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#MeToo が後ろめたいあなたへ 「もう、やめよう」から始めよう

黙っているより、マシなことがあります。半径2メートルでできること。

先日、英国アカデミー賞の授賞式に、キャサリン妃が何を着てくるかが話題になりました。

アメリカのゴールデングローブ賞では、#MeTooキャペーンに続くセクハラ撲滅を訴えるキャンペーン「Time’s Up(もう終わりにしよう)」に賛意を示すために、出席者がそろって黒い衣装で登場しました。それを受けて、英国アカデミー賞でも出席者は黒づくめに。そんな中、王室の決まりで弔意を示すとき以外は黒を着ることができないキャサリン妃が、慣例を破ってブラックドレスを着てくるどうかに注目が集まったのです。

登場したキャサリン妃は、黒みを帯びた深いグリーンのドレス姿でした。ウエストには細いブラックリボンがあしらわれています。制約がある中でTime’sUpに最大限の共感を示したと見ることができる装いです。しかしネットでは、黒を着てこなかったことに「失望した」「恥ずかしくないのか」という声があがったのだとか。

何かに一生懸命になるあまり、本来の目的を逸脱してしまうことはよくあります。

キャサリン妃を批判した人たちの中には、セクハラ撲滅キャンペーンに深く共感している人もいるでしょう。だったら、大事なのはグリーンのドレスを叩くことじゃないはずです。自分なりのやり方で賛意を示した人たちと一緒になって、声を広げていくほうがずっと建設的です。

自分たちと同じやり方で意思表示をしない女性や、すべての男性を叩くことが目的になってしまったら、#MeTooやTime’sUpは単なる排斥と攻撃の運動になってしまいます。

「性暴力やハラスメントが当たり前になっている世界を変えよう」というメッセージを世の中のいろいろな場所に届け、共感する人を増やし、制度や常識を変えるきっかけを作っていくことが、声をあげた人の勇気に報いることでしょう。

フランスの俳優カトリーヌ・ドヌーヴさんが#MeTooキャンペーンの行き過ぎに異議を唱えたのも、そうした視野狭窄や目的の取り違えに疑問を呈した点では、意味があったと思います。

告発が動かした社会

昨年、ハリウッドのセクハラの実態を訴えようと声を上げた数人の女性たちの告発によって、著名な映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン氏が失脚しました(自らの会社から解雇、のちに会社は破産法申請)。

俳優アリッサ・ミラノさんがツイートで、被害にあった人たちに「#MeToo(私も)」と声をあげるよう呼びかけ、瞬く間にキャンペーンは拡大。女性たちの告発で、アメリカの有名なテレビ司会者や、世界的な映画スターが表舞台から姿を消しました。

ファッションの世界でも、著名な写真家マリオ・テスティーノ氏とブルース・ウェーバー氏のセクハラ疑惑を受け、『VOGUE』などを発行するコンデナスト社は彼らと絶縁することを宣言。セクハラ防止のための行動規範を表明しています。 

さらに、#MeTooキャンペーンを社会を変えるための具体的な動きにつなげようとTime’sUpが立ち上がり、先述したようにセレブリティたちの意思表示が相次いでいます。

矮小化するのは「もう、やめよう」

平昌オリンピックでは、スノーボードで金メダルを取ったアメリカのショーン・ホワイト選手の優勝記者会見で、過去のセクハラ訴訟(すでに和解)に関する質問が出ました。

ホワイト選手は「“ゴシップ”ではなくオリンピックについて話すためにここにいる」と返答しましたが、すぐに「このようなセンシティブな問題についてゴシップという言葉を使ったのは間違いだった」と謝罪。これについても「今さら蒸し返すな」「メダルを取っても過去は消えない」と賛否が分かれているようです。とはいえ、もうセクハラは“ゴシップ”扱いでは済まない問題だという認識が広まりつつあることは、人々の意識や行動を変えるでしょう。

日本でも昨年秋から #MeTooに関連する動きが出てきました。折しも、自らの体験から日本での性暴力被害者に対する支援体制の充実を訴えていたジャーナリストの伊藤詩織さんの著書『Black Box』が出版され、メディアで働く女性たちに共感が広がっていました。

組織や媒体の壁を超えた勉強会などを通じ、女性ジャーナリストや学識者、ソーシャルセクターで活動する人々の間で、ジャーナリズムのあり方を問い、「性暴力の被害にあった人が適切なケアを受けられず泣き寝入りせざるを得ない状況を変えよう」「セクハラが“よくあること”と矮小化され、受け流すのが大人だとされてきた世の中を変えよう」という思いが共有されていきました。

メディア業界で働く女性には「自分たちも声をあげてこなかった」という忸怩たる思いがあります。日本の多くの職場はまだ圧倒的な“男社会”。ここでいう“男”とは全ての男性のことではなく、長時間労働で滅私奉公し、女性を対等な存在とはみなさずに性的な対象として扱い、かつ意思決定をする立場にある男性、という意味です。

そうした男性の価値観が"常識"である職場で働く女性たちは、セクハラなんて気にしないのが一人前とか、お尻を撫でさせて仕事を取るぐらい図太くなくちゃとか、差別的な下ネタも一緒になって笑うのが強い女、と思い込んできました。そうしなければ生き残れない環境自体を疑うことから、目をそらしてきたのです。過剰適応するか、尻尾を巻いて逃げるかの二択しかないと。かつて、私もそう割り切ろうとしたことがありました。

