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日本でも医療用大麻を適切に使えるようにして 海外で使える薬で日本の患者が救えない理由

厚労省の大麻検討会は、難治性てんかんによく効く大麻医薬品を日本でも使えるようにするために関連法を整理する目的もあります。日本で医療用大麻の導入を訴える医師に厚労省への要望について聞きました。

厚生労働省の「大麻等の薬物対策のあり方検討会」は、大麻の成分を使った難治性てんかんの処方薬を日本でも使えるようにするために、関連法を整理する目的もある。

5月14日の検討会では、大麻草の部位によって規制してきた大麻取締法を見直し、有害な「THC」という成分に着目した規制にするとりまとめ案が示された。こうした大麻由来の医薬品の使用に道を開く内容だ。

その一方で、不適切な使用を規制する大麻「使用罪」も創設が検討されている。

医療への大麻関連医薬品の導入を訴えてきた日本臨床カンナビノイド学会は、柔軟な医療利用が進むよう、週明けの24日、厚生労働省医薬・生活衛生局長に、要望書を提出する予定だ。

同学会理事の内科医で、医療大麻の研究や啓発活動を行う「一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN」代表の正高佑志さんに話を聞いた。

3点を要望

ーー日本臨床カンナビノイド学会とはどんな学会ですか?

CBD(※)製品以外にも大麻由来の医薬品や代替医薬品の医療への応用や研究に関して情報交換することを目的とした学会です。自由診療で大麻由来のサプリメントなどを使っている開業医が多いです。

※薬物として使われる主な大麻の成分として、「THC(テトラヒドロカンナビノール)」と「CBD(カンナビジオール)」がある。「THC」は幻覚や妄想などの精神作用を起こし、「CBD」は精神作用を起こさない。検討会のとりまとめ案では、CBD製品の輸入や製造等を可能にし、THCを含む製品は流通管理の仕組みを導入することを前提として、医薬品として効果効能が認められ、医薬品として承認されたものに限って使えるようにするとしている。

国内でこうした領域に関心を持つ学会は他にないので、これまでの知見に基づき、理事長名義で要望書を出すことにしました。

ーー要望書で求めることは何ですか?

  1. 大麻取締法の部位規制を廃止した上で、THC含有量の基準を設け、基準値以下のTHC含有品種に関しては大麻と別に「ヘンプ」として大麻取締法の規制対象から除外し、医療利用や産業利用の可能性を推進すること
  2. CBDやCBDを主成分とする医薬品に関して、大麻取締法や「麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)」の規制から除外される旨を明示すること
  3. THCや大麻草の将来的な幅広い医療利用を見据え、大麻使用に伴う罰則の制定を見送ること


の3点です。

部位規制を廃止し、有害成分「THC」の基準値を定めてほしい

ーー一つ目の要望ですが、とりまとめ案でも大麻草の部位規制を廃止することが提案されていますね。これはとりまとめ案に賛同するということですか。

まだ確定ではないでしょうから、確実に部位規制をなくしてほしいということです。

今は大麻草の「茎」や「種」から取れたものだけが「大麻ではない」と規制対象外にされています。この規制のあり方のせいで、他の部位から作られた製品は違法となり、海外で使える薬が日本では使えなくなっています。

この部位規制を外してもらいたいと医療現場の人間は前から訴えています。

また、現在も茎由来であり、かつTHCが検出されなければ輸入はできるのですが、「0」と言っても、精密な検査方法を使えばわずかながら検出される可能性があります。ゼロとして扱う基準値が開示されていないため、輸入の際に業者は手探りで対応しています。

アメリカではTHCが0.3%未満という線引きですし、国際的には1%未満ともされている国もあります。ヨーロッパでは0.2%未満です。

日本でもガラパゴス的な部位規制を撤廃し、THC含有量の上限基準を明確に示してもらえれば、海外で代替医薬品として使っているような製品を国内に持ち込んで使えるようになります。

ーーCBD製品には必ずTHCが含まれているものなのですか?

そうです。非検出と言っても、カロリーゼロのドリンクに若干カロリーが含まれているように、極めて精密に検査すれば全てのCBD製品にTHCは検出できると考えられています。

効果があるのに日本では使えない世界で最もシェアが大きい大麻製品も

ーーそうすると、患者さんは自分が個人輸入して使っているCBD製品が、もしかしたら取締りにあうかもしれないという不安があるということですか?

