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大麻「使用罪」創設で激しい議論 座長「反対意見も反映して国民に提示」

大麻「使用罪」が検討されている厚労省の検討会のとりまとめ案に、「大麻の使用に対し罰則を科すことが必要」との文言が加えられました。しかし根強い反対の意見が複数出たことから、座長は反対意見も最終報告に盛り込む意向を示しました。

大麻「使用罪」の創設を検討している厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が第7回目の会合を開いた。

大麻取締法に「使用罪」を導入することをどう考えるか問いかけられた前回の会合では賛否両論が出され、国内の弁護士有志や関連学会薬物問題に取り組む人権擁護団体から反対の意見書が厚労省に相次いで提出されている。

ところが今回のとりまとめ案に入った修正では、

他の薬物法規との整合性の観点から、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い

他の薬物法規と同様、大麻の使用に対し罰則を科すことが必要である

と、検討会として使用罪創設を求めるかのような文言が加えられた。

これについて改めて反対意見が相次ぎ、激しい議論が繰り広げられた。

※この検討会は傍聴者がメディアに限られているが、録音禁止、発言者の特定禁止という特殊なルールが設けられている

賛否両論あったのに、「使用に罰則を科すことが必要」と追加

今回の取りまとめ案では、「大麻の『使用』に対する罰則」という項目が新たに加えられた。

これまで、大麻草農家が収穫の時に大麻成分を吸引して「麻酔い」という症状を起こすことを理由に「使用罪」が設けられてこなかったが、尿検査で大麻成分が検出されなかった調査結果を受け、こう書かれた。

制定時に大麻の使用に対する罰則を設けなかった理由は現状においては確認されず、今般、他の薬物法規と同様に成分に着目した規制とするとともに、大麻から製造された医薬品の施用を可能とすると、他の薬物法規との整合性の観点から、大麻の使用に対し罰則を科さない合理的な理由は見い出し難い。

また、大麻の単純所持で検挙された人の意識調査で、使用罪がないことが大麻を使用する要因となったと答えた人が2割いるという結果を示した上で、こうも書いている。

「大麻を使用してもよい」というメッセージと受け止められかねない状況となっていることから、他の薬物法規と同様、大麻の使用に対し罰則を科すことが必要である。

これまで反対の意見が出されたことも添えられたが、検討会が大麻「使用罪」を作るべきだと提言しているかのような書きぶりになった。

反対する医師 「国際的な流れに逆らうなら、日本独自の根拠を示せ」

このとりまとめ案の「使用罪」創設について、この日、議論の口火を切ったのは薬物依存症の患者を数多く診ている医師だ。

「結論から言うと使用罪の創設には反対。最初に言っておかないと、合意していないのに合意したようにメディアに書かれることがあるのではっきり言わなければならない」

その上で、大麻によって暴力犯罪や交通事故が増えている事実はなく、「ゲートウェイドラッグ(より強い薬物に進む入り口の薬)ならば、大麻が増えていれば覚せい剤も増えていなければいけないけれど、むしろ覚せい剤はどんどん減っている」と指摘。

また、健康被害についてきちんとした精神医学の研究は過去に5つの古い症例報告しかないとし、自身が行っている全国の病院調査では、大麻の患者の特徴は、「仕事についている患者が多い」「学歴が高い」など、「社会的な機能が高いことが逆に浮き彫りになっている」と指摘した。

そして現在、雑誌投稿中の論文として、「一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN」代表の正高佑志氏と行った市中の大麻経験者4138人の調査を紹介した。

この調査では、過去1年以内に大麻を使用した経験がある人の中で依存症は8.3パーセントで、不快な症状を訴えた3割のうち、数時間以上症状が続いて人の助けが必要だった人は0.12%だったことを示した。

大麻精神病と言われるような症状を示した人は1.3%で、統合失調症の紛れ込みを考えると「大麻の精神病惹起作用についてももっと慎重に吟味する必要がある」とした。

また、指定薬物として違法化された薬物「RUSH(ラッシュ)」について、「規制の根拠が薄い」として訴訟が起きていることも指摘し、「大麻を安全とは思わないし、使っていいとは思わないが、それがもたらす健康被害に照らしてみて、はたして(刑罰化は)どうなのかは慎重に考える必要がある」と訴えた。

そして、「回復支援や治療している立場から考えると、困っている人たちが治療や相談にアクセスできなくなってしまうことは無視できない」と刑罰化の弊害を指摘した。

若者たちを大麻乱用から守るために「使用罪」を作るという考え方については、「最近では少年法の対象年齢の引き下げが議論されている中で、若者たちがどんどん刑務所送りになるのではないかということも考えないといけない」とし、

