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東京五輪、「開催にともなうリスクかなりある」。最悪の場合、五輪中断の可能性も?専門家が伝えたいこと

専門家有志から政府、五輪組織委員会へ…東京五輪を開催した場合の感染拡大リスクに関してまとめた独自の提言が提出された。専門家が伝えたいこととは。

26人の感染症対策の専門家らが6月18日、東京五輪を来月から開催した場合の感染拡大リスクに関する独自の提言を、政府と大会組織委員会に提出した。

これまで政府は分科会に対し、東京五輪開催のあり方について諮問していない。しかし、分科会の尾身茂会長は「我々の考えを表明するのがプロとしての責任」とし、独自の提言を提出する姿勢を示していた。

提言は、「無観客での開催が最もリスクが少ない」とし、もし観客を入れる場合は、現在のイベント開催基準よりも厳しい基準を採用するべきだとしている。

なぜ独自提言を?経緯を振り返る

沖縄県を除く9つの都道府県の緊急事態宣言の解除が6月20日に迫る中、国民の関心は五輪開催の是非と開催のあり方に集まっている。

今夏の五輪について、これまで尾身会長は国会で「今の状況でやるというのは普通はない」「やるなら強い覚悟で」とコメントしてきた。

しかし、菅義偉首相は東京五輪に関して議論する調整会議における議論で十分であるとし、分科会に対して五輪開催のあり方を諮問することはなかった。

尾身会長は6月4日に「政府から要請はないが、我々の考えを表明するのがプロとしての責任だ」と表明。6月20日までに独自の提言を提出すると説明していた。

こうした動きについて田村憲久厚労相は4日、「自主的な研究成果の発表だと受け止める」と発言。

この発言が批判を受けたことから、田村厚労相は「自主的な研究は非常に重要だ。誤解を招いたとしたら、言葉の使い方を改めなければならない」「参考になるものはしっかり採り入れる」と釈明した。

五輪は「無観客が望ましい」

今回の提言で専門家らは、「7月から8月にかけて感染者および重症者の再増加が見られる可能性がある」との見方を示した。

専門家は首都圏の人の動きはすでに増加傾向であることや夏は旅行や帰省などで人の動きが活発化することを踏まえ、五輪がなかったとしても、感染が比較的落ち着いている地域においても急な感染拡大のリスクがあると分析。

7ページにおよぶ提言書のうち1ページを現在の感染状況の分析と五輪開催に関わらず存在する感染拡大のリスクに関する記述に割き、五輪がなくとも国内の感染状況は予断を許さない状況であることを強調している。

その上で、五輪を開催すれば、さらに人と人との接触や人の動きが増えるため、感染が全国に拡大し、医療提供体制の逼迫を招く可能性がより高まるとした。

専門家が懸念するのは、大会開催による人と人との接触や人の動きの増加に伴うリスクだけではない。あわせて考慮すべきなのは、「矛盾したメッセージ」が発信されることによるリスクだ。

・観客がいる中で深夜に及ぶ試合が行われていれば、営業時間短縮や夜間の外出自粛等を要請されている市民にとって、「矛盾したメッセージ」となります。

・感染対策が不十分な状態の観客、応援イベントや路上等で飲食しながら盛り上がる人々など、人流・接触機会の増大を誘引するような映像がテレビ等を通じて流れると、感染対策に協力している市民にとって「矛盾したメッセージ」となります。

・こうした「矛盾したメッセージ」が届くことは、人々の警戒心を自然と薄れさせるリスク、感染対策への協力を得られにくくするリスク、さらに人々の分断を深めるリスク等を内包し、その影響は大きいと考えています。

大会のあり方については、「今後も可能な限り、規模が縮小されることが重要」とし、無観客での開催が最も感染拡大リスクが少なく、望ましいと説明。観客を入れる場合は、現行のイベント開催基準よりも厳しい基準で行うべきだとしている。

また、人の動きを最小限とするためにも、観客を入れる場合は開催地の人に限ることも、選択肢の1つだという。

政府に対し、五輪期間中に医療提供体制が逼迫するようなことが起きた場合には、強い対策を躊躇なく講じるよう要望。

さらに組織委と政府に対し、国内の感染状況が悪化した場合にどんな対策を取るかを、できるだけ早く公表することを求めた。

「私たちは、これまでの経験から、感染の拡大及び医療の逼迫の予兆を察知したら、時機を逃さず、強い対策を打つことが必要だと考えています。今後も感染状況等を適宜モニターし、必要な対策を提言して参ります」

途中からの無観客、五輪中断の可能性は?

