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「新しい生活様式」って結局、何なの?  提言作りに関わった専門家に聞いてみた

新型コロナウイルスと共存しながら生活するために「新しい生活様式」が、政府の専門家会議から提言されました。相互監視の目も強まり、息苦しい空気が広がっていますが、専門家は何を狙っているのでしょう?

新型コロナウイルスの流行は徐々に収まりつつあり、5月14日には39都道府県で緊急事態宣言が解除された。

それでも、再び感染が拡大しないように続けることが求められている「新しい生活様式」。

政府の専門家会議は5月4日の提言で「新しい生活様式」の実践例を示したが、「自粛警察」「コロナ自警団」と呼ばれるような人たちが監視の目を光らせる風潮も生まれ、息苦しさも広がっている。

公衆衛生や産業保健、感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにその狙いを再び聞いた。

※インタビューは5月16日朝にZoomで行い、この時点の情報に基づいている。

解除後もしばらく求められる「新しい生活様式」

ーーーー「新しい生活様式」とはどんなものでしょうか。緊急事態宣言が39都道府県で解除されましたが、その後も「新しい生活様式」を続ける必要があるのでしょうか


ほとんどすべての人は免疫がないので
だれもがまだ感染する、または感染させる可能性があります。

新しい生活様式のポイントは、3つあります。身体的距離の確保とお話する際にはマスクをすること、そして手洗いの励行です。

接触感染対策と飛沫感染対策を「大げさ」に日常生活にとりいれていただくことになります。

ーー「大げさ」というのはどういう意味なのでしょうか?

接触感染対策や飛沫感染対策は、これまでも言われていました。さらに、顔をできるだけ触らないとか、人と人との距離を開ける、話す時にはマスクをするといったことをみんな日常において実践するということです。

中にはこれまでは少し実践されていなかったものがありますが、それもやってみるということです。新型コロナの感染性は強く、様々な取り組みを追加で重ねていただくことが必要です。

様々な方策を今後も現場や日常で考えていただくために、具体例を多めに示しました。

ーー先生はこれまで「応用問題を解く感じで過ごせ」とおっしゃっていたのに、4日に出された提言での新しい生活様式の例は、箸の上げ下ろしのように、ここまで細かく専門家に生活指導されないといけないのかと正直反発も抱きました。

以前示された、「人との接触を8割減らす10のポイント」もそうですが、例として示して、それをみなさんの日々の生活の中で考えていただくことを期待していました。

もちろんすべての例ができるとは考えていません。オンライン名刺交換も例としてありますが、私もまだできていません。様々な発想を取り入れながら自分を守り、周囲の人を守っていただくことを実践しないといけない。

ぜひとも、前向きに取り入れていただければと思います。

例という形で盛り込んだわけですが、強制されていると感じた方がおられるのでしょうか。今では、すでに実践ができている人も多いと思っています。

一方で、全く意味のない感染対策をしていただくことは想定していません。特に多額のお金がかかるようなことを導入する際には要注意です。

ーー記者会見では、「家庭内でも2m距離を置かないといけないのですか」という質問まで出ました。ウイルスと長い付き合いになる以上、具体的な指示を求めるより、自分でその都度、考える癖をつけなければいけないのではないでしょうか?

リスクゼロにはならないこの状況において、それぞれで考えていくことが求められる時代です。それでも、最初はいろいろなご質問や不安があると思いますので丁寧にお答えしたいと考えています。


ただ、それが皆さんの足かせになりすぎないようにとも考えています。専門家は文章や考えが多くの人に公開されるとなると、やや厳しい対応を求めた回答になる傾向があります。


家族のような関係性だと家の中で2m離れることは難しいのは明らかです。

家族内感染のリスクは高いので、家族が感染した場合には対応が非常に難しいと考えています。高齢の方との同居の方は特に感染予防が難しいです。それでも諦めずにできることは対策として実践していただくことになります。

感染リスクの高い場と名指しされた場所は世の中から排除されるのか?

ーー専門家会議が5月14日に出した新たな提言では、緊急事態宣言解除後も、「接待を伴う夜間の飲食店」「居酒屋」「屋内運動施設(スポーツジム等)」や「ライブハウス」が感染リスクの高い場と名指しされ、引き続き避けるよう強く打ち出されました。日本水商売協会がガイドラインを作って営業を再開しようとしていますが、過去に感染が多かった場所でも工夫次第で営業はできるのではないでしょうか?

