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発言者の特定禁止、録音禁止、時代に逆行する「大麻使用罪」創設の議論、なぜ過剰な厳戒態勢?

大麻「使用罪」が検討されている厚労働の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。傍聴は報道機関に限定されているのに、録音禁止、発言者の特定禁止という条件がつきます。なぜこれほどの厳戒態勢なのでしょう?

薬物問題を健康問題として捉え、刑罰ではなく回復を支援する政策への切り替えが進む国際的な流れに逆行するかのように厳罰化を進めようとする厚労省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」。

その傍聴は報道関係者に限られているにもかかわらず、録音禁止、発言した委員の特定禁止という条件がつく。

反対の声も根強く、国民への規制を強める議論のプロセスはなおさら透明化が図られるべきなのに、なぜ厚労省はオープンな議論を拒むのだろうか?

「録音禁止」「発言者を特定しない」 同意がなければ取材も不可

筆者は3月31日に行われた第4回検討会の傍聴を申し込もうとして驚いた。

「新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、一般の方の傍聴はご遠慮いただき、報道関係者の方のみの傍聴とさせていただきます」とした上で、傍聴申し込み用紙には同意のチェックがなければ傍聴を断るとして以下の項目があった。

3.録音をしないこと。

4.発言者の特定を行わないこと。

報道関係者に傍聴を制限しているにもかかわらず、これを傍聴の要件とし、チェックまでさせるのはなぜなのか。

振り返れば、共同通信社の記者が1月20日に開かれた初回会議の録音データを社外の6人に提供し、会議内容をツイッターで発信した行為について厚労省の抗議を受け、同社が関係記者やその上司を懲戒処分にしたトラブルがあった

もちろん取材で得た情報を報道目的外で使うのは論外だ。

しかしこの条件は、このトラブルをきっかけに付けられたものではない。トラブルが起きる前の初回受付の段階で、すでに設けられていた。

報道陣が録音するのは、発言を正確に記録して報じるためであり、禁止する理由がはっきりしない。「発言者の特定を行わない」という点も、国民の知る権利や報道の自由の観点から納得できるものではない。

BuzzFeed Japan Medicalは会議を担当する厚労省の監視指導・麻薬対策課に問い合わせた。

「発言者氏名を公にすることで、発言者等に対し外部からの圧力、干渉、危害が及ぶおそれが生じることから、発言者氏名を除いた議事録を公開することとしており、同趣旨から報道機関の方にも発言者の特定をしないようお願いしている」

「薬物の関係はセンシティブな問題で、発言者に圧力がかかることも実際に起こっている」

メールでそう回答があった。

確かに「外部からの圧力、干渉、危害が及ぶ」ような事態があっては問題だろう。

他の審議会と違って、このテーマでは構成員に対しどのような「外部からの圧力、干渉、危害が及ぶ」問題が起きているのか電話で追加取材をした。

「(構成員に)要請書や電話が来ていると耳にした」「初回に会場のビルの外でデモのようなものが起こった」「会場のビルの管理者からこのまま続くなら会場として使わせないと言われた」という。

警察の警戒も事前に要請 座長は「面会要請」や「要望書の提出」も問題視する発言

デモを行うことや要請書を渡すこと、電話で意見を伝えることは、社会通念上認められる頻度や内容である限り、「圧力、干渉、危害」とは言えない。

この点について確認したところ、「デモ行為自体や要請書を渡すことそのものが問題あるとは思っていない」と、同課の担当者は答えた。

初回の会議当日、会場外で警察官らが警戒に当たっていた。厚労省が事前に警察とトラブルが起きる可能性を相談したためだ。

しかし、「構成員に対して危害が与えられたとは聞いていない」という。これで「圧力、干渉、危害」があったと言えるだろうか。

また、初回の会合後、「発言者の自由闊達な意見交換ができるようにしてほしい」という構成員らの求めに応じて、会場を非公開にした上で、「報道には発言者を特定しないようにお願いしている」という。