そうです。実際には国内で流通している製品は税関で厚労省の許可を得ているので、逮捕されることはあり得ませんが、CBD製品を使っている難治性のてんかん患者さんやご家族でそうした懸念を抱いている人は多いです。

もともと医療用麻薬と同じく大麻はイメージがとても悪いので、こうした薬で救われる可能性があっても心理的なハードルが高くなっています。

現在、世界で流通している製品のうちで、日本で規制対象外の茎や種から取れていると証明書がついているものはとても少ないです。世界で使われている医療用の大麻製品のごく一部しか日本では使えません。

例えば、アメリカでは2013年に難治性てんかんの一種であるドラべ症候群の患者、シャーロット・フィギーという女の子に非常に効果が現れて世論を動かした「シャーロッツウェブ」というCBDオイルがあります。

世界で最もシェアが大きい製品の一つですが、THCが0.3%未満ではあるのですが微量に含まれていて、規制部位である花から取れているので、日本には持ち込めません。

アメリカで使って、何も知らずに持ち帰ってお子さんの発作が抑えられていたのに、実は日本でダメだとわかって困っているという人が実際にいます。現在、国内で流通可能なCBD製品では発作が抑えられないのです。

実はむしろ微量なTHCが入っていることで薬としての切れ味が良くなると言われています。そしてヘンプ と定義されるようなTHC1%未満のものであれば、心配されている精神作用も出ません。嗜好品として乱用される可能性は極めて考えにくいです。

だから、THC含有量の基準を日本でも示して、基準以下のものは許容するようにしてほしいのです。

海外での分類は3種類

ーー「ヘンプ」という言葉は聞き慣れないのですが、大麻はどのような分類がなされているのですか?

海外では医療用大麻は、大まかに3種類に分類されています。

  1. ヘンプ由来 CBD 製品
  2. カンナビノイド医薬品(処方箋医薬品)
  3. 大麻由来製品(狭義の医療大麻)


ヘンプ」というのはTHC 含有量が法定基準(0.2%〜1.0%) 以下の大麻草の品種を指す用語です。そもそも「大麻」とみなされておらず、栽培や流通が自由となっています。

ヘンプからできているシャーロッツウェブのようなサプリメントはネットでもスーパーマーケットでも自由に買えます。

カンナビノイド医薬品」は処方箋医薬品として病院で提供されるものです。

世界中で流通しているものは10種類もなく、最大のシェアを誇るものは日本で治験が準備されている「エピディオレックス」という難治性てんかんのCBDオイルと、「サティベックス」というTHCとCBDを1対1で含む多発性硬化症の薬です。その他には「マリノール」というTHC製剤が吐き気どめとして使われています。

実は広義の「医療用大麻」のうち、処方箋医薬品が占める流通量はごく一部であり、代替医薬品がほとんどなのです。厚労省が日本への導入を考えているのは、処方箋医薬品として認可が取れているものだけだと思います。数多くの選択肢のごく一部だけです。

最大の問題は、この処方箋医薬品としての医療大麻の市場は各国で大麻が合法化される度に小さくなっていくことです。日本では皆保険ですが海外はそうではありません。アメリカでは、処方箋医薬品も買えますが、ネットで買える値段が安いCBDオイルに同じ成分が含まれているなら患者はそちらを買うでしょう。

医療系大麻企業の多くが、規制が厳しい医薬品市場を敬遠し、代替医薬品市場に活路を見出していく傾向があります。

もう一つは「大麻由来製品(狭義の医療大麻)」です。医薬品でもなくサプリメントでもない代替医薬品のような位置付けで流通経路も違います。精神作用があるため、ヘンプ製品よりも厳しく管理されています。一般的なイメージはタバコのように乾燥した大麻を喫煙する形ですが、近年は食品に添加したものが増えているようです。

アメリカでは医師はこの医療大麻を販売することはできないのですが、患者に許可証を出すことができます。カリフォルニアなどでは患者は医師を受診して、医師に医療用大麻が対象の患者であると許可証を出してもらう必要があります。

