セクハラ問題で、シリコンバレーの“やんちゃ”文化はどうなるか

    男女平等の問題に長いこと手を焼いてきた業界だが、傷んだリンゴをいくつか取り除くだけで済ませるのか、業界全体が変わろうとしているのか、今はまだ定かでない。

    配車サービス企業Uberの女性エンジニアだったスーザン・ファウラー氏は2017年2月19日、Uber社内で体験した差別やハラスメントの被害を告発する長々とした文章を、自身の個人ブログで公開した。今となっては信じられないが、当初Uberは、すぐに問題を解決して前進できるとみられていた。

    Uber最高経営責任者(CEO)のトラビス・カラニック氏は、告発を受けて声明を発表し、「ファウラー氏の書いた事柄は忌まわしく、当社の姿勢および信念と全面的に相いれない」と宣言した。

    さらに、この種の告発はファウラー氏から初めて聞いた、とも述べた。ところがその数日後、カラニック氏は複数の女性従業員から、Uberにはハラスメントが「まん延」している、と指摘されたのだ。ただし、この疑いは後日、Uber役員のアリアナ・ハフィントン氏がCNNに対して、男女差別とハラスメントが「まん延している」ことなどないと語り、否定された。

    Uberは、シリコンバレーに伝わる昔ながらの戦略で押し通すつもりだったらしい。つまり、大きな問題をちょっとした一事案に過ぎないとみなそうとして、広範な変革の必要性を拒絶する作戦だ。

    Arianna and Liane to press: there is no systemic sexual harassment, just Susan. External lawyers: there are 215 ca… https://t.co/sKPAwYbZES

    アリアナとリアン(訳注:Uber人事部門トップのリアン・ホーンズビー氏)が取材に答えた:セクハラはまん延しておらず、被害者はSusanだけ。

    社外弁護士:セクハラは215件ある。

    当然の成り行きだが、結局200人以上の女性がファウラー氏の告発に続き元米国司法長官であるエリック・ホルダー氏率いるチームによるUber文化の調査へとつながり、カラニック氏の辞任へ発展した。

    ところが、Uberの事例はテック業界を大きく変化させる切っ掛けにならないだろう、とみられた。この件は、単にカラニック氏が「悪童」で、Uberがちょっと間違えただけ、と認識され、ほかの人々は自身の問題として反省しなかったように思える。

    いずれにしろ、テック業界は大昔から男子の集まりとみなされていた。ベンチャーキャピタルは男性ばかりで、スタートアップ企業の役員は男性に占められ、スタートアップ企業の従業員は、特にエンジニアはほとんどが男性だ。そのような環境で、ほかの女性もハラスメントや差別の体験を語るようになるかどうか、しばらく何ともいえない状態だった。

    2015年に有名ベンチャーキャピタル会社のKleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)を性差別で提訴したエレン・パオ氏の件は、当時ひどい話ととらえられず、彼女に続いて告発するメリットなどないとされた。KPCBで下級社員だったパオ氏は2015年3月、訴えが裁判所に退けられ敗訴した。そして、女性がシリコンバレーの強大な力に逆らうと、最善でもリスクにさらされ、最悪の場合はキャリア終了につながる、とのメッセージを世間に送ることとなった。

    しかも、ハリウッドの著名プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタイン氏やその他エンターテインメント業界の関係者から受けた被害を公表した人々の多くは有名人だが、シリコンバレー女性の知名度は低い。前者は「#MeToo」活動を引き起こしたが、後者は注目されにくい。シリコンバレー女性とオフレコで交わした会話のほとんどで、差別とハラスメントの被害公表から受ける損害をほぼいつも計算し、公表に見合わないという結論を出す、と聞いた。世論を味方につけたとしても、テック業界から追放される可能性があった。

    ただし、徐々にだが、テック業界も2017年に状況が変わり始めた。ファウラー氏による告発の後、Binary Capitalの元社員であるジャスティン・カルドベック氏を複数の女性が告発した6月に、大きな転換があった。

    この告発者は、カルドベック氏と一緒に働いていた女性や、カルドベック氏からの投資を受けるために会った女性などだが、いずれもベッドを共にするようカルドベック氏から圧力を受けたという。

    その結果、カルドベック氏は辞任に追い込まれ、資金提供をちらつかせるベンチャーキャピタリストから求められた不当な前払いについて、告発する女性が次々現れるようになった。

