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まずは信頼できる医療情報を集めたサイトを これからも安心して医療にかかり続けるために

厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」委員になりました。読者のみなさんと意見交換しながら、会議に参加します。

みなさん、今、医療に不満や不安を持っていませんか?

「待ち時間が長い」

「夜間や休日に具合が悪くなった時、かかるべきなのかわからない」

「3分診療でじっくり話を聞いてもらえない

医療の取材をしていると、こんな声をよく聞きます。

急病になって、迷った末に救急車を呼んだり、大病院や夜間・休日の救急窓口に行ったりして、大したことないとされて帰されることもしばしばあるでしょう。

でも、みんなが軽症で受診したら、病院や医師の負担はとても重くなります。過労から、うっかりミスや医療事故を起こす可能性だってあります。一人の患者に割ける時間も少なくなるでしょう。

そこで、厚生労働省は、これからも安心して医療を受け続けられるように、医療を受ける側にも協力してもらおうと考えました。その方法や広め方を考える上手な医療のかかり方を広めるための懇談会(座長=渋谷健司・東京大学大学院国際保健政策学教室教授)が10月5日に始まりました。

メンバーはデーモン閣下さんを初め、コミュニケーション・ディレクターのさとなおこと佐藤尚之さん、冤罪との戦いを経て厚労省事務次官を務めた村木厚子さん、患者の集いの場、マギーズ東京の共同代表を務める鈴木美穂さんら大物ぞろい。

そんな豪華なメンバーがいる中、なんとわたくしも参加することになりました。

初会合では、早速、あちこちに散らばっていて活用しづらい、信頼できる医療情報を一つの場所に集めたサイトを作ることが決まりました。

これから毎回、議論の内容をみなさんにお伝えして、意見交換しながら、それをまた会議での発言につなげる方法を試みます。私たちの医療を守るため、あなたもぜひご参加ください。

そもそも今の医療ってどうなってるの?

そもそもなぜ今、こうしたことを考える必要が出てきたのでしょうか?

まず、救急相談窓口に相談した人が、結局、どのようにするよう指示されたかという調査結果をご覧ください。

救急窓口にかかるか相談した人の半分は、救急にかかる必要がなかった

「うちで様子をみてください」と言われた人、「翌日の昼間に受診してください」と言われた人、「急がなくていいので、6時間以内に受診してください」と言われた人を合わせると50.2%と約半分です。

つまり、「救急にかかった方がいいかな?」と思った人のうち、半分は緊急にかかる必要がなかったということです。

そんな場合、相談できるかかりつけ医を持たないのはなぜなのでしょうか。

健康保険組合連合会の調査によると、「あまり病気をしないから」という人はいいとして、問題は、「適当な医療機関をどう探してよいのかわからない」「適当な医療機関を選ぶための情報が不足」を理由にあげる人が2割以上いたのです。

かかりつけ医の探し方がわからない人や情報不足を感じている人が2割

そうしたことも影響して、本来はかからなくてもいい軽症の人が受診して、病院の待ち時間が長くなっていることも伺えました。

病院の待ち時間が30分以上と答えた人は約半分いる

不要不急の受診で、医療の安全も脅かされている

さて、少子高齢化で医療が必要なお年寄りが増え、医療が高度専門化していることで、医師の負担は年々増加しています。患者さんやご家族への説明や話し合いの時間も、書類仕事も増えています。

そうした忙しさに追い討ちをかけているのが、時間外や夜間、休日の受診と言われています。

「緊急対応」「手術や外来対応等の延長」が時間外労働の理由の上位を占める

勤務医1万人アンケート調査(平成27年度)によると、「自殺や死を毎週・毎日具体的に考える」医師も3.6%(約28人に1人)いました。

忙しくて心身が疲れると判断力や注意力は鈍ります。医療事故につながりかねないうっかりミスを起こすのも、疲れや寝不足を感じている医師です。

医療事故につながりかねないヒヤリ、ハッとした経験がある医師は、疲れや睡眠不足を感じる医師で多かった

医師の過労はあなたの安全にも関わっているのです。

上手にかかれていないことで患者さんは損している

以上をまとめると、医療を受ける時に迷い、うまくかかれていないことで、医療側はもちろんなのですが、実は患者さんも以下のような不利益をこうむっている可能性があります。

  • 大病院や土日祝日に外来患者が集中することで待ち時間が増加
  • 医療の質の低下(診察の時に丁寧な説明が受けられないなど)
  • 自己負担の増加(時間外加算など)


では何を話し合うか?

そこで、まずはとにかく、医療の上手なかかり方をみんなで考えようと呼びかけられたのが今回の懇談会です。

いきなり大病院にかからなくてもいいように、子どもの急な体調悪化について電話相談できる「子ども医療電話相談事業(#8000)」や急病時に誰でも相談できる「救急安心センター事業(#7119)」がありますが、十分知られていません。

こどもの医療電話相談「#8000」番は9割が知らない

そこで以下のようなことを推し進めるために、知恵を出し合うことになったのです。

  1. いきなり大病院にかからないような取り組み(かかりつけ医の推進、#8000や#7119などの周知)
  2. 不要不急な時間外診療を減らす
  3. 平日でも受診しやすくするための取り組み


保護者への取り組み、宮崎県延岡市の地域的な取り組み

この日はまず、先進的な取り組みを学びました。

委員の中から、乳幼児の保護者向けに子どもの病気を学ぶ講座を開いている「一般社団法人知ろう小児医療守ろう子ども達の会」代表の阿真京子さんが、日頃の活動を発表しました。

