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患者が望むのは治ることだけ HPVワクチン接種後に体調不良に苦しんできた親子の思い

「推進している人も反対している人も喧嘩しないで、一緒に治る方法を考えて」

科学の言葉だけでは、不安な心に届かない

日本では年間1万人が子宮頸がんとなり、約3000人が命を失っています。

その原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)の感染を防ぐHPVワクチン。日本で打つ人がほとんどいなくなってしまったのは、打った後に痛みやけいれんなど様々な症状を訴える声が相次ぎ、すっかり怖いワクチンだというイメージが広がったからでしょう。

どんなワクチンでも稀に重い副作用が起きます。しかし、HPVワクチンで話題となっている多彩な症状については、打った人と打っていない人で内容や頻度に違いが見られず、薬害とは言えなさそうだということが国内外の研究で示されています。

それでも実際、打った後に苦しんでいる人はいます。打った本人だけでなく、家族もまた辛い思いをしています。科学は統計や確率で薬の安全性について議論しますが、個人にとっては「今、この私の身に起きていること」が全てでしょう。

医療政策を決める時には、科学的な根拠やデータが重視されるべきです。でも、それを突きつけるだけでは、「副作用かもしれない」「大事な子供が不幸なことになったらどうしよう」と不安を抱いている個人の心には届かないことを痛感してきました。

そこでBuzzFeed Japan Medicalは、打った後の体調不良に苦しんできた親子のお話を伺ってきました。今回は、徐々に回復しつつある20代前半のさとみさんと母親のまりこさん親子(いずれも仮名)が体験し感じてきたことを紹介します。

このワクチンへの不安や恐れを和らげるために何ができるのか。科学の議論はいったん脇に置き、ワクチン騒動に巻き込まれた親子の声に耳をすませながら、ヒントを探りたいと思います。

むしろHPVワクチン推進派だった

さとみさんがHPVワクチンを打ったのは、高校1年生の時です。住んでいる自治体がその年まで費用を助成しており、年内に打てば無料だったため駆け込みで3回打ちました。母のまりこさんが勧めたのです。

母「夫がウイルス性のがんの疑いで治療を続けているため、患者会活動に関わっていて、HPVワクチンについてはむしろ推進派でした。『このワクチンでがんが防げるんだよ』と友達にも勧めていたほどです」

娘「私は注射がとても嫌いだったのですが、母の友達でがんになり子宮を取っている人も知っていたので、打っておいた方がいいのかなと思いました。当時は学校でワクチン接種の案内が配られ、保健室にも貼られていたんです。3回とも、とても痛くて打ったところは赤く腫れ、しばらく寝返りも打てませんでした」

娘「今振り返ると、注射を打った直後から急に大好きだった甘いものが食べられなくなりました。ポッキー1本だけでも気持ち悪くて吐いてしまう。食欲もなくなりました。その時は夏バテなのかなと思っていたんです」

実は、さとみさんはワクチンを打つ前の小学校と中学生の時に「起立性調節障害」と診断されたことがあります。自律神経がうまく働かなくなることで起きる病気で、起立した時の血流の調整ができず、だるさや頭痛、朝起きられないなどの症状が出ます。思春期の女性に多く、不登校の原因となることもある心身症です。

母「病院に行っても胃薬を出される程度でなかなか治らず、別の大きな総合病院に行ったら、今度もまた、起立性調節障害による低血圧症と診断されました。朝起きられなくなり、通学途中の坂も上がれなくなりましたが、その時はまさかワクチンのせいだとは思ってもいません。その後も、『低血圧症でもワクチンをうって大丈夫ですか?』と医師に確認して、3回目をうったぐらいですから」

高校在学中は同様の症状が続き、毎日まりこさんが車で送り迎えをしました。保健室で寝たり早退したりしながらだましだまし通い続けました。

就職してから悪化した症状

卒業後、地元の企業に就職。先輩も優しく、仕事も楽しくて、1年目はスムーズに通えました。ところが2年目に入った春、再び体調が悪化しました。

娘「ひどい頭痛が続き、吐き気も我慢できないほどになりました。仕事中も30分おきにトイレに行って吐こうとするのに、吐けない。脳外科を受診したら、先生に『君は肩が硬いねえ。緊張性の肩こりと頭痛でストレスからくるものでしょう』と笑われました。ストレスを感じていないのにおかしいと思いました」

