足りない病床に、マスクを拒む保守層。「アメリカの田舎で新型コロナはホラー」と現地スタッフ

    新型コロナウイルスが猛威を振るうアメリカで、特に壊滅状態だといわれる地方で働く医療従事者たちが、その緊迫した状況を明かす。

    2020年2月、3月、新型コロナウイルスの記事がアメリカ中の新聞に載りはじめた。

    そのころ、カンザス州パーソンズ市で入院患者を診る医師のアリックス・オレックさんと、彼女が率いる医療チームは、急を要しない手術を停止し、感染拡大が制御不能になるまで増加した場合に備えて、野外病院の計画を立てはじめた。

    ウイルスが流行し始めたころは、住民約9600人の町でも、カンザス州全体でも感染者数は増えなかったが、今は状況が一変している。

    Courtesy Alix Oreck

    アリックス・オレックさん

    この2カ月で同市の病床は埋まり続け、オレックさんが勤務する病院では、これまで使われていなかった病棟へも病床を拡大した。

    予備の医師も呼び戻され、感染する同僚も出てきた。

    これは特に見るに耐えなかったという。

    だがオレックさんと同僚の医療従事者たちが過酷な状況に直面している一方、カンザス州はいまだにマスク着用義務の施行を拒んでいる

    「ひどく神経質になっている」とオレックさんはBuzzFeed Newsに話した。

    「状況が悪化するのは明らか。私たちはすでに働き過ぎで、無理をしている。機器もなく、病室もない。状況はますますひどくなる」

    自分も同僚も疲弊しているのに、政府もメディアも、誰も気にしていないと感じるときがある、とオレックさんは言う。

    「誰かを責めているわけではない。アメリカ中の町がもがいているのに、カンザス州パーソンズ市なんかを気にする人なんていないから」

    小さな町や地方に感染拡大。死者が急増

    感染が流行しはじめたときは、人口密度が高い地域の方が早く広まるため、ニューヨークのような大都市の被害が大きかった。

    だが、第2波、第3波は、地方の州へと広まり、小さな町や、都市部から離れた集落でも感染が拡大した。

    第1波を免れたあと、感染拡大の予防措置をとらなかった場所も多い。

    9月にナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)が行った分析によると、アメリカで新型コロナで亡くなった最初の10万人のうち、5分の1が地方在住者だった。

    その次の死者10万人は、地方在住者が約半数を占めた。

    小さな町や地方では、死亡者の割合が約3倍に膨れ上がった。

    Courtesy Ashley Kingdon-Reese

    サウスダコタ州ヒューロン市で、同僚の看護師が防護服を身につけるのを手伝うアシュリー・キングドン=リースさん。

    寒くなると室内に集まる人が増え、地方における死者数は増えるばかりだった。

    空中に長く滞留する、エアロゾルと呼ばれる微粒子を経由して、ウイルスの拡散が容易になるからだ。

    12月2日、アメリカにおける新規感染が20万人を超え、米国疾病予防管理センター(CDC)のロバート・レッドフィールド所長は、この1月と2月は、「この国の公衆衛生の歴史上で最も困難な時期」になるだろうと警告した。

    今では、地方部にある各郡の7割は、感染拡大が抑えきれない状況だという。

    「公衆衛生の観点から見ると、アメリカの田舎で新型コロナはホラーだ」と全米地方保健協会(National Rural Health Association、NRHA)のCEOであるアラン・モーガン氏は話している

