性暴力やハラスメントの被害に遭った人をひとりにしないためのプラットフォーム「#WeToo Japan」が設立し、3月3日に東京都内でイベントを開いた。
9割が「声をあげにくい」
朝日新聞が2017年12月から2018年1月に実施したアンケートで、「日本社会は性被害について声をあげやすいか?」の問いに「そう思わない」「どちらかというとそう思わない」と答えた人は計93%だった。
声をあげにくい理由は、「誹謗や中傷など別の被害につながる」「被害者のケアや加害者の処分など適切な対応が期待できない」「多少のセクハラは我慢すべきだという風潮がある」などが多かった。
2017年5月、ジャーナリストの伊藤詩織さんがレイプ被害に遭ったと告白したときも、2017年12月、ブロガーのはあちゅうさんが元職場でのハラスメントを証言したときも、支援する声がある一方、バッシングもあった。
水温を上げるために
元厚生労働事務次官の村木厚子さんは2017年11月、犯罪被害者週間行事のシンポジウムで中島みゆきさんの「ファイト!」の歌詞を引用して、このように語った。
<闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう>
<冷たい水の中を ふるえながらのぼってゆけ>
「闘う人の命を最後に奪うのは、水の冷たさです。私たちは、傷ついた人たちが泳いでいく水の温度を1度でも上げたい。それは普通の市民にもできることかなと思います」
#MeTooと声をあげた人を置き去りにするのではなく、性暴力やハラスメントをなくすために自分なりに行動しよう。「#WeToo Japan」はそう呼びかけるプラットフォームだ。
BuzzFeed Japanは「#WeToo Japan」のメディアパートナーとなっている。ハラスメントのない社会にするために、客観的な立場からこの動きを報じていく。
声をあげた人をひとりにしない
この日のイベントのパネルディスカッションには、「#WeToo Japan」のオーガナイザーである、ジャーナリストの伊藤詩織さん、「性暴力の被害者が救われる社会にするために、詩織さんと共に声をあげよう!」と署名を呼びかけたライターの福原桃似花さん、性的同意の予防教育などをしているキャンペーン団体「ちゃぶ台返し女子アクション」共同代表の大澤祥子さんらが登壇した。
福原さんが署名活動を始めたきっかけは、2017年10月、外国特派員協会で記者会見にのぞんだ詩織さんの発言だった。「日本の女性から連帯のメッセージはあったか」という質問に「弁護士からは連絡があったが、女性団体からはない」と答えていたことを知った。
「ブログやツイッターで支援のメッセージを発信しているつもりでしたが、届いていなかった。詩織さんをひとりにしてしまっていた。何の肩書きもない一般人の私はどうすればいいんだろうと考え、たくさんの人の声を集めることなら、私にもできるはずだと気づいたんです」
約2万5000人分の署名を受け取った詩織さんは、膝の上に置いた署名の束をブランケットにたとえ、こう話した。
「今までは裸で外に出ているような感覚でしたが、1枚1枚ブランケットをかけられているような温かさがあります。私だけが#MeTooと言い続けていても伝わらないので、みなさんにボールを渡します。寒そうにしている誰かのブランケットになってください」
性暴力は社会的コストになる
オーガナイザーの3人とともに登壇したUN Womenアジア太平洋地域事務所長の加藤美和さんによると、アジア太平洋地域の42カ国が抱えている課題解決の例でみても、#MeTooほど熱量があるムーブメントは見当たらないという。
しかし、当事者意識がある人だけで議論していては、#MeTooでさえ一過性のもので終わってしまう。
「数ある人権侵害の中でも、性差に基づく暴力は重要課題です。世界では3人に1人が性差に基づく暴力を受けており、アジア地域ではさらに多いです。性暴力は、当事者の人生を180度変えてしまいます。その影響は長期にわたり、当事者だけにとどまりません」
「性被害により心に傷を抱えたまま社会に出ると、仕事で成果を出せなかったり、通院のため医療費がかかったりします。それは社会全体で抱えるコストであり、被害を受けていない人にとっても、大きなロスになるのです」
また加藤さんは、#MeTooムーブメントがアメリカをはじめ各国で起きているにもかかわらず、アジア地域で広がりづらいことを厳しく指摘した。
「性暴力を被害者だけの問題としてとらえている社会は、エンパワメント、リーダーシップ、ビジョンが足りておらず、競争力において立ち遅れます」
だから、こんな発信もしてみたり
被害者のプライバシーへの配慮、データの取りづらさ、法改正のハードルの高さなど、性暴力について語りづらい事情はたくさんある。それでも、今の制度の中でどうすれば変えていけるのか。
議論では、インターネットを使った発信が一例に上がった。実際、#MeTooもTwitterのハッシュタグで広がったムーブメントだ。福原さんが署名を集めるために使ったのも、インターネットの署名サイトChange.orgだった。
「技術の革新や情報のつながりによって、5年前にはなかったツールを使い、誰もが発信者になれるし、行動主にもなれる。今までになかった個人の連携が生まれ、加速度的に変化をもたらすことができます」(加藤さん)
ちゃぶ台返し女子アクションの大澤さんはそのうえで、コミュニティ単位で働きかけることにも効力がある、と話す。
「個人は、会社やサークルなど、組織やコミュニティの一員として自分が影響を及ぼせる領域をもっています。個人はそこで、役割としての”義務感”や、内発的な”倫理観”をもち、自分が行動することで組織をよくすることに”自己効力感”を感じます」
「私たちのコミュニティはもっとよくなれる」
大澤さんは、ハーバード大学にあるレイプ・カルチャーをなくすための「Our Harvard Can Do Better」というコミュニティを例にあげた。
「『私たちは、もっといいスタンダードになれるよね』というネーミングです。一人ひとりがコミュニティをよくしようとするポジティブな行動が、コミュニティ全体の変化のきっかけになり、個人の満足にもつながる。そうすると、普通にメッセージを届けようとしても届かない人たちに、いつの間にか届くことになります」
また大澤さんは、#MeTooのハッシュタグなどで「私のほうがひどい目に遭った」と分断が生まれた現象を「抑圧のオリンピック」だと指摘した。
「誰が一番抑圧されているか、と声をあげる資格を競い合うと、誰も声をあげられなくなってしまいます。誰かが声をあげて配慮されてインクルーシブな社会になるということは、自分の声を聞いてくれる社会になるということ。その共通理解をつくることが必要です」
加藤さんも「何かを変えようとするときには、細分化しない。言葉にこだわりすぎない。エンパワメントという言葉に尽きると思います」と話した。