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ワクチンデマを大量拡散… 謎の女性インフルエンサーは実在しない「AIアイコン」だった。ツイートには多数の不自然な点も

新型コロナウイルスのワクチン接種に反対する立場から発信を続けているTwitterアカウント「南雲香織」。フェイクニュースや誤情報などの疑義言説を大量に発信しているアカウントの正体、そして目的とは。

新型コロナウイルスやワクチンに関する誤情報や、陰謀論の拡散ーー。

人々の命に危険を及ぼしかねないとの指摘もあり、世界中で問題視されている。日本でもそうした情報を発信し続けるアカウントが複数あるとみられる。

なかでも、6万人以上のフォロワーを持つ、ある「女性インフルエンサー」が、アイコンは「AI生成」されたもので実在する人物ではないことが、BuzzFeed Newsの取材でわかった。

アカウントが発信した投稿の上位ツイート6割は、誤情報などの「疑義言説」を含んだものだった。

さらに、ツイート時刻にも一定の規則性があるなど、「予約投稿」とみられるツイートの手法など、アカウントには個人の行動としては不自然な点が多い。だれが、何の目的で運営しているのか。

「ワクチンにはベネフィットは一切なく、有害性しかありませんでした」

「メディアが煽れば大多数の人がまたワクチンを打つのでしょう。陰謀を知る前にほとんどの人が死に絶える」

「新型コロナは人工的に作られたことが確定。ファウチ、ビルゲイツ、ダザック、モデルナ社に責任があることが確認された」

新型コロナウイルスのワクチン接種に反対する立場から、こうした発信を続けているTwitterアカウント「南雲香織」。

フォロワーは6万2000人。1万以上のいいねを集めることも少なくない「インフルエンサー」だ。

「米帰国子女、日本では報道されない英語圏のニュースを紹介しています」とプロフィールにある通り、海外サイトのスクリーンショットとその要約を中心に発信している。

その内容には冒頭のように、虚偽・誤情報やミスリーディングな情報、根拠がはっきりしない情報などの「疑義言説」や「陰謀論」が多く含まれている。BuzzFeed Newsなどによるファクトチェックの対象となったこともある。

それでも拡散力は大きい。ツイートが始まったのは今年2月ごろから。フォロワーは4月の段階で7500人ほどだったが、8ヶ月で8倍以上に急拡大している。

リプライ欄には「南雲さんのつぶやき大好き」「南雲さんを知ってTwitterが楽しくなりました」「ついて行きます!」「最高」「いつもありがとう」などのコメントも多く集まる。

発信内容に共感を覚え、拡散していく一定のファン層がいることは明らかだ。

不自然な投稿時間

このアカウントの行動には不自然な点が少なくない。

アカウント開設日は「2015年3月」と表示されているが、フォロワーとのやりとりが始まっているのは2022年2月19日だ。いまのIDで、それ以前の他者からのリプライは確認できず、7年の空白があることになる。

さらに、開設当初からフォローしている17のアカウントは、いずれも2021年12月に開設された、フォロワー0、投稿もほぼされていない海外アカウントだった。

また、投稿の大半が「○時○分00秒」となっていることも特徴的だ。詳細に分析したユーザーからは、「予約投稿」ではないかとの指摘もあがっている。

BuzzFeed Newsが現在確認できる1191ツイートをすべて調べたところ、全体の73%にのぼる877ツイートが「00秒」ちょうどに投稿されていた。

時間別では「12時15分00秒」が71回と最も多く、「7時15分00秒」が61回、「20時15分00秒」「14時15分00秒」が40回ずつと続く。

いずれもユーザーがSNSに触れやすい時間帯を狙った投稿とも考えられる。

実在しない人物のAI写真

さらに特筆すべきは、アイコンだ。

女性の顔写真を用いているが、前述の通りこれは実在しない人物をAIが描いた写真であることが、BuzzFeed Newsの調べで確認できた。

画像の出所はAIジェネレーター「GENERATED PHOTOS」。GAN(Generative Adversarial Network)技術を用い、顔写真を生成するサービスだ。

このGENERATED PHOTOSの機能のうち、アップロードした顔写真と似ている生成画像を検索するサービスを用いたところ、「南雲香織」のアイコンと完全に一致する画像が販売されていることが分かった。

