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セクハラ、もう見て見ぬ振りをしたくない。誰にでもできる3つのこと

うっかりコップを落としてみる。それだけでもいいんです。

たとえば、飲み会で少し飲みすぎた女性がいたとする。

千鳥足の彼女に性的な行為をしようとしたとして、彼女がはっきり「NO」と言わなかったら、それは果たして「YES」なのか。

たとえば、友人の家で二人きりになったら、「家に来た時点でYES」なのか。上司に身体を触られ、今後のキャリアを考えてその手を受け入れたとして、それは本当に「YES」なのかーー。

「まず、『NO』と言える関係、環境にあるか。その『YES』は積極的であり、自発的なのか。自分の意思に基づいて、その行為に参加したいと本人が思っているのか」

「そうした同意のない性的な言動は、全てセクハラであり、性暴力です」

BuzzFeed Newsの取材にそう話すのは、性暴力防止のキャンペーンを続ける「ちゃぶ台返し女子アクション」共同代表の大澤祥子さん。

性的な行為をする際には、必ずお互いの同意があることを確認し、意思を尊重する必要があるという「セクシュアル・コンセント(性的同意)」の考え。

それが軽視されていることが、セクハラなどの性暴力が日常化している原因だと大澤さんは指摘する。

「はっきり言わなかった方が悪い」のか

ちゃぶ台返し女子アクションは今年2月、セクシュアル・コンセントへの理解を深めるワークショップを始めた。

参加者は学校や職場、飲み会など身近なシチュエーションを想定したロールプレイやディスカッションを通じて、同意とは何か、性暴力とは何かについて考える。

ワークショップを始めた背景にあるのは、性的な同意が軽視され、セクハラや性暴力が「仕方がないもの」「日常的なもの」となってしまっている現状だ。

「『イヤよイヤよも好きのうち』という言葉に象徴されるように、性的な言動において行為を受ける本人がどう感じているかを軽視する風潮があります」と大澤さんは言う。

「特に日本では『あうんの呼吸』『暗黙の了解』『空気を読む』など、性的な行為に限らず、相手との関係や環境を前提にしたコミュニーケーションが重んじられる文化があります」

「もちろんそれが美徳になるときもありますが、セクハラや性暴力にあった被害者が『はっきり言わなかった方が悪いよね』と責められる空気に繋がってしまう危険性もあると思います」

被害者が抵抗しなければ犯罪にならない

こうした性的同意の問題は、今年6月に性犯罪の厳罰化を目指して改正された刑法のなかにもある。

刑法制定以来、110年ぶりの大規模な改正として大きく前進した一方で、今回の改正では「暴行または脅迫を用いて」いることが、強制性交罪(旧強姦罪)の要件であるとする内容は変わらなかった。

だが、大澤さんはこの要件は、「抵抗したくてもできない状況が多々存在する実態に即していない」と指摘する。

「現行の刑法では、被害者が必死に抵抗していないと判断されたら、罪にならない可能性があります」

「でも実際には、抵抗したくても体がフリーズしてしまったり、さらに危険な状況を招く可能性があったりと、抵抗できない状況はいくらでもありえます」

実際の判例でも「やめてとは言ったが、大声ではなかった」「服が破れてはいなかった」ことなどを理由に、罪に問われなかったケースがある

「だからこそ、暴行または脅迫があったかではなく、『同意に基づかない』性的言動は全て性暴力だという認識を広め、社会で共有する必要がある」と大澤さんは強調する。

同意について考える上で重要なこと

性的同意とは何かを考える上で重要なポイントは、大きく3つあると大澤さんは言う。

一つは、その同意が「本人の積極的な意思表示」であること。

「例えば、お酒を飲んで酔っていたり、寝ていたり、意識が朦朧としている人は、自分の置かれている状況を把握できず、自発的に同意できる状態にあるとは当然言えません」

「また、『はっきりイヤだと言わなかった』『黙っていた』。こうした沈黙も積極的な同意とは言えません」

二つ目は、NOと言いたければ言える「対等な関係性」があるかということだ。

先輩と後輩、上司と部下、若手社員と取引先のお偉いさんーー。さまざまな力関係がある中で、拒否したくてもできない、拒否することで立場が悪くなる、より危険な状況に置かれるなど、相手を受け入れざるを得ずに発してしまう「YES」もある。

「力関係だけでなく体格差も含め、自分が相手に持っている影響力を自覚する必要があります。『YES』と言わせるのではなくて、自由意志に基づいて、本人が積極的に参加していることが大切です」

