いよいよ始まったゴールデンウィーク。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、帰省や旅行は控えることが求められるが、何に気をつけて過ごしたらいいのだろう。
息抜きもしながら日常生活を続けるための注意点を、厚生労働省で対策作りにも関わり、公衆衛生や産業保健、感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに再び聞いた。
※インタビューは4月23日朝にスカイプで行い、この時点の情報に基づいている。
「濃厚接触者」の定義 1m以内で、15分以上、マスクなしで会話は感染の危険あり
ーー「新型コロナウイルス感染症に関する専門家有志の会」の発信で、「濃厚接触者」の定義が変わったと書いていらっしゃいましたね。これはつまり、こういう条件だと感染しやすくなるよという条件ということですね。
これは、保健師さんが、濃厚接触者の聞き取りをするためのマニュアルの定義を元にしています。リスクの高い人を見逃さないように、定義がより具体化されたのです。
そこから皆さんが学べることがあります。1m以内で、マスクなしで、15分以上会話することを避けてほしいのです。
発症の2日前ぐらいから感染力があることがわかってきましたので、発症の2日前から、このような接触があった人は「濃厚接触者」になりえます。もちろん総合的な判断もされます。例えば、症状があるかないかや、どういう場所であったかなどです。
つまり、お互い症状がなかったとしても、そのぐらいの距離で話をすると感染する可能性が少なからずあるということです。
日常において1m以内、マスクなしで15分以上、というのを参考にそうした会話の場を減らすようにしてほしいということです。では、10分ならいいのかとか、そういうことではありません。話をする際にはマスクをする、1m以上あけるというのを習慣化してほしいのです。
ところが、「これまで2mと言っていたのに、1mに短縮された。1〜2mの距離は感染しないのではないか」と勘違いしてしまう人がいたようです。条件が緩和されたように思った人もいたようですが違います。
これは、あくまで保健師らが調査をする際のマニュアルですので、より感染リスクの高い人を見落とさないように明記したということです。
専門家会議「10のポイント」「自分たちでも考えてほしい」が裏メッセージ
ーー4月22日に「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」が出ました。人との接触を8割減らす10のポイントが出ましたね。スーパーや公園も気をつけるように強調されていたのが印象的でした。
一般の人にとって、今回の提言で一番身近で気になるところは、スーパーや公園でどうしたらいいかということでしょう。
両方で共通する対策は、熱や風邪のような体調不良がある時は利用を控えるということと、基本的な衛生習慣を守ることです。手洗いをするとか、密集にならないように人の多い時間を避けるなどですね。
この10のポイントは、参考例を示しています。私としては、ここから読み取っていただきたいのは、さらに、現場や日常生活のなかで、日々の工夫も含めて自分たちでも考えてほしいということです。
公園といっても、いろんな公園があります。井の頭公園のような有名な公園から、近所の名前もないような広場まで色々ある中で、一律の対策を示すことは難しいです。
1人1人が「ここってどうなの?」と、その日その時の状況を見て、「今、この場所って大丈夫なの?」と考えてほしいのです。
ちょっと人出が多かったら場所を変えるなど、自分で考えて行動してほしい。一つ一つの場に行政や外部に基準を求めたり、どうするんだと詰め寄ったりすれば、結局、一律に閉鎖することになってしまいます。
公園は、一律に閉鎖するのではなく、地域での話し合いなどにより、使い方の工夫、感染対策についての使用者への協力を呼びかけることにより継続して利用ができることが望ましい。(専門家会議4月22日提言より)
提言でも、「一律に閉鎖するのではなく」と書いてあります。一律に閉鎖する必要はないのです。「じゃあどうするの?」というのは、管理している市町村や皆さんの地域で話し合ってほしい。
一律に閉鎖して、行く場所がなくなってしまったら、年単位の対策なのでみんなが困るはずです。どうやったら少しでも日常を続けられるのか、使い方の工夫を考えてほしいのです。
手洗い場がないなら、新たに設置するのは難しいかもしれませんが、消毒用のアルコールや手洗い用の水や石鹸も持っていくなど、いろんな工夫があるはずです。
自分たちなりにどうしたらいいかということを常に応用問題として考えていくことが大切です。
マニュアルを欲しがる日本人 それが自分の首を締める
ーーこういう注意を書くと、必ず「この場合はどうか?」という質問が来ます。細かいマニュアルを欲しがるのはなぜなのでしょうね。