AI生成の顔写真は複数の顔写真を合成していくことで、髪の毛や耳、アクセサリーに不自然な部分がいくつかみられることがある。

それでも一切のズレもなく重なったということは、アイコンが「GENERATED PHOTOS」によって生成されたものであることは間違いないと言える。

拡散していた「疑義言説」は…

では、この「AIがつくった女性の顔」をアイコンにしたインフルエンサーによる発信のうち、どれくらい「誤情報」が含まれていたのか。

BuzzFeed Newsは、「南雲香織」によるツイートのうち、1000以上リツイートされ拡散した227投稿を検索し分析した。

そのうち61%にあたる139のツイートが、真偽のはっきりしない「疑義言説」を含んでいることがわかった。

さらに詳細の取材や医療の専門家グループ「こびナビ」、過去記事や海外事例の調査を経てファクトチェックし、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のガイドラインに基づく「レーティング」をつけた分類は以下の通りだ。


虚偽(全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である):3

誤り(全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある):65

根拠不明(誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい):31

不正確(正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している):4

ミスリード(一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい):36


「ジャスティン・ビーバー」めぐるフェイクも

広く拡散した虚偽の情報は、以下のようなものがある。まったくのデマで、海外のフェイクニュースサイトを端に拡散したものだ。

「ジャスティン・ビーバーが新型コロナワクチンを接種したことで、顔に永久麻痺が残った。ファイザー社を訴える考えがあることも報じられた」(6月16日10時10分00秒、6700リツイート、18000いいね)

一方で、拡散していた誤情報には以下のようなものがあった。いずれも根拠に基づかない事実と異なるもので、BuzzFeedや日本ファクトチェックセンター(JFC)などによるファクトチェックの対象となった言説もある。

「厚生労働省の職員のワクチン接種率が10%と判明」(11月26日午前7時15分00秒、7600リツイート、20800いいね)

「CDCがワクチンよりも自然免疫の方が効果があることを認めた」(9月5日午前7時15分00秒、5400リツイート、15600いいね)

「新型コロナワクチンを接種すると敗血症死亡率は通常の21倍に跳ね上がる」(12月2日12時45分00秒、4600リツイート、14700いいね)

「ワクチン未接種の子どもに肝障害や肝炎が急増。ワクチン接種済みの母親の母乳を通して毒素を送ってる可能性」(5月3日10時43分05秒、4600リツイート、11500いいね)

そのほかにも「ワクチンが後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)を引き起こす」「ワクチンの成分が接種者の呼気を通じて「伝播(シェディング)する」などといった誤情報が多数みられる。

「陰謀論」も少なくない。予定されたパンデミックを意味する「プランデミックが起きている」や、コロナウイルスがファイザー社などによって人工的につくられた、というものもあった。

情報源の多くは、海外サイトだ。ただし、いずれもスクリーンショットの掲載と内容の要約が中心で、リンクが貼られていないことが多い。その際、英訳やコンテクストを誤っているケースもあった。

ニュースソースを調べてみると、「Natural News」が36回、「THE EXPOSE」が25回と突出して多かった。

これらはそれぞれアメリカ、イギリスの陰謀論サイトとして広く知られている。誤情報や虚偽情報の発信源になっていると英語圏のメディアで広く指摘、批判されている。

特に「Natural News」については北マケドニアやフィリピンにおける大量の記事生産が確認され、米NBCの報道によると、Facebookはこのサイトへのリンクを含む投稿を「国外からの情報操作の可能性がある」として2020年5月から禁止している。

「1200以上のツイート」その狙いは

アカウント開始以来、「南雲香織」が投稿したツイートは確認できるだけでも1200以上ある。

一連のツイートからも分かる通り、当初から一貫しているのは、コロナワクチン接種に反対し、マスクも「意味がない」とする主張だ。

「私は反マスク・反ワクチンです」とし、ワクチンはうっていないと強調、「満員電車でもノーマスク」などとツイートしていることからも、それは明らかだ。

他方、「医学論文も読めませんし、もとより医学の知識もありません」ともしており、自らに専門性がないことも認めている。

にもかかわらず、予約投稿の可能性も指摘されるほど定期的に、ここまで継続してツイートを続けているのはなぜか。

収入目的の可能性はあるのか。Twitterの「Tips」機能を用いてビットコインの「投げ銭」を受け取れる状態にしていることは確認できたが、アフィリエイトリンクなどを貼っている様子は見られない。

政治的な誘導はどうか。「陰謀によって暗殺された疑念は高まるばかり」「政権は参政党を脅威と見なしているのだろうか」「インフレだけでなく、ワクチンの副反応までもロシアになすりつけるようです」などというツイートは確認できる。