    新型コロナに感染した知人を診察。患者の死が衝撃的な経験に

    小さい町の医療従事者たちは、大都市の同業者と同じように疲れ果て、気落ちしている。

    身を守る装具が足りず、病床やICUの病棟が急速に埋まっていくのを目にしている。

    これに加えて、地方の医療従事者は、知人が患者になることが多い。

    「地方では、医療はまさにパーソナルなものです」とサウスダコタ州ブルッキングズ市の市議会議員であるニック・ウェンデル氏は話す。

    同氏のいとこは、人口約1200人のグレゴリー町の病院で働いている。

    「親しい間柄の患者を診ることがある。教会のメンバーだったり、高校の同級生だったり、友だちの親だったりする。小さい町には、とても親密な面がある」

    そのため地方の医療従事者にとって患者の死は、類がないほど衝撃的な経験である。

    サウスダコタ州にある、人口約1万3600人のヒューロン市で在宅看護師をしているアシュリー・キングドン=リースさんは「単なる患者としてではなく、愛情を抱いて看護をしているので、実につらい経験だ」と話す。

    「家族、ペットの名前、子どものことも知っている。私たちも患者さんの人生の一部なので、新型コロナで亡くなりはじめると辛い。(心の傷は)すぐには癒えない」

    「アメリカの田舎で新型コロナはホラー」

    アーカンソー州ジョーンズボロ市の臨床看護師(匿名希望)は、古くからの知人を新型コロナ重症患者として看た時のことを振り返る。

    患者のレントゲン写真が戻ってきたとき、肺が広範囲に損傷していた。死に直面しているであろう他の患者のものと類似していたそうだ。

    「知り合いに起きることを見たくない」と同看護師は話す。「不公平だ。死にたくない」と患者に言われたという。

    「これを知り合いから聞くのはつらい」

    地方在住のアメリカ人約4600万人にとって、衛生面における(都市部との)格差により、感染症が重症化するリスクは高いことが多い。

    CDCによると、地方に住むアメリカ人は、喫煙し、血圧が高く、肥満で、保険をかけていない傾向がある。

    アメリカ先住民の居住区では、さらに問題は悪化する。

    深刻な病院不足。治療を求めて州を移動する人々も

    地方の保健医療制度もまた、近年緊迫している。小規模な感染症の流行でさえも、病院の収容力が限界になってしまう。

    民主党上院議員によると、2010年以降、128以上の病院が地方で閉鎖しているという。

    空いている病床を求めて重症患者は遠くまで搬送され、ときには州境を越えなければならない。

    遠くから搬送されてきた患者を診るのは、地方の医療従事者にとってまた別の負荷となる。

    カンザス州で病院医師を務めるオレックさんは、最近ICUで、コロラドとの州境近くから約650キロメートルも搬送されてきた男性を受け入れた、と話す。

    オレックさんは男性の手を握り、治療をしてすぐによくなると伝えたが、男性は間もなく亡くなってしまったという。

    「地元の人であれば、お悔やみを言って一緒に悲しむことができる」とオレックさんは言う。

    「でも遠方から患者を受け入れて治療し、患者やご家族のために一緒に嘆いてあげられないのはつらい」

    2つのパンデミックとの戦い。ウイルスと誤情報

    Francine Orr / Getty Images

    ノースダコタ州ジェームズタウン・リージョナル・メディカル・センターで撮影(11月22日)。新型コロナの陽性が判明した男性が診察台に移るのを手伝う、看護師のニコル・ホガースさん。

    ここ数カ月で、ノースダコタ州とサウスダコタ州ほど打撃を受けた州は恐らくないだろう。

    ノースダコタ州は11月、1日当たりの死亡者数が世界で最多となった。同州では800人に1人が新型コロナウイルスで亡くなったサウスダコタ州でも状況は芳しくなく、1000人に1人が亡くなっている。

    「サウスダコタすべての地域が影響を受けていると思う」と同州ブルッキングズ市議会議員のニック・ウェンデル氏は話す。

    「ここには、人里離れた非常に人口密度が低い場所が多い。新型コロナウイルスのような感染症の場合、サウスダコタの隅々まで感染が広がるのには時間がかかるが、今現在、感染は隅々にまで広がっている」

