週刊SPA!「ヤレる女子大生ランキング」。女子大生は謝罪ではなく対話を求めた

    「廃刊にすべきだという声もありますが、それでは問題解決にはなりません」

    「週刊SPA!」が2018年12月25日号で「ヤレる女子大学生RANKING」を掲載したことで、年明けに抗議の署名キャンペーンが起き、1月7日に編集部が謝罪した。

    署名を始めた国際基督教大学4年で国際教育NGO「Educate For」代表の山本和奈さん(21)たちのグループは、「週刊SPA!」編集部に対話を申し込み、話し合いの場が設けられることになったという。

    署名はもともと、謝罪と出版の取り下げを求めていた。なぜ今、対話なのか。山本さんはこう話す。

    「謝罪はされたものの、騒動を収めるための表面上の謝罪にすぎませんでした。ネット上では廃刊にすべきだという意見もありますが、それで根本的な問題は解決しないので、対話の場を持ちたいと考えました」

    問題の経緯は

    「ヤレる女子大学生RANKING」は、「ギャラ飲み」と呼ばれる、女性の参加者にお金を払って開く飲み会の特集の中で紹介されていた。この飲み会のマッチングサービスを手がける男性が、セックスできる可能性が高いとして、実在の大学をランク付けしていた。

    このランキングをTwitterで見つけた山本さんは1月4日、「女性を軽視した出版を取り下げて謝って下さい」という抗議署名を、ネット署名サイト「Change.org」で立ち上げた。2日間で2万人近くが賛同し、「ねとらぼ」が記事化。その後も賛同者は増え続け、1月11日朝の時点で4万3000人を超えた。

    ランキングに実名をあげられた5つの大学は、出版社に抗議の姿勢を示している。ある大学は、1月8日に学長名で出版社に抗議したとサイト上で報告。「女性軽視、女性蔑視といえる内容が掲載され、本学及び本学学生の名誉及び尊厳を損なう記載がありました」としている。

    別の大学は「女性の名誉と尊厳を傷つける今回の記事や同様の記事に対し、本学は、ここに強く遺憾の意を表明いたします」との声明をサイト上に掲載した。

    「SPA!」は謝罪

    「SPA!」編集長は1月7日、「読者に訴求したいがために扇情的な表現を行ってしまった」と謝罪コメントを発表。大学の抗議を受けて1月9日には、扶桑社のサイト上にも「お詫び」を掲載した。

    女性の尊厳に対する配慮を書いた稚拙な記事を掲載し、多くの女性を傷つけてしまったことを深くお詫びいたします。また、購読者の皆様に不快な思いをさせてしまったこと、大学関係者の皆様にご迷惑をおかけしてしまったことを重ねてお詫び申し上げます。

    BuzzFeedは当初、報道を控えた

    BuzzFeed Japanでは #metoo国際女性デー国際ガールズデーなどの特集を通じて、ダイバーシティーを尊重し、ジェンダー平等で性暴力のない社会をめざすための報道を続けている。

    筆者は、その特集を担当している。女性の人権を軽視したり、同意のない性行為を助長したりするような言説を認めることはできず、「SPA!」の記事には強い憤りを覚えた。

    しかし、それでもなお、この署名に関する報道には慎重になった。

    大学名が拡散されていく

    「ヤレる女子大学生RANKING」を掲載したSPA!の号の発売日は、2018年12月18日。年明け1月2日、このランキングを問題視するツイートが投稿された。誌面の一部を撮影した画像がついていて、ランキングの1位から4位までの大学名が見えるようになっていた。このツイートは3500リツイートを超えた。

    抗議の署名は、このツイートが拡散されたことがきっかけで始まった。署名には動画が貼られており、動画の冒頭にSPA!の誌面のランキング部分が掲載されていた。こちらは、1位から5位までの大学名が見えるようになっていた。