しかし、特定の政党や政府、国家、宗教団体、サークル、アメリカの陰謀論者「Qアノン」などを「反ワクチン」ほどの熱量で積極的に紹介したり、薦めたりしている様子はない。

ともすると、あくまで「反ワクチン」の立場から、主に海外の陰謀論系サイト発信の情報などを投稿し、日本語のネットワークで拡散、浸透させることが主目的であると考えるのが妥当だと言えるだろう。

ツイートから見える「人物像」とは

人物像を示すツイートはほとんどないが、プロフィールやツイートをそのまま受け取れば、アメリカで長く暮らした経験を持つ帰国子女の日本人女性で、現在は首都圏で働いている人物だということになる。

実際、「丸の内線でノーマスク」「私は人生の半分以上を米国で過ごしましたが、もう米国には戻りません。日本人として日本で暮らしていきたい」などのツイートもあった。

疑問が残る部分もある。たとえば、12月17日12時15分00秒に投稿されたタイムスタンプがある、以下のようなツイートだ。

「上野動物園に行って猿山でチンパンジーが自分のうんこを食べている姿を見た」

しかし、上野動物園では30年前から、チンパンジーは展示されていない。この点について、疑問を呈す指摘は複数、寄せられている。

年齢なども不明だ。過去には「答えはきっと奥の方 心のずっと奥の方〜♪」とロックバンド『ザ・ブルーハーツ』の「情熱の薔薇」(1990年)の歌詞を他のユーザーとの会話で投稿していることが確認できた。

「趣味で家庭菜園をしている」「久しぶりに再開した学生時代の友人は妊娠中」というツイートもある。とはいえ、いずれも人物像の特定を示すものではない。

「来年はワクチン未接種者だけに…」

実在しない「AI生成アイコン」による発信をめぐっては、ロシアがウクライナ侵攻に関して、偽アカウントによる反ウクライナの工作活動を続けていたことが明らかになっている。

ウクライナ政府や、ゼレンスキー大統領らをブログで批判していたキーウ出身の元航空技術者、ハルキウ出身の元ギター講師……。

これらのアカウントのアイコン写真はやはり、実在しないAIで生成された人物画像を用いていたのだ。

ロシアによるプロパガンダ組織との関連性が指摘されており、いわゆる「情報戦」の一環とみられている。

また、アメリカでも「AI生成アイコン」の女性アカウントがシンクタンクの研究員を名乗り、「LinkedIn」を通じて政府関係者らに接触しようとしていたことが発覚。敵対国による「スパイ」との見方が出ていた。

いずれの場合でも、アイコンはもちろん、プロフィールもすべてが偽物だった。

一方、コロナウイルスやワクチンをめぐっては、欧州連合(EU)は昨年、ロシアや中国が組織的に多言語で欧米ワクチンの不信感を植え付ける工作を行っているという報告書を発表。両国は否定したが、物議を醸した。

このほかにも、陰謀論者「Qアノン」による発信や、特定の宗教勢力による発信、さらにはマルチ商法や代替医療などビジネス目的とみられる発信も、同様に問題視されている。

こうした実例がある以上、実在しない人物を装いながら、誤情報を多く含む投稿を続けるようなアカウントの発信には、細心の注意が必要だと言える。

「南雲香織」の投稿主が、情報操作を目的としているかどうかは分からない。アカウントの説明文にある通りの事実関係の個人アカウントである可能性はある。

しかし、先に米国の調査報道などで明らかになったアカウントと一部、外形的に共通する特徴を持っていると言うことは事実だ。

BuzzFeed NewsはこのアカウントにDMを送り、取材を申し込んだ。DMを複数回にわたり送り、ツイートの目的や背景、組織や団体の関与の有無、AI生成アイコンを用いている理由などを質問した。

さらに、ツイートへのリプライのかたちでも改めて取材をお願いしたが、その直後にブロックされ、連絡は途絶えた。このアカウント側の主張を記事に反映させるため送った質問に回答を得る手段は、先方の意思で断ち切られている状態だ。

なお、「南雲香織」は12月18日午後9時15分00秒に年内最後とするツイートを投稿。「来年はワクチン未接種者にだけ明るいニュースが多い年になることを願っております」などとし、1月1日にツイートを再開。こう綴っている。

「2023年がワクチン接種者にとって地獄の始まりとなりますように」


当該アカウントに関する情報をお持ちの方は筆者(kota.hatachi@buzzfeed.com)までご連絡をいただけますと幸いです。


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。

また、これまでBuzzFeed Japanが実施したファクトチェックや、関連記事はこちらからご覧ください。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。