「法務省の再犯防止推進計画の中でも拘禁刑以外のものを考えていく必要があると書かれ、SDGsでは薬物に関しては規制の強化ではなく回復支援を強調して書いてある。国際的な情勢にあえて逆らって新しく使用罪を作るのであれば日、本独自の、日本で行った調査の根拠を明らかにする必要がある」とした。

また前回、別の医師が「前科のつかない犯罪」とする案を提示したことについては、「大麻の所持は罰が下るけど、使用だったら交通違反のような反則となると、国民に逆に『反則程度で済むよ』という誤解を招きかねない。総合すると、(大麻取締法を)いじくらないでいいのではないか」と反対意見を述べた。

なぜ大麻で「スティグマ論」?

これに対し、「前科のつかない犯罪」を主張した医師から反論が出た。

「大麻精神障害に関する原著論文は5つしかないというが、私が調べただけでも15以上ある。この分野の専門家として絶対におかしい」と批判した。

また、「世界的に大麻はゲートウェイという見方は非常に強い」とし、覚せい剤の使用が減っている理由については、「所持や使うことについて捕まる薬物から捕まらない薬物へのシフト」があると指摘して、「ゲートウェイドラッグである大麻が増えれば覚せい剤も増える」という図式は成り立たないと述べた。

そして、GREEN ZONE JAPANと行った大麻使用者の調査については、「サイトを見ると、大麻に関心を持っている人がアクセスするところで、その結果をもって『市中の大麻使用者』という言い方が妥当なのか。母集団として偏っている」と調査の信頼性に疑問を投げかけつつも、この調査で依存症率が8%と出た数値については「決して低くない。無視できない」と述べた。

そして、「この検討会にとって重要なのは、若年者を中心とする大麻乱用者が増えていることに対してどうするか。具体的にいい方法はないか提案していただきたい」と問いかけた。

これに対して依存症をよく診る医師は、

「薬物に手を出す子どもたちを守るために、今ここで問題になっているのは刑罰。要するに一部の人を見せしめ、生贄にして、その脅しによって変えていくのがいいのかということだ。私はそれは違うだろうと思う」と使用罪の創設に改めて反対した。

「もちろん放置してもいいとは思わないが、包括的な教育が必要。ただ、少年施設に入るのであれば前科は消えるし、様々な教育の機会はある。大麻を使った子どもが少年法の適用年齢を超えている場合は、刑罰以外の方法でお願いしたい」

刑罰以外の具体的な方法としては、「起訴をしない、起訴猶予にして何らかのダイバージョン(刑事手続きから外す)にする。むしろ、精神保健福祉センターなど困った時に助けてくれる支援の資源を多くする。家族が相談しやすくする」と対案を述べた。

別の法律実務に詳しい委員は「大麻由来の成分でも他の麻薬と同じように医薬品として承認し、製造販売できるようにする。そのためには他の麻薬と同じような規制枠組みで、医薬品としての適正な使用以外は認めず、他の薬物と同じ規制にする、という非常にシンプルな話」と使用罪創設を訴えた。

一方、「使用を罪にすべきではないという時によく言われるのが、スティグマ論。犯罪者のレッテルが貼られて社会復帰が難しくなるという実態があるのは否定しないし大きな問題であるのは間違いない」とも認めた上で、こう問いかけた。

「大麻だけスティグマ論を取り上げて、他の薬物に関する規制との整合性を曲げてまで使用罪の部分だけ放置しておくのは理屈や合理性を感じない。大麻に関する特殊な考え方が背景にあるのか」

これに対し、再び使用罪に反対の医師が反論した。

「国際的な潮流を考えると、薬物の使用や少量の所持で罰することについては国際機関は懐疑的な姿勢を示している。司法問題ではなく健康問題として支援する流れだ。その流れの中で、今、新たに使用罪を作る必要はないのではないかと言っている」

またスティグマ については、

「弁護士の先生ならわかると思うが、前科のある方たちが就労するのは難しいことだし、どこに就職しても同僚と仲良くなればなるほど秘密ができる。依存症からの回復で一番大切なのは正直になること。秘密を持ち続けなければいけないことが回復を難しくしている。日本は厳罰主義だが、それをここで加速させる必要はない。それが使用罪に反対する理由」と説明した。

そもそも若者の大麻乱用は増えているのか? 「国際的な潮流」とは何か?