対応できている人はできているのです。でも、そうでない人もいます。結局、細かい基準を求めれば求めるほど、自分たちの自由を狭めていくことになりかねません。
もし閉鎖してしまったら、今度は開ける時が大変になります。1回始めた対策を解除するのも難しいのです。この状況が1年続いたらどうなるのか、ということを考えて、解除するところは解除しておかないと、チグハグな対策になります。
もちろん、リスクの高い所や、必須の対策は様々な形で示されていますのでそれは参考にしていただきたいです。
ーー当初は3密(密閉、密集、密接)が揃ったところが危険と言われていたことが、「公園のようなオープンスペースなら、3密揃ってない。公園なら密集していてもいいのだ」と誤解を招いたような気がしますね。
確かに3密が揃うとリスクは高い。例えばライブハウスなどですね。
屋外でも確かに感染事例はあります。1m以内で15分ぐらい話した人でも感染しています。
そうしたなかでのポイントは、「いろんな対策を重ねる」ことです。
それでも、リスクはゼロになりません。
例えば、子どもと一緒に出かけて、お友達の親子とばったり公園で出会ったら、「お友達が来たから帰りましょう」とはならないですよね? お互いに仲がいいなら、親同士は話をするならマスクをして、2m離れて話しながら子どもたちが遊ぶのを見守るなどが取り得る対策ですよね。
子ども同士で遊ばせるかどうかは親の判断です。もし、高齢のおじいちゃんやおばあちゃんと同居しているなら、感染するからやめとこうという判断もあるかもしれません。それはそれぞれで判断するしかない。
ただ、それが中長期に続くことも天秤にかけないといけない。本当に今のこの状況は難しいです。
子ども同士の感染は大人ほどないとは言われていますが、そのリスクをどう評価するかは個々人の親が判断するしかないと思います。
リスクも引き受けた上で、考えてほしい
ーーこれは公園とかスーパーだけでなく学校などでも言えることですね。
個人、家庭、事業者ができるだけの対策を重ねて、どうやってリスクを引き受けながら生活していくかということを考えないと、年単位なわけですから続きません。みんなで開けるために知恵を絞るしかないのです。
5月6日まで閉まっている学校が全国では9割に上ると聞きました。この間、学校に絶対にやってほしいのは、衛生習慣の徹底と、学校側の態勢強化です。
適切な手洗いの方法やタイミングや、熱を測る方法などを今から子供達にも練習させておいてほしい。
今は休みではなく、開くための準備期間なのです。コロナに関して勉強する、そして対策をする時間だと思ってほしいのです。
体調確認をする、手を洗う、体調が悪かったらちゃんと申し出て休んでもらうということを練習しておく時期です。
休みの間にいつもの宿題やプリントだけを渡して終わりではだめです。
先手を打って、学校が再開した時に、どう行動できるかをまさに今考えておかなければいけません。地域とも対話をしなければいけません。教育委員会は管轄する地域の保健所などともなんらかの連携を持つ。
ある関東地方の市は5月末まで開校しないと聞きました。
現在感染者が減っているのですから、むしろ5月7日あたりが一番感染者数が落ち着いているタイミングかもしれません。5月末の状況はだれにも予想ができません。再び感染が拡大して閉めないといけないということにもなり得ます。
小中学校は生活圏内での地域での感染拡大がなければ感染リスクは低いと考えられます。こうした状況をモニターしながら、迅速にあけたり、しめたりする態勢が必要となります。そうできるようにすることを教育界の方に考えていただくしかないです。
もちろん難しいです。海外でもですが、まずはそれぞれの最高学年から始めるというのはありです。
高校だと高校3年生は高校卒業要件にもかかわります。大学も医療系だと国家試験受験資格にも影響します。こうした学年から徹底的に感染対策を教育して、なんとかできないか方法を考える。
高校や大学は移動距離が長いこともあるので小中学校よりも今後難しさが出てくるでしょう。
小学校中学校でも同様に最高学年ぐらいからはじめてみる。小学1年生から始めるより6年生の方がやりやすいはずです。
そんなことできない? でも、これまではできないとしても、そういうことを考えていただくしかないでしょう。
冬はかぜをひく子どもが多いです。この状況が続く以上、冬の学校運営はかなり厳しいです。今すぐにでも教育界は様々な検討をすることが必要です。
また、図書館のような比較的感染リスクが低い場所も地域の流行状況に応じて、開けることも考えてほしい。様々な工夫をすれば比較的あけやすい場所です。こうした場所から徐々にあけていかないと、他があきません。
「新型コロナウイルス流行下における小学校・中学校の再開と休校の考え方」(4月6日)
「新型コロナウイルスとの戦いと共存への中長期的見通し」(4月14日)
スーパーはどうする?