    そんなころ、カルドベック氏の辞任から2カ月もしないうちに、Googleのエンジニアだったジェームズ・ダモア氏は、女性がエンジニアとして男性より劣っているという自分の考えを説明する文書「Googleの思想的エコーチェンバー」を社内で回覧したのだ。

    以前なら見過ごされたかもしれない内容の文書だったが、このときはテック業界のミソジニー(女性嫌悪)を浮き彫りにする別の事例として注目され、ダモア氏は解雇されてしまった。

    もっとも、ほかの多くの業界と同様にシリコンバレーでも、10月に明るみとなったワインスタイン氏の行為と、それに続く#MeToo活動が、ハラスメントと差別の精算へつながった。女性たちは名乗り出る力を与えられ、企業はハラスメント被害を指摘された優秀な従業員の擁護を重視しなくなった。

    ニューヨーク・タイムズがワインスタイン氏の件を初めて報じてから2週間後の10月中旬、技術系ジャーナリストのクイン・ノートン氏がWebメディアMediumで、技術エバンジェリストのロバート・スコーブル氏から受けていた性的暴行を告発したところ、多くの女性が追従した。スコーブル氏は、長年の仲間であるシェル・イスラエル氏と設立した企業から退き、暴行の件が明らかになって以降、技術カンファレンスに登壇しなくなった。

    さらに、企業は社内調査を率先して開始するように変わり、不祥事が報道される前に対応するようになった。例えば、ベンチャーキャピタル企業Draper Fisher Jurvetson(DFJ)に22年間勤務していたスティーブ・ジャーベットソン氏は、社内調査の結果を受け11月に退社した。WebメディアのRecodeによると、「女性起業家への否定的な論調に対する、容認できないジャーベットソン氏の振る舞い」が調査で明らかになったという。

    12月に入ってからは、ベンチャーキャピタリストのシャービン・ピシェバー氏が2013年共同設立のSherpa Capitalを去った。5人の女性が同氏からのセクハラ被害をBloombergに語ったことを受けての対応だ。ピシェバー氏は、この騒ぎが彼をおとしめるため政敵の調査グループが仕掛けた「中傷活動」だと主張し、そのグループを名誉毀損で提訴した。なお、当初ピシェバー氏は休職させられていた。

    こうして、(実際の年齢と関係なく)「悪童」であることが名誉とされる業界の人々にも、悪質な行為が悪い結果をもたらすようになり始めたらしい。人気クイズアプリを配信している企業HQの創業チームは、Recodeの報道によると、チームメンバーの1人が「女性への不適切な行為があった」とうわさされたため資金集めにやや苦労したそうだ。

    ご存じのように、HQの創業チームは最終的に資金集めを大成功させた。また、この騒ぎは、HQ創業陣が深刻にハラスメント疑惑を受け止めるという高潔なイメージを、HQへの出資を検討していなかった投資家に送ることにもなった。

    結局は、少数の傷んだリンゴを糾弾する方が、構造的な不平等を是正することに比べ、はるかに容易なのだ(一例を示しておく。Googleでは、社員たちが自主的に、女性社員の賃金が男性社員に比べ低いことを示すデータを集めている。ところが、Googleは給与データの開示をかたくなに拒んでいる)。

    そして、性的非行をとがめられたピシェバー氏、スコーブル氏、ジャーベットソン氏といった人物が、追放期間を満了して業界にこっそり戻ってくるかどうか、今後も監視しなければならない。仮に戻ってくるなら、誰がそれを問題視するか見守ろう。女性起業家に対する不適切な身体的接触があったと告発され、Mediumへの投稿で「テック業界のハラスメント文化に加担していた」と謝罪したベンチャーキャピタリストのクリス・サッカ氏だが、もう11月には、世界最大級の技術カンファレンスDreamforceに講演者として招かれた

    しかし、テック業界は渋々ながら変わり始めているらしい、という兆候がある。Microsoftは12月第3週、セクハラ被害を申し立てた従業員に仲裁合意させる姿勢を改め(Microsoftは11月に、BuzzFeedの質問をはぐらかしていた)、この種の合意を禁じた米連邦法を支持する、と発表した。

    さあ、次はあなたがこの流れに続く番だ。

    この記事は英語から翻訳されました。翻訳:佐藤信彦 / 編集:BuzzFeed Japan