「そこで出された頭痛薬は全く効かず、痛みを我慢しながら通勤しました。そのうち手も震えるようになって仕事がまともにできなくなり、上司に『早退してもいいですか?』と声を出すこともできないほどになったんです」

母「仕事から帰るとずっと横になることが続いていて心配でした。ネットで大人の起立性調節障害を診てくれる病院を探して受診し、初めてPOTS(体位性頻脈症候群)を見つけてもらいました」

POTSとは、起立性調節障害の数種類のタイプのうちの一つです。起立した時に心拍が急激に上がり、ひどいめまいや失神、胃腸症状や睡眠障害など様々な症状が現れます。

娘「先生から『これではもう働けないよ。早くいい人見つけて結婚しなさいよ』と言われました。私は、働いて3年ぐらい貯金をしてから上京し、バンド活動をするのが夢だったので、働けないと言われたのはショックでした」

母「先生から、『普通の子よりも何倍も疲れるんだから仕事できないのは当たり前』と言われたので休職させました。冬になれば落ち着くからと言われ、夏の数ヶ月間は休んだのです。血圧を上げる薬を飲んで頭痛が落ち着き、秋に復職しましたがまた頭痛や疲れがひどくなり、再び休職することになりました」

2回目の休職中、血圧を上げる薬を飲んでも一向に良くなりません。血圧も上が75、下が30と極端に低いままでした。

母「朝は気絶しているように寝ていて、起こそうとしても白目をむく。相変わらず食べるとすぐ気持ち悪くなるし、喉も痛むのでアレルギーの薬も飲み始めました。なぜいつまでもよくならないのだろうと途方にくれました」

テレビ番組のホームページで「同じ症状の女の子」を発見

娘は一生このままなのだろうか——。当時、夫は入退院を繰り返してなかなか働けず、長男が大学在学中に急に結婚するなど心配事が重なり、まりこさん自身もずっと前から患っていたうつ病を再発していました。

生活費の一部を給料から入れてくれていたさとみさんが働けないほど体調を崩したことは、まりこさんの不安に追い打ちをかけました。再びネットを必死に検索し、治療法を探したところ、あるテレビ番組の特集ページがヒットしました。

そこでは、娘と同じ年頃の女の子たちが、HPVワクチンを打った後に頭痛や手の震えなど様々な症状に苦しんでいる姿が紹介されていました。病院を渡り歩いても原因がわからず、将来に不安を抱いているところまで娘とそっくりです。

その番組に出ていた医師は、HPVワクチンの成分が免疫や神経の異常を引き起こすとする「HANS(HPVワクチン関連神経免疫異常症候群)」という仮説を提唱し、原因や治療法を研究している人でした。

番組の特集ページには、この医師と連絡を取るためのリンクも貼られていました。

母「まさかと思ったのですが、ダメもとで電話して、『こういう症状があるのですが』と聞いてみたら、問診票が送られてきました。書いていくとHPVワクチンが原因で起きると紹介されている症状に全て当てはまるのです。問診票を送ると治療できる病院の紹介状が送られてきて検査入院をしました」

血液、脳血流やレントゲン、心電図、記憶力の検査などをして、出された診断はHANSでした。

娘「なんだか実感がなさすぎて驚きました。テレビ番組で重症の子が激しくけいれんする映像を見たこともあったので、ワクチンのせいだとしても私はすぐに治るのだろうと思いました」

母「病院からもらったHANSの説明資料を読むと、起立性調整障害やPOTSも症状の一つだと説明されていました。大人になったら治ると言われていたのに悪くなるばかりで、モヤモヤしていたので、まさかと思いながらも、あのワクチンのせいと言われて答えをもらったような気がしました」

一方、この診断を告げられた時からまりこさんは別の苦しみが始まりました。

母「自分の責任でこうなってしまったというショックが大きかったです。私がワクチンを勧めたばかりに、こんなに長く娘を苦しめてしまったのだなと思うと、辛くて……。私のせいだと思いました」

