「私はフェミニスト」オバマ大統領もトルドー首相も堂々と宣言 その意味は?

    日本は...

    アメリカのオバマ大統領が8月4日、米の女性誌グラマーに投稿したエッセイが話題を読んでいる。「私はフェミニストだ」と宣言した。えっ?

    オバマ大統領といえば、母子家庭で育った秀才。シングルマザーの母や祖母の背中を見て成長した。

    家庭ではいま、女性3人に囲まれている。夫人ミシェルは同じハーバード大の法科大学院を修了した弁護士。長女マリアも同大への進学が決まっていて、今はギャップイヤーの最中。次女サーシャは高校生だ。

    フェミニストとは

    オバマ氏は6月14日にアメリカの女性サミットで演説。 「本当に政策や政治をかえるなら、男女がそれぞれどう振舞うべきかというステレオタイプに固執するのを止めなければならない」と、5千人の聴衆に訴えた。

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    女性誌グラマーへの寄稿は、この演説をより凝縮したものだった。

    オバマ氏は、大統領に就任してよかったのは「娘たちの成長を見守る時間が増えたこと」と振り返る。居宅のリビングから大統領執務室への「通勤は45秒」。上院議員時代より家族と過ごす時間が増えたという

    「娘たちが巣立つのを見るのは、心休まらないこともあります。ただ、いまは、女性でいることが大変素晴らしい時代なので、楽観的でいられます。過去100年、50年、(大統領就任後の)8年間の進歩で、祖母たちと比べて、娘たちの人生はとてもよいものになりました。こう言うのは、大統領だからだけではありません。フェミニストだからです」

    大統領はフェミニスト

    「女性が給料が低い限られた仕事にしか就けなかった時代は終わりました。労働者の約半分を占めるようになり、スポーツから宇宙、ハリウッドから最高裁まで、各業種で指導的な立場につくようになりました」

    「自身の体、教育、キャリア、経済力など人生を自分で決定する自由を勝ち取ってきました。夫がいなければクレジットカードも作れなかった時代は終わりました。いまや、既婚でも独身でも、女性はかつてないほど経済的に自立しています」

    でもバラ色ではない。男女同一賃金の法律を作って終わりじゃないという。

    「最も重要な変化とは、最も難しいことかもしれません。それは私たち自身を変えることです」

    「前進もしたけれど、多くの場合、男と女はそれぞれどう振る舞うべきかというステレオタイプにとらわれたままです」

    どんなステレオタイプ?

    「女の子は控えめに、男の子は積極的に、育てる風潮を変えていかなければなりません。女の子たちがはっきり意見を述べることを批判し、男の子が涙を流すことを批判する風潮を、変えていかなければなりません」

    「女性であるということを根拠に不公平に扱ったり、男性であるということを根拠に優遇したりする風潮を、変えていかなければいけません」

    「路上でも、オンラインでも、女性への日常的な嫌がらせを許す風潮を変えていかなければなりません。女性の存在や成功を男性が脅威と考える風潮を、変えていかなければなりません」

    大統領が、ここまではっきり言う。

    「男性がオムツを変えることを称賛する風潮、主夫は不名誉だと見下す風潮、働く母親を責める風潮を、変えていかなければなりません」

    「職場で自信を持って、競争心があり、野心的であることを評価するけれども、それは女性でない場合に限る、という風潮を変えていかなければなりません。女性だと威張っているように思われて、成功するために必要だと思った素養が、逆に足を引っ張るようになってしまうような風潮を、変えていかなければなりません」

    そして、若い世代に期待をかける。

    「喜ばしいことに、アメリカでも世界どこでも、男女の役割(ジェンダーロール)を決めてかかる時代遅れの思い込みを、強く押し返す人たちがいます」

    「あなたたちの世代は古臭い思考に縛られません。アイデンティティーをめぐる時代遅れで硬直した観念を人々を押し付けることは、誰にとってもよくないと私たちみんなが理解するのを助けてくれています。男性、女性、ゲイ、ストレート、トランスジェンダー、あるいはそうでなくても」

