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「五輪中止」が選択肢にないのはなぜ?提言は遅すぎた?記者からの指摘に尾身会長は…

東京五輪を開催した場合の感染拡大リスクに関して独自の提言を提出した専門家有志。しかし、提言には「五輪中止」を求める言葉はない。なぜなのか?

来月からの東京五輪を開催した場合の感染拡大リスクについて、感染症対策の専門家らが提言をまとめた。

提言には、「五輪中止」を求める言葉はない。

なぜ、開催を前提としたものになったのか。

「五輪中止」はなぜ選択肢にない?

政府の新型コロナ分科会の尾身茂会長をはじめとする26人の専門家は6月18日、「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会開催に伴う新型コロナウイルス感染拡大リスクに関する提言」をまとめた。

提言は、「7月から8月にかけて感染者および重症者の再増加が見られる可能性がある」と警鐘を鳴らし、五輪がなかったとしても、感染が比較的落ち着いている地域においても急な感染拡大のリスクがあると分析。

五輪を開催すれば、人と人との接触や人の動きがさらに増えるため、感染が全国にまたも拡大し、医療体制の逼迫を招く可能性が高まるとした。

大会のあり方については、「可能な限り、規模が縮小されることが重要」とし、最も感染拡大リスクが少ない無観客での開催が、望ましいと説明。観客を入れる場合は、いまのイベント開催基準よりも厳しい基準で行うべきだとしている。

提言を発表した記者会見で、報道陣からは「開催中止」に触れない理由を問う声が上がった。

尾身会長はその理由をこう説明した。

「最近、G7サミットで、(首相が各国首脳に)開催を表明した。当初は『開催の有無を含めて検討してください』という文章があったのですが、実質的にほとんど意味がなくなったので、開催前でも期間中でも感染状況が悪くなった場合には、緊急事態宣言を含む強い対策をやってくださいということになった」

「国は開催を決めたわけです。その意味というか、パンデミックが起きている中でもやる理由、緊急事態宣言が出ている中で五輪をやる意味。どういう意味があれば国際社会と日本の市民が納得できるのかということは、議論しました」

「決めた以上は感染を拡大しないようにやっていただきたい」

新型コロナの感染状況は予断を許さない、と専門家らは提言の中で明言した。

それでも五輪を開催することに専門家らはどんな思いを抱いているのか。

尾身会長は「この提言書に書かせていただいたように、私はリスクはあると思います」「開催有無に関わらず、感染がこれから少しずつ広がるリスクはあると専門家として思います」と語った。

「最終的には国や組織委員会が決めること。やると決定したわけですけど、そのリスクを、十分に認識してやっていただきたい」

「決めた以上は、感染を拡大しないようにやっていただきたい。非常事態宣言を解除してもリスクはあると認識し、様々な対策を打っていただくことを、信じております」

国立感染症研究所の脇田隆字所長も「提言書の中で、中止を選択肢に入れるべきではないかという議論は、もちろんありました」と語った。

しかし政府の開催決定を受け、「我々はどう感染リスクを減らせるのか」「ワクチン接種が進み、もう少しで以前のような生活を送れるようになる。五輪を契機に感染拡大させないためにできることは何かを、提言の中心にした」と振り返った。

なお五輪中断の可能性について尾身会長は、「実際に起こらないことを願う」としながらも「つい最近の大阪のような状況が生じた場合には、なかなか五輪を続けることは難しい」との見解を示した。

提言は遅すぎた?

専門家有志が提言を出すタイミングが遅かったのではないかと指摘する質問も出た。

これに尾身会長は「もっと早く出していたらという意見はよく分かりますが」とした上で、次のような事情があったと説明した。

「タイミングについては、2つの要素を考えていました。観客を入れるかどうかについて、最終的に組織委は6月20日以降に決める。したがって、6月20日より前に出したいということが、はっきりとありました。一方、感染状況を分析するために、ギリギリまで待ちたい。2つの要素を勘案し、この1両日が良いのではないかとなった」

6月に入り尾身会長は、国会で五輪を開催することのリスクについて繰り返し発言してきた。

こうした発言は「個人の発言ということはほとんどありません。(分科会の)メンバーと、かなり議論を進めていました」「練りに練って議論し、コンセンサスになっていたものを、国会に呼ばれることがあれば申し上げた」と明かした。

「政府や組織委の人には感染リスクを十分に認識していただいていると思いますが、認識していただいた上で、リーダーシップを発揮してもらい、そのことが市民に伝わる。組織委、国、自治体が一体となって五輪をやっても感染拡大せずに終わったとなり、多くの人がワクチン接種するまでつなげられればと思います」