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Go To事業は「ワクチン+検査」も検討を 公衆衛生の専門家が制度見直しを呼びかける理由

新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」の市中感染が始まり、徐々に感染者も増えています。公衆衛生の専門家が、第6波の始まりであることも想定し、今、どうしても伝えたいことは何なのでしょうか?

世界中が警戒する新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」の市中感染が始まっている。

年末年始、屋内での接触の機会も増える中、感染拡大による被害を最小限に食い止めるために、我々は何ができるのだろう。

BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに聞いた。

※インタビューは12月23日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

「水際対策で安心」は間違い 第6波の始まりと捉えて備えよう

ーーオミクロンの市中感染が複数の場所で確認され始めました。感染者も徐々に増えてきていますが、感染拡大が始まったと考えていいのでしょうか?

デルタ株の感染も少しずつ続いています。そしてどうやらオミクロン株も国内に侵入しています。

症状がある患者さんがきちんと検査を受けてくれたので、市中感染の事例は大阪、京都ではたまたま見つかったわけです。本来、我々はその方々に感謝しなければいけません。隠していたら、わからずに感染を広げていたかもしれないのですから。

感染者の個人情報が一部出ているようですが、その人たちを誹謗中傷したり、個人情報を詮索するようなことがあったら、今後は多くの方が検査を受けてくれなくなります。そうなると感染拡大の状況がわからなくなり、結局のところ皆が困ることになります。

オミクロンへの心配から騒ぐのかもしれませんが、誰も得しないので不要な個人情報を出すこと、探ることは自治体やメディアも含めて再度よく考えていただきたい。

今後、東京でも他の場所でもオミクロンの市中感染は出てくるでしょう。今、検疫で水際対策を厳しくやっていますが、そろそろ国内対応に切り替えて、国内で増えた場合どうするかに力を振り向けていかなければいけません。すでに自治体の担当者にも疲れが見えています。

オミクロンに対するワクチン効果の減弱が確認されています。特に感染予防効果は少ない。これからクリスマスパーティーや帰省など人が集まり、動くイベントがたくさんありますので、どうするかを考えなければいけません。

ーー第6波の始まりと考えていいのですか?

第6波をどう考えるかですが、まさにそれを想定した備えをする時に来ています。多くの市民が「検疫で水際対策を頑張ってくれているから、私たちは安心」と思っているなら全くの間違いです。

クリスマスパーティーや忘年会など、1年の中でも非常にガードが下がっている時期です。おそらく年が明けた頃から大きな感染拡大が始まる想定が必要です。

専門家も葛藤 今、ここで厳しい呼びかけをするか否か

ーー居酒屋で宴会をしている姿も見かけますが、今からでも忘年会や飲み会はキャンセルしてほしいというレベルですか?

それはなかなか難しい。また数ヶ月にわたる戦いが始まる可能性があるわけです。この段階で、そして年末の大事な時期に厳しく制限を呼びかけると、「またか」とうんざりしてしまうでしょう。

自治体や専門家から、あれもやめてくれ、これもやめてくれという話を今するべきか。それとも増えてきた時に、強くお願いするのか。この2年間を振り返ると、もう少しタイミングをみながら強い呼びかけを政府と一体になってしないと届きません。

政府は今、どちらかと言えば緩和を継続という態度でいます。専門家だけが制限を呼びかけてもメッセージは届かない。政府ともコミュニケーションしながらメッセージを考える必要があります。

今の段階ではそれぞれが「自分を守る」という意味で行動してほしい。帰省などをする時に故郷に持ち込まないためにも、今からでもたくさん人が集まるような場所は避けておいた方が良いでしょう。

または咳や熱など体調の悪い人は休む。そんな声がけをしながらお互いを守っていかないと、最終的にみんなが大変な事態になります。

ーー今日発表された尾身茂先生の談話だと、旅行や帰省、忘年会も慎重にと呼びかけてはいますが、やめてほしいとまでは言っていません。オミクロンの広がりが心配されますが、公衆衛生の専門家としてはどう考えますか?

