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「客もスタッフもマスク着用」「一卓ずつ開けて客と座る」 水商売の業界団体が営業再開のためのガイドライン作成

新型コロナへの集団感染のリスクがあるとして、早い段階から営業自粛を呼びかけられてきた「接客を伴う飲食店」。業界団体の「日本水商売協会」は、自粛明けをにらみ、感染防止のためのガイドラインを公表しました。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、営業自粛を呼びかけられているナイトクラブやキャバレーなど、「接待を伴う飲食店」。

実際にこうした店で集団感染が繰り返し発生してきたからだ。

5月14日には緊急事態宣言が39県で解除されたが、安倍首相は解除された県についても「接待を伴うバーやナイトクラブ、カラオケへの出入は、今後も控えてほしい」と呼びかけた。

政府の専門家会議も同日、「接待を伴う夜間の飲食店」を「感染リスクの高い場」とし、今後も徹底的に回避するよう提言で求めた。

だが、こうした事態が長引けば、業界にとっては死活問題だ。

そこで、業界団体の一般社団法人「日本水商売協会」は、自粛明けに店を安全に営業するための「接待飲食店におけるコロナウィルス対策ガイドライン」を専門家の監修の下に作成した 。

元々、偏見を向けられがちなこの業界で、自ら安全を守るための対策を打ち出して理解を広げようという狙いもある。

代表理事の甲賀香織さんは、こう訴える。

「お客様に感染させたくない気持ちは誰よりも強いのです。緊急事態宣言が解除されてもウイルスは消えるわけでなく長丁場を覚悟しなければなりません。業界自ら対策を徹底しながら営業再開を考えたいと思います」

自粛明けをにらみ 安全に営業できるように

ガイドラインは、小池百合子都知事が3月30日に、バーやキャバレー、ナイトクラブなどの夜の盛り場への出入りを自粛するよう呼びかけたことをきっかけに検討を始めたと、甲賀さんは言う。

「排除されるのが当たり前の業界で、当初は補助や融資の対象からも外されていました。自粛が解除されたとしても厳しい目で見られ続けるでしょうし、『密になる』業態なのもその通りなので、安全に営業できるように自ら根本的な解決策をたてようと考えたのです」

日本感染症学会の評議員で、同学会などで組織する協議会認定のインフェクション・コントロール・ドクター(感染対策の専門医師)である奥村徹さんの監修も得た。奥村さん自身もナイトクラブの常連で、店の構造や接客の実態はよくわかっている。

ガイドラインでは、自粛明けをにらみ、キャバレー、ナイトクラブ、ホストクラブ、スナックなど、接待を伴う飲食店で働くスタッフやキャスト、客に守ってもらいたいことを定めている。

キャストとは接待を行うスタッフ(ホステス、ホスト、ママなど)のことだ。

甲賀さんは業界の厳しい状況を語る。

「国や都が支援してくださっていますが、家賃が高く、多くの社員を抱えている銀座や六本木など大都市の店は非常に経営が厳しくなっています。女の子が転職しないように自粛中も給与を払っているところもあります。なんとか自制しながら営業を再開できるようにしないと業界全体が潰れてしまいます」

「スタッフも客もマスク着用」「できれば接客はチェンジなしで」

ガイドラインの項目は、「必ずやるべきこと」と「できればやること」に分けて、店舗の経営状態に合わせて柔軟に対応できるようにした。

例えば、スタッフ、キャスト、客の全てが「必ずやるべきこと」としては、以下の4項目を、

  1. マスク着用。飲み物を飲む時以外は外さない。
  2. 検温による入店規制
  3. 感染拡大大国から入国後14日以上経過していない方の入店規制
  4. ソーシャルディスタンス(キャストとお客様のペアごとに一卓分あけて着席)


「できればやること」として、以下の1項目を掲げた。

  1. 接客のキャストはチェンジなしの固定(接触者をできるだけ減らす目的)


甲賀さんは、「結局、現場が徹底できなければ意味がないので、ソーシャルディスタンスについても、飛沫がかかりやすい対面ではなく横並びで座って、1卓ずつ開けるというルールにしました。これなら現実的にできるだろうと考えたのです」

医師の奥村さんは、感染対策として実効性のある内容であることと、科学的根拠に基づいた内容であることを徹底した。

「もともと差別されやすい業界ですから、『これぐらいならいいだろう』という緩い基準を作ったのでは社会の納得を得られません。内容は妥協していません」

「対策として空間除菌装置などを置いている店も多いのですが、効果は証明されていません。マスクも当初は無症状の人が予防のためにつける必要はないとされてきましたが、現在ではWHO(世界保健機関)もCDC(米国疾病管理予防センター)も感染予防のためにつけることに肯定的です。最新情報を反映させました」

本来は感染対策の観点からは、「キャストはチェンジなしの固定」も必須としたかったが、自粛生活の長期化でホステスやホストを十分な人数、確保できない店もあることを考慮した。

「全ての感染対策は立派なことを書いていても、実際にやるかやらないかが大事なんです。消化不良を起こしたら意味がないので、現実的にできるバランスを重視しました」

「保健所からの情報開示請求には、最大限応じる」に業界の本気を見た

元々、協会の役員らが作った案を元に、奥村さんが医師の視点で改良を加えた形にした。驚いたのは、業界が自ら厳しい案を出してきたことだったという。

定期的な換気、30分に一度の手洗い、うがい、ドアノブやテーブルの消毒などはもちろん、万が一、感染者が発生した時の対策も盛り込んでいる。

スタッフ・キャスト向けの項目

「スタッフ・キャストが必ずやるべきこととして、『保健所からの情報開示請求には、最大限応じる』という一文が最初から入っていたのです。お客さんの情報は外に漏らさないという夜の街のルールがある中で、この項目を入れてきたことに業界の本気を感じました」と奥村さんは言う。

元々、こうした店では集団感染が多発したが、保健所の接触者調査に積極的に応じない店が多いことが問題視されていた。

甲賀さんは、こう話す。

「お客さんを守る、という気持ちからでしょうけれども、ある種の言い訳とも捉えかねられません。でもお店が感染対策のために協力すれば、『顧客情報を漏らすのか』と責められかねない。そんな時に『協会の指針があるので』と言えるようにしたかったのです」

夜の街の「新しい生活様式」に

このガイドラインは、流行状況によって適宜、内容も更新していく予定だ。

奥村さんはこのガイドラインを「夜の街の新しい生活様式」として、安全・安心を作るために活用してもらいたいという。

「理想的なことを言えば、3週間、自宅にこもって誰ともまったく接触しなければ、流行は収まるのです。でも人は一人では生きていけない。社会的な動物ですから、社会的な生活をなしにして感染対策を考えるわけにはいかないのです」

「『不要不急』とされてしまう業界も、ある人にとっては人間として生きていくために大事な場所かもしれません。リスクはゼロにはできませんが、手も洗うし、マドラーも交換するし、マスクもするし、合わせ技を使ってリスクは減らせます。みんなで工夫しながら社会を動かしていく時期に来ていると思います」

だが、客はマスク着用や接客の固定など今までにない煩わしさに、不満を抱くことも考えられないだろうか?

「僕もそうですが、この1ヶ月間、馴染みの店に行けず一人、手酌で飲む寂しさをみんな痛感しているはずです。再開されるならどんな形であってもありがたいと思うでしょうし、きっとみんな積極的に協力してくれると思います」

甲賀さんも言う。

「国や都の方針を優先した上で、自粛を解除するとなった時に、業界としても精一杯の努力をするつもりです。世間のみなさんにもご理解いただきたいです」