自殺した娘の姿が、頭から離れない。愛する娘を失った母親が語ったこと。

    オーストラリア人女性のナオミ・ワトソン=レイさんは、2015年6月に病院の精神病棟から退院した2日後、自殺した。

    キャロライン・ワトソン=レイ(74歳)さんは、仕事から帰宅して娘のナオミさんの遺体を見つけたその瞬間が、「目を覚ましている限り、私の心から離れない」と話す。2015年6月。ナオミさんが精神病棟から退院して、2日後のことだった

    ナオミさんの死因について審議する死因審問の最終日だった2月22日、弁護士およびニューサウスウェールズ州グリーブにある検死法廷の職員は、ペンやノートパソコン、そして書類が挟まった分厚いバインダーから手を離し、20分間、ただただ耳を傾けることしにした。ここ1週間、ずっと議論の対象となっていた女性の母親が、娘を失っていかにつらいか、胸の内を話り始めたからだ。

    ワトソン=レイさんは自身が娘への「最後のお別れ」と表現する陳述の中で、ナオミさんの人生を大まかに説明し、母娘の関係がいかに格段に近しかったかを話した。ワトソン=レイさんの声はたびたびかすれることはあったが、止まることは決してなかった。

    キャロライン・ワトソン=レイさんが娘と最後に話をしたのは、2015年6月23日の深夜前後だった。シドニー郊外のローズビルにある自宅で、テレビを見ていた時だ。

    翌日、仕事から帰宅したワトソン=レイさんの目に映ったのは、亡くなった娘の姿だった。ナオミさんは33歳だった。あのおぞましい場面が、頭から離れない、とワトソン=レイさんは法廷で語った。

    「あの光景を私は悪夢のイメージと呼んでいます。目を覚ましている限り、私の心から離れません。そして眠っていても、あのイメージで起きてしまいます」と、死因審問で語った。

    「ここに座ってあなた方にこう話している間にも、分割スクリーンのようになった私の心には、あの瞬間が見えています」

    ワトソン=レイさんは、手書きのメモを見ながら、力強い陳述を行なった。その週ずっと、きちんと清書しようとしたのだが、自分の嘆きをきれいにまとまった陳述文に抽出する作業は、とても「不可能な仕事」に感じられ、打ちのめされてしまったのだ。

    ワトソン=レイさんは法廷で、死に触れたり誰かを失ったりする経験はこれまでもあった、と話した。認知症を患っていた夫を2011年に失くしていた。「でも、ナオミを自殺で失った苦しみは、他とは比べものになりません」

    「人に話す時は、『引き裂かれるような思い』という言葉を使っています。この悲しみは、体が引き裂かれたようだ、と。その傷が元どおりに閉じることは絶対にありません。時間の流れは、この痛みを和らげてもくれません」とワトソン=レイさんは述べた。

    「はっきりと言えるのは、定義することも、言葉にすることもできない何かで、私たち母娘が繋がっていた、と言うことだけ」

    母娘が一緒に旅行にした時、ナオミさんは助手席でヘアブラシをマイクに見立て、次から次へと歌を歌ったものだった。

    「娘は大声で歌い上げていました。どの音も外れていて、最悪の歌だった」とワトソン=レイさんは言い、重苦しい空気が漂う法廷では珍しい笑い声を誘った。

    「あの歌声をもういちど聞くためなら、何でもするのに」

    2月22日は、死因審問での聴聞最終日だった。審問では、ナオミさんの診断、治療、投薬の変更、そしてニューサウスウェールズ州保健局および病院の方針と手続きについて、詳しく取り調べた。

    ナオミさんは2015年6月20日、王立ノース・ショア病院(RNSH)に搬送された。激しい心痛と希死念慮の兆候が見られたためだ。そして同日、精神衛生法に基づき、入院措置となった。

    その2日後、ナオミさんはRNSHの精神科救急センター(PECC)から退院させられた。ナオミさんのかかりつけ医には、入院先の病院でなされた治療の概要などを記した書類が同日夕方5時までにファックスで送られる予定だったが、ナオミさんが亡くなった6月25日までこれが届くことはなかった。

    22日、ワトソン=レイさんによる陳述に先立ち、ノース・ショア・ライド精神衛生サービスの臨床部長ニコラス・オコナー医師は、死因審問で証言された治療手順に対し、提案したい改善点はないか、と尋ねられた。

    オコナー医師は、1つは「平素な英語で書いた、簡単でできれば1ページだけの退院計画を作ること。退院時に患者と親類に渡せるように」と述べた。

    「これがあれば、病院から地域社会に移行する際の、患者への安全と配慮が大きく向上すると思う」

    ナオミさんを退院させたサミュエル・リム医師は死因審問で、ナオミさん自身が気分がよくなったと言ったと述べ、さらに、退院時には症状や気分を隠そうとしているようには見受けられなかった、と述べた。

    キャロライン・ワトソン=レイさんは、ナオミさんの退院に自分は反対していたと言い、病院で36時間過ごしたら良くなるなどという考えは、「あり得ない」と述べた。ワトソン=レイさんから見た今回の出来事は、ワトソン=レイさんが退院計画に喜んで同意していたと証言したサンディ・ユスフ医師や、リム医師の証言とは矛盾している。

    リム医師は、激しい心痛と希死念慮の症状は恐らく、ナオミさんがその前に摂取していた抗うつ剤の副作用と、もともとナオミさんにあった境界性パーソナリティ障害の両方によるものだろうと結論づけていた。

    リム医師は21日、ナオミさんがさらなる治療を必要としていたとは感じたが、入院患者としてではなく地域社会で治療する方法が一番だろうと思ったと、死因審問で語った。

    証人となった2人の専門家、精神科医のクリストファー・ライアン医師とマイケル・ジュフリーダ医師は、診断の正確性について意見を異にした。ライアン医師はリム医師と同意見だったが、ジュフリーダ医師は、ナオミさんが大うつ病性障害にかかっていた可能性が高いと指摘している。

    ポーラ・ラッセル判事は、年内に検死報告書をまとめる予定だ。

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    この記事は英語から翻訳されました。
    翻訳:松丸さとみ / 編集:BuzzFeed Japan

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