CBDを「麻薬」のような管理はしないで

ーー海外では様々な医療用の大麻が使われているのに対し、日本では今回の規制見直しで使えるようになるのは、1と2の一部というイメージですね。

まず2のエピディオレックスの治験を早く始めなくてはならないという声は共通しています。

私は今、国内で40〜50人の難治性てんかんの子どもの医療面接をしながら、主治医の先生と連携して、エピディオレックスと同じ効果があるCBDサプリメントの使用に関してアドバイスをしています。

将来的には彼らが保険診療でCBDを使えるようにしてほしいのですが、困るのは治験対象の「ドラべ症候群」や「レノックス・ガストー症候群」以外のてんかんの子が対象外になってしまう可能性です。

治験は限られた病気が対象でも、保険ではその他の難治性てんかんの子どもに使えるようになってほしいですし、効果があるのはてんかんだけではありません。不安障害や痛みにも使われています。

もしそういう人たちが保険診療として使えないとしても、「麻薬及び向精神薬取締法(麻向法)」でCBDが麻薬のような管理をされてしまうと、サプリメントとしての流通も禁止されることを危惧しています。

ですから要望書の2つ目で、麻向法の規制対象外にするよう要望しているのです。

THCの医療利用も視野に「使用罪」見送りを

ーーそして3つ目に、将来的なTHCや大麻草の医療利用も考えて、大麻「使用罪」を作るなと要望しているわけですね。

厚労省の議論だと、CBDは医療成分で「善」、THCは陶酔成分で「悪」のような、善悪二元論を展開しています。これは医学的に間違っています。

医薬品としての研究も基本的にTHCを軸に進められていますし、THCが重要な医学的成分であることは間違いありません。

ただ監視指導麻薬対策課には今後もTHCを規制し続ける思惑があり、THCの医学的有用性は目を背けられています。

ーーただ、とりまとめ案ではTHCでも医薬品として商品されたら限定的に使えるようにするという位置付けにしていました。

それは処方箋医薬品を想定しているわけですね。世の中に流通しているTHCの処方箋医薬品はサティベックスとマリノールなどのTHC製剤だけです。これらは精神作用などの副作用が多く使いづらい薬と言われています。合法地域でもほとんど処方されていないと思います。

実際に合法地域で患者さんが使用している代替医薬品が、この規制枠組みでは使えなくなると思います。

ーー代替医薬品としてTHC量が多いものも日本で使えるようになるべきだという主張ですか? 効果や安全性が治験により証明されていない製品が流通する危険性もあるのではないでしょうか?

代替医療のダークサイドみたいなものは間違いなくありますし、私自身も情報発信と患者へのアドバイスに限定し、代替医療としてCBDを販売するのは控えるようにしています。

一方でCBDや医療大麻が標準医療の外側で、多くの人の救いになっているのも事実なので、そのあたりの匙加減が非常に悩ましいなと思っています。ただ、日本ではここまで議論は進んでいないので、まずはCBD製品をどうするかでしょう。

THCを悪者のような位置付けにすると将来使えるようになった時に、今の麻薬のように「使えるけどみんな怖がって使わない」状態になると思います。スティグマ(負のレッテル)を強めないほうがいい。

ーーだから「使用罪」の創設も問題があると考えている。

今、私の目から見て、厚労省監視指導・麻薬対策課がやろうとしているのは棲み分けだと思います。CDBは良いものとすることで医師やてんかんの家族会には一定の譲歩の姿勢を見せる一方で、THCは悪いものとして取締り、法律を守らない人や依存症の人は逮捕・投獄し続けるというメッセージではないでしょうか。

その考えは医学的にも間違っています。THCも含めて薬は全て使い方が肝心なのに、「ダメ。ゼッタイ。」とする幼稚な線引きはいい加減にやめてほしい。

パーティー目的で楽しんで使っているように見られがちですが、実際には大麻を使って命を長らえているような人はすごく多いです。

何らかの生きづらさを緩和するために大麻を使っている人は「エンドカンナビノイド」という人間が脳内で作っている大麻成分に似た物質が足りず、それを補っている自己治療ではないかという仮説もあります。

実際に多くの逮捕者が、大麻を取り上げられたのちに酒浸りになっています。それで肝臓を壊して亡くなったとしたら、その規制は誰のためのものなのかと思います。

そもそも大麻は健康にどの程度悪いのか?