例えば、接待を伴う夜間の飲食店があがっている理由として3つあげられます。

接待をする20代から40歳代は感染していても、症状がないことが多いです。そして、若い人同士で集まる場があると気づかずに互いに感染する可能性も高い。

そして、接待を伴う夜間の飲食店は、重症化リスクの低い若い年代と、重症化リスクの高い年代が近くで交わる場所です。このような場所は他にはあまりありません。

また、すでに集団感染も事例として確認されていますので、ハイリスクの場所として市民にはお知らせをしなければなりません。

また、50~70代の人が感染した場合、同居の配偶者や、さらに高齢な親にも家庭などにおいて感染させてしまうリスクがあります。

このように、重症化リスクが高い年代の人への感染の連鎖を引き起こす可能性があるのです。それが一つ目の理由です。

二つ目は、こういう場ですでに不特定多数の人たちに感染が広がっていることが事実としてわかっています。お客さん同士、接待する人からお客さん、お客さんから接待する人という風に幅広く、いろんな人が入り混じって多くの人の感染事例を出しています。

三つ目は、そういうところで感染が起きた場合、これまでは、誰から誰に感染したかを調べるのに、調査に応じていただけないことが多かった。つまり感染経路を追うことが難しかったのです。

感染経路が追えない場合には、「孤発例」ということになり、地域での感染拡大の目安として捉えられることになる。孤発例が増えれば地域においてより強い介入が必要となるので地域経済への影響も大きくなります。

「新しい生活様式」で感染が防げたら名指しが外れる可能性も

ーー水商売協会のガイドラインでは保健所の調査に積極的に応じることもルールとして打ち出しています。ちなみにこういう場での集団感染は全国でどのぐらいあったのですか?

4月の緊急事態宣言発令の前ぐらいまでに、病院や施設の院内感染と同じぐらいの集団感染の件数が、こうした場で発生していました。

ただ、それはみんなまだ新型コロナについてわかっておらず、無防備でやってきた時期の話ではあります。

今後、名指しされているような業界でもガイドラインを作って、「新しい生活様式」を導入いただき、すこし大げさにでも十分な対策をしてほしい。

それで、感染を拡大させないようなサービスができるなら名指しがとれる可能性はありますが、時間はかかるかもしれません。

事業者もお客さんもそういう場を大事にしたいと思っている方が多いと思いますので、そこで感染を起こさないようにお互いに協力して、様々な対策を徹底的にやってほしいです。

ただし、「新しい生活様式」をもってしても集団感染が起きてしまったら、国民に再びリスクとして伝えなければいけません。

それは他の業種や場にも通じることです。

ーー酒が入ると自制が効かなくなるのではないか、とも指摘されてしまいますね。そういうことも危惧されているのですか?

酒が入って楽しくなってくると気が大きくなったりして、もうマスクは外していいやとか、言うことを聞いてくれなくなることもありそうですよね。トラブルになったりするとも思うのです。

人の行動を予測したり制限したりするのは難しく、お酒の力はそれなりに強い。他の国でも外出制限で夜の時間は早めに切り上げるように打ち出しているのは、深酒を避けさせるためともいえます。

東京も居酒屋を夜8時までとしましたが、夜遅くなればなるほどお酒の量が増えてきて、コントロールができなくなるからでしょう。

狙い撃ちの厳しい規制 闇に潜らないか?

ーー特定の業界を厳しく規制してしまうと、闇に潜らないかということも懸念されています。

感染症は弱い人を見つけるのがすごく得意です。

普段の生活では目にしない場所で感染が拡大しています。外国人労働者のコミュニティとか、社会的に弱い立場で病院になかなか行けない人で、接待を伴う飲食店などに従事している人は、今後も高いリスクに晒される可能性があります。

外国人の中でも医療保険に加入できない立場の人は、風邪のような症状があっても病院に行かないでしょう。また夜の街で働く若い方も、感染がわかったら2週間入院になってしまうから、なるべく病院には行かないという話も伝わってきています。