1日に薬を30錠 症状が悪化し「寄り添う」主治医に交代

診断後、さとみさんは、ステロイドや抗てんかん薬など強い薬を1日に30錠近く処方されました。効果は見られず、かえって症状は悪化していきました。

娘「そのうちマジックテープをずっと触っているような痺れが出てきて手も上がらなくなり、足も動かなくなってきました。杖を使わないと歩けなくなり痛みも良くならないのに、先生はあまり私の症状について話を聞いてくれない。薬を減らしてくれと頼んでも全然減らしてもらえませんでした」

「それでも薬を減らすよう頼み続けたら、『諦めるの?どうしたいの?』と突き放されました。『お手上げだ』とも言われました。片道3時間以上かかる病院に通い、診察はいつも10分程度で『また薬出すから』で終わり。少しずつ先生に対する不信感が芽生えていきました」

母「『現状で手詰まり』と言われ、ショックでした。悩んだ末、同じ外来の他の先生に変えてもらいました。待ち時間は長いのですが、娘の気持ちに寄り添ってくれ、娘の目を見て30分ぐらい話を聞いてくださる先生です」

同じHANSを唱える医師でしたが、診療のスタイルはガラリと変わりました。さとみさんの希望にじっくりと耳を傾け、薬もすぐに減らしてくれました。徐々に体調は上向いていきました。

娘「診察中、その先生とは大したことは話しません。旅行に行った時は、『どうだった?』と聞かれて、旅先の食事で気持ち悪くなったことを伝えたら、『今度からそういう食べ物は避けようね』とかたわいもない会話ばかりです。話しやすくて、困ったら何でも聞いてもらえるという安心感がありました」

「今年の春頃に体調が安定してきたので、少しだけでもいいから働きたいと相談したら、『少しだったら大丈夫だよ。同じ病気でバイトをしている子もいるよ』と励ましてくれました。それを聞いて頑張ってみようと思ったんです」

週2回、接客業のアルバイトを始めたさとみさん。立ち仕事で、時折心拍数が上がって辛いこともあるそうですが、体調を崩した時は休みながらも、店からの理解を得て働き続けています。

「先輩やお客さんと話すのも楽しくて、なんとか働き続けられていることで、少し自信を持てたかもしれません。もう少し調子が良くなってきたら、徐々に働く時間を増やしたいです」

「副作用被害救済制度」で認定

ワクチンを打った後に健康を害した場合、公費で助成する「定期接種」となって以降は予防接種法による救済制度が、それ以前に打った人には薬の承認審査をするPMDA(医薬品医療機器総合機構)の医薬品副作用被害救済制度が適用されることがあります。

この救済制度では、薬の成分が症状を引き起こしたと証明することは必要ではなく、可能性を否定しきれないだけでも認定されます。

さとみさんは定期接種化前に受けたので、PMDAに申請し、治療費などとして十数万円を受け取りました。

「当初は入院治療費以外ははねられ、これまでかかった治療費や交通費を考えると全く足りませんし、2度目の申請は半年たってもまだ審査が終わりません。不便な制度で、被害に寄り添ってもらえているという実感はありません」

薬害を訴えている被害者連絡会や、国や製薬会社に損害賠償を求めている集団訴訟の原告団とも連絡は取っていますが、二人はそれぞれの理由で一定の距離を置いています。

娘「私はもう終わったことだと思っています。連絡を取り合っているHANSの友達の中には、打つ前に戻りたいとか、打たなければよかったと悔やんでいる子もいて、その気持ちもよくわかります。ただ、私は打たなかったら元気で仕事も続けられていたのかなんて誰にもわからないと思うんです。打たなくても何かあったかもしれないし、変えられない過去をくよくよ悩んでも仕方ないので、私はこれからのことだけを考えたいんです」

母「PMDAにも認められたし、私はたぶんワクチンのせいだろうなと思っているんです。裁判で原因をはっきりさせたいという気持ちもありますが、私自身がうつになって不安定ですし、戦うことに精神的に耐えきれないとも思うのです」