ーー大麻に対する一般の人の不安を考えると、医療使用を考える時にも、そもそも大麻はそれほど健康に悪いのかを改めて確認したいところです。2021年1月から 2 月にかけてオンライン調査をされましたね。

国立神経精神医療研究センター薬物依存研究部部長の松本俊彦先生と実施しました。

大麻を使用したことがある4138人を対象としたところ、依存症の割合は8.3%でした。これはアメリカの調査と同じぐらいの割合でしたので信憑性が高い数字だと思います。

また、大麻を吸ってすぐに出てくる不安や妄想、吐き気などの「大麻誘発性障害」は38.5%に見られました。いわゆる「バッドトリップ」と言われるものです。これは違法な薬物という不安から来るものだと思います。

ただお酒でも吐いたり頭が痛くなったりしますね。すぐに治りますし、それを病気と受け止めていない人が多いでしょう。

それでも大麻を吸って、そのような症状が24時間以上続いたり、他人の助けを必要としたりするほどの重症な場合は問題ですが、それは0.12%のみでした。今は違法にしているから、若い子が使い方もわからないまま隠れてTHC含有量の高いものを使ってしまい、何かあってもSOSも出せない環境が問題なのだと思います。

いわゆる「大麻精神病」と言われる統合失調症のような症状があった人は1.3%でした。ただ日本人の統合失調症の有病率も1%ぐらいで、回答者で多かった若い男性の統合失調症の発症率は数%です。大麻使用が関係する可能性は低いでしょう。

やる気がなくなる「無動機症候群」も2.7%いましたが、大麻を吸わない人たちに同じ質問をしてもやる気がなくなっている人はたくさんいます。それと比べて高い数字ではないと思われます。

ーーこの研究結果からは、大麻による健康被害をそれほど高く考えなくてもいいと言えるということでしょうか?

そういう風に私は考えています。

ーー難治性てんかんやがんの痛みなどの他に、医療用大麻が効果がある病気や症状はあるのでしょうか?

やはり精神疾患は大麻を吸うことと親和性が高いです。若い子は心の病が多く、不安、不眠、PTSD、うつで使っている人は多いと思います。

アメリカでは痛みの管理や吐き気止めなどがん治療の副作用を軽減する目的で多く使われています。また食欲増進の効果も高いと言われています。

ーーただ、若い頃から使ったり、THCの濃度が高いものを長期間使ったりすると健康被害が増えるという研究がありますね。若い子が無軌道に使うことは恐れないといけないと思いますが、どう防ぎますか?

それこそ違法化しているから闇に潜るわけですから、合法化してちゃんと管理することによって、若年層の使用は防ぐことができるのではないでしょうか? カナダでは合法化してから年々、初回使用年齢が上がってきています。

ダメと言われると吸いたくなるものです。未成年のたばこや酒のようなものです。

違法にしていると規制薬物は凶暴化していきますから、合法化して、管理してしまったほうが多くの問題は対処しやすいのではないかと思います。お酒は実際にそうやって管理しているので、大麻でできないことはないだろうと思います。

要望で何を変えたいのか

ーーこの要望によって、何を変えたいと思っていますか?

短期的には、医療大麻には幅広い選択肢があり、保険診療内で使用されるものが氷山の一角であることを伝えたい。そして世界の潮流に逆行する大麻使用罪の創設を止めたい。ここで監視指導麻薬対策課の暴走を許せば、日本の大麻政策は袋小路に陥り、潜在的に救われる多くの患者が不要に苦しみ続けることになります。

また長い目で見たときに、この大麻使用罪をめぐる議論をきっかけとし、薬物政策が医療問題として科学的根拠をベースに決定されるようになることを願っています。

【正高佑志(まさたか・ゆうじ)】内科医、一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN代表

1985年京都府生まれ。熊本大学医学部卒業。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年に医療大麻に関する科学的根拠に基づいた一般社団法人GREEN ZONE JAPANを設立し、研究・啓発活動を続けている。