子宮頸がんなどを防ぐHPVワクチンのお知らせが、4月から本格的に対象者の女性たちに届けられるようになります。
小学校6年から高校1年相当の学年の女子と、平成9~17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)でうち逃した女子は、無料で接種できます。
どんなワクチンなのか1からわかるように、知っておきたい最新情報をまとめました。
参考にしてみてください。
1.子宮頸がんってどんながん?
子宮頸がんは、子宮体部と腟の間にある「子宮頸部」というところにできるがんです。
このがんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスが、セックスなどで感染することで起こります。
HPVは200種類ぐらいあると言われていますが、がんになりやすい型はそのうち20種類ぐらいです。このウイルスに長い間感染すると、まず細胞に異常が現れる「異形成」という前がん病変に進むことがあります。
異形成は自然に治ってしまうことも多いのですが、一部は、軽度、中等度、高度という順に進行していき、本物のがんである「浸潤がん」になります。
異形成のうちは経過観察をすることもありますが、がんになる可能性が高いと判断されると、子宮頸部の一部を切り取る円錐切除という手術をすることもあります。
この手術では子宮は残せますが、その後に早産や流産が起きやすくなることもわかっています。
浸潤がんになると、多くは子宮を摘出する手術が必要となります。抗がん剤や放射線による治療も必要となることがあります。
日本では年間約1万1000人が子宮頸がんになり、約3000人が命を落としています。20〜40代の子育て世代での発症も多く、「マザーキラー」とも呼ばれています。若い女性も無視できないがんなのです。
2.HPVワクチンって何を防ぐの?
子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、セックスやアナルセックス、オーラルセックスなど性的な接触で感染します。
セックスの経験がある人の8割が感染するありふれたウイルスですが、一度感染すると自然な免疫の力以外では排除することができません。
そのウイルスへの感染を防ぐのがHPVワクチンです。がんになる原因をもとから断つワクチンというわけです。
HPVの中でも特にがんになりやすくて進行も速いのが「16型」「18型」です。定期接種に使われるワクチン(2価ワクチン、4価ワクチン)は、この2つの型への感染を防ぎます。子宮頸がん全体の6〜7割を防ぐ効果があると言われています。
4価ワクチン(ガーダシル)の方は、この2つの型に加えて、性器にできる良性のイボ「尖形コンジローマ」の原因となる「6型」「11型」への感染も防ぎます。
また、まだ自己負担ですが、この4種類に加えて、5種類のがんになりやすい型への感染も防ぐ9価ワクチン「シルガード9」も発売されています。9割近い子宮頸がんを防ぐことができるとされ、3回で約10万円の費用がかかります。
専門家は、9価ワクチンが公費負担になることを待たず、2価や4価をできるだけ早くうつことを勧めています。
3.誰が無料で受けられるの?
無料で受けられる「定期接種」の対象者は、小学校6年生から高校1年生相当の学年の女子です。標準的な接種時期とされる中学1年生になるタイミングでお知らせを送る自治体も多いです。
国は2013年4月からこの学年の女子を定期接種の対象にしています。しかし、接種後に体調不良を訴える声をメディアが副反応と決めつけて報じたこともあって不安が広がり、国は積極的にお勧めするのを一時的に止めました。
安全性や効果が十分に検証されて8年半経った昨年11月にお知らせ送付の再開が決まりましたが、この間、お知らせが届かなかった女子は、自分が対象者であることも知らずに無料接種のチャンスを逃した人も多いです。
この平成9〜17年度生まれ(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日)で接種を逃した女子に対して、厚労省は今年4月から3年間、無料で接種することを決めました。これを「キャッチアップ(追いつくための)接種」と言います。
いずれも住民票のある自治体からお知らせが届きますので、それを見て手続きをしてください。
また、無料接種の期間を逃して、自腹で接種した人に対しては、厚労省は後からその費用を支払うこと(償還払い)を決めました。
平成9年4月2日から平成17年4月1日までの間に生まれた女子で、定期接種の対象年齢を過ぎてHPVワクチン(2価、4価)を自費で受けた人は、お住まいの自治体に申請すれば、かかった費用が返却されます。
接種して支払ったことを証明する領収証の原本や、接種記録が確認できる母子手帳や予防接種済証などの写しが必要となります。
4.男性は必要ないの?
