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「WHO、コロナワクチン接種勧告を修正。健康な子ども必要なし」拡散したニュースはミスリード。安全性と効果は強調されているが…

新型コロナウイルスの感染拡大とワクチン接種が社会に浸透し、集団免疫の獲得を目指すフェーズに入っていることを受けて改訂されたWHOのガイドライン。ワクチンの安全性と効果は強調されており、「健康な子どもは必要なし」と明言している記載は見当たらない。

WHO(世界保健機関)がコロナワクチン接種勧告を修正し、「健康な子どもは必要なし」とされた、とするニュース記事が拡散しているが、この見出しはミスリードだ。

実際のガイドラインは、人口の大半がワクチン接種や感染で免疫を持っている前提で改訂されており、ワクチンの効果を否定しているわけではない。

また、「健康な子ども」についても接種は「安全で効果的」と明言している。「必要なし」と記されているわけではなく、低リスクゆえに優先度が低いため、費用対効果などを勘案すべきと指摘している。

拡散しているのは、ロイター通信日本語版の3月29日の記事。「WHO、コロナワクチン接種勧告を修正 健康な子ども必要なし」という見出しやSNS配信が一部で拡散している。

そもそも、実際のWHOのガイドライン(3月28日)には、「健康な子どもは必要なし」と明言している記載は見当たらない。

そもそも、このガイドラインの修正は、オミクロンの拡大とともに、「人口の多くがワクチン接種を受けているか、新型コロナウイルスに感染したか、あるいはその両方」により、免疫を持っている状態であることを前提としている。

そのうえで、ワクチン接種の優先度を以下の「高・中・低」の3つのグループにわけ、追加接種を実施している国について、疾病負担や費用対効果などに基づいた必要性を評価する必要がある、としている。


重要度が高い人:高齢症、重い基礎疾患(糖尿病や心臓病など)を持つ成人、免疫不全状態の人(HIV感染者や移植患者など)、妊娠中の人、最前線の医療従事者

状況に応じ、6 か月または12か月ごとの定期的な追加接種を推奨する。

重要度が中程度の人:健康な成人(50〜60歳まで)、基礎疾患を持つ子どもや青少年

ワクチンは安全で効果的。1回目の追加接種は推奨するが、2回目以降の定期的な追加接種は公衆衛生上のリターンが少ないことから、推奨しない。

重要度が低い人:生後6か月から17歳までの健康な子どもと青少年

ワクチンは安全で効果的。この年齢層は疾病負担が低いことから、接種を計画する国は、費用対効果や公衆衛生政策の優先順位などの状況に基づき検討するよう促す。


そのうえで、健康な子どもと青少年のコロナワクチン接種については、ロタウイルスやはしか、肺炎球菌ワクチンなどの「子ども向けの伝統的な必須ワクチン」や、高優先度・中優先度グループ向けのコロナワクチン接種の利点よりも「はるかに低い」と指摘。

一方で、免疫不全状態と依存疾患のある子どもについては、重度の新型コロナウイルス感染症のリスクが高いために、優先度の高いグループと中程度のグループに含まれているとした。

また、乳児における重度の新型コロナ感染症の負担は6ヶ月〜5歳までの子どもと比べ高いとし、妊娠中のワクチン接種については、最後の接種から6ヶ月以上経過している場合の追加接種も含め、妊婦と胎児の保護と、乳児の入院可能性を減らすのに役立つとしている。

「手のひら返し」とツイートのアカウントも…

以上のことから、このガイドライン修正は、新型コロナウイルスの感染拡大とワクチン接種が社会に浸透し、集団免疫の獲得を目指すフェーズに入っていることを受けた改訂であることがわかる。

リスクが高い人や医療を確保する重要性のためにコロナワクチン接種をどう計画するか、費用対効果の側面から各国が検討するよう促しているものであり、ワクチンの安全性と効果はまったく否定していない。

健康な子どもについてもそれは同様で、接種が「必要なし」と言い切っているように伝えることは、前述のとおりミスリーディングであると言える。

なお、本件に関して、「WHOが追加接種は不要と発表」「手のひら返し」とするミスリーディングな情報を発信しているアカウントもある。ツイートは70万以上のインプレッションを獲得するなど、拡散している。

このアカウント「南雲香織」はBuzzFeed Newsの取材で、アイコンがAI生成されており実在していないなど不自然な点が多く見られているとともに、投稿の6割が疑義言説であることが明らかになっているため、注意が必要だ。

小児科学会はすべての子どもに接種「推奨」

日本においては厚生労働省が小児(5〜11歳)の接種について「小児においても中等症や重症例が確認されており、特に基礎疾患を有する等、重症化するリスクが高い小児には接種の機会を提供することが望ましいとされています」と強調。

乳幼児(生後6ヶ月〜4歳)についても「乳幼児においても重症例が確認されており、基礎疾患がない乳幼児でも死亡する例があります。有効性や安全性、感染状況を踏まえて、検討した結果、乳幼児を対象にワクチン接種を進めることが適当とされています」としている。

また、日本小児科学会は2022年11月段階で、すべての乳幼児(生後6ヶ月〜4歳)と子ども(5〜17歳)に対するコロナワクチン接種を「推奨」している。

これはワクチンの有効性と安全性に関する情報が多く集まったことから、その発症や重症予防効果などのメリットが、副反応などのデメリットを上回ると判断されているためだ。

また、子ども(5〜11歳)のワクチン接種状況は1、2回目ともに20%以下(3月27日現在)とほかの年代に比べて大幅に低い。

こうした状況とともに、そもそも、ワクチンの効果や安全性が否定されているわけではないことにも、十分な留意が必要だ。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知しました。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

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