今後、新たな感染の拡大を考える中で、隠れて潜っていくという反応は当然あるだろうと思います。特定の業界をどこまで規制するのか、そこにいる人をどう守るのか。様々なチャンネルでの社会支援が必要だと考えています。

それも感染拡大の防止のために必要です。

イベントも様子を見ながら

ーーイベントも屋内では100人までに抑えてほしいし、開くとしたら感染がわかった時に追跡できるよう参加者の連絡先を聞いておくなどの対策が打ち出されています。

人数については、例えば、という形での例示です。

100人と200人で何が感染対策として違うの?と言われたら、エビデンスはありません。エビデンスを作りながらやっていかなければならないのが現状です。

「じゃあ110人はダメなのか?」と言われても、110人が特定の110人なのか、特定されていない110人なのか、活動は何なのか、参加者はどこから来るのか、年代はどうなのかなどによって、リスクは変わっていきます。そこまでは基準に書き込めないわけです。

今の段階では100人程度とお伝えして、それで行動していただく。その上で、100人で感染拡大が起きないという状況であれば、今後は増やせるかもしれません。

ーー徐々に様子を見ながら広げていくしかない。

そうです。まさに今、エビデンスを作りながらやっているところです。幸いにも日本はここまで感染を抑え込んで、できる限りの日常を取り戻したいと思っているところです。

取り戻したい日常はそれぞれ違うと思います。社会の中でどの日常を取り戻したいかを議論する中で、まず生活できるように仕事をするというのが一つあります。

また、これまで閉まっているところで言えば、小中学校がある。学校を開くと人の動きが出てくるから感染拡大リスクを多少なりとも上げます。親は仕事に行けるようになったりもします。

ここまで長い期間を閉めていますので社会の中で取り戻したい日常の一つです。それに対し、「不要不急」なものは本来であればもう少し待っていただきたい。


韓国で最近、クラブで集団感染が出て、学校の再開がさらに1週間延期になりました。非常に社会への影響が大きかったです。

「不要不急」の線引きいつまでするのか? 「自粛警察」の息苦しさ

ーー「不要不急」かどうかは、人それぞれです。接待を伴う飲食店で働いている人はそれが生活の糧であるから必要火急です。居酒屋に行くことが生活の上でとても大事な要素になっている人もいる。特に義務教育は大事というのもわかるのですが、生きる糧も大事です。いつまで「不要不急」の線引きはなされるのでしょうか?

それは、政治が決めることだと考えます。各都道府県や地域で考えることです。都道府県全て状況が違うので、全国一律の対応を示すことは難しいです。

学校をどうするのか、美術館や図書館をどういうところから開けるのか、接待を伴う飲食店はどの段階で開けるのか、それは都道府県の流行の状況や社会環境の中で決めるしかない。

都道府県内でも地域によって状況が違うのですから。細やかに地域で見ていただくしかない。

ーーどれだけ対策をしていたとしても、万が一、1人でも感染者が出ると責められます。ルールができると、このルールを破っていないか、相互の監視が酷くなっています。「自粛警察」や「自警団」と呼ばれる人が監視の目を光らせています。そういう風潮についてはルールを作る側としてはどうお考えですか? 息苦しくてたまりません。

それはおっしゃる通りですね。

人の行動を変えるのは本当に難しいです。だけど、緊急事態宣言が出て、1ヶ月半、行動を変容していただいて、今の状態にあるというのは世界の中でも奇跡的な状態だと思います。

その中で反動として「自粛警察」が出ています。開けている飲食店にも批判の張り紙が貼られたりしていますね。感染がわかったあとにバスにのったという女性に対し、個人を特定しようとする動きがあったと聞いています。

公衆衛生の立場からすると、糾弾してほしいわけではない。差別や偏見の問題はすごく危惧していて、なんとかすべきだと考えています。弁護士会などでも考えを示してほしいと思います。

リスクについて、私達は偏った認知をしてしまいます。

行動経済学で言われるように、「人は大きなリスクは小さく見て、小さなリスクは大きく見る」ようなところがあります。「自粛警察」の人たちは、小さなリスクを大きく見ている可能性があります。