HPVというウイルスは子宮頸がんのほか、肛門がん、喉のがんである中咽頭がん、陰茎がん、腟がん、外陰がんにも関わっています。4価ワクチンは自費ですが、男性もうてます(3回で約5万円です)。
HPVは男性がかかるがんにも関わり、セックスなどでお互いうつし合ってしまうので、海外では男子もHPVワクチンを公費でうつ国が増えています。
日本でも男性を定期接種の対象にすることが議論されていますが、今は世界的にHPVワクチンの需要が高まり、不足している状況です。WHOも若年女性の接種を優先するよう推奨しており、まずは実質9年近く接種がストップした女性から接種を進めようとしています。
5.HPVワクチンって効果があるの?
2020年10月にスウェーデンから、HPVワクチンが子宮頸がんを防いでいることを示す世界初の報告がありました。
4価ワクチンを接種した10〜30歳のスウェーデン人女性167万人を調べたところ、ワクチン接種を受けた人全体では63%、そのうち17歳未満で接種した人では88%もがんになるリスクが減少していたことがわかったのです。
イギリスからも2021年11月、12〜13歳でワクチン(2価ワクチン)を接種した学年は、子宮頸がんを87%減少することができたという調査結果が報告されました。
国の予防接種プログラムがない時代の女性があとから接種した場合、14 〜16歳で接種した学年では62%の減少、16〜18歳で接種した学年では34%の減少と、発症リスクの減少は少なくなります。
これらの研究は、HPVワクチンは子宮頸がんになることをかなりの割合で防ぎ、しかも若いうちにうつとより効果的だということを示しています。
2007年から世界に先駆けてHPVワクチン接種プログラムを導入し、男女共に75%前後の高い接種率を維持するオーストラリアでは子宮頸がん撲滅も視野に入り、2028年までに10万人当たりの新規発症者数は4人未満になると推定されています。
6.副反応は怖くない?
HPVワクチンも他のワクチンと同様、多くの人は注射をうったところに痛みや腫れ、赤みなどの症状が起こることがあります。また、ごく稀に重いアレルギー症状や頭痛・嘔吐などの副反応が起こることも報告されています。
ただ、多くの人の観察で確かめられたこれらの「副反応」とは別に、接種後に訴えられた様々な症状が副反応であるかのように報じられ、「怖いワクチンだ」というイメージがついてしまいました。
しかし、その後の調査で、こうして訴えられた症状のほとんどはHPVワクチンの成分が原因ではなさそうだと世界各国で結論づけられています。
信頼ある国際非営利団体による世界中の研究の評価「コクランレビュー」でも2018年の段階で、HPVワクチンの接種では重い症状や流産や死産のリスクは上がらないと評価しています。
日本でも厚生労働省の研究班「祖父江班」は2016年の時点で、接種していない女子でも同様の症状が見られることを明らかにしました。
名古屋市の3万人の女子を分析した「名古屋スタディ」でも、HPVワクチンを接種していない女子も同様の症状を訴えていることがわかり、接種後に訴えられている24の症状とワクチンは関係なさそうだと結論づけています。
日本と同じようにメディアの報道で接種率が激減したデンマークでも、国民データベースを使った研究で、HPVワクチンを接種した人としていない人の間では、接種後の症状の頻度に差はないことが確認されています。
さらに、韓国でも44万人の国民のデータベースを使って同様の調査が行われ、接種後に訴えられている頭痛やけいれんなどの33の症状について、ワクチン接種は関係ないと結論づけました。
ただ、WHO(世界保健機関)は、HPVワクチンに限らず、ワクチン接種への不安や痛み、SNSなどによるストレスで症状が現れる「Immunization stress related responses(予防接種によるストレスに関する反応)」を提唱しています。
特に HPVワクチンの対象年齢である思春期の女性は、こうした症状が起こりやすいこともわかっています。
万が一、接種後に体調が悪くなった場合、各都道府県にその症状を専門的に診る協力医療機関が設けられています。症状とワクチンとの因果関係が否定できない場合は、国からの補償も受けられます。
7.なぜ9年間もお知らせが届かない状態が続いたのですか?
