くの書類が必要となり、勤務時間外の書類仕事が増えています。

こうした現状に対し、医師でなくてもできる業務は他の職種に行ってもらう「タスクシフティング(業務の移管)」や「タスクシェアリング(業務の分かち合い)」を推進することが提案されました。

欧米では、一部の診療業務や医薬品の処方までできる「ナースプラクティショナー(診療看護師)」という資格職が活躍しています。

こうした資格の創設や、書類作成など事務作業を補助する「医療クラーク」の拡充、いつでも一人の主治医に診てもらうのではなく、複数の医師に診てもらう「複数主治医制」などを導入する必要性を語りました。

しかし、日本では一人の主治医に一貫して診てもらうことを求める患者は多く、医療クラークも十分に採用されていません。他の医療職への業務拡大もなかなか進みません。

裵さんは語りかけます。

「日本では発展途上のチーム医療を推し進めるには、患者や国民のみなさんの理解が必要です」「患者の方でも『何でも医師に』と求めるのではなく、『これは医師に』という形で使い分けを認識していただけると嬉しいなと思います」

若手勤務医の過酷な勤務実態を変えられるか

続いて、東京女子医科大学東医療センター救命救急センターの後期研修医、赤星昴己(こうき)さん(29)は救急医、特に若手医師が長時間勤務に疲れ果てている現状について報告しました。

風邪をひいているとのことで、ガラガラ声で懸命に現状を訴えてくださいました。

同センターは昨年1年間で1万1563件の救急患者を受け入れ、うち1855人は重症患者でした。センター長、副センター長含めて8人で365日24時間体制で救急患者を診ているのです。

週60時間以上働く常勤医は20代、30代男性で57%、20代女性で半分近くいる。
医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査

週60時間以上働く常勤医は20代、30代男性で57%、20代女性で半分近くいる。

若手医師の中でも、夜間や休日でも緊急の対応が求められる救急医はさらに過酷な働き方が強いられます。

赤星さんのある週の勤務状況。朝から晩まで休みなし。週99時間働き、完全オフの日は月に1〜2回程度。たまの休みは、研究や学会の発表準備につぶれるという。
赤星昴己さん提供

赤星さんのある週の勤務状況。朝から晩まで休みなし。週99時間働き、完全オフの日は月に1〜2回程度。たまの休みは、研究や学会の発表準備につぶれるという。

赤星さんは印象的なエピソードを二つ紹介してくださいました。

7月下旬の猛暑日に、頭痛を訴える患者さんが救急車で搬送されてきました。医師は一人。その直後に、突然の胸の痛みを訴える患者さんの受け入れ要請がありましたが、ベッドや人手に余裕はなく、他の病院に送らざるを得ませんでした。

結局、頭痛で来た患者さんは軽症で、この日は「熱中症が心配だから」ということで救急車を呼んだことがわかりました。

風邪をおして救急医の労働実態を伝えてくださった赤星昴己さん
Naoko Iwanaga / BuzzFeed

風邪をおして救急医の労働実態を伝えてくださった赤星昴己さん

赤星さんはこう訴えます。

「我々は全員を助けたいと思っています。原則断らないです。本当はどんな症状でも心配だから来てくださいと言ってあげたいんです。でも現実は、対応できるスタッフの人数が足りなく、受け入れられる人数は限られてしまいます。その結果、緊急度の低い患者が多くなると、緊急度の高い患者さんを受け入れられなくなるのが現状なんです」

別の日の夜間当直のことです。夜間は、一人の医師が救急と外来を担当しますが、その日は日中も50人以上の外来と救急車4台の対応を終えた後の勤務でした。

10〜30分おきに時間外の受診に対応しましたが、受診した11人中10人が咳や熱などの風邪症状や、下痢症状でした。

休む間もなく対応する中で、明け方、交通事故で右腕にけがを負って救急搬送された人がいましたが、右と左を間違えてレントゲン検査を依頼しそうになってしまいました。幸い看護師らが気づいて何事もなく済んだそうです。

「10人は本当に夜間救急でなければならなかったのでしょうか? 左右を取り違えそうになったのはただの凡ミスなのでしょうか?」

つまり、一晩様子を診て、翌日の日中に受診しても十分な軽症を次々診るために医師は疲れ果てて、医療ミスを起こしかねない心身の状態に置かれていたということです。

国民の医療の考え方の転換や理解が必要

赤星さんはこう訴えます。

「私たち救急医も一人の人間です。睡眠時間が全く取れないこともあるし、朝から一度も食事を取れないことがあります。その結果、無意識に集中力が低下していることもあるかもしれません。それでも患者さんが来れば、全力で診ています」