心理学に詳しい委員は、「使用罪」創設の議論のそもそもの前提となっている「若年層の大麻乱用が急増している」という主張に疑問を投げかけた。

その根拠として、委員が行った全国住民調査によると、大麻使用者は30代が最も多く、次が40代となり、20代は0.6%、10代は0.4%という結果が出ており、青少年を対象とした全国調査でもほぼ横ばいとなっていると説明。

「若者の間で大麻が急増しているという印象を思い描きがちだが、増えているのは『大麻事犯者』で、大麻で検挙される方が増えているだけのような気がする」


健康影響については、全国のダルク入所者695人に「最も問題となっていた薬物」を1つ選んでもらったところ、大麻は24人で全体の3.2%だった。薬物問題の影響の大きさは覚せい剤とほぼ同レベルで、大麻は軽い問題ではないことを紹介した。


さらに海外では、大麻がゲートウェイドラッグであることを支持する研究が出ているものの、同じ研究でアルコールやニコチンもゲートウェイドラッグとして指摘されていることも示した。


その上で、この委員は使用罪の創設について「現時点では反対」という立場を表明した。

「使用罪を作ったからといって、使用者が減るという根拠はないと思っている。検討会の資料では2割の人が使用罪がないことが使用のきっかけになったと書いているが、逮捕された人の情報なので、地域で大麻を使った人の情報として当てはまるかはわからない」

「仮に大麻使用者全体に当てはまる結果だとしても、大麻に使用罪があったから、この方々が使用をやめるとは限らない。この調査では『もし使用罪があれば、あなたは使用をやめますか?』とは聞いていない。したがって使用罪があることの抑止効果がどうかは不明ではないか」

「薬物事犯者に対する社会のスティグマが強いので、規制を強化するだけでは根本的な解決に至らない」と疑問を投げかけた。

さらに、「使用罪」創設の理由として、「他の薬物と整合性を取る必要がある」と説明されていることについて、こう批判した。


「なぜ整合性を取る必要があるのかわからない。大麻取締法だけ使用罪がないから使用罪を作るということであれば、結論ありきで検討会で検討する必要はそもそもない。G7で大麻医薬品が承認されていないから日本も足並みを揃えていくべきだと考えているのであれば、『使用罪』がないのも国際的な潮流。そこも海外の潮流に合わせていくことが大事」

「法律上の整合性を」「刑罰ではなく、代替的な措置を」

他に医療用麻薬を作っている業者の委員は、「日本というのは法治国家で、そこから逸脱したら必ず罰則があるべきだと思う」と使用罪創設に肯定的な意見を述べた。

「ダメ。ゼッタイ。」を推進する国際法の専門家は、「法律上の整合性の問題を考える必要がある」とやはり使用罪創設に賛同した。

大麻の使用経験もある委員は、「国際的な流れの中では、刑罰よりも地域や社会的な場所で相談ができる、刑罰や禁固を受けるのではない形の施策が望まれる。大麻だけでなく他の薬物も同じように運用されることを願う」と述べ、

「正直に相談できる窓口がないことが当事者としては悲しいし、僕と同じような境遇の人は増えないでほしい。自分はダルクという場所とつながって、様々な見方が変わってきた。刑罰に関しては市民団体も要望を出しているが、代替的な措置が必要なのかなと思う」と使用罪創設に反対した。

新聞に論説を書く委員は、「たばこやアルコールと同程度に使ってもいいものなら話はわかるが、使ってはいけないものなのだということであれば、(使用罪がないことは)若者が手を出してしまうバックグランドとして『使っても安全なんだよ』という誤解につながらないか」との意見を述べた。

薬物の成分を研究する委員は、「(精神作用がある大麻成分として規制される)THC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度に着目したルールを考えるのが妥当だ」と主張した。

「麻薬中毒者制度」は廃止  逮捕が支援につながるきっかけになるか?

使用後の再乱用防止と社会復帰支援策についても話し合われた。

麻薬に指定されている薬物の依存症を医師が診察した時に、都道府県に届けて長期間監視される「麻薬中毒者の届出制度」については廃止の方針が打ち出された。

違法薬物を使った患者を診た医師が警察に通報しなくてはならないという誤解を抱いていることについて、「誤解を解消するためにも、医師には守秘義務もあり、犯罪の通報等に当 たっては医師に一定の裁量があることを周知することが望ましい」という文言も盛り込まれた。

また、使用罪を作って逮捕されることが、回復支援や治療につながるきっかけになるという考えに対しても議論があった。

依存症の専門医は、「他の薬物と比べて大麻は依存症の診断で来る人が少ない。刑務所や保護観察所で覚せい剤の依存症をメインにしたプログラムだと大麻の人たちは乗ってこない。薬に振り回されて生活が破綻したという実感がない。依存症ではない人に依存症のプログラムを提供するとミスマッチになる」とし、