求めるのは治療法の確立

そんな二人が最も求めていることは、治療法の確立と言います。

娘「人によってそれぞれ症状が違うので治療が難しいことはわかっていますが、一つだけでも効果のある治療法が見つかれば安心できます」

さとみさん自身、体調が回復しつつあるのは薬のおかげだとはあまり思っていません。今の主治医の影響も含めて、ある心の変化が効果をもたらしているのではないか感じているのです。

娘「ネガティブではなくなったことが大事なのではないかと思います。HANSの子はみんな希望をなくしているし、将来が見えなくて悲しみ続けています。私も前はそうでしたが、休んでいる間に電子ピアノを買って練習して作曲するなど、できるようになったこともいっぱいある。今も痛みはありますが、それにずっととらわれていたら時間がもったいないと思っています」

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「もちろんポジティブになったからと言って、痛みが治まるわけじゃない。バイトは楽しいですが、きつい時だってあります。でも20代前半のうちに東京でバンド活動をする夢があるので、痛みよりも自分のやりたいことを優先したい。具合が悪くてどうにもならない日だって、気持ちだけでも前向きでいたら体にもいい影響を与えるんじゃないかと思っているんです」

HANSだと診断された友達も最近、バイトや新しいことを始めた子が増えました。そんな時、HANSに批判的な人たちから自分たちの苦しさを否定するような言葉がSNSなどで投げかけられると、前向きに生きようとしている心に水を差されたような気分になると言います。

娘「思い込みだとか勝手な言いがかりだとか、仮病だとか、仕事できないと言っていないで行動しろよと言われたこともあります。ワクチンでがんが防げるのは良いことですし、がんで大変な思いをした人も周りにいるのでがんが減るのは良いことだと私も思っています」

「でも、原因や治療法がわからないまま再開すれば、私たちのような子は減らないし、打つ人だって増えないでしょう。国は診療体制を整備したと言いますが、いまだに皆、まともな治療に行き着くまで苦労しています。私たちが体調を崩しているのは事実です。推進する人もその現実を見てほしいのです」

対立には意味がない みんなで治療法を見つけて

まりこさんは、先日、回復した女の子の体験談を見つけ、ネット上で仲間に紹介したことがあります。ところが、なぜか仲間から批判され、削除しなければならなくなりました。みんな娘の健康を取り戻したいはずなのに、なぜ回復した経験談を分かち合うのを嫌がるのかは今もわからないままです。

母「娘はだいぶん回復しているとはいえ、頭痛がひどくなるので枕も使えない状態です。ワクチンを推進する人の中には、精神療法である認知行動療法で考え方を変えれば治るかのように勧める人もいますが、前向きになったからと言って完治しているわけじゃありません」

「逆にHANSを診る先生の中にも、薬をいっぱい使う人もいるし、患者に寄り添ってくれる先生もいる。何が正しいと主張して対立したいわけじゃなく、私たちは治りたいだけです。ワクチン推進派、反対派で喧嘩ばかりしていますが、そんなことをしていないで、みんなで協力して良い治療法を見つけてほしいのです」

娘「友達はみんな怖いと言って、HPVワクチンを受けていません。子供がいる友達は、予防接種が全部怖くなったと言って赤ちゃんに受けさせるのも迷っています。ほとんど副作用なんて出ないとわかっていても、万が一、自分の子に何かあったらと思うとやはり皆不安なのだと思います」

母「娘には赤ちゃんの頃からほとんどのワクチンを受けさせてきましたし、色々な重い病気を防ぐためにワクチンは大事なものだとわかっています。ワクチン全てに対する不信感を広げないためにも、HPVワクチンの問題をしっかり解決してもらいたいと思います」


ワクチンの安全性を検証する厚生労働省の検討会は、ワクチンを打った後の体調不良の多くは薬の成分が原因ではなく、心理的・社会的な要因が影響する「機能性身体症状(心身の反応)」と整理しています。HPVワクチンを打つ人に配られるリーフレットにも、今後この説明が盛り込まれる予定です(記事はこちら)。

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