けれど、#MeTooの動きに触れ、こんなのはおかしいとちゃんと言わなくちゃいけない、と認識を変えたのです。

もうやめよう、と。

男女の分断という不毛

こうした動きは次第に形になり、年明けごろから雑誌や新聞、テレビでも#MeTooが取り上げられるようになりました。難色を示す男性上司を説得し、諦めずに提案し続けた女性記者たちがたくさんいます。そしてもちろん、賛同した男性たちも。

私もいくつか取材を受けましたが、深い理解と熱意を持って取材を進めている男性記者やカメラマンに出会いました。きっと、彼らにも苦労があるでしょう。「セクハラを言い立てるのは偽善者」「女のヒステリー」という偏見が根強い職場では、女性以上に男性が声をあげることは難しいはずです。

それでも、自分には娘がいるからとか、身内にセクハラ被害にあった人がいる、あるいは自分が被害にあったなど、さまざまな理由で共感している男性は少なくないはずです。

昨年末、「#MeToo が嫌いなあなたへ」という記事を書きました。

私が#MeTooキャンペーンに共感したのは、電車の痴漢被害(痴漢はれっきとした性暴力です)や性差別の体験があったことに加え、これは暴力の連鎖の果てからあがった声だと思ったからです。そして、私自身がかつてハラスメントに鈍感で、無知で、無自覚だったことを悔いたからです。この問題が、女性vs.男性や、女性同士の分断に収斂していくのは不毛だと思いました。

半径2メートルで言えること

セクハラに限らず、ハラスメントや暴力は身近なところにあります。

職場で嫌がらせをされたり罵倒されたりしていませんか。不当な働かされ方をしていませんか。

飲み会で無理やり酒を飲まされたり、裸になれと言われたことはありませんか。上司や先輩に買春を強いられたことはありませんか。

学校でいじめられていませんか。理不尽な校則はありませんか。指導と称して暴力を振るったり性的な行為を強いる人はいませんか。

性的指向や性自認を理由に差別されていませんか。無理やり聞き出されたり、言いふらされたりしていませんか。

電車の中や人ごみで体に触られたことはありませんか。ネット上で暴言を浴びせられたことはありませんか。

家族や恋人の間でも、暴力やハラスメントはあります。それを愛情とか、しつけと称していることもあります。数え上げればきりがありません。

自分はそんな経験はないという人でも、見たことはあるでしょう。それがハラスメントだと気づかなかったかもしれません。こんなのよくあることだと。

あるいは、おもしろいことや、楽しいことだと思っていたかもしれません。悪気なく。そう、悪意があってやる人もいるけれど、ほとんどの人は、悪気がないのです。悪気がないどころか、良かれと思っていることすらあります。

ハラスメントや暴力に厳しい目が向けられるようになって、後ろめたい思いをした人は多いでしょう。あのとき、自分が何も考えないでやっていたことは、セクハラだったのかも。あのとき、自分が笑って見ていたのは、パワハラだったのかも。次はいつ、自分が糾弾されるかわからない。そんなつもりはなかったのに......。

だから、黙っていよう。

もしあなたがそう思ったのなら、特別なことではありません。過去に一点のやましさもない人しか声をあげてはならないなら、多くの人は黙るしかない。私も、何も言えません。けれど、黙っているよりもマシなことがあると気づきました。

もうやめよう、と言えばいいのです。半径2メートルから。

声をあげても、置き去りにしない

アメリカで#MeTooがTime’sUpへと発展した一方で、日本でも、これを一過性のもので終わらせないようにしようという模索がされてきました。

そんな中で、2月22日に立ち上がったのが、#WeToo Japanというプラットフォーム。ハラスメントや暴力に寛容な社会を変えようという呼びかけです。WeTooという言葉には、私たちも行動しよう、という意味が込められています。

全てのハラスメントと暴力にNOを。

私たちも、変わろう。

私たちも言おう、「もうやめよう」と。

私も賛同しました。サポーターには多くの人が名を連ねています。


まだ生まれたばかりの動きですが、これをきっかけにハラスメントや暴力にNOと言える環境が整い、声をあげた人に手が差し伸べられ、これまでの「仕方がない」や「当たり前」が「もうやめよう」に変わることを願います。

あなたの生きづらさは、#WeTooとつながっているかもしれません。つらい目にあっても耐えろ、それが美徳だと、自分にも他人にも言い聞かせていませんか。

それは身近なところからも、遠く手の届かないところからも、雨のように降り注ぐ、子どもの頃から聞き慣れたメッセージです。

苦しいとき、助けが必要なときに心の中で自動再生される「耐えろ、美徳だ」が、私たちを縛っています。それを解くためにも「もうやめよう」を当たり前にしたいのです。

私たちは、NOと言っていい。声をあげても、置き去りにされない社会を。

小島慶子(こじま・けいこ)

エッセイスト 東京大学大学院情報学環客員研究員

1972年生まれ。放送局勤務を経て現職。各メディア出演、講演活動も行う。著書に『解縛(げばく)』(新潮社)、『ホライズン』(文藝春秋)、『るるらいらい 日豪往復出稼ぎ日記』(講談社)など。


BuzzFeed Japanはこれまでも、性暴力に関する国内外の記事を多く発信してきました。Twitterのハッシュタグで「#metoo(私も)」と名乗りをあげる当事者の動きに賛同します。性暴力に関する記事を「#metoo」のバッジをつけて発信し、必要な情報を提供し、ともに考え、つながりをサポートします。

BuzzFeed Japanは「#WeToo Japan」のメディアパートナーとなり、報道の立場から協力しています。ハラスメントのない社会にするために、客観的な立場からこの動きを報じていきます。

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