「本人の価値観や信念に介入することになると、それは医療ではなくて、ブレーンウォッシュ(洗脳)に近くなることを危惧している。だからと言って何もしなくていいとは思わない。あえて大麻を使わなければならない理由として、コミュニティの色々な事情があったりして、もしかしたら人との触れ合いなどが必要かもしれない。いずれにしても使用罪と回復支援が合体して議論されることには抵抗感がある」と述べた。

大麻を使用した経験のある委員は、「当事者の中で捕まったことによって治療施設につながることができたという人もいる。それを全て同じように扱っていいのかは疑問」とした。

その上で「その人自身を見て、刑務所に入った方がいいのか、地域の中で支援した方がいいのかという評価は行われていない。全員捕まる。依存症が進んでいる、進んでいないにかかわらず全て同じような処遇になる。そうならない方がいい」と一律に刑罰で取り締まる効果に疑問を呈した。

「ダメ。ゼッタイ。」論争再び

薬物乱用の啓発運動として行われている「ダメ。ゼッタイ。」キャンペーンについても再び論争があった。

依存症を診ている医師は「ダメ。ゼッタイ。は良くも悪くも破壊力があって、ものすごく普及している。さらに前段に、35年前の『覚醒剤やめますか、人間やめますか』の延長線上にこのキャッチコピーが信じられている」と述べた。

また、「薬物の経験率が低い国ほど、精神疾患にかかっていたり、トラウマ体験があったりする人が多いと言われている。日本ではそういう人がハイリスク」と説明。

「『ダメ。ゼッタイ。』をやるとリスクの高い人たちが取り残されて分断する啓発になる。いずれにしても、脅し教育が効かないエビデンスは出ている。有害無益だ」と、「ダメ。ゼッタイ。」からの脱却を訴えた。

これに対し、「ダメ。ゼッタイ。」を推進する委員は、「『覚せい剤やめますか?人間やめますか?』という乱用を始めてしまった人への呼びかけの延長ではなく、全く違った考え方でできたものである」と理解を求めた。

依存症当事者の委員は、「『薬物の怖さを伝えてほしい』というのが教育者に多いのは肌で感じている。ただ、薬物に手を出す子どもたちの背景や困っている真の部分を私たちの体験を話してわかっていただけることもある。いろんな角度から正確な情報を子ども達に提示することが必要」と薬物使用に至る背景事情を伝えていく必要性を訴えた。

依存症を診ている医師は、一次予防で大事なこととして、「ダメと言わないことだと思う」と言った。

「友達に相談した時に、『やっちゃダメじゃん』と言われたらもう相談できなくなる。犯罪化もそうだし、啓発においてダメという言葉を先に使うことのリスクはそこだ。自殺予防教育でも『死にたい』と言った子に、『死んではいけない』と言ったらその先の説明ができなくなる。頭ごなしに言わないことが大事」

そして自身も10年前には「ダメ。ゼッタイ。」の講演を行い、1割ぐらいの子どもから「自分の体を傷つけるのだからいいだろう」と感想を受け取っていたことを明かした。

「自尊心が低く、既にリストカットや飲酒や喫煙を始めている中学生や高校生が多い。リスクの高い子たちには全然効いていない。リスクの高い子たちが相談できるようにする学校環境、コミュニティ、啓発活動を考えてほしい」

座長「反対の意見もまとめに反映させる」

今回の会合で、使用罪に賛否両論が出たのを踏まえ、座長は最後に以下のように述べ、次回、提案される予定の最終報告書では、検討会として一つの方向性を打ち出す形にはしないことを示唆した。

「使用罪については原案に賛同する人が一定数いた一方、3人の委員からは反対のご意見があった。この検討会は審議会ではないので、政府の諮問に対して了承するとかしないとかではなく、提示された論点に対して、どのような観点から賛成しているのか、あるいは反対しているのかということを国民の皆様にわかりやすくお示しし、国民の皆様がその論点に対してどのように考えるべきかを議論するための選択肢を提供すること(が役割)だと考えている」

「反対のご意見がありましたが、こうしたご意見もそれぞれの立場や経験を踏まえた貴重なご意見なので、まとめに反映させて国民の皆様に提示していくことが我々に与えられた責務だと考えている。事務局と相談の上整理し、次回、取りまとめ時に示させていただく」

この検討会は、違法薬物を取締る立場にある監視指導・麻薬対策課が事務局で、報道規制や大麻「使用罪」に誘導するかのようなコントロールの仕方も問題視されている

会合終了後に記者らの囲み取材に答えていた田中徹・監視指導・麻薬対策課長は、BuzzFeed Japan Medicalが最終報告書の取りまとめ方法を尋ねると、「今日はコメントしない」と対応しなかった。