    この地域の住人には保守派が多く、マスク着用命令やソーシャルディスタンスの要求に強く抵抗しがちだ。

    共和党のノースダコタ州知事ダグ・バーガム氏は11月半ばにようやく方針を転換し、マスク着用義務の知事令に署名した

    一方、共和党のサウスダコタ州知事クリスティ・ノーム氏は、マスクが感染予防になる証拠はないと誤った発言をしている。

    「新型コロナが存在することを否定する人がまだいる」とサウスダコタ州の看護協会で政府窓口を務めるアシュリー・キングドン=リースさんは話す。

    「Qアノン(陰謀論者)やトランプ支持者が、この問題を政治的なものにしている。病気自体より、もっと害がある」

    「2つのパンデミックと戦っているように感じる。ウイルスと誤情報だ」キングドン=リースさんは言う。

    科学的根拠を否定し、マスク着用を非難

    カンザス大学が10月に行った調査によると、同州内でマスク着用を義務化した郡と義務化しなかった郡における新型コロナの感染拡大を比較したところ、ソーシャルディスタンスなどの措置をとった変数を加味しても、義務化した郡では新型コロナの拡大が50%減ったことが明らかになった。

    12月3日の朝、FOXニュースの報道トーク番組「フォックス・アンド・フレンド」でこの調査結果が取り上げられ、保守派の番組司会者は、その結果に驚いてさえいるようにみえた。「ということは、明らかにマスクは効果がある、ということ」と司会のスティーブ・ドゥーシー氏は言った。

    FOXニュースなどの保守派メディアは、感染拡大を楽観視した情報を報道し、社会に影響を与えてきた。

    9月、サウスダコタ州のブルッキングズ市議会で、市議会議員のニック・ウェンデル氏らが提案したマスク着用を命じる条例を可決した。ウェンデル氏によると、市役所に集まった人たちは非難の声をあげ、賛成派の議員や助言をしている疫学者らに動物の鳴き真似をして見せたという。

    「自分の子どもや親を信頼して預けられる医師が、新型コロナは深刻で、マスクを着用するだけで感染拡大を遅らすことができると伝えても、私たちのようなコミュニティではみんな信じない」とウェンデル氏は言う。

    「何かが壊れているとしか思えない」

    「専門家の意見は価値がない」説得できない人々

    もちろん、科学者や政府に対する信頼の欠如は、サウスダコタに限ったことではない。

    アメリカが第3波に襲われる中、トランプ大統領は選挙活動で誤情報を広めたり、投票日が過ぎたらメディアはパンデミックの話をやめるだろうと不当に主張したりして、非難を交わそうとした。

    アーカンソー州ジョーンズボロ市の臨床看護師は、大統領の言葉をオウムのように真似る患者の傷を縫っていたときに、その患者に言われたことを思い出したと言う。

    「選挙が終わったら、もうウイルスのことは聞かなくなるよ」

    この看護師は患者に「間違っている。あなたの知り合いも感染して亡くなる可能性がある」と言ったという。

    カンザスでは、スーパーに買い物に行くと自分ひとりだけがマスクを着用していて、自分が「あっち側の人」だと感じることにうんざりする、とオレックさんは話す。

    8月に新型コロナの合併症で妻を亡くした親友のひとりは、いまだにマスク着用を拒んでいる。

    「嫌になるほど、友人とは話した。長いこと、健康面で相談を受け、彼が通う教会で話をして欲しいと頼まれたこともあるが、それでもなお、私の話を聞いてくれない」とオレックさんは言う。

    「泣きたくなる。とてももどかしい」

    他にも説得に手こずっている人がいるという。

    「日曜の夜に縫合が必要だったり、自分の子どもに発疹が出たり、がんの診断が出てセカンドオピニオンが欲しいときに頼る医療専門家が私であっても(この有様だ)」

    「今、少なくともこの分野(新型コロナ)において、私の専門家としての意見はあまり価値がないように感じる」

    この記事は英語から翻訳・編集しました。 翻訳:五十川勇気 / 編集:BuzzFeed Japan