実際には、傍聴の申し込み書に同意のチェックを入れないと傍聴は断られる条件となっており、「お願い」よりもトーンは強い。

「お願いはお願いとして、どう報じるかは報道側の判断に委ねるという意味と受け取っていいか」と確認したところ、「留意事項をお読みいただいたというチェックだと考えている」と回答された。

筆者は同意のチェックを入れずに送ったが、前日には開催場所を知らせるメールが届いた。

同検討会座長の鈴木勉・湘南医療大学薬学部設置準備室特任教授は2回目の会議冒頭で以下の発言をしている。

私としても、本検討会の内容について広く議論を喚起するという観点から、議事録の公開を含め、情報公開に努めたいと思う一方、今回の会合においても、一般の方が建物の周囲に集まって活動するなど、会議室をお借りしている会場に御迷惑をおかけしたり、この1カ月の間に、私のところにも面会要請や要望書の提出があったりということもありました。

また、本検討会は薬物の取締りというセンシティブな課題も含め議論の対象としていることから、開催要綱において、会議は原則公開としつつも、会議を公開することにより、個人情報の保護に支障を及ぼすおそれがある場合、個人又は団体の権利、利益が不当に侵害されるおそれがある場合、自由闊達な意見交換に支障があると判断される場合など、必要があると座長が認めた場合は、会議を非公開とすることができることとされております。

座長の判断で「いつでも非公開にできる」というのは、この検討会に限らず省庁の審議会などでよく使われる規定だ。

鈴木座長はこの会議で、市民が意見を直接伝えるデモ行為や面会要請、要望書の提出を問題視し、場合によっては会議を「非公開」とする考えを示した。

なお、鈴木座長のこの発言に関しては、厚労省が公開した議事録で発言者名付きで明記されている。

当日、会場で「踏み絵」

3月31日、案内のあった会場に行ったところ、入り口で止められた。私がメールで送ったチェックなしの傍聴申込書が印刷され、「チェックを入れないと傍聴させない」と厚労省の職員が言う。

「電話で担当者と話して、内容を確認したと伝えた」と言っても、「チェックしないと入れない」の一点張りだった。

仕方ないので、私が電話で話した担当者と協議の上、内容を確認した印としてチェックします、と一言入れてチェックした。

中に入ろうとしたが、「この内容でいいかその係員に確認するまでは入れない」と体を押さえつけて会場に入れまいとされたのが冒頭の写真だ。

薬物で「監視指導・麻薬対策課」の取締官に取り締まられる使用者の気持ちが少しだけ理解できた気がした。

席は十分余っているのに...別の会場で中継を見る

最終的に担当者が来て、これでいいということになったが、厚生労働記者会に所属していない私は会場ではなく、別の階の会議室でサテライト中継を見るようにと指示される。

「席は十分余っているじゃないですか...?」「そんなことはありません」

会議では冒頭から一定の間、報道陣がカメラで撮影することが認められている。この「冒頭撮影」を係員に監視されながら撮り終え、サテライト会場に移動する前に撮った記者席の状況がこれだ。

7席も余っている。この会場は外部の貸し会議室だ。わざわざ別の部屋を記者のため借りるほど、予算は潤沢なのだろうか。

別に用意された会議室に着くと、最終的に私も含めて専門紙の記者ら5人がこの広い部屋を使っていた。記者5人に対し、厚労省の係員も2人いる。新型コロナ対応で忙しい中、これほど係員を割く余裕が厚労省にあるとは思わなかった。

議事録は発言者の名前なしで公開

検討会の議事録は、座長や座長代理の冒頭発言や議事進行に関わる発言などを除き、発言者の名前を抜いて公開されている。話す内容で実質的に特定できる人もいるが、それでも報じる時に名前を書けば、「ルール違反」ということになる。

構成員の1人は「自分は別に開示してもらって構わない。おかしなルールだ」と疑問を呈す。

そして、今日4月23日、私はまた検討会の傍聴に来ている。当然、傍聴申込書には同じ但書きを書いてチェックした。もし報じる時に発言者を特定する必要があれば、記者としてそうするつもりだ。