ーー日用品を買うのにスーパーへ外出するのはいいよと言われていたわけですが、3密の温床になってしまっているようです。行政のメッセージが、「スーパーは安全」と捉えられてしまって、感染を避けるために気をつけることがいまいち理解されていなかったのでしょうか。
スーパーで感染したという事例はいまのところ確認されていません。しかし、従業員の方も感染リスクがあるなかで頑張っていただいていることに私も消費者の1人として感謝申し上げます。
繰り返しますが、今回の専門家会議の提言の肝の一つとも言えるのは「事業者はそれぞれで感染対策を自主的にも考えましょう」です。
現在休んでいる事業者も、どうしたら事業を感染対策しながら再開できるかを考えなければならないのです。だれかが出してくれるわけではありません。
スーパーは自粛生活で自炊も増えて人が多くなったので例としてあがっています。
これをヒントに、それぞれの生活の場でどう行動するか考えてほしいのです。
ーー「この場合はどうなんだ?」と細かく質問するのではなく、自分で考えてみてほしいということですね。
スーパーの皆さんもお互いに学び合って対策されているように感じます。それはとてもすばらしいことです。時間差の入店を取り入れたり、レジを待つ客同士の距離を床に貼ったテープで確保されたりしています。
感染防止のための基本的な考え方はこれまでもたくさん出しています。個人も事業者も自分で考えなければなりません。
注意が必要なのは、私たちは「小さなリスクは大きく見て、大きなリスクは小さく見る」というバイアスがあることです。
「こうなったらどうするんだ!」と問いただされることがよくあります。そういう時はいったん立ち止まり、そのリスクがどのくらいの頻度で起きるのか、またそもそももっと大きなリスクは対処できるのかを考えてみてください。
ポイントは連携と連帯 みんなで良好事例をシェア
5月6日まで、それぞれで考えてほしい。その時のポイントは何かというと、個人だけでなく、都道府県や事業者もですが、「連携、連帯、そして行動」なのです。
うまくいった事例をみんなでシェアするのが一番いい方法です。地域やそれぞれの環境をよく知らない我々が示すよりもずっと、それぞれの地域を知っている皆さんが知恵を絞った方がいいアイディアが出る。「これいいんじゃない?」という事例を共有する。
わからなかったら連携する。そして互いに連帯して助け合う。今は、インターネットがここまで普及したのでこうしたことができます。
良好事例をシェアする時に、大事なのは、実効性であり、コストが低いこと、感染対策としてコストパフォーマンスがいいかなどです。
10のポイントでどれが優先されますかと聞かれますが、あの10項目が全ての人に同じインパクトがあるとは限りません。それぞれをやることで自分はどれぐらい感染リスクを落とせるのかということを考えてほしい。
「専門家じゃないから私たちにはわからない」というかもしれません。でもみんなで学んでいくしかない。だって、誰もが今後しばらくコロナと共存しなければならないのですから。
ーーちなみに先生は10のポイントでどれが大事だなと思っていますか?
10のポイントの枠外に書かれていますが(笑)、「手洗い」です。ソーシャルディスタンシング(社会的な距離を置くこと)が浸透してきたのはいいのですが、今度は手洗いというもっとも大事な対策がおざなりになり始めている印象があります。
例えば、お昼ご飯を食べようとする人が、その前に手を洗ったのか。出勤後に、会社に来て手を洗ったのか。
そういう、絶対やらなくてはいけないことができていない一方で、「こんなことが起きたらどうするんだ!」とあまり起きない場面のリスクにとらわれてしまっていることがあります。
対策を考える上では、何よりも手洗い、3密を避けるなどの基本を押さえた上で、様々な状況があった時にどうするのかという応用問題を考えてほしいのです。
私が10のポイントの中であえて、強調したいものを選ぶとしたら9番の在宅勤務や6番の遠隔診療でしょうね。この二つは個人で頑張ってもできません。中長期の未来を見据えて社会全体で取り組まなければなりません。
都道府県知事のリーダーシップが必要
ーー長期戦が考えられる中、これから先の対策を考える上で何が重要になりますか?