専門家の中でも2つの意見に分かれています。

1つはこの段階から強く市民に訴えかけなければ、毎年感染拡大するこの時期、さらに地方に拡大するのを許していいのか、とする意見です。

もう1つは、今ここで厳しく言って、市民から「もうワクチンもうったのに」と反発を受け、収まるまで数ヶ月かかるかもしれないのに、その後の持久戦にかえってマイナスになるのではないかという立場です。

トータルで感染者をどう減らしていくのかという願いは一緒です。しかし、その戦術をどう選ぶかは、葛藤があります。

今の状況を踏まえてのメッセージとしては、少なくとも自分を守りたいと思っている人は自衛を強化してほしいと呼びかけたい。「私は関係ない」と思っている人まで含めて生活全般を制限すべきかと言えば、現時点のデータからそうは言えないです。ただ、今後の状況によっては急に変わる可能性はあります。

医療従事者と介護労働者の感染が増えている

ーーオミクロンの感染が広がるスピードの速さや、免疫から逃げる性質はこれまでの株にない特徴です。公衆衛生上の対策も変わってきますか?

免疫回避の性質によってワクチンの感染予防効果はかなり下がってくることがわかり、感染予防という意味では振り出しに近いところに戻されたと思っています。だから3回目を早めにうつことが求められます。

一方で、重症化予防については、2回接種をしている人に関してはある程度は維持しています。高齢者についてはまだ分かりません。。

重症化については、イギリス、南アフリカのデータが出てきて、デルタよりは重症度がやや低そうで入院リスクが下がっているという話があります。

それでも、個人のレベルで見れば、ワクチンを2回うっていても感染はしないように対策はした方が良さそうです。ワクチンをうっていない人はあらゆる手段を行って感染しない方がよいぐらいの病原性は残っています。

集団のレベルで見ると、感染力が非常に強い中で一定の数の感染者が出た場合は、日本でも今後医療の逼迫は起こり得ます。

日本はワクチンが急激に普及して少し安心して生活できた期間が続きましたが、この先は、対策を緩めたら緊急事態宣言を必要とするような医療逼迫が起こり得ると考えなくてはいけません。

今回の波で最初に起こることとして心配しているのは、海外のように医療従事者や介護労働者のオミクロン感染が増えることです。そうなると事業継続すら困難になります。

病院のレベルで見るとブースター接種は進んでいるのですが、前線にいる医療者や介護労働者の中で接種券が来ていないという理由で3回目の接種に至っていない人がいます。

せっかく水際対策で時間稼ぎをしていたのに何をしていたのか。接種券は半年過ぎていると、電話すれば早めに送ってくれる自治体もあるようですが。

ーーサラリーマンも今、徐々にオフィスで仕事をする人が増えていますが、再びリモートワークを考えなくてはならないですかね。

そうですね。軽症なのに検査すると陽性、という人が出たら感染が拡大する可能性があります。40代でもまだ2割ぐらいワクチン接種していない人がいますから、その人が感染した場合は相応の重症度になる可能性もあります。

今からでも2回接種していない人は最後のチャンスを逃さないようにしてほしいです。

1月に入ればあちこちで市中感染も

ーー年末年始、皆さんにどう過ごしてほしいかメッセージをお願いします。

お正月は受診して検査する場所が減ります。ワクチンを2回接種していると若い人だと症状もつらくないし、病院に行かない人もいるでしょう。

その結果、年始の頃は感染が見えず、正月明けに急に感染者が積み上がってきて、1月の2週目以降に各地で市中感染が起きることが予想されます。

最近、企業の人から「賀詞交換会を予定通りやってもいいか」と相談を受けていますが、市中感染が出てくる中でやっていいのか悩まなくてはいけなくなるでしょう。

また1月15、16日は大学入学共通テストもあります。市中感染があったとしても試験自体は感染リスクが低くできるので共通テストは行うことができると考えます。多くの市民はこの日に受験生にテストを受けさせるためにその前も含めて移動や接触を控えてほしい。

こうしたことから、1月以降はこれまでの3ヶ月のようには過ごせない可能性があることを知っておいてください。

もう一点は「ワクチン・検査パッケージ」が次第に動いていて、自治体や政府の「Go To事業」の中で「ワクチンまたは検査」という流れになってきていますが、「ワクチンプラス検査」に切り替えていかないと守れなくなる可能性があります。ワクチン・検査パッケージの制度の見直しが必要です。

ーーワクチンを接種していてもオミクロンは感染する可能性が高まっているから、ダブルチェックをという意味ですか?

そうです。Go Toトラベルも期待しているところもあるでしょうし、来年早々からGo To事業の一部も始まるようですが、オミクロンの拡大を考えるとタイミングは悪いです。よく対策を考えておかなくてはなりません。

市中感染が確認された大阪も京都も、感染した方は10日ほど前に感染しています。とすると、その10日間に他にも広がっている可能性があります。

またか、と思われるかもしれませんが、それは我々も同じ気持ちです。

しかし2年間の経験と学びから、前よりも上手に乗り越えていければと願っています。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授

Youtubeでも情報発信中。

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。