    「こうしたステレオタイプは、私たちがあるがままでいるのを、難しくしてしまうのです」

    カナダの首相も

    「私はフェミニストだ」と胸を張るワールドリーダーはオバマ大統領だけではない。カナダのトルドー首相。

    G7伊勢志摩サミットで5月に来日し、日本でもイケメンっぷりが人気になった首相。最近も、洞窟から半裸で出てきたところで記念撮影に応じたり、海岸での結婚式に半裸で写り込んだりしている。

    2015年9月にこんなツイート。「私はフェミニストだ。フェミニストであることを誇りに思う」

    I am a feminist. I’m proud to be a feminist. #upfordebate

    今年3月、国連では、さらに踏み込んだ。

    「私はフェミニストです。大声で、はっきりと、こう言い続けますよ。(何当たり前のことを言ってんだって)肩をすくめられるまでね」

    大きな拍手で歓迎された。

    「『私はフェミニストだ』と言うたびに、なんでTwitterは大騒ぎになり、メディアは取り上げるんですか。反発を引き起こすものであるべきじゃない。男女の平等を信じているって言っているだけなんです。そして、それを実現するまでに、まだ多くのことが必要だと思っています」

    「だから、どんなワールドリーダーが『そうしたいよ。でも、今の議会とか党の構成では、できないんだ』と言ったとしても、こう返事しますよ。『そうですか。じゃあ、あなたはその構成を変えるために何をしているんですか? 我々が必要とするリーダーとなれる素晴らしい女性たちの力を引き出すために、あなたはどんなことをしているんですか?』」

    日本のリーダーは?

    フェミニストであると宣言するオバマ大統領やトルドー首相と違って、むしろ、「女性の役割」を押し付けるかのようなステレオタイプが……

    昨年9月、菅義偉官房長官は、福山雅治さんと吹石一恵さんの結婚について「この結婚を機に、ママさんたちが一緒に子供を産みたいとか、そういう形で国家に貢献してくれたらいいなと思っています。たくさん産んで下さい」と発言した

    安倍首相は2013年4月の成長戦略スピーチで「『3年間抱っこし放題での職場復帰』を総合的に支援してまいります」と胸を張った。

    その数ヶ月後、安倍政権は、若い女性に妊娠・出産の知識を広めるために導入するとしていた「女性手帳」を撤回している。「少子化の原因を女に押し付けている」「女性の生殖に関する権利(リプロダクティブライツ)に国家が介入するのか」という批判を受けていた。

    遡れば2007年、第一次安倍内閣で厚生労働大臣だった柳澤伯夫氏は、女性は「産む機械」だと話した。海外で「ベイビー・プロデューシング・マシーン」として一躍有名になった。

    学校の先生も負けてはいない

    今年2月には、大阪市の中学校長が全校集会で「女性にとって最も大切なことは、子どもを2人以上産むこと。仕事でキャリアを積むこと以上に価値がある」などと発言している。

    男女平等の度合いを指数化した「ジェンダー・ギャップ指数」で、日本は2015年、145カ国のうち101位だった。アフリカのスワジランド(102位)や中央アメリカのベリーズ(103位)をなんとか上回った。

    そもそも、会社で指導的立場にいる女性の割合が少ない。上場企業の役員の女性は2.8%のみ。会社の管理職の女性も12.5%にとどまり、アメリカ(43.4%)やスェーデン(39.5%)の半分以下だ。

    政治でも遅れている。衆議院議員に占める女性の割合は9.5%で、国際比較できる191カ国中157位となっている。

    奇妙な日本語?

    ちなみに、フェミニスト(feminist)という言葉。どうも日本語でしゃべると意味が変わるらしい。NHK実践ビジネス英語は冷静な解説をしている。

    feministは「男女同権論者」「女権拡張論者」「女性解放論者」ということだが、カタカナ語の「フェミニスト」は「女性を大切に扱う男性」「女性に優しい男性」という意味で使われるようだ。その意味の英語はgallantあるいはchivalrous manなど。