緊急事態宣言が全国に出ている中で、一番の肝は、都道府県知事などによるさらなるリーダーシップです。緊急事態宣言が意味をなすかどうかは、各知事の目的意識に左右されます。
緊急事態宣言を5月6日以降も継続するかは、新規感染者数や、感染のルートが追えない「孤発例」がどれぐらいいるかで決まると思います。
つまり、地域で感染が収まっているかどうかが重要なポイント。もう一つは、病床の確保ができているかどうかです。病床が逼迫している時に、宣言を解除してまた感染者が増えると困るからです。
5月6日で解除するかは政治が決めることですが、やはり解除が難しい地域は一部あります。現段階で、病床が逼迫している地域は、医療を守るために宣言は継続すべきだと個人的に思います。
夏に流行の状況がどうなるかはまだだれもわかりません。普通に考えると、確実に主戦場になるのは今年の冬です。冬は通常でも、風邪の患者も増えて、インフルエンザも流行し、ノロウイルスも流行します。
高齢者の肺炎も冬が多い。そこに新型コロナの患者が今のように混じってくる。想像するだけでも怖いですが、かなりの可能性で起こりえる現実から目を背けてはなりません。
そう考えると、12月以降は正月の帰省も止める意味で緊急事態宣言が必要になると考えるのが普通だと私は個人的に思います。
5月から11月ぐらいまでには、冬支度を絶対にしないといけない。
皆さんの住んでいる地域の市町村と都道府県の関係はどうですか?
例えば、神奈川県だと、川崎市、横浜市という大きな政令市があり、知事が全県掌握できているかというと実はそうではない。東京都でもそうです。特別区と東京都知事が一枚岩かというとそうではないところもある。大阪府と大阪市のように連携しているところはコロナの時代には強いかもしれません。
この感染症は中長期戦ですので、まずは1年続いたらどうなるか考えて、都道府県知事や政令市、その他の市町村と連帯する仕組みを今のうちから作っておかなければならない。
知事は特措法についてよく理解し、自粛をどこに要請するのか、医療体制はどう確保するのか、宿泊療養施設はどうするか、検査ができる態勢はどう確保するかといったことを、専門家も交えて議論して、確保していかなければならない。そうした専門家を交えた会議体がない都道府県もまだあります。
今回の緊急事態宣言は5月6日までの短い期間の期限付きでしたから、こうした連携ができていない都道府県はまだまだたくさんあるように思います。
市民として、行政がどう連携しているかも注目して、また、声を出しておかなければ少なくともこの冬には準備不足の地域では大混乱が起こり得ます。予算の編成も含めて自治体には考え直していただく必要があるでしょう。
ーー一般の読者には遠い話のように思えてしまいますね。
そうですか?そんなことないですよ。自分の住んでいる地域で、しかも自分達で選挙で選んだ知事や市長などが、どう連携するかが自分たちの生活や感染対策、場合によっては命に直結してきます。
自分の都道府県は適切な対策が取れているのか、ということは有権者のみなさんがチェックしなければいけません。問題があれば市民が声をあげる。都道府県知事のもとに連携や連帯がうまくいっているかも市民の力にかかっています。
差別・偏見には加わらないで つながって助け合おう
――最後にメッセージをお願いします。
現場の医療従事者に様々なご支援をありがとうございます。応援だけでなく、医療機関へのマスクの寄付、そして、クラウドファンディングへのご支援などもいただいております。
私もお会いしたこともないかたからご支援の声をいただいたりして、本当にうれしく思うことが励みです。
どうか、医療従事者への差別偏見に加担せず、保健所や行政などへの罵倒などはなさらないでください。そうしたことがあると、皆さんに跳ね返ってきます。皆さんの地元の大事な屋台骨です。心が折れて、既に立ち去りが起きている現場もあるのです。
コロナとの戦いは、つながって(連携)、助け合って(連帯)、行動することです。
【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授
2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
和田さんがデザイナーの下部純子さんと組んで、個人で行なっているプロジェクト「stay home to save lives 新型コロナウイルス感染爆発防止のために私ができること」はこちら。