    つまり、SPA!を購読していない人でも、ネット上でランキングに入った大学名を知ることができるようになった。「こんなランキングは許せない」と考えて署名に賛同することによって、大学名を拡散することにもなってしまっていた。

    また、署名について報道した記事のいくつかは、この署名サイトの画像を使っており、そこにも大学名が表示されていた。

    ネット上で署名や記事が拡散されるごとに、ランキングの大学名を知り得る人が雪だるま式に増えていく。

    2018年4月現在の「SPA!」の発行部数は10万9115部(日本ABC協会調べ)。媒体資料によると、「30代以上の男性、そして高所得者層がメイン読者」で、男性読者が82.1%を占めている。

    一方、署名に賛同した人はすでに4万3000人超。シェア数を計測するツール「BuzzSumo」で調べたところ、1月10日時点でChange.orgの署名ページのシェア数は8000超、そのページの画像を使って報道した複数のメディアの記事の合計シェア数は、1万を超えた。

    大学名が出たからこそ、怒りが広がり、世論に訴える力が増した面はあるだろう。大学の抗議表明にもつながった。しかし、掲載された大学や学生にとっては言われなき中傷であるランキングが、SPA!の購読者以外にまで広がってしまった。

    一次的に加害する側が悪いのは言うまでもないが、そうした悪評を拡散せず、二次被害につながらないように配慮することが、特にメディアには求められていると考え、BuzzFeedではどのように報じるべきかを社内で議論していた。

    山本さん自身は、署名サイトに大学名を掲載したことについて、BuzzFeed Newsに次のように話した。

    「発信したあとに母親から、大学名は隠したほうがよかったのではと指摘され、配慮が足らなかったと反省しました」

    炎上から謝罪のテンプレ

    雑誌の記事がネット上で「炎上」し、編集部が謝罪するケースは、SPA!に限ったことではない。記憶に新しいところでは、月刊誌「新潮45」のLGBTに関する論文をめぐり、新潮社が2018年9月、同誌の休刊を発表した。

    自民党の杉田水脈衆議院議員の「(LGBTは)子供を作らない、つまり『生産性』がない」などとする寄稿を掲載し、さらに「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」と題し、杉田氏を擁護する特集を掲載していた。

    新潮45もネットでは記事を公開していなかったが、批判はまずネットで上がった。新潮社前での抗議活動が呼びかけられ、寄稿中止を表明する作家や販売自粛を発表する書店も出てきて、出版社の経済的な打撃に直結する動きになっていった。

    謝罪をしなければ騒ぎがおさまらないから謝罪し、その謝罪も「問題の本質を理解していない」などとまた、批判の的になる。当初は報じなかった新聞やテレビなどマスメディアも、出版社が謝罪したとなれば記事にする。

    SPA!は署名が報道された後に謝罪しており、大学からの抗議を受けて改めて9日にサイト上でお詫びを出している。10日現在、Amazonでは当該号のみバックナンバーが取り扱われておらず、dマガジンからも削除されている。

    あの記事で何を伝えたかったのか

    差別や偏見に満ちた表現は、不快だし、人を傷つけるし、これからの社会をよくするものだとは思えない。ネット社会で、想定読者外にも拡散することを前提に、そうした表現をなくすために力を尽くすのがメディアであり、メディアで働く人間の役割だと考える。

    だからこそ、出版や言論そのものを封じることは、この問題の解決になるのだろうか。これからの言論や表現の向上につながるのだろうか。

    議論がないまま、結果的に記事の撤回や休刊で幕を引き、やがて忘れられ、次の批判対象に移るという構図になっているのではないか。

    山本さんは今回、署名キャンペーンを通してそこに気づいたという。

    「勉強するために真面目に大学に通っている学生が、なぜ性的な目で見られなければならないのか。なぜあんな記事が出るのか、あの記事で何を伝えたかったのかをSPA!の編集部に聞き、背景にある構造的な問題の解決につなげたいです」