「すでに国民の皆様の医療ニーズに応えるために、我々は必死に頑張っています。我々だけでなく、どこのドクターも医療へのフリーアクセスを実現すべく、人数もギリギリで、勤務時間も長くして頑張っています。でもそれでも頑張りきれなくなって、地域のみなさんにご迷惑をおかけすることもあると思います」

「それでも、労働時間の厳しい上限規制が課されれば、提供する医療の質を低下させざるを得ない。なので、労働時間の是正の話は不可欠ですが、国民の医療への考え方の転換や医師への理解が必要不可欠なのです」

時間外受診はそもそも患者にとっても損になり、医師も疲れさせる結果、医療の安全性が損なわれる可能性がある

赤星昴己さん提供

そして時間外受診は医療者も患者さんもお互いに損になると訴えた上で、「#7119」の電話相談や、救急対応をしている病院への電話相談の利用を呼びかけました。

「チーム医療」国民に伝わるように

各委員からは様々な意見が出ました。一部をご紹介します。

実は「チーム医療推進」は何年も前からずっと言われ続けており、私は2010年から13年まで開かれた厚労省の「チーム医療推進会議」という検討会を取材したことがあります。

この時も、同じ問題意識から、欧米のナースプラクティショナーに近い、医師の業務の一部ができる「特定看護師」の創設が話し合われましたが、日本医師会などの反対が強く、骨抜きになった経緯を私は伝えました。

その上で、「チーム医療を推進するには患者側の理解ももちろん必要ですが、まず医療業界内での意見をまとめ、このままでは医療は持たないという意識を共有した上で、どうすれば安全に仕事を分担できるか仕組みを考えた上で国民に理解してもらうことが必要」と訴えました。

当然、日本医師会常任理事の城守国斗さんからは、「タスクシフトをしても医師の労働時間は15分程度しか短縮されないという報告もあり、安全性、有効性を確認しながら進めるべきだ」などの反論がありました。

コミュニケーションディレクターの佐藤尚之さんは「かかる側から見ると、看護師らは医師の下請けのように見える。中央集権的なイメージから離れられないので、様々な医療職が輪になっている(上記の)イラストなどを院内に貼って、実はチームで治療していますよというのを周知しないと患者側のイメージは変わらない」と視覚でチーム医療を伝えることを提案しました。

患者家族代表の豊田郁子さんからは「医療の現場にはこういう人がいて、こういう役割をしているということを患者にもっと伝えてほしい。患者はちょっとしたことを医師に聞くのは申し訳ないと思っている。チームにどういう人たちがいて、どういう利用方法があるのかという現状を伝えることから始めてほしい」と要望しました。

「生の医師の声伝える動画を」「#8000や#7119の周知徹底を」

赤星さんの発表に「もらい泣きしそうでした」と話した佐藤さんは、「若い人たちの生の声は心動かされる。こういうのを日本の100ぐらいの地域で動画にとる。自分ごとにできるような動画をYouTubeなどにあげ、そのうちのいくつかがCMになったり、番組に取り上げられたりすることはすぐにできる」と提案しました。

渋谷座長は「言い出しっぺで(動画制作を)やります?」と佐藤さんにふり、佐藤さんは了承しました。

また、赤星さんは発表の中で「専門分野以外の患者の受診は医師にとってもストレスで患者にとってもデメリットになる」として近隣で受診すべき医療機関を教えてくれるアプリの開発を提案しています。

これについて、「知ろう小児医療守ろう子ども達の会」代表理事を務める阿真京子さんは大阪の消防局のシステムを使って、既に同様の医療機関検索システムが作られている現状を伝えました。

また、前回、作成が決まった役立つ医療情報を一つに集めたウェブサイトについて、鈴木美穂さんは、「国お墨付きの、ここさえ見たら安心というサイトを作りたい」と提案し、どのような情報を盛り込むべきか問いかけました。

私は「最初は救急や小児救急など緊急性の高い分野に絞り、情報は一から作るのではなく自治体やNPOが作成済みの資源がどれほどあるのか調べてほしい」と次回の懇談会までの調査を厚労省に依頼しました。

デーモン閣下は、「まず#8000や#7119が世の中にあまり知られていないので、そこから周知徹底できないか。また、地域によっては全然できていないところもあるし、全国でバラつきがあるのを整備し、全国の人がきっちり使えるように上手に周知することができないか」と提案しました。

今回欠席した村木厚子さんは小児医療について、妊娠・出産時の産婦人科診療や、母親・父親教室、自治体の乳児訪問、乳児健診の際にどのような情報提供がなされているか現状を調べることを文書で要望しました。

会議の記録映像は1週間程度で公開されるそうです。

【1回目】まずは信頼できる医療情報を集めたサイトを これからも安心して医療にかかり続けるために


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筆者の岩永直子は、この懇談会に参加する構成員です。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に議論の内容を報じていきます。

Naoko Iwanagaに連絡する メールアドレス:naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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