提言をまとめた専門家26人を代表し、分科会の尾身茂会長、国立感染症研究所の脇田隆字所長ら8人の専門家が、日本記者クラブで記者会見した。

尾身会長は会見の冒頭、五輪開催の有無にかかわらず、日本社会には感染拡大のリスクが存在していることを強調した上で、「オリンピック、パラリンピックというのは規模と社会的な注目度において普通のスポーツと別格」「開催にともなう人流、接触機会の増大リスクがかなりあると、我々は考えています」と語った。

会見で尾身会長は、当初はこの提言に五輪の開催中止という選択肢を盛り込むことも検討していた、と明かした。

しかし、菅首相が主要国首脳会議(G7)で各国に五輪の開催を表明したことで、中止を提言することに「実質的にほとんど意味がなくなった」と判断。

今回の無観客開催が最もリスクが低いとする提言を示すことになった、と説明した。その上で尾身会長は、以下のように語った。

「(国や組織委員会は)やると決めたんですから、決めた以上は、感染を拡大しないようにやっていただきたい」

「宣言を解除しても、リスクの存在を認識し、様々な対策を打っていただくことを信じております」

もし、大会の期間中に感染が拡大した場合は、どうすべきなのだろうか。

尾身会長は、もし観客を入れる形で五輪が始まったとしても、感染状況の悪化が確認されれば、無観客へと転じることも視野に入れるべきだとしている。

また、五輪の中断の可能性を問われた際には、「実際に起こらないことを願う」としながらも、「つい最近の大阪のような状況が生じた場合には、なかなか五輪を続けることは難しい」との見方を示した。

分科会は6月16日、「まん延防止等重点措置」を解除した地域において、1ヶ月程度イベント観客数の上限を1万人とするという政府案を了承している。

これは「五輪とは関係のない」決定だと分科会側は何度も強調したが、政府や組織委は「五輪の観客上限を1万人とする」方向で調整していると報じられている。

こうした動きについて尾身会長は、「会長としてはっきり申し上げたのは、これは五輪の話とは全く関係ない重点措置解除後のことであるということ。はっきり言っているので、後で議事録を見ていただければと思います」と、釘を刺した。

組織委員会はどう受け止めた?

大会組織委員会は6月18日、組織委が設置する専門家会議「ラウンドテーブル」で、大会運営に関する議論を行った。

ラウンドテーブルの座長は、この日提言を出した専門家有志にも名を連ねる岡部信彦・川崎市健康安全研究所所長が務めている。

組織委の中村英メインオペレーションセンターチーフ(MOC)は、専門家有志からの提言を受け、「すごく噛み合った議論ができた」と語った。

会議では感染状況が悪化した際に「フレキシブルに対応する必要がある」との意見が多く挙がったといい、「毎日(感染状況に応じて)観客の数を変えるのは難しい」としながら、臨機応変に対応していくことが重要であるとしている。

五輪会場で飲酒を認めるかどうかについては、「五輪も社会の一員」であるとし、「重点措置などが今後どうなるのか、(国や自治体の取り組みを)見ながらやっていく」と述べるにとどめた。

五輪を開催すること自体が市民に矛盾したメッセージを発するという指摘については、「重たく悩ましい問題」としながら、理解を得るためにメッセージを模索する姿勢を見せている。

提言を受け、政府や大会組織委はどんな決断を下すのか。最終的な五輪開催のあり方は、6月中に組織委が決める見通しだ。