良かれと思っているのかもしれませんが、不安に駆られるあまり、間違った行動をとっているのかもしれません。

ウイルスと共に生きる日常をどう創るか 楽しさを取り込めるか

ーー21日に残りの8都道府県についても再評価するということですね。一部は解除するかもしれませんが、その後もウイルスは消えるわけではない。コロナと一緒に生きていく、付き合い方を我々は考えなくてはいけないですね。恐怖や同調圧力によってビクビクしながら生きるのも不健康な社会です。

そこに関しては、もう少し大きな哲学のようなものが必要だと思います。それは公衆衛生だけでは創ることができません。


先日、台湾CDCと会議がありまして、「台湾の方策の考え方は3つだ」と言ってました。一つは、「Fast(早さ)」、もう一つが「Fair(公正さ)」、三つ目が「Fun(楽しさ)」というのです。3つのFです。


政策をうつのが早い。市民からアイディアがあれば特定の電話番号に連絡すれば提案ができて、よければ取り入れることを迅速にやっています。


公正さは、マスクの購入にしても、保険番号で平等に得られるようにしています。


そして、楽しさというのはユーモアも含めてのことです。デマ情報や問題があれば、それをユーモアを交えて、ポジティブメッセージでデマ情報を駆逐する情報発信をしていると言っていました。


日本ではどうでしょうか。


早さについては、マスクや給付金が直ちに配られないことに不満を抱く人は多いでしょう。公正さも、10万円を一律に配るのが果たして公正なのかという議論はあるでしょう。


しかし、最も足りないのは、Funかもしれないです。ポジティブメッセージでやっていくのだという姿勢がメディアも含めた発信者も受け手も足りない。

もう少しユーモアも交えながら、コロナとうまくやっていくという哲学や動き様々なところから出てくるといいなと願っています。

苦行じゃなく、楽しみに変える発想で

苦行ではなく、できれば少しでも笑いにでも変えるぐらいの発想で取り組めたらいいなと個人的には思うのです。そうでないと続けられません。

先日、ある医師が、つまり、新しい生活様式とはこういうことですか?ということで絵を何枚かおくってくださいました。大げさに取り込んでいただきました。その医師は絵がとても上手で、仕事の合間に作ってくださいました。

「密です」ということに対して「疎」という表現になっています。表現はいろいろあっても良いと思います。「密でない」でもいいでしょうし。

ーー業種ごとの感染予防ガイドラインも81業種で作っていますね。業界ごとにも「新しい生活様式」が作られようとしているのですね。

内閣官房から各省庁で作るように指示して、各業界で作っています。これも81作って終わりではなくて、他の色々な業種でも作っていかなければいけません。そして、それを皆さんの実践に落とし込んでいく。

要は自分を守り、大切な人を守るためにどう行動したらいいかということです。自主的に業界が作ることは歓迎です。

自分たちでまず考えてみるということは大きな「一歩」です。すでに多くの取り組みがなされていますし、メディアも良好事例を報道してくださっていることに感謝します。

収束は一時的 今後も続く生活に楽しみも見出したい

ーー流行の第1波は収まりそうです。今後も私たちはコロナとうまく付き合っていけそうでしょうか?

今のペースで行くと、5月の末で緊急事態宣言は全国的に解除されるかもしれません。

でも私の印象では、悪天候の中で山登りをしている時に、一瞬雲の切れ目から太陽が見えそう、というような感じです。

ーーそんなレベルなんですか?

いつでもまた雲が覆って、太陽が見えなくなる可能性もある。今はそのような段階だと思います。

すでに社会活動が再開しているところも多いのですが、感染者の拡大は2週間遅れで見えてきます。6月初めから中旬にどうなるのか心配はしています。

39県が解除してもまだ気を緩めずに頑張っていただいて、まず31日に全国で解除を目指せたらいい。

今後も我々は同じ我慢を続けるのかというとそうではありません。既に我々はこれまで多くのことを学んでいます。3ヶ月ごとぐらいにピンチはあるのでしょうけれども、今まで学んだことを活かして、コロナと共存しながら日常生活を続けていくしかない。

いずれにしても、来年の春ぐらいまでは、冬場も含めて乗り越えてみないと中長期的な影響はまだまだわからないという状況です。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

和田さんがデザイナーの下部純子さんと組んで、個人で行なっているプロジェクト「stay home to save lives 新型コロナウイルス感染爆発防止のために私ができること」はこちら