2013年4月に定期接種になった前後から、痛みやけいれん、だるさなど、接種後にさまざまな体調不良を訴える女子が相次ぎました。マスメディアは連日、まるで薬害であるかのように報じたのです。
しかし、ワクチン接種後に訴えられた症状は、必ずしもワクチンのせいではないことに注意が必要です。
HPVワクチンが登場する前から、急激に心身が成長する思春期の頃には、手足の痛みや頭痛、だるさ、失神などの不調は起きやすいものでした。しかし、そうした症状をHPVワクチン接種のせいじゃないかと結びつける人もいました。
一部の医師はHPVワクチンによって免疫系に異常が引き起こされるとする「薬害仮説」を唱え独自の治療を行なっていましたが、この考えを裏付けようとする論文が撤回される問題も起き、医学界でこの仮説が証明されたことはありません。
また連日の報道で社会に広がった不安そのものがワクチンをうつ時のストレスになり、症状を引き起こす「予防接種によるストレスに関する反応」の可能性も今では理解されています。
ただし、この問題を考える時に大事なのは、HPVワクチンのせいかどうかは関係なく、女子たちや保護者が訴えている症状で苦しんでいるのは事実だということです。
しかし、こうした症状がこの年頃に起きることは医師の間でもあまり知られておらず、「気のせいだ」とか「 HPVワクチンのせいではない」と症状を訴える親子を突き放す医師もいました。
苦しんでいるのに仮病扱いされ、適切な治療も受けられず、医療への不信感や孤立感を強めながら、症状をこじらせていった人もいます。
こうしたさまざまな問題が複雑に絡み合い、社会全体にHPVワクチンを拒否する気持ちが広がりました。その結果、厚労省はHPVワクチンを「定期接種のまま、積極的に勧めるのは一時的に止める」というわかりにくい位置付けにしました。
その後、安全性、有効性の確認や体調不良が起きた時の診療体制の準備が進みました。当事者の女子や医療者、政治家の粘り強い働きかけもあり、昨年11月、国は積極的勧奨を再開していいという通知を自治体に出しました。
ちなみにメディアによる同様のネガティブキャンペーンで接種率が激減したアイルランド、デンマークでは、国は積極的に推奨する態度を変えず、安全性や有効性を伝える国を挙げたキャンペーンを繰り広げて接種率を回復させています。
参考:HPVワクチンの接種率激減を1年足らずで回復したデンマーク 日本と何が違ったのか?
8.子宮頸がん検診を受けておけば大丈夫じゃないですか?
子宮頸がんを防ぐには、20歳以上は2年に1回受けることが推奨されている子宮頸がん検診もとても重要です。
子宮頸がんは、HPVというウイルスにセックスなどで感染し、それが長い間、子宮頸部に感染し続けることで、細胞が壊れて発症します。
最初は「異形成」と呼ばれる異常が現れ、これが徐々に進行していくことで浸潤がんという本物のがんになります。
異形成の段階で発見し、がんになるのを防ぐのが検診の目的です。検診は細胞に異常が起きること自体を防ぐことはできないのです。
高度異形成ぐらいまで進むと、がんになる前に子宮頸部の一部をくり抜く「円錐切除」やレーザー手術などで手術をすることもあります。
ところが、この手術を受けた場合、早産や流産の率が上がる問題があります。また、病変やウイルスを全て取り除けなかった場合、再発する可能性も残ります。
ですから、HPVワクチンと検診と、両方しっかり受けることが重要です。逆にHPVワクチンをうってもすべてのがんを防げるわけではないので、20歳になったら必ず検診を定期的に受けましょう。
9.心配だったらどの情報を参考にしたらいいの?
もしあなたが以前からかかっている小児科や、産婦人科があったら、かかりつけ医の先生にまずは相談してみてください。
厚労省は、HPVワクチンについてわかりやすく説明したリーフレットを作っています。よくある質問に答える「HPVワクチンに関するQ&A」も作っていますので、それも参考にしてみてください。
民間団体では、医師たちがHPVワクチンに関する最新情報をわかりやすく発信している「みんパピ!」のウェブサイトがわかりやすいです。
BuzzFeedでもHPVワクチンに関する最新情報を常に報じています。こちらの記事も参考にしてください。
4月から対象者へのお知らせが本格的に再開されるHPVワクチン。「でもどんなワクチンなのかよくわからない」というあなたに、知っておきたい最新情報をまとめました。参考にしてみてください。