最後に、同意を確認する責任は「アクションを起こす側」にあると言うことだ。

「はっきりイヤだと言わない方が悪い、もっと抵抗しなかったのが悪いと言う人もいますが、力関係や体格差のある状況の中で、被害者が『NO』と言わなかったらそれは暴力ではないというのは、実態に即しているとは言えません」

被害を防ぐのは「被害者の責任ではない」

内閣府によると、女性の15人に1人は無理やり性交された経験があり、そのうち誰かに相談できたのは33.3%。警察に相談したのは、わずか4.3%だった。大澤さんは言う。

「セクハラや性暴力が日常化するあまり、被害を訴えるとかえって批判されたり、嫌がらせをされたり、セカンドレイプを経験したりすることを恐れて、泣き寝入りしてしまう人は少なくありません」

「中には、『そんな服装で家に行ったんだからしょうがない』『痴漢くらい我慢すればいいのに、相手の人生を台無しにして…』と責められる人もいます」

また、これまでの性被害を防止する取り組みは、被害者自身に対策を求めるものが多く、「性被害を防止する責任を被害者に押し付けてしまっている」と指摘する。

「夜道を歩くな、お酒を飲み過ぎるな、ミニスカートをはくななど、対策することは大事ですが、どうして被害者だけが行動を制限されなければいけないのでしょうか」

「もちろん本人が『NO』と言えるようになることも大切ですが、性行為においてなぜ同意が大切か、どうすれば対等な関係を築くことができるかを広めていくことが、根本的な解決に繋がっていくのではないかと考えます」

誰にでもできること

作家・ブロガーとして活躍するはあちゅうさんが電通在籍時代に受けたセクハラ・パワハラを証言したことをきっかけに、日本でも自らが受けた性暴力について語り、連帯する「#metoo(私も)」の輪が広がっている。

声をあげる人、その声を後押しする人、声をあげずとも「#metoo」により所を見つける人。誰にも共通しているのは、セクハラや性暴力をこれ以上「仕方のないもの」として受け入れ、許したくないという思いではないか。

「ほとんどの人が『あれ?これセクハラかも…?』という状況に遭遇し、見て見ぬ振りをした経験があるのではないかと思います。その負い目や無力感が再生産されることも、性暴力を取り巻く現状をつくる一つの要因になっていると思います」

ちゃぶ台返し女子アクションは、これまでワークショップで紹介してきたセクシュアル・コンセントに関する知識とともに、実際に性暴力が起きそうな現場に遭遇したときに、第三者ができる「3つのD」をまとめたハンドブックの制作を目指してクラウドファンディングを実施している。

【3つのD】

・DIRECT《直接介入する》=加害者や被害者になろうとしている人に直接干渉し、事態の悪化を止める

・DELEGATE《委譲する》=警察やその場にいる人など、適切に介入できる別の人に助けてもらうようお願いする

・DISTRACT《気を紛らわす》=加害者や被害者の注意をひいて邪魔をし、問題となりうる状況を回避する

「第三者介入と言うと、すごく大変そうに思えるかもしれませんが、そんなことはないんです」と大澤さんは強調する。

「たとえば、飲み会でセクハラが起きそうだったら、うっかりコップを落として加害者の気をそらせたり、さりげなく話題を変えてみたりするだけで、被害を回避することができるんです」

「被害を未然に防ぐことができた。その成功体験を重ねることで、性暴力を繰り返す空気を変えていくことができるのではないかと考えています」

将来的には、こうしたワークショップやハンドブックが教育機関の性教育にカリキュラムとして組み込まれるようになり、性的な行為において相手の同意を確認することが当たり前になれば、と大澤さんは考える。

「対等な関係を築き、相手の同意を確認することは、性行為だけでなく、学校のいじめや職場関係などにも通じる考えだと思います」

「相手の意思を尊重しないなんてありえない。セカンドレイプなんてありえない。性暴力を防ぐ責任があるのは被害者だなんてありえない。そんな認識が当たり前のものになっていけばと考えます」


BuzzFeed Japanはこれまでも、性暴力に関する国内外の記事を多く発信してきました。Twitterのハッシュタグで「#metoo(私も)」と名乗りをあげる当事者の動きに賛同します。性暴力に関する記事を「#metoo」のバッジをつけて発信し、必要な情報を提供し、ともに考え、つながりをサポートします。

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