この取り組みを始めたのは、小児科医の友人から「寝ないで24時間働き続けるパイロットの飛行機に子ども達を乗せたいでしょうか?」とメールをもらったことがきっかけです。小児は入院の必要がない軽症患者が9割以上です。

「子どもの命を守るためにも不要な受診は避けたい。そのためには病気や家で様子をみていてもいい状態を親が学び、判断できるようになることが大事だ」と気づき、11年半で5000人の親に受講してもらいました。

子どもの病気や緊急時の対応について学ぶと、落ち着いて家で様子を見ることができるように

受講後はまずかかりつけ医にかかって様子をみる、と行動が変わった親御さんも多いそうです。

阿真さんはこう言います。

「問題ある受診行動をとる人も、勉強している人もわずかで、大半の人は病気について知らないだけです。伝える時に大切なのは、あなたやあなたのお子さんを守るためだということです」

続いて、宮崎県延岡市の地域医療対策室で総括主任を務める吉田昌史さんが、疲れ果てた医師が続々と辞めて一時は崩壊しかけた宮崎県北部の中核病院、県立延岡病院を、地域住民と共に立て直した取り組みを発表しました。

延岡市は、全国で初めて「患者の責務」を書き込んだ基本理念を制定

県立延岡病院では、2007年度の夜間・休日患者数が12年前の3倍に急増したことが医師の過労を招き、医師の辞職や診療科の閉鎖につながりました。

しかし、必要な人だけ受診すると言っても、重い病気を見逃したり、ずっと不安な気持ちを抱えてしまうことになったりでは本末転倒です。

市民が不安なく、「うちで様子をみる」「かかりつけ医にまず相談する」ことができるようにしなければなりません。

市はかかりつけ医になれそうな市内のクリニックの一覧表や、夜間や休日にかかるべき症状か伝えるガイドブック、24時間の医療相談ダイヤルを作り、危機感を抱いて立ち上がった市民団体と一緒に啓発活動に取り組みました。その結果がこうです。

夜間・休日の救急患者数が半減!

この取り組みを継続しようと、2009年には全国で初めて、地域医療を守る条例を制定し、「かかりつけ医をもつ」「適正な受診」「医師等に対する信頼と感謝」など、市民の責務を盛り込みました。

吉田さんは言います。

「多数の市民が参加することで、医療はサービスではなく限りある資源なのだと伝わったと思います。地域医療を守ることが自分ごとになり、納得と覚悟が生まれ、具体的な行動の実行に移っていきました」

それぞれの委員の意見は?

続いて、委員の自由な意見交換が行われ、まず私は、官公庁などの役立つ情報を集めたサイトを作り、一般の人も議論に参加できるよう、SNSを活用することを提案しました。

情報を伝えるプロの佐藤尚之さんは、官公庁のサイトにある有益な医療情報が検索しづらい問題を指摘しました。

「ホームページの奥の方に有用な情報があり、PDFで書類を作っているので検索に引っかからないし、言葉使いもひどい。文章を書けるプロボノ(専門家のボランティア)を募って、情報をまとめることを明日からでも変えたらどうか」

企業や教師の過重労働の問題に取り組んできた株式会社ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは、6割が過労死レベルで働く教員の問題を保護者や子どもに伝えるため、夏休み映画上映前のCMを利用したことを紹介。

「届けたい相手に届けられる方法は何なのか考えるべき」と訴えました。また、「自殺を毎日、毎週具体的に考えているのが3.6%というのは今まで1000社ぐらいに関わっているが衝撃の数字。感情論ではなく、具体的にこうなのだと危機感の醸成ができるようなデータを発信していただきたい」とも述べました。

医療事故で息子を亡くし、患者と医療をつなぐ活動を続けるNPO法人架け橋理事長の豊田郁子さんは、「インターネットを使えない人、地域に出たことがなく、頼れるのは病院や保健所だけという人もいる。医師以外の病院の職員がサポートする仕組みも必要だ」と話します。

高齢化率が33%という延岡市の吉田さんも「地方の高齢者はネットやSNSを使えないので、世代ごとに広報のあり方を考えて」と注文をつけました。

日本医師会常任理事の城守国斗さんは、「情報はあふれているのに、スマホで病名を入れて検索すると、怪しいサイトが出てきて、情報源が確かなものとそうでないものが氾濫している。国としてまず何かあればここを見たらいいというサイトを作ってはどうか」と意見を述べました。

鈴木さんは「様々な専門家がボランティアとして参加し、タレントも入れて信頼できる医療情報を集めて伝えるサイト作りのプロジェクトチームを作ること」を提案、座長が「やりましょう」と応じて、まずはサイトを作る方針が決まりました。

会議の後には、デーモン閣下らが取材に応じ、デーモン閣下は、「#8000や#7119の電話相談は利便性もあり、医師の負担も減らすだろうから、まずはこれの周知徹底をしたらよいのではないか」と訴えました。

BuzzFeedでは、あなたが考える上手な医療のかかり方について、ご意見を募集しています。こちらからお願いします。


筆者の岩永直子は、この懇談会に参加する構成員です。謝金は辞退し、何のしがらみもなく、自由に議論の内容を報じていきます。

訂正

#7